10.遅れて来た感情
「それじゃあ、お姉様。おやすみなさい。いい夢見てね」
「うん、おやすみ。プレセアもいい夢見てね」
「は~い」
とプレセアは返事をして、軽く手を振りながら部屋を出て行った。
一人になった私はネグリジェに着替えると、とりあえずぐるりと部屋を一周した。
お初のネグリジェ(ドレスもだけど)、なんでスケスケなんだろ? すごく落ち着かない……。
部屋の内側の壁は窓ガラスが占める外側の壁と違い、本棚がずらーっと並んでいる。
まるで小さな町の図書館の様。
他には豪華な一人用の机と椅子に、応接用らしき長い机と十個の椅子。
社長室っぽくもある。
反対側には大きなベッドが一つと、コンパクトな机と椅子がワンセット。
部屋は贅沢過ぎるほど広いけど、一応個室の様だ。
どんな人が使ってたんだろ?
このお城で一番偉い人なんだろうけど……。
そんな事を気にしながら、私はファサっと背中からベッドに身を投げた。
「むほっ」
微かに埃っぽい。
でもまぁ、寝るのに支障はない程度。
むしろ他の場所に比べると不自然なくらい綺麗に保たれてると思う。
蝙蝠も蜘蛛の巣もいないし。
「う、ん……」
横になっていたら一気に疲れが押し寄せて来たなぁ。
目を閉じたらこのまま眠ってしまいそう。
それだけ体力を消耗している証拠だ。
これまで目まぐるしい時間の連続だったけど、きっと明日からはもっと忙しくなる。
早く寝て疲れを取らなきゃ。
そう思い、布団に入って眠ることにした。
——けれど、体の疲労に反して中々寝付けない。
一人になり、ゆっくり考える時間が出来た事で、徐々に自分の置かれている非現実を実感し始めたから。
考えてみれば、こうやって自分だけの時間と言えるものがなかったな……。
「お母さん……お父さん……」
今頃になって日本に置いて来てしまった両親の顔が浮かんだ。
学校ではあまり良い思い出はなかったけど、家には優しい両親がいて、何不自由なく育ててもらった。
楽しい思い出と共に日常を過ごさせてもらった。
何気ない日々にあった家での出来事や、一緒に買い物に行った週末、長い連休に行った家族旅行。
お母さんとキッチンで作ったご飯やお菓子の事を思い出した。
レシピ通りに同じ料理を作ったのに、お母さんが作った料理と違う味がした。
お母さんが焼くと上手く出来るのに、私が焼くとクッキーは焦げた。
これが経験の差かぁ~、私がお母さんになったら同じように出来るかなって、心配になってた。
お父さんとはキャッチボールをしたり、釣りを教えてもらった。
キャッチボールは、あまり好きじゃなかったなぁ……。
運動自体得意じゃないのもあるけど、顔面でキャッチして痛い思いをしてからは誘われても断ってた。
釣りは……釣り餌に抵抗があって三回くらいしか行ったことがなかった。
思い出してみたら、どっちも小学生の頃までしかやった記憶がないや。
お父さんは、子供は女の子よりも男の子が方が欲しかったのかも。
……もっと一緒に楽しんであげればよかった。
未練なんて大してないと思ってたけど、そんな事、全くなかった。
今頃どうしてるんだろ?
ちゃんとご飯食べてるかな?
悲しい気持ちよりも、二人を残して死んでしまった事が辛いよ。
心が、ごめんなさいって痛い想いでいっぱいになってる。
私、もう……お父さんとお母さんには会えないんだ——




