13.飛竜
「しょうがないわねぇ」
プレセアは子供をあやすようにそう言うと、左手の指をパチンと鳴らした。
すると、彼女の足元に直径十メートルくらいの巨大な魔方陣が現れた。
更に魔方陣から何かが浮かび上がる。
(うお……)
浮かび上がったのは、大きな翼を持つ全長が十メートルほどの飛竜。
爪と牙が長くて、めっちゃ鋭利。
人間の体の厚さなら余裕で貫通しちゃう。
初めて竜を目の前にして私はちょっと、いや、かなりびっくりした。
おかげで腰が抜けかけたよ。
〈三姉妹の魔女と五人の騎士〉において、プレセアは飛竜を愛竜として飼っている。
飛竜は基本、アリシア達の移動手段として活躍していたけど、嗅覚が犬のように鋭く、追跡するのにも打って付けだ。
ちなみに飛竜は三体いて、小型、中型、大型と大きさがそれぞれ違う。
目の前にいる飛竜は人が背に二人ほど乗れる小型。
大型だと頑張って詰めれば十人くらい乗れちゃう。
プレセアが飼っている飛竜は基本的にはプレセアの言う事しか聞かない。
〈三姉妹の魔女と五人の騎士〉では、穢 れなき純粋な心を持った麗しき乙女だけが魔物と心を通わせられる、という設定と言う名の理由がある。
穢れなき純粋な心を持った、麗しき乙女かぁ……。
私が想い描いた麗しい乙女は、ギャルでもなければ、女の子をメスガキなんて言わないんだけど……これって偏見?
ギャルはともかく、メスガキ呼ばわりはどうなの?
†
プレセアは飛竜の額に手を当てると、飛竜の大きな瞳を見つめた。
互いに見合うだけで言葉は発してないけど、たぶん心で会話をしているんだと思う。
盗賊たちを追うようにって、伝えてくれているのかな?。
「OKよ。クラウド、お姉様をお願いね」
「任せてください」
クラウドはプレセアと約束すると、飛竜に飛び乗り、背に跨った。
そして右手で取り付けられている手綱を掴み、
「アリシア様」
左手を私に差し伸べた。
やだかっこいい。
まるでお姫様になった気分。
私は飛竜にちょっとだけびくびくしながら、お姫様気分でクラウドの手を取って一緒に飛竜に跨った。すると、
「待ってください!」
マリアちゃんが大きな声で叫ぶように言った。
「私も、私も一緒に連れて行ってください……」
飛竜が怖いんだと思う。
マリアちゃんの足はガクガクと震えていた。
それでも一緒に連れて行って欲しいと願うのは、それだけ村の子供たち事が心配で、自分でも何とかしたいと思う気持ちでいっぱいだからだ。
そんな健気なマリアちゃんを、
ガシッ!
プレセアが後ろから襟を掴んだ。
「あんたはダメよ。行っても邪魔になるだけ。お姉様の足を引っ張るだけ。大人しく私と留守番してなさい」
「……ご、ごめんなさい……」
悲しそうに俯くマリアちゃん。
借りてきた猫みたいにシュンとなってしまった。
プレセア、言ってることは正しいけど当たりが強過ぎる。
子猫を両手の平で優しく持ち上げるような子のはずだったのに、どうしてこうなった?
「大丈夫よ、マリアちゃん。私たちに任せて」
「……はい、お、お願いします……」
もう! 飛竜よりもプレセアに脅えちゃってるじゃない。