03.あの子はどうなったの?
ぐわんぐわんと頭が揺れて、気持ち悪るさで目が覚めた。
「気が付いたか?」
「あ、あれ、フランク」
「良かった……、って言うか馬鹿! あれほど、あの家には近付くなって言っただろう!」
目が覚めて急に怒られたので、何のことか分からなかったが、徐々に思い出して、「あ、黄金」と咄嗟にその言葉が出た。
「もう、本当に呆れる、何が黄金だよ」
「違う、僕と一緒に居た子どうなったの?」
どうやら、僕が一緒にいた子はデュボア公爵家の令息だと言う話だった。
近くの教会に礼拝に来ていたが、少し目を離した隙に、誘拐されたらしいとフランクが教えてくれた。
僕と公爵の令息が居た家は、公爵家から捜索に来た部隊が一斉に踏み込んだせいで、崩れてしまったようで、瞬間的に自分達は生き埋めになったようだった。
「すげー、おっかない顔した男が、お前にお礼が言いたいって言ってたけど、全然目を覚まさないから、日を改めるって帰っていった」
「そうなんだ……、男の子は無事だった?」
「ああ、お前が庇ったおかげで、かすり傷ひとつなかったぞ」
それを聞いて、良かったと思った。
「痛っ……」
ほっとした途端、後頭部がズキっとして、頭を手で抑えると、ぽっこり膨らんでいた。
「痛むのか? 見せて見ろ」
フランクに頭を撫でられて、ツキンとした痛みが走り、条件反射で身体が揺れた。
かなり大きく腫れているようで、「これは酷いな」と渋い顔を見せた彼は、井戸水を汲んできて頭を冷やしてくれた。
「今日は、もう動くなよ」
「うん……」
ふと、黄金の髪の彼が言っていたことを思い出した。
――『甘くて、美味しい……』
僕のことを、美味しいと言っていたことを思い出し、フランクに聞いた。
「ねえ、僕って美味しそうなの?」
「へ?」
「甘くて、美味しい……って言われたんだ」
「な、何を言ってるんだか、お前が美味しいわけないだろ、こんなにガリガリに痩せて……」
フランクは人指し指を僕の頬に刺して、美味しいわけがないと言う。
そう言われると、確かに、何処にも美味しいと思える部分は無いし、じゃあ、どうして彼は、『甘くて美味しい』と言ったのか疑問だった。
「ん……、でも、そういえば……」
何かを思い出したフランクは、以前、路上でウワサ話をする大人達から不思議な話を聞いたと言う。
何処かの小さな国が数年前に没落したらしく、その国はフォークと言う捕食者によって、全員が食べられてしまったらしい、と言いながら話を続けた。
「フォークと言う人種には、ケーキという人種が美味いんだってさ」
「そんな人種がいるんだ? っていうか人を食べちゃうの?」
こくりと頷いたフランクは、カリっと眉尻を掻いたあと口を開くと……、
「俺もうわさ話を耳にしただけで本当かは分からないけど、どうやら、その小さな国は〝ケーキ人〟と呼ばれる人種の集まりだったらしい、本来〝フォーク人〟は、その国の国境を越えられないのに、超えたせいで全員食われて国が滅んだってさ……」
その話に、ぞっと背筋に寒気が走った。
「まあ、人種と分類するなら、俺達だって孤児という人種だ」
フランクは笑いながら、お道化た様に言うと、井戸へと水を替えに行った。
それを見届けながら、ふと、公爵家の令息とのやり取りを思い出した。
大きな金色の瞳や髪がきらきらして、肌だってつるつるだったし、すごく綺麗な男の子だった。
『美味しい』と言って僕の首に纏わりつく彼の吐息が熱くて、何だか変な気分になった……、と彼のことを思い出して、急に頬が熱くなった。
美味しいと言われて嬉しいなんて、僕はおかしくなってしまったのかも知れない。けど、もう一度、彼に会って見たいと思った――――。