７．可憐な次女？１
クラウドと一緒に森の中を車並みの速度（時速４０～５０キロくらい）で突っ走る。
デコボコした地面の上をハイヒールで走っているのに全くバランスが崩れない。
アリシアの体はめちゃくちゃ体幹が強かった。
〈三姉妹の魔女と五人の騎士〉の設定上、アリシアたち三姉妹は最強の魔法使いであると同時に武術もそこそこいける。
三女のラステリアに至っては、魔法よりも武術の方が得意。
物語の設定が、ちゃんと機能しているみたい。
今なら素手で鉄の壁も壊せそう。
……ところで、魔法ってどうやって使うんだろ？
呪文を唱えれば、火とか水が勝手に出るのかな？
†
一時間ほど走り続けたら、私たちは森を抜けることが出来た。
途中で大きな魔物とかに遭遇するんじゃないかと緊張してたんだけど、そんなのは全くいなかった。
私の中では、というか物語の中では、森＝魔物やモンスターの住処だった。
この森は違うみたい。
もしかしたら、〈三姉妹の魔女と五人の騎士〉とは関係ない世界に居るのかも。
森を抜けて最初に視界に入ったのは、頭上に輝く太陽に照らされた広い草原と、草原の中を渡る一本の長い野道。
野道には、草を刈ったり砂利で脇を固めたりと人工的に造られた形跡がある。
これは知能の高い生き物がいる証拠。
道に沿って進んでいけば人のいる村や町に行けるかも。
そう思って草原に足を踏み入れようとしたら、
（おや？）
遠く離れた道の上に小さな人影が見えた。
大きさ的に子供みたい。
よし、あの子に話しかけてみよう。
何かわかるかもしれない。
草原の草をかき分け、道へと向かう。
すると——
「え……」
人影はゆらゆらと揺れたかと思うと、急に勢いよく地面に倒れ込んだ。
受け身を取ろうとした様子はなかった。
気を失って倒れたようにしか見えなかった。
「クラウド！」
私はクラウドに声を掛けると同時に走り出した。
クラウドも、「はい」と返事をしながら私にいた。
そして、子供が倒れ込んだと思われる場所まで一気に距離を詰めると、私は少女の凄惨な姿を目にした。
乱れた衣服が汗と埃に塗れていた。
見えている肌には無数の痣がある。
靴を履いていない両足は、豆が潰れて血だらけになっている。
野道には、少女の血の雫でできた血の跡が長く続いていた。
「どうして、こんな事に……」
ここまで酷い怪我をしている人を直接目にするのは初めてだった。
それも、怪我を負っているのは十歳くらいの女の子。
あまりにも惨い姿に、それ以上言葉が出なかった。
「何かから逃げて来たようですね」
クラウドは女の子の背中に腕を回し、優しく上半身を起こした。
「重度の怪我に加え、体力も失われています。自力での回復は難しいでしょう。このままでは数時間以内に呼吸が停止すると思われます」
そんな……。
どうしたら……、どうしたらいいの？
