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07.自分は食材と一緒


 ギッギッと揺れる馬車は他人から見たらどう映るのか、ちょっと心配になるけど、そんな心配事を余所に、ファリス様は僕の腕を舐めながら胸元の釦を外した。

 

「う、腕だけじゃないの……?」

「腕だけじゃ足りない」


 にこっと微笑んだ彼は、胸元へ顔を埋めた。

 本当なら抵抗するべきなのに、そんな気がまったく起きないのはどうしてだろう? これに関しては出会った時からそうだったけど、求められること嬉しくてたまらなかった。

 ファリス様の熱い息が、胸元で蠢いて呼吸が荒くなる。不意にその熱が剥がれ、「ああ、そう言えば」と何かを思い出したように言葉を零すと、彼は顔をあげた。


「今月中に父上が君に会いに来る」

「え……、どうして?」

「養子縁組の話だ」


 その話なら、とうの昔に『君を養子としては引き取ることは出来ない』と言われているのに、今更どうしてだろう? と思っているとファリス様が、「私が条件を出したんだ」と言う。


「王族の遠縁にあたる伯爵家の娘と結婚するなら、君を養子として迎えると言ってくれた」

「……どういうこと?」


 一瞬で目の前が真っ暗になった。

 ファリス様と一緒にいる時の鼓動の早さとは違う、頭がガンガン鳴るような激しい心臓の動きに視界がぐらりと揺れる。

 貴族の結婚なんて普通のことだ。

 と言うよりも当たり前のことなのに、祝福の気持ちなんて一欠けらも起きなかった。


「ファリス様、結婚……するの……?」

「まあ、何れはしなくてはいけないことだ。私は爵位を継ぐ義務があるからね」

「そ、そう……だよね」

「それに、ジェフリーと一緒にいるための結婚だ。相手には興味はまったくないし、形だけの夫婦になるだけだ」


 優艶な笑みを向けるファリス様に、自分も取って付けたような笑みを浮かべて見たけど、ちゃんと笑顔に見えているかは疑問だった。

 そんなことより、今まで考えたことも無かった。

 公爵家の嫡子なのだから、結婚しなくてはいけないことくらい分かる。頭ではちゃんと分かっているのに、心が受け付けなかった。

 ファリス様が今後の話をつらつらと進めるのを聞きながら、僕は乱れた衣類を整えた。


「……ジェフリー?」

「うん」

「どうした? ああ、もしかして父上のことを気にしてるのか? それなら大丈夫だ。もう孤児ではないし、それにジェフリーが作った彫り物はとても評判が良いと聞いてる。父上だって、ちゃんと君のことを認めている」


 そんな説明をされても、何一つ嬉しいと思えないなんて、僕は捻くれ者だと自分でも思う。ファリス様の結婚に関して、どうしてこんなに胸が苦しくて、ざわつくのか分からなかった。

 養子縁組の話に関しても、今さらデュボア伯爵家の養子になったところで、公爵家にも、僕にも、何の得もないのに……、唯一あるとすれば、ファリス様が好きな時に僕を味わうことが出来るということだけだ。

 

 ――あ……元々、そうだった……。


 馬鹿みたいだと思った。

 最初からファリス様が僕を求めているのは、味覚があるからだ。

 そう、自分は食材と一緒だ。

 きゅっと唇を噛みしめて、「ファリス様、そろそろ時間だよ」と無表情に言えば、眉をしかめた彼は大きな溜息を吐いた。


「もうそんな時間か、ジェフリー、私は早く屋敷で一緒に暮らしたいと思っている」

「うん……」

「……嬉しいのは私だけなのかな……?」


 しゅんと眉を下げて落ち込んだファリス様を見て、――ああ、またいつものだ……、と彼の仕草を見て思う。

 僕が彼の言葉に同意出来ないと思っていることが表情から伝わるのか、それを察して、捨てられた子犬のような態度になる。


「僕も嬉しいけど、この土地の生活も好きだし、このままでいいかなって……」


 それは本心だった。王都のように殺伐とした感じがしないこの土地は、いつでも、穏やかな雰囲気が漂っていて生活し易かったし、僕の性格に合っていた。


「変だな、こんな何も無い土地を好き? もしかして、ジェフリー……、好きな人でも出来たのか?」

「好きな人……?」

「……まさか、一緒に生活しているフランクという男か?」


 急に目を吊り上げるファリス様を見て、慌てて頭を横へ振った。


「違うよ、僕は好きな人なんて……」


 好きな人なんていない、だいたい、好きという感情が分からないのだから。

 ファリス様に、その説明をしようとした瞬間、酷い執着の態度に変貌し、脅しの様なことを言う。


「いつも、私がどれだけ我慢しているかジェフリーは全然分かってない……、今すぐにでも、全身をこの口に入れてしまおうか?」


 ふるっと震える瞳を見て、それが彼の本心ではないことぐらい分かっていた。

 いつだって、ファリス様はそうだった。

 酷いことを言ったりしても、直ぐに後悔しているような表情に変わり、寂しそうにする。


「僕はいつ食べられてもいいよ……」

 

 彼にそう伝えると、ころんと僕の膝の上に頭を乗せた彼は、子供のように僕の腰に腕を絡ませて目を閉じた。


「さっきのは嘘だ……、私が悪かった」

「うん……」


 ファリス様からぎゅっと抱きしめられ、しばらく二人で無言の時間を過ごした――――。


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