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3.退屈な日常Ⅱ

「はぁ~」


 重い溜息を追加で一つ。


 先輩たちは一人になった私を気にかけて受験勉強の合間に遊びに来てくれるけど、ずっとはいてくれない。


 塾とかあるから顔を出してくれる程度。


 寂しさが過ぎる。


「はぁ~、今の私にはお前たちしかいないよ~」


 そう言って、机に横顔をペタンと貼り付けている私は、目と鼻の先にあるノートパソコンを右手で()でた。


 このノートパソコンは先輩からもらったもので、小説を書くのに使っている。


 それはつまり、この中には、私が創作した物語、〈三姉妹の魔女と五人の騎士〉と、そこに出てくるキャラクターたちがいるのだ。


 私の趣味全開で生み出した、可愛い我が子たち。


 物語の内容は、親族の裏切りによって両親を殺されたあげく、家門と領地を奪われ、(いわ)れのない罪で魔物の住む暗い森に追放された三姉妹の令嬢と仲間たちの冒険もの。


 序盤は三姉妹による森でのサバイバル生活から親族への復讐劇(ざまぁ)




 中盤からは、親族のような悪を懲らしめる為に、水戸黄門の如き世界を旅する勧善懲悪モノ。


 道中は意気投合した仲間たちと出会い、賑やかな展開へ。


 書き始めたのが七月の頭なのに、半月ちょっとで物語はもう終盤に差し掛かっている。


 文字数は約四十万文字。


 それだけ物語の世界に没頭してたってのもあるけど、それだけやる事が無かったってことでもある。悲しみ。


 仲間たちとの旅は楽しく、私は三姉妹の長女であるアリシアに自分を重ねて執筆してた。


 無い物ねだりで書いた理想像(アリシア)だから見た目も中身も全然違うけど……。



 琴坂 唯


 身長:(約)一五〇センチ 体重:四十五キロ


 スリーサイズ:小中中


 性格:コミュ症・人見知り・内気・自己肯定感がめちゃくちゃ低い。



 アリシア・グラナード


 身長:一七五センチ 体重:六十キロ


 スリーサイズ:大小中


 性格:上品で社交的・リーダーシップのある頼れる女・自信に溢れている。



「ラノベやアニメみたいに神様が物語の世界に連れていってくれたらなぁ~。そしたら私もみんなと一緒に冒険ができるのに」


 一日に最低でも三回はしている願望と言う名の現実逃避をしながら、首の向きをぐるんと変えて開いている窓を見た。


 窓の外から陽キャな運動部の掛け声が聞こえてくる。


 一丸となってやる気に満ちている。


 みんな友情を(はぐく)んでるなぁ~。


 きっと女子マネージャーが怪我をした男子部員の手当てとかして、愛情も(はぐく)んでるんだろうなぁ~。


「陰キャの私には目と耳に毒だよ」


 私は陰キャらしく愚痴りながら知りたくない現実を遠ざける為、窓を閉めようと立ち上がった。


 すると——


「立ち(くら)みが……」


 急な眩暈(めまい)に襲われ、膝がカクンと折れた。


 そのまま手を付くことも出来ずに床に勢いよくバタン。


 直ぐに起き上がろうとしたけど、全身が痙攣(けいれん)していて動かせない。


「はぁ……はぁ……」


 床が冷たく感じるほど顔が熱くなっている、なのに、汗が全く出ていない。  


 これ、熱中症だ……。


 症状と原因に気付くも、時すでに遅し。


 (あらが)えないほどの睡魔が意識を刈り取ろうとしている。


(助けが来ないと絶対にやばいヤツだ。こ、こんな人生の終わり方をするなんて……)


 時刻は十七時十分。


 閉門時間の十八時三十分まで一時間以上もある。


 経験上、それまで誰かが部室に来ることは殆んどなかった。


 私は、夕方だからと安心していたのと、温暖化とオゾン層の破壊を気にしてエアコンを使わなかった事を激しく後悔しながら気を失った。

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