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「階さんはお父様と一緒に住んでいる?」


「はい」


「お父様が君に近づいても、何もないはずだ。それは君の家族であって、階さんの心が揺れる対象じゃない。多分だけども、階さんが異性として心を動かす存在が気に入らないとか。階さんのことを異性として見ているヤツが、白狐の攻撃対象……とかだと思う」


前のカップが割れたのは、漆喰さんが作法をすっ飛ばして、白狐様にいきなり探りを入れたから警戒、威嚇をされたと言った。

どうやらプライドも高い白狐様らしい。そこではっとする。


「それが本当なら今後、白狐様セコムを乗り越えて、私は恋愛をしなくちゃならない? 漆喰さん、これはある意味守護霊兼、バッドステータス的なことですか?」


ぎぎいっと首を傾けて漆喰さんに意見を求める。漆喰さんは長いまつ毛を伏せた。


「そうだな。これはバッドステータスじゃなくて、いわゆる……」


「いわゆる?」


気になって前のめりで聞く。なのに漆喰さんはすっと目線を逸らした。そして一呼吸したあと。


「まぁ、さておき」


はぐらかした。


「さておかないで下さいっ。バッドステータスで終わらせないでください」


「俺は階さんのことを従業員として見ている。普通に考えて、二十九歳の男が二十二歳の子に手を出すなんてナシだ」


前はからかったくせにとか、思ったけど。多分あれは私を煙に巻くためのパフォーマンス。

だから白狐様も反応はしなかったということだろう。

ってか、漆喰さん二十九歳なんだ。三十路前には全く見えない。二十代半ばに見えた。

バッドステータスよばわりも気になるが、何を食べたらそんなに若さを保てるのかが非常に気になってしまった。

二十歳を過ぎて、美容にはそれなりに敏感になっているのだ。

やはり目の前にあるワッフルとか、甘いものを控えているからなのかと、フォークを持つ手がさまよってしまうと。


「階さん、ワッフルの量が多かった?」


と、漆喰さんに言われてしまった。

いえ。全部食べられる量です。全く問題ありませんと言おうとしたけど、ここは敢えて。

今から事故物件に泊まることに不安を抱く、いたいけな女子を演出した方がいいかなとか思ってしまった。


「今から事故物件に泊まると思うと、ちょっと食欲が……」


手にしたフォークをゆっくりとお皿の上に置いて、照れ笑いなんかしてみる。

そんなことを言いつつ、最終的には全部食べようとしていたら、漆喰さんが「それは悪かった」と言った。


「お皿、貸して。残りのワッフルは俺が食べるから」


「えっ」


「食べ物、残すの好きじゃない。あぁ、階さんは何も悪くないから」


私の返事を待たずして、フォークが乗ったお皿は漆喰さんのもとへと渡った。

そして漆喰さんは私のフォークを使って、残っていたワッフルをサクサクッと綺麗に口に運んだ。その動作があまりにも自然で、貴族の食事のようだった。


食べ方が綺麗な男の人って、素敵だと初めて思った瞬間だった。


しかも私が使ったフォークで食べるなんて、いわゆる間接キスじゃないかと思ってしまう。

何を変なこと考えているんだと、残りのミックスジュースを口に含む。濃厚なバナナの香りと黄桃の甘酸っぱさはとても美味しい。

飲み終える頃には、漆喰さんもワッフルを食べ終えていた。


ご馳走様という声のあと、フォークが静かにお皿の上に置かれた。

そしてフォークが離れたその手は伝票を掴んだ。

あまりにもスマートな動きだ。

その行動にバッグからお財布を出そうとするけど「必要ない」と制止された。


「気にしなくていい。さてと、早速今から事故物件に行きたい。少し離れた場所にあるから行こうか」


「あ、はい。私こそ、ご馳走様でした」


漆喰さんは軽く頷くと、ビジネスバッグを持ってレジカウンターへと向かった。

その颯爽とした動きをみながら、私も立ち上がり。忘れものはないかとチェックをする。


にしても漆喰さん。

相変わらず、つよつよヴィジュアルにスマートな立ち居振る舞い。カノジョなんか日替わりでいても良さそうなのに、私を家に住ませようとすることから、カノジョなんてきっといないのだろう。


「事故物件とかを取り合っているから、カノジョが出来ない……いや。漆喰さんなら、日替わりはダメでも週替わりならいける」


とか考えてしまうけど、結局はなんとも不思議で、変わった人。

そういう人だという結論になって、荷物を持って私も漆喰さんの後を追うのだった。


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