12.保護者
私たちに助けを求めた幼い少女の名前はマリアちゃん。
明るい茶色の髪をした十一歳の女の子。
マリアちゃんの住むユミルと言う名前の村が野盗に襲われ、一人助かった彼女は救いを求めて歩き続けた。
充てもなく、裸足のまま一晩中を——
こんなに小さな子が、どれだけ大変で辛かった事だろうか。
気付けば、私はマリアちゃんを力強く抱きしめていた。
†
私たちはマリアちゃんに村までの案内をお願いすると、即座に草原を駆けた。
マリアちゃんを背負ったクラウドを先頭に、私とパンチラ気味のプレセアが後方で並走する。
一刻も早く村に辿り着かなきゃ。
でもその前に……。
(プレセア、パンツ見えてるよ)
プレセアに近付いて耳元に小声で注意した。
余りにもチラチラし過ぎてる。
マリアちゃんの教育上にも悪い。
「はいはい」
言われてスカートの腰の位置を下げるプレセア。
手の掛からない良い子のはずだったのに、どうしてこうなった?
これじゃあ私、プレセアのお姉さんじゃなくて、お母さんだ。
†
日が沈みかけ、世界が赤く灯った頃、私たちはマリアちゃんの村に着いた。
「………」
言葉が出せない。
目にしたのは、壊された家屋と、いたるところに飛び散った無数の血の跡。
そして、亡くなった沢山の村の人たち。
アリシア達なら救えると思った。救えるはずだった。
でも、間に合わなかった。
一夜という時の流れは、救助を要する時間として余りにも長過ぎたのだ。
目の前の凄惨な光景を見て、マリアちゃんは泣き崩れている。
その姿を見た私は、自然と拳を強く握りしめていた。
マリアちゃんの怪我を見た時と違って、体が怖さで震えることはなかった。
きっと、恐怖よりも野盗たちへの怒りが勝っているからだ。
「ガキがいないわね」
私の隣に立っているプレセアが言った。
プレセアの言う通り、確かに子供たちの姿が見当たらない。
亡くなっている沢山の村の人たちは全員が大人。子供は一人もいない。
村にいる子供がマリアちゃんだけなんて事は、まず考えられない。
私欲の為に連れ去ったんだ。
考えられる理由は——
仲間として育てる為。
奴隷のような労働力として扱う為。
そして、欲望を満たす為と、人身売買。
私の浅い知識から出した答えだけど、合ってる可能性は高いと思う。
幼い子供を物のように扱うなんて許せない。
「プレセア、マリアちゃんをお願い。行くわよ、クラウド」
私はマリアちゃんをプレセアに任せて踵を返した。
「お姉様、待って」
「止めないで。あなの言いたいことはわかってる。だけど、今子供たちを助けられるのは私たちだけなの」
心配して止めようとしてくれるのは嬉しい。
でも、この感情と握った拳をそのままには出来ない。
私の怒りは収まらない。
「行き先、わかってるの?」
…………。
「ごめん、わからないわ」
お母さんなのは、プレセアの方かもしれない。