戦闘開始
いつの間にか闘技訓練場は噂を聞きつけた野次馬で満員寸前の様相を呈していた。
皆、この一戦にかなり注目している。
それもそうだろう。新入生の中でも屈指の武術を操る四神姉妹に鬼の風紀委員長アサギと最下位でダメトップの転校生のバトルロワイヤルだ。
ダメトップのナクスはともかく。他の三人は学園でかなりの有名人。自然とその注目度は高くなる。
ナクスも別の意味で注目を集めていると言えば集めているのではあるが。
いわく、裏口入学で財力にものを言わせて生徒会入りまで果たそうとしているとか。
ソフィアの計画はもう実を結び始めているようだ。
観客席から敵意やら嫉妬やら嘲りやらの視線が自分に集中しているのを感じる。
ナクスはそれらを完璧に意識の外に遮断し、目の前の敵に集中した。
まずは、アサギ。イーグリアス人。メインウェポンは両手に持っている二丁の拳銃。
さっき、紅陽と蒼双の試合をとめるために使ったロケランのこともある。
ジョブはガンナーの上位職であるハウンドドッグ辺りが妥当だろう。
次に、紅陽。レイハード人。メインウェポンは一対の短剣。
レイハードのジョブはほとんどが近接戦闘用であるため特定が難しい。
たぶん剣舞士の上位職のブレーダーか戦乙女といったところだろう。
最後に、蒼双。姉と同じくレイハード人。メインウェポンは薙刀。
薙刀を取り扱うジョブはレイハードでもそんなに多くはない。
こっちは戦乙女の可能性が大だ。
一通りの分析が済んだのとちょうどソフィアがカウントを始めるのが同時だっ
カウントが終わったの同時に弾丸のように距離を詰めてくる三人。
一般的な実力の持ち主では一見して、それはただの黒い点に見えるだろ。
それほどの速さ。敏捷ステータスも並外れている。
この分だとスキルの熟練度も相当なものだろう。
一番弱そうなのから排除するという点で彼らの意思は一致したようだ。
黒衣の懐から素早く本を取り出す。
メインウェポンにマジックブックをセット。サブウェポンに短剣をセット。
動作は一瞬。
だが、その一瞬で三人は眼前にまで迫っていた。
三者三様の悪魔の笑みが広がる。声に出さなくてもわかる。心の中ではこう叫んでいることだろう。
「死ね!!!!!!」
一応事前に説明されたルールで相手に致死量のダメージを与えるのは禁止されている。
戦争では攻撃停止プログラムが発動するが、闘技訓練場では攻撃停止プログラムが発動されることはない。
なぜ、戦争で攻撃停止プログラムが発動して闘技訓練場では発動しないのかについては、様々な憶測が飛び交っているが未だにその謎が究明されたという発表はない。
ナクスは眼前まで迫った三人を見据え、短く詠唱。
「FREEZE」
効果は一瞬。だが、効果はてきめんだった。
紅陽は腹が煮え繰りかえそうだった。
なにせ、あのナクスに。あの実技最下位のナクスに。なにをやってもダメダメなナクスに。
馬鹿にされたのだ。
「なぁ~にが雑魚が束になっても俺様みたいな完璧でパーフェクトな神にお前らのような醜く汚いゴミ虫どもが触れることすらできんだろうですって!!」
もちろん、誰もそこまで言ってないのだが。
堪忍袋の緒が目に見えないほどの太さしかない四神紅陽にとってそんな些細な事は全く考慮するに値しないことなのだ。
駄目ナクスが自分を侮辱したという事実だけあればそれで十分。
もちろん、ナクスは紅陽を侮辱などしていないのだが。生徒会長がああ言った時点で紅陽の中でそれは事実として受け止められたのだった。
生徒会長>>>>>>>>>>>>>>>超えられない壁>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>ナクスである。
それからトントン拍子に事が進んで私と蒼双とアサギ先輩はナクスを交えたバトルロワイヤルを展開することとなった。
紅陽としてはもちろんナクスをふるぼっこするのが第一目標であるが、オールトール学園風紀委員長であるアサギの実力を試してみたいという気持ちもあった。
風紀委員長としての立場上、避けては通れないのが生徒間で発生するいざこざの鎮圧である。
つまり、一般生徒よりは遥かに高い実力の持ち主であることが予想された。
レイハード人の血が流れている紅陽。しかも、飛びぬけて武術に優れた四神の血が流れている紅陽には自分より強いかもしれない相手というのはとっても興味をそそられるのだ。
戦いたい。そして、倒したい。そして、もっともっと強くなりたい。
「そう、強さだけが自分を自分として証明する唯一の手段。そして、存在意義。」
それが四神紅陽。それが私の在り方。そして、この世界の全て。
しかし、それが揺るがされそうだった。
カウントが終わった時、私とアサギ先輩と蒼双はほぼ同時にナクスに向かって飛び出した。
当のナクスはというと、黒衣から素早く本を取り出し、メインウェポンに換えているようだった。
戦闘が始まってからメインウェポンを交換するなんて自殺行為すぎる。
それを見て私が感じたのはやっぱりという安堵の気持ちと失望の気持ち。
ナクスを始めて見た時、私は何かびびっと電撃が走りぬけたように感じた。
私が長年追い求めていたもの。私が恋焦がれている何か。それが目の前の男には在る。
そう感じたのだ。しかし、そんな予感も一瞬で霧散してしまった。
その後、もう一度ナクスを見ても何も感じとることはできなかった。
それから紅陽は何度かナクスにちょっかい、もとい攻撃を仕掛けたのだがいつものらりくらりとかわされてしまった。
成績は最下位。
実技も最下位。
やる気なし。
気力なし。
いいとこなし。
やっぱり、あの時の予感は自分の思い違いだったのかと諦めたところにこのバトルロワイヤルだ。
もう期待はしていなかったが、最終確認にはちょうどいいと思った。
なのに・・・・・・。
「FREEZE」
短く、しかし鋭く紡がれたその詠唱に・・・・・・全てが止まった。
そして、次の瞬間には私を含めた三人はもの凄い勢いで吹き飛ばされコロッセオの壁に叩きつけられていた。
何が起こった