第6話 それでも、アプリをやめなかった理由
家に帰って、靴を脱いだ瞬間、
どっと疲れが出た。
たった一時間半。
座って話していただけなのに。
シャワーを浴びて、
髪を乾かして、
いつもの部屋着に着替える。
やっと、自分に戻った感じがした。
ベッドに座って、スマホを手に取る。
彼からのメッセージは、まだ来ていない。
……来ないだろうな、と思う。
それでいい。
傷つくほど、期待していなかった。
……はずだった。
アプリを消そうとして、
指が止まる。
今日の人がダメだったから、やめる。
それって、理由として弱い気がした。
じゃあ、何のために続けるのか。
答えは、すぐには出ない。
思い返す。
会う前は、怖かった。
会ったあとは、少しだけ安心した。
少なくとも——
想像していたほど、嫌な世界じゃなかった。
私は、今日の自分を思い出す。
緊張しながら待っていたこと。
ちゃんと相手の話を聞いていたこと。
「違う」と思った気持ちをごまかさなかったこと。
それって、
前より少し、ちゃんとしていない?
アプリは、
“出会うための場所”だと思っていた。
でも、
“自分の気持ちを確かめる場所”
なのかもしれない。
いい人だと思っても、
違うと思ったら、違う。
その感覚を、
なかったことにしなくていい。
無理に感謝しなくてもいいし、
将来を想像できなくてもいい。
ふと、
最初にマッチした、あの人のことを思い出す。
派手じゃない。
でも、静かに続いている人。
あの人とのやり取りは、
終わっていなかった。
トーク画面を開く。
未読は、ない。
でも、消えてもいない。
その“残り方”が、
なぜか少し、心に引っかかる。
私は、アプリを消さなかった。
続ける、と決めたわけでもない。
ただ、
やめる理由が、もうなかった。
完璧な出会いじゃなくていい。
最初から運命じゃなくていい。
ちゃんと向き合える相手に、
ちゃんと出会えたら。
それで、十分な気がした。
スマホを置いて、
電気を消す。
明日も、仕事。
いつも通りの日曜日。
でも、
何も変わっていないはずなのに、
ほんの少しだけ、
前より息がしやすかった。
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