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『置き配2』—私が頼んでいない荷物—  作者: 説人


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9/9

 ◆七日目・警察へ・エピローグ◇

 ◆七日目・警察へ◇


 持田はその日、夜勤のアルバイトに無理を言ってシフトを変わってもらい、朝一で警察署へと向かった。


 警察へ向かう途中、妙に周囲に違和感があった。

 誰かに見られているような、()けられているような。


 突然、後ろを振り返って見渡した。

 他人が見たら、おかしな動きをしていると思われるだろうが、それよりもその違和感が気になった。


 警察署まではその違和感以外は特に何事もなくたどり着いた。

 受付を済ませ、椅子に腰を下ろして静かに呼ばれるのを待った。


 違和感が拭えず、落ち着きなく周囲をキョロキョロと見回してしまう。


 すると、目の前に常連の老人がトボトボと一人で現れた。

 手に見覚えのある箱を持っていた。


 老人は顔見知りの持田を見つけてお辞儀をした。

 持田の横に座り、周囲に警戒しながら、サッと、その箱を椅子の下に忍ばせた。


 そして、持田に向かって、口に人差し指を当て、「シー」と言った。 


 持田は顔が引き攣った。

 『シー』の意味。

 なんとか自然な笑顔を心がけて会釈した。


 老人は『シー』の手を口から離し、手を握って拳を作り、今度は小声で『バン!』と言って、目を大きくして手を開き、少し止まってから軽く頭を下げ、それ以外は何もせずに警察を出ていった。


 奇妙な光景だった。


 持田は自然と箱に目が行き、そこに置かれた箱が爆弾なんじゃないかと疑った。


 自分の生活が『置き配』に狂わされている現実だった。

 ただ、そこに置かれているだけの荷物。目にしただけで、置き配に対して抱く被害妄想。


 深く精神が侵されている。

 一刻も早く、この状況から逃れたい。

 これ以上新しい箱に関わりたくない。

 持田は誰かが気づくことに期待して、見なかったことにした。


 担当の刑事が現れて、奥の部屋へ案内された。


 椅子から立ち上がってお辞儀をし、部屋まで歩き出すと、窓の外を何かが一瞬横切ったように見えた。


 違和感の正体。


 持田はカラスかと思ったと同時に、ドローンを思い出していた。


 一瞬のことだった。

 追いかけようもなく、諦めるしかなかった。


 持田は部屋へ入って、刑事に挨拶を済ませた。

 見た目はただの中年にしか見えないが、人の良さそうな刑事だった。


 刑事は名刺を出して名乗った。

 「どうぞ、おかけ下さい。はじめまして、捜査一課の『丸茂一徳(まるしげいっとく)』と言います。今日は担当が出払ってまして、私が承ります。何度か相談に来ていただいているようで、今日はどうされましたか?」


 丸茂刑事は椅子に座るときに、足を庇ってさすりながら座った。


 持田はすぐに本題に入った。


 元彼の写真を先に見せると、一気に刑事の表情が強張った。


 矢継ぎ早に『黒い箱』を差し出した。


 話をしながら、奥の部屋へ案内される時に感じた『窓の外の違和感』がフラッシュバックした。


 また、一瞬だけ窓の外を何かが通ったように見えた。

 そう何度もカラスが窓を横切るだろうか……。


 その時だった。


 黒い箱がブゥーンと低く鳴り、僅かに振動した。


 カッチ、カッチ、カッチ。


 急に時計が針を刻むような音が黒い箱から鳴り始め、緊張が走った。


 丸茂と持田の表情が険しくなる。


 堰を切ったように話す持田に、丸茂刑事が冷静な声で質問した。


「持田さん、この黒い箱は、ずっとこの音がしているんですか?」


 身の毛がよだつようだった。


 持田は去年起こったマンションでの爆発事件を思い出した。


 カッチ、カッチ、カッチ。


 全住人が警察に誘導されて全員避難したことや、警察の聞き取り調査に協力したこと。


 テレビのコメンテーターが真剣な表情で、爆発事件を社会問題として扱っていたこと。


 カッチ、カッチ、カッチ。


 テレビ中継のリポーターの背後に流れる黒煙が脳裏に蘇った。


 カッチ、カッチ、カッチ。


 持田は刑事に訊かれてすぐに答えた。


「いえ、こんな音は……」


 持田がそう言いかけると、黒い箱は大爆発を起こした。


 同時刻、警察署一階の椅子の下で爆発が起こり、署内は騒然となった。


 ――警察署をビルの屋上から男が眺めていた。

 二メートルはある巨体で、ニット帽に黒いパーカー、服の上からも分かるほどの筋肉質。


 すぐそこで上がる黒煙に、男は満足そうな笑みを浮かべている。


「大成功のようですね。持田さん、配達、お疲れ様でした」


 男はスマートフォンを取り出して電話をかけた。しばらく鳴らしていると、やがて相手が電話に出た。


「ああ、鴉磨敦史(からすまあつし)さんですか?今度の計画が次の段階に入りました。今、警察は混乱の真っ只中です。ネットで集めた『ヤミフレ』(闇フレンド)と共に、計画を実行してください。あ……お兄さんのような間抜けな死に方、絶対にしないでくださいね」


 ◆エピローグ◇


 老人が男の部屋のインターホンを鳴らした。

 先日、偶然にも愚痴を聞いてくれたお礼に来ていた。

 老人は一人で抱えた不満に、少しだけ気が紛らっていた。

 手土産は駄洒落を意識して選んだ。


 インターホンから声が聞こえた。


 老人が喋ろうとすると、訪問者よりも先に男が喋り出した。


「あら、ご老人、ニュース見ましたか?コンビニから受けていたイジメ、どんなに訴えても相手にしなかった警察が、ついに報いを受けたようですよ」


 老人は訪ねていったのに、先に話し始めた男にペースを握られ何も言えない。


「網本さん、あの、ニュース見ました。驚きました。その件であの……」


 その男、網本はお構いなしに続けた。


「金のことしか考えないで、発注を調整する意地汚いコンビニの女はもういません。良かったですね!おじいさん」


 老人が答えようと喋り始めると、『ガチャ』と、インターホンの接続が切れる音がした。


 そのまま用件を喋ったが返事はなく、しばらくして、網本はもうそこにはいないという空気が漂った。


 老人は手に持っていた、一緒に食べようと思っていた『ちらし寿司』を扉の前にそっと置いた。

 トボトボと隣の自分の部屋へと帰って行った。


 通路の奥で同じ階の住人が、置き配の荷物を持って立っている姿を横目にして帰宅した。

 自室に戻り、腰を下ろして思いついた。


『そうだ。ちらし寿司を買ってお隣の網本さんと食べよう』——嬉々とした表情で、商店街へと出かけて行った。


 身寄りのない老人の病に気づいたのは、網本だけだった。


 ――マンションにはいくつも置き配の荷物が置かれていた。


 『どこかのあなた』が玄関先を見ると、間違って置かれている荷物があった。


 あなたは、宛先の近所の住人に正しく荷物を届けるために、その荷物を手に持って歩き出した。


 遠くで緊急事態を知らせる車両のサイレンが、いくつも鳴っていた。


 この物語の続きは、あなたの玄関に届けられた、新たな置き配から始まるかもしれない……。


「お次の人体実験に参りましょうか。人を操るって、最高に気持ちいい……さあ、そこのあなた!次はあなたに配達行為をして頂きますよ」


 網本の口角が冷たく釣り上がった。


 見開いた目は濁った硝子玉のようだった。


 ――《了》


挿絵(By みてみん)


最後まで読んでいただきありがとうございました。


本作はこれで完結となります。


(全9話、完結まで予約投稿済みでした)


少しでも面白かったと思っていただけたら、下にある

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。


また、感想を頂けたら喜んで熟読します。


ぜひ、感想の投稿をよろしくお願いします。


この度は貴重な時間を使って読んで頂き、ありがとうございました。

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