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それでも両親は私を疑っていたし、心配もしてくれていたけど──それだけ、相手が私に惚れているなら、ゆくゆくはこの神社を継いでくれるように、説得して欲しいとか言い出した。
あと、成人した娘がずっと家にいるのも、ちょっとだけ気にしていた様子もあった。
そこから両親は男運のなさをここで逃したら、本当に嫁に行かずじまいになるのでは。
社会経験も大事ではと、言いたい放題だった。
思わず言い返そうと思ったけど、そもそも私はこれと言った目的がなくて、普通に暮らせたらいいや、ぐらいしか思ってなかった。
だから、やはり今回はその一歩。
動き出すチャンスというか。それが事故物件だとか、イケメンと同棲だとか。
なにやら普通の動機ではないけど、やっぱりこれは私が変わる、チャンスなのかと思った。
最後に、おばあちゃんが鶴の一声で『やれるだけやってみて、ダメならすぐに帰って来たらいい』『守護霊様が守ってくれるから、きっと大丈夫』だと言ってくれた。
そうして私はひとまず頑張る。ということで家族会議はやっと終わった。
その後。私は完全に自分で、墓穴を掘りまくったことを確信した。
漆喰さんに、こちらの事情を一切話せないと思った。
もう、やれるだけやるしかない。
ガッツリ腹を括るしかない。
清水の舞台から飛び降りるとはこのこと。
人生きっと、こういう方が案外上手く行くこともあるかもしれない。
白狐様のことももっと、詳しく漆喰さんに聞きたい。特に男運のことはとても気になる。
だから漆喰さんの提案に乗ろうと思った。
そんなこんなで、家族会議が終わったあと。とてもお腹が減った。
居間で遅めのご飯を、お母さんが用意してくれた食事に手を付けようと──した寸前。
机の上にあった真っ白なパンフレットが目に入った。
「なんだろ。このパンフレット……健照教って書いてある」
そこにはハッキリと『健照教』と書かれていた。
健照教。今日、お昼にも聞いたような……そうだ。思い出した。
漆喰さんが電話で『健照』と言っていた。まさか、コレが何か繋がりがあるとか……。
「さすがに考えすぎ、よね?」
気のせいだろう。
もうこれ以上ややこしいことを考えたくないと、パンフレットを置いた。
その代わりにお箸を持って、お母さんにずっと気になっていたことを聞いた。
「ねぇ、お母さん」
「なぁに?」
お母さんも自分のお茶を淹れてから、私の向かいに座った。
「そう言えば、私のお見合い相手の人って、どんな人だったの?」
「んー、確か。歳は二十六歳。写真は見てないけど、名前は変わった名前で『漆喰輝夜』って言う人だったわ」
※※※
階さんと別れたあと、事務所に寄って残っていた仕事を片付けた。
その中には前回片付けた事故物件から出てきた、依頼者が所有権を破棄した数々の遺留品のリストアップがあった。
俺はこれらの遺留品をリサイクルとして活用していた。
もちろん依頼者には事前に了承を得ている。合法だ。
はたから見たらゴミにしか見えないものも──曰く付きの品物。いわゆる呪物になってしまったものがある。
それらは呪物を集める、呪物コレクターからみたら垂涎の物が多々あった。
そういったものをピックアップし続けていて、時計を見ると十九時を回っていた。
そこで仕事を切り上げて桜ノ宮の自宅に戻る前に、いつものように外食を簡単に済ませてから桜ノ宮の手前。天満橋のコインパーキングで車を止めた。
一人で大川沿いの遊歩道から、欄干に上半身を預けて夜景を見つめる。
空には月が昇っていたがここは明るい。
遊歩道もライトアップされていて歩きやすい。
水の音に電車、車の音。ちらほらと遊歩道を歩く人の気配。
都会のど真ん中に切り取られた、管理された自然の方が俺は落ち着く。
川から来る冷たくなり切れない風がちょうどいい。
天満橋は浪華三大橋の一つ。水都大阪に相応しい水とビルの景観。この場所はどの画角から見ても絵になる。
緩やかに流れる大川には、昼も夜も都市の光が水面に輝いていて、デートに散歩──俺のように考えごとをするには最適だろう。
そして考えごとがまとまり、俺は遊歩道にある適当な空いているベンチに腰を掛けた。
そこから川面の清涼な水音を体にたっぷり染み込ませてから、懐からスマホを取り出す。
指先で先ほどリストアップした、呪物リストファイルを送信してから電話を掛けた。




