アイ
「愛って、あるもんなのか?」
いつもの如く、あいつに電話をしていた俺。いつも通りだったのに、決まり文句の代わりにこんな言葉が出てくるなんてな。
『……長話はしたくない』
「ああ、切るぜ」
側にいたチビが首を傾げた。
「ん?なんでもねーよ」
俺がチビに向けているこの感情も、本当は……
いや、やめとくか。
愛……ねぇ……。
俺は別に、首斬り姫みたいに愛に狂った訳では無いし……。
「……」
これ以上考えるのはやめておこう。また心臓が痛くなって来た。
丁度その時だった。レイレイが来たのは。
「レイレイじゃねーか?大丈夫なのか?」
「あんな切られ方してほっといたら、お前絶対怒るだろ。お前に殺されるのはごめんだからな」
「俺がそんな短気なやつに見えるか?」
「見える」
「おい」
チビはレイレイを見ると慌ててコーヒーの準備をし始めた。
「結局、ずっとここに置いてるんだな」
レイレイはチビの動きを見つめる。
「まぁな。今は俺より家事してる」
「子供に労働ばっかさせるな」
「語弊のある言い方すんなよ」
俺たちはソファに並んで座る。
「レイレイは最近どうなんだ?」
「どうもこうも無い。だが、お前があんなこと言うなんて意外だな。チビの前で」
「あー?逆に知らねー奴とあの二人に聞かせると思うか?」
「まぁそうだが……チビには愛がある。でも哀はない」
俺は頭を掻く。そんな難しいこと言われても、俺にはさっぱりだ。
「なんだそれ」
レイレイはため息をつく。
「……相変わらずだな。だが、今のは知らなくて良い」
「分かんねー奴だな」
「分からないのはお前の方だ。急にどうした。子供は苦手なんじゃなかったのか?」
「フツーの子供はかしましいから嫌なだけだ。チビは静かだからな」
「……」
レイレイが半目でこちらを見る。
「何だよ。なんかおかしかったか?」
「……なんでもない。気は済んだだろ。俺は帰る」
「へーへー、帰れば良いさ、帰れば」
「やかましい」
レイレイは帰って行った。
多分レイレイは気付いていた。
俺が、こんな生活を続けているうちに、徐々に自分の内面に気づき始めている事に。
俺は愛を知らない。厳密には、受け取った事が無い。もしかしたら、あの日両親を喰ったのは、妹への愛故だったのかもしれない。
でも、今はもう、そんなことを知ることはできない。
俺はあくまで食人鬼。人の心なんて、持っていてもややこしくなるだけだ。
そう、これは「いらないもの」の話だ。
本当に?
ほんとうに?
ホントウニ?
………………




