第3話 メッセージが続く人、続かない人
アプリを開く回数が、少しだけ増えた。
朝の支度の合間。
昼休みの数分。
寝る前、電気を消したあと。
“やってる”というより、
“確認してしまう”。
マッチは、思ったよりある。
通知が来るたびに、
最初は少しだけ嬉しくて、
すぐにどうでもよくなる。
「はじめまして、よろしくお願いします」
「お仕事何されてるんですか?」
「休みの日は何してますか?」
同じ質問。
同じ返事。
コピーして貼り付けているわけじゃないのに、
自分の言葉が、どんどん薄くなっていく気がした。
昨日までやり取りしていた人から、
突然、返事が来なくなる。
理由は、分からない。
何か変なことを言ったのかもしれないし、
ただ忙しいだけかもしれない。
でも、聞けない。
“消える”という選択が、
ここでは当たり前すぎて。
未読のまま止まったトーク画面を、
そっと下に送る。
なかったことにするのが、
一番、傷つかなくて済む。
一方で。
あの人とは、細く、続いていた。
朝でも夜でもない、
ちょうどいい時間に届くメッセージ。
「今日は忙しかったですか?」
「お疲れさまです。無理しすぎないでくださいね」
内容は、特別じゃない。
でも、
“ちゃんと私に向けて書いてる”感じがした。
返事を考える時間が、苦じゃない。
気の利いたことを言おうとしなくても、
ちゃんと返してくれる。
テンポが合う、というより、
呼吸が合う、みたいな。
他のトークが、また一つ消える。
写真だけ見て終わった人。
最初だけテンションが高かった人。
急に距離を詰めてきた人。
残ったのは、数人。
その中で、
一番静かな人が、
一番長く残っていた。
ふと、気づく。
この人とのやり取りは、
読み返しても、嫌じゃない。
自分がどう見られているかより、
どう話したいかを考えている。
それが、少しだけ怖かった。
夜、ベッドの中。
最後に届いたメッセージを、もう一度読む。
「週末、もし時間が合えば、お茶でもどうですか?」
すぐには返事をしない。
スマホを胸の上に置いて、天井を見る。
また期待して、
また何も残らなかったら。
その不安と、
それでも会ってみたい気持ちが、
同じくらいの重さで、胸にあった。
アプリは、出会いの場で、
別れの場でもある。
その中で、
続く人がいるということ自体が、
もう十分すぎる理由なのかもしれない。
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