33.折れる心
私とエルザが互いに高速で距離を詰める。
そして、あと数メートルで剣が届く位置まで来ると、エルザは小さく飛んで剣を振り下ろした。
私は足を止めて踏ん張り、手にした剣を横にして頭上に掲げた。
——魔剣・レヴァリェン——
刀身が加工された宝石のような輝きを持つ、アリシアが愛用していた絶対に折れないとされている剣。
レヴァリェンは、ガギン!! と大きな音を立ててエルザの剣を防いだ。
レヴァリェンにかなりの衝撃が伝わり、掴んでいる両腕が痺れる。
しっかりと両手で支えていなければ、体まで押し込まれてしまうほどの力。
これでわかった。
盗賊たちと違って、エルザの剣はアリシアを傷付けることが出来る。
殺すことが出来る。
一瞬たりとも油断は出来ない。ぉ
「このぉ、どこから剣を!」
突然手にした魔剣に驚きの反応を見せながらも、エルザは躊躇なく乱暴に剣を振り続けた。
それを、私は拙い動きで何とか受け止める。
技術には明らかな差がある。
それでも防げているのは、アリシアの身体能力がエルザよりも勝っているから。
「チッ!」
荒々しかったエルザの剣の軌道が変わる。
フェイントを織り交ぜ、生じた隙を的確に狙い始めた。
「くっ、ぐ……」
私はフェイントに引っ掛かるも、引っ掛かた上で素早く動き、何とか攻撃を防いだ。
「化け物め!」
酷い言葉だ。
でも相手からしたらそう思うのも仕方ない。
完全にチート。
素人ながらにエルザの剣術は卓越された技術だとわかる。
それを身体能力だけで防がれたらたまったものじゃないと思う。
しかも、だんだんと私の目と体がエルザの動きに慣れて始めている。
今は防戦一方でも、このまま続けていればいずれ反撃に転じられるかもしれない。
私でも、アリシアとしてなら剣の実力者と戦える。
そう、希望を持った時だった。
エルザが「チッ」と舌打ちしながら後方に二十メートルほど飛んで距離を取り、
「防げるものなら防いでみろ!」
両手で持った剣を頭上に掲げた。
そして——
「マナ・ブレイド!!」
剣が眩い光を発した。
光は剣の形を象り、徐々に長さを増していく。
およそ三十メートルの長さにまで達すると、それ以上は伸びない代わりに、『キィーン!』とけたたましい高音を発した。
「くらえっ! ノヴァ・ストライク!!」
光の剣が私に向かって振り下ろされた。
(避けなきゃ!)
そう思うには遅すぎた。
見慣れない現象に目を奪われ、反応が遅れてしまった。
私は咄嗟にレヴァリェンで防いだ。
絶対に折れないとしていた魔剣であるレヴァリェン。
直感が告げる。
この光の剣は止められないと。
事実、魔剣は目の前でガラスのようにバッギン! と大きな音を立てて粉々に砕けた。
(そんな……)
予感がしたとはいえ、折れないはずの砕けた魔剣を見て大きなショックを受けた。
ショックで体が固まる私に反して、光の剣は止まることなく迫って来る。
(いやっ……)
魔剣だけでなく、心を折る恐ろしい光を前に、私は目を閉じる事しか出来なかった。




