第4話 返事を送るまでに、こんなに時間がかかるなんて
スマホの画面には、まだ未送信の返信。
「ぜひ。週末、時間あります。」
たった一文なのに、
私は十分以上、その画面を見つめていた。
会うだけ。
お茶するだけ。
頭では分かっている。
でも、
“会う”って決めた瞬間から、
少しだけ現実になる気がして。
今までみたいに、
なかったことにはできなくなる。
もし、写真と違ったら。
もし、話が合わなかったら。
もし、相手ががっかりした顔をしたら。
その全部を、
たった一時間のために引き受ける勇気が、
なかなか出なかった。
他のトーク画面を見る。
返事をしないままの人。
いつの間にか消えた人。
会わなければ、
何も失わない。
傷つくこともない。
でも——
何も、増えない。
通知が鳴った。
「無理でしたら、また別の機会でも大丈夫ですよ。」
その一文が、
押し付けがましくなくて、
逆に逃げ場をなくした。
この人は、
急かしてこない。
でも、待ってはいる。
深呼吸する。
完璧な準備なんて、
たぶん一生できない。
自信がついたら会おう、なんて、
いつになるか分からない。
私は、送信を押した。
「ありがとうございます。
土曜の午後なら空いています。」
送った瞬間、
胸がきゅっと縮んだ。
やってしまった、という気持ちと、
やっと動いた、という気持ちが、
同時に来る。
すぐに返事が来た。
「よかったです。
では、駅近くのカフェでどうでしょう。」
場所も時間も、普通。
それが、妙に現実的で、
逃げ道がなくなった感じがした。
アプリを閉じて、
天井を見る。
土曜日。
知らない人と、向かい合って座る私。
想像しただけで、
少し緊張して、
少しだけ、楽しみだった。
まだ何も始まっていない。
でも、
“何も起きないまま終わる”可能性は、
確実に減った。
それだけで、
今日は十分だった。
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