事故物件に行こう!
二日後。
難波の地下にあるコーヒーチェーン店、イギリス屋に私はいた。
内装はレトロ喫茶店を彷彿させるクラシカルな作り。
ブラウンカラーの木のテーブルや、分厚い布張りのソファ。窓には緞帳のような厚みあるカーテン。店員さんの白と黒のカフェ制服も内装とマッチしている。
今日はあの『漆喰輝夜』『健照教』この二大気になるワードを漆喰さんに聞こうと思っていた。
その二つのことを、家にあったパンフレットやネットでコッソリと、宗教というところに着目して調べていた。
するとオバチャンが喋っていた内容と、ほぼ私が思った通りのスピリチュアル団体、新興宗教『ピュアライト』なるサークルを運営をしているのだと分かった。若者から中年層にそこそこ人気らしい。
『漆喰輝夜』はそこの幹部。スピリチュアルマスターだとか。あとは新興宗教だからだろうか、口コミなども少なく、あまり情報がわからなかった。
調べてしまうと『漆喰輝夜』と言う人物も気になってしまった。でも──ちょっと怖くもあった。深くまで調べることが出来なかった。
私の元お見合い相手と言うこともあるけど、苗字からして、漆喰さんと繋がりがあるような気がしてならない。ひょっとして親戚とか。
想像ばかりが広がる。
他にも漆喰さんが身に付けていた数珠。
それを身に付けたら霊が見えるようになるの? とか色々と聞きたい。
そんな興味と質問を抱きながらも、イギリス家の落ち着いた空間のなか。
漆喰さんと再会するやいなや。
漆喰さんは、いきなり私を事故物件に宿泊させると言い出した。
意識を完全にそっちに持って行かれた。
「ちょ、ちょっと待って下さい。いきなり過ぎやしませんかっ」
「今は十四時だから、ご家族の方に今日は友達のところに泊まるとか。理由はなんでもいいから、連絡だけはしていて欲しい」
悪気なくオリーブグリーンの瞳を笑みの形にする漆喰さん。
今日も素敵なブラックのスーツ姿に、二日前と変わりない完璧な美貌。このイギリス屋の落ち着いた雰囲気の中でも、異彩を放つぐらいに目立つ姿をしている。そんな人に私は今から、事故物件に連れて行かれようとしていた。
思わず磨き抜かれたテーブルに俯く。
「ちょ、ちょっと待って下さい。今日は私が働く労働条件とか。えーと、桜ノ宮の家に今後、本当に私が住むのかとか。そういった擦り合わせでは?」
すると、ピコンと私のスマホにメッセージが受信した音がした。
ぱっと顔を上げると相変わらず、優雅に漆喰さんが笑っていたが、その手にはスマホを持っていた。
「今、階さんのスマホに労働条件、就労内容のPDFと、電子契約書を送ったから。あとでそれを見たらいい。俺の家に住むことがノーだったら、君はここに来ていない。二日の猶予があったのに、特に何も連絡は無かった。それは階さんが俺の提案に乗ったから今日ここに来たという、ことだと思っているんだけど?」
「……探偵か何かですか」
「いや、俺は不動産屋だよ」
また微笑む漆喰さん。
この人、相当に食えない人だ。でもズバリ言ってくれることの方が、信頼出来るとか思ってしまった。




