共同作戦
第6階層。蓮と葵を含めて8人での共同作戦が始まった。
目標は、ダイアウルフの群れの討伐だ。相川が事前に言っていた通り、この辺りにはダイアウルフが頻繁に出現する。相川パーティのメンバーたちと、蓮と葵が、共同で行動することになった。
最初は、相川がリーダーとして指揮を執った。経験豊富な中堅制圧士として、的確な指示を出す。パーティメンバーたちは、その指示に従って、効率的に動いていく。
(相川の指揮は、確かに上手いな)
蓮は、相川の指揮を観察していた。経験豊富な制圧士として、的確な判断を下す。その様子を見て、蓮は内心で少し感心した。
しかし、戦闘が始まると、蓮の戦術眼が発揮された。敵の動きを観察し、的確な指示を出す。その判断は、相川の指示よりも、時には先を行く。
戦闘は、突然始まった。
通路の先から、複数の獣の気配が近づいてくる。相川が、素早く指示を出した。
「来るぞ。ダイアウルフだ。数は……5体」
通路の暗がりから、5体のダイアウルフが姿を現した。フロアウルフよりも一回り大きく、毛並みは深い灰色。その目は、鋭い知性を宿している。低く唸り声を上げながら、5体が扇状に広がって獲物を包囲しようとする動きを見せる。
群れで動く習性を持つダイアウルフは、連携して獲物を追い詰める。その動きは、本能的でありながら、計算されている。
第6階層の通路は、第7階層よりも広く、天井も高い。壁には、魔石のランタンが一定間隔で設置されており、薄明るい光が通路を照らしている。
「佐伯、正面! 小林、右側のやつを牽制!」
相川の指示が飛ぶ。佐伯が盾を構え、正面の2体に対峙する。小林が、右側のダイアウルフに向けて魔法を放った。
しかし、ダイアウルフは賢い。正面から攻めるだけでなく、側面から回り込もうとする個体がいる。
蓮は、その動きを冷静に観察していた。ダイアウルフの群れは、リーダー格の個体を中心に動いている。リーダーは、通路の中央やや後方で、仲間の動きを指示している。他の4体が攻撃態勢を取る中、一体だけ冷静に全体を見渡している。
(あれを先に潰せば、群れの連携が崩れる)
蓮は召喚獣を展開しながら、共鳴の鎖を通じて葵に意図を送る。言葉を発することなく、蓮の戦術が葵の意識に流れ込む。葵は一瞬だけ頷き、魔法の詠唱を開始した。
蓮の周囲に召喚獣が次々と実体化する。土の塊が人型に組み上がり、クレイゴーレムが2体出現。その隣に、体長1メートルを超える熊型の召喚獣——アーマーベアが重い足音を立てて着地する。さらに、小さな妖精ピクシーが3体、蓮の周囲を旋回し始めた。
「葵、中央後方のダイアウルフを狙え。あれがリーダーだ」
蓮の指示は、相川の指示とは異なる視点からのものだった。相川が「目の前の敵」に対処しているのに対し、蓮は「群れ全体の構造」を見ている。
葵は右手を前に突き出し、魔力を収束させる。《ハイドロスパイク》——水を針状に圧縮した魔法弾が、空気を切り裂いてリーダー格のダイアウルフへと飛ぶ。高圧の水の槍がリーダーの前足に深々と突き刺さり、獣が苦痛の咆哮を上げた。
リーダーが怯んだ瞬間、群れ全体の動きが一瞬乱れる。
「今だ」
蓮の無言の指示が、共鳴の鎖を通じて召喚獣たちに伝わる。
クレイゴーレム2体が重い足音を立てて前進し、正面のダイアウルフ2体の前に立ち塞がる。土の盾となった巨体が、獣たちの注意を引きつけた。アーマーベアが低く唸りながら前衛に加わり、鋭い爪を光らせる。ピクシーたちは空中で《閃光》を放ち、側面から回り込もうとしていたダイアウルフの視界を奪った。
その隙に、佐伯が反撃に転じる。
相川が、蓮の指示を聞いて、驚いたような表情を見せた。しかし、すぐにその戦術の意図を理解し、自分の指示を調整する。
「高橋、リーダーを集中攻撃! 佐伯、正面を押し切れ!」
高橋の支援魔法が、葵の次の魔法に重なる。葵は左手を掲げ、《ハイドロバインド》を発動した。リーダー格のダイアウルフの足元から水が湧き上がり、四肢にまとわりつく。獣は身動きを封じられ、その場に縛られた。
リーダーを失った群れは、連携が崩れ、個別の動きになった。
正面の2体は、クレイゴーレムに気を取られている。その巨体に牙を突き立てるが、土の体は多少削れても動きを止めない。アーマーベアが《クローストライク》——鋭い爪の一撃を放ち、1体のダイアウルフの側面を切り裂いた。佐伯がその隙を逃さず、剣を振り下ろす。
側面から回り込もうとしていた1体は、ピクシーの《閃光》で視界を奪われたまま、方向感覚を失っている。小林の火魔法がその隙を突いて命中し、獣の毛並みが焦げた。
蓮は戦場全体を俯瞰しながら、共鳴の鎖を通じて召喚獣に細かな指示を送り続ける。クレイゴーレムは前に、アーマーベアは佐伯の側面援護に、ピクシーは小林の攻撃に合わせて閃光を放つ。言葉を発することなく、全てが連動する。
「……君、指揮が上手いな」
相川が、感心を隠さずに言った。わずかに息を切らしながらも、その視線には職業的な評価が宿っている。
「いや、本当に。俺の指示が出る前に、次の一手を読んでる。召喚師って、そういうものなのか?」
蓮は、謙虚に答えた。
「召喚師なので、戦況を俯瞰するのが仕事ですから」
その言葉には、確かな自信が込められている。しかし、それを表に出すことはない。謙虚さを保ちながら、実力を示す。それが、蓮の戦略だ。
佐伯が前衛で積極的に戦い、「任せてください!」と頼もしい声を上げながら、連携を失ったダイアウルフに斬りかかる。その前向きな姿勢は、パーティ全体の士気を高めていた。
蓮は、佐伯の戦いぶりを観察していた。その姿勢は、この世界が求める「模範的な制圧士」の姿だ。しかし、蓮は、その価値観をそのまま受け入れるつもりはない。
高橋は、的確な支援魔法で後方をサポートする。無駄のない動き、計算された魔法の使い方。その技術は、中堅制圧士として、確かな実力を持っていることを示していた。
小林美波は、緊張しながらも、先輩たちの指示に従って動く。まだ若手だが、真面目に頑張っている。その姿は、どこか蓮の過去を思い出させる。
相川パーティの他の男性メンバー2名も、それぞれの役割で戦闘に参加している。若手として、まだ経験は浅いが、真面目に戦っている。
残り2体のダイアウルフも、次第に追い詰められていく。
葵は《アクア・ショット》を連射し、水の弾丸が1体の側面を打ち抜く。高橋の支援魔法が葵の魔力を増幅し、威力が上がった水弾が獣の足を砕いた。動きを失ったダイアウルフに、相川パーティの若手メンバーが止めを刺す。
最後の1体——リーダー格は、まだ《ハイドロバインド》に縛られたままだ。蓮はアーマーベアに指示を送る。熊型の召喚獣が地を蹴り、《ベアチャージ》——巨体による体当たりを放った。質量と速度が乗った一撃が、縛られた獣を吹き飛ばす。
葵の追撃の《アクア・ショット》が、倒れたリーダーの急所を貫いた。
(民間制圧士の連携は、確かに上手いな)
蓮は、その連携を観察していた。民間企業の強みは、パーティメンバーを柔軟に入れ替えられることだ。その経験が、連携の精度を高めている。
5体全てのダイアウルフが倒れ、通路に静寂が戻る。クレイゴーレムの体には深い爪痕が刻まれているが、まだ機能している。アーマーベアも無傷ではないが、戦闘続行には問題ない。ピクシーたちは蓮の周囲を旋回しながら、次の指示を待っている。
相川パーティのメンバーたちは、その様子を見て、感心したような表情を見せた。
「召喚師の連携、すごいですね」
小林が、驚いたような表情で言った。蓮は、軽く頷いた。
「まだまだです。もっと磨いていきます」
戦闘が終わり、ダイアウルフの群れが全滅した。相川は、安堵したような表情を見せた。
「助かった。君たちがいてくれて良かった」
その言葉には、心からの感謝が込められている。蓮は、軽く頷いた。
「こちらこそ、経験豊富な方々と動けて、勉強になりました」
佐伯が、明るく笑いながら言った。
「防大生ってやっぱりすごいですね! 俺も頑張らないと!」
その前向きな姿勢は、パーティ全体の雰囲気を明るくしていた。小林が、決意を新たにするように言った。
「私も、もっと頑張ります……!」
その真剣な姿は、まだ理想を持っている若手の姿だ。蓮は、その姿を見て、内心で少し微笑んだ。
休憩中、蓮が相川と少し離れた場所で戦術の話をしている間、佐伯や他の男性メンバーが葵と話していた。
「水谷さん、すごいですね。あの水魔法、見事でした」
佐伯が、好意的な視線を向けながら言った。その目には、明らかな好意が滲んでいる。葵は、礼儀正しく丁寧に応対する。
「ありがとうございます。でも、まだまだです」
「いやいや、本当にすごいですよ。防大生って、やっぱり違いますね」
他の男性メンバーも、同調するように頷いた。
蓮は、その様子を冷静に観察していた。
(葵の対外的な評価は、予想以上に高い。防大生というブランドだけではない、本人の資質が評価されている)
葵は、男性陣の好意を感じ取りながらも、表面上は冷静に応対している。礼儀正しく、しかし距離を保つ。その振る舞いは、社交の場でも十分に通用するだろう。
佐伯が、他の男性メンバーと顔を見合わせて、葵に言った。
「また一緒に活動できたらいいですよね」
その言葉には、若干の下心が滲んでいる。葵は、礼儀正しく答えた。
「そうですね。蓮次第ですが」
「そうだ、神谷さんに言っておいてくださいよ。俺たち、また一緒に活動したいって。若手の育成にもなりますし」
佐伯の言葉には、下心が明らかだった。他の男性メンバーも、「そうそう、よろしくお願いします」と同調した。
相川が、苦笑いしながら戻ってきて、ツッコミを入れた。
「若手の育成という名目で、実は君たちの下心だろ」
「いやいや、本当に育成のためですよ!」
佐伯たちが、慌てて否定するが、顔が赤い。その様子を見て、蓮は内心で少し微笑んだ。
(男性陣の下心は、明白だな)
蓮も戻ってきて、葵から佐伯たちの話を聞いた。
「構いませんよ。また機会があれば、ご一緒させてください」
蓮は、落ち着いた様子で承諾した。その様子を見て、相川は少し驚いたような表情を見せた。
「じゃあ、連絡先を交換しておきましょうか」
相川が、蓮と連絡先を交換した。その様子を見て、蓮は内心で少し満足した。
蓮は、その関係を最大限に活用するつもりだった。民間制圧士の動きを観察し、情報を収集する。それが、蓮の戦略だ。
共同作戦は、順調に進んでいった。相川パーティのメンバーたちと、蓮と葵が、効率的にモンスターを討伐していく。蓮の召喚獣と葵の水魔法、相川パーティの連携。それぞれの強みが噛み合い、その連携は次第に磨かれていった。
数時間後、共同作戦は終了した。今日の収穫は、まずまずだった。蓮は召喚獣たちを異空間へと戻し、相川パーティのメンバーたちと共にゲートタワーへと向かった。
ゲートタワーを出ると、地上の空気が顔に当たる。11月中旬の風は、少し冷たく、秋の深まりを感じさせる。
相川たちと別れ、蓮と葵は寮へと向かった。




