1/20
1.プロローグ
暑い夏の放課後、鐘の音を鳴らすチャイムが部活動の終わりを告げると、
「唯先輩、お先に失礼します」
「唯部長、さようなら~」
「うん、さようなら。また明日ね」
私は二人の後輩を見送り、一人、文芸部の部室に残った。
広い空間に、たった一人の静かな時間。
物語を執筆するために使っているノートパソコンを閉じ、座っていた椅子から立ち上がる。
それから窓の前に立ち、なんとなく外を眺める。
これが、日課となっているいつもの流れ。
特にやり残した事があるわけじゃない。
私はただ、想い出に浸りたかった。
内気で自分に自信を持てなかった私を変えてくれたあの出来事。
あの世界で出会った、みんなとの想い出に——