第1章
初めての投稿で読みづらかったり面白みがないと思いますが温かく見守っていただけると幸いです。また、アドバイス等もいただきたいです。
よろしくお願いします。
僕は山本優希29歳会社員。
付き合って5年、同棲3年、結婚を考えていた彼女の佐藤真綺まきについ昨日振られた。倦怠期ってやつなのか男女のすれ違いなのか、僕には分からない。いつも通りの金曜日の夜。毎週恒例の晩餐を始めようとしたところ彼女から
「別れましょう。」
僕は状況が理解できなかった。彼女は嘘・が嫌いだ。彼女は本気で別れたいと思っている。僕は理由を何度も聞いたが別れましょうの一点張り。考え直して欲しい。嫌なところがあったなら直すしなんでもすると泣きながら必死に伝えたがその想いは届かなかったようだ。
そして現在の土曜日の朝に至る。彼女がいて当たり前だった部屋には彼女の物は沢山あるのに本人がいない、とても虚しい空間だ。悲しさを紛らわす為にゲームでもしようと思い、パソコンを開くと履歴には2ヶ月後の付き合った記念日にプロポーズをする予定だったレストランが出てきた。そして指輪のブランドも沢山表示された。どこを見ても彼女の面影があり部屋にいるのが嫌になった僕は外に出かけることにした。
家の近くのパン屋に寄った。僕はフレンチトーストとカレーパン、サンドウィッチを買った。僕の気持ちとは裏腹にとても清々しい天気だったので公園で食べることにした。
「あ。」
この真っ先にトレーに乗せたフレンチトーストは彼女がいつも決まって選ぶ物だった。公園には家族連れやカップルが多い。(幸せそうだなぁ〜)また涙が出てきた。こんな休日の公園でいい歳したおじさんが泣いていたら変な目で見られると思いパンを袋に戻し家に帰った。
さて、どうしたものか。5年も一緒にいるとこの辺りは彼女との思い出でいっぱいだ。とりあえず逃げ出したかった僕は婚約指輪の為に貯めていたお金を使って彼女と行ったことのない場所へ旅行に行くことにした。彼女の面影が残る部屋にいるのも辛かったので最低限の荷物を詰めて家を出て駅に向かう。
さてと、どこに行こうか。旅行の行き先はいつも彼女が行きたい所に行っていた、無理に合わせていたわけではない。特に行きたい場所が思いつかなかったのだ。彼女といればどこでも楽しかったから。ああ、また思い出してしまった。
とりあえず1人で涙を流しても変な目で見られない場所で彼女といったことの無い場所へ。そうだ、温泉にいこう。彼女は旅行に来たのに離れている時間が長くなるからと温泉旅行には行きたがらなかったし、泣いていてもバレなさそうだ。
僕は当日券を購入して新幹線に乗り込んだ。旅行シーズンでも無い為比較的空いていた。公園で食べ損ねたパンを食べて目的地へと向かった。
彼女は名前の通り真っ直ぐで綺麗な心を持っていた。出会いは会社の新卒の研修会だった。
「隣まだ空いてますか?友達と約束してたんだけど遅刻しちゃって。」
可愛らしい顔とは裏腹に少しハスキーな声で聞いても無いことまで話してきた。
「はい。大丈夫です。」
僕はあまり人付き合いが上手くない。自分のことを話すのが苦手だからだろうか。社会人になったから直していこうと思っていたがそっけなく返事をしてしまった。
研修会では社会人のマナーや会社の基本方針などについて説明されたり途中でグループワークがあった。自己紹介を軽く済ませて電話対応などのよくあるやつを彼女とペアになってやった。少し時間が余ると彼女がよく話してくれたので僕はそれに相槌をしたり質問に答えたりした。
帰り際に彼女が
「もし嫌じゃなければ隣の席になったのも何かの縁だし連絡先交換しませんか?」
「あ、じゃあ...。」
とまたそっけなく返してしまったが内心嬉しかった。
帰る途中彼女から連絡が来た。
「今日はありがとう。色々話しちゃってごめんね!今度は山本君の話も聞かせてね。」
僕は
「こちらこそ。それでは機会があればまた。」
と返信した。すると可愛らしいスタンプが返ってきて会話が終わってしまった。少し残念だったが何を話していいか分からないし研修でたまたま隣の席になっただけの関係だし特に気には止めなかった。
4月1日になりいよいよ配属先での仕事が始まった。僕の教育係の上司を紹介されデスクに案内された。研修での反省を活かして休憩時間にプライベートな事を聞いたりしてみたら割と会話が弾み嬉しかった。人間関係は上手くやっていけそうだなと少し安心した。しかし、仕事の内容は初めてのことだらけで頭がパンクしそうだ。一区切りついた所でお昼休みになった。会社の中に食堂があるとのことで行ってみることにした。意外とメニューが豊富で食堂の前で悩んでいると
「山本君!」
聞き覚えのあるハスキーな声で呼ばれた。振り返ると佐藤真綺がいた。心臓が跳ね上がった(…?)平然を装い
「佐藤さん。研修以来ですね。ここの支店に配属になったんですか?」
と聞いた。すると彼女は笑顔で
「そうだよ!山本君もお昼?一緒に食べようよ!」
と誘ってくれた。断る理由もないので彼女と食べることにした。ここでも彼女は自分自身の最近あった事を話してくれるがある程度の距離は保ってくれるので嫌な感じはない。とても心地が良かったし、それを聞くのが楽しかった。午後の勤務時間が近づいてきたのを確認すると彼女は
「ごめんね、また私ばっかり話しちゃった。そうだ!今日の夜開いてる?飲みに行こうよ!ね?山本君の話聞かせてよ。」
彼女のペースに飲まれてしまい、居酒屋に行くことが決定した。
「じゃあまた。仕事が終わったら連絡するね!」
と彼女は小走りで自分の部署へ戻って行った。
出会った時のことを振り返っていると目的地に到着した。
なんだか初心に帰った感じと旅の始まりだからか少しそわそわした。荷物は少ないが今晩泊まる場所がないと困るので宿を探しも兼ねて駅前を散策した。
少し古びた旅館の―源泉掛け流し―と書いてあるのが目に入ったので部屋が空いているか聞いてみることにした。旅館に足を踏み入れるとどこか懐かしい香りがして安心感があった。
「ごめんください。」
奥から年配の女性が出てきたので今日空き部屋はあるか聞くとあるとの事だったので受付を済ませた。その際にアレルギーを聞かれたので答えると厨房にいる年配の男性に伝えていた。どうやら夫婦2人で営んでいるらしい。
部屋に案内され夕食の時間や温泉の時間など簡単な説明を一通り受けた。少し休んでから外の散策をしようと思い旅館内の温泉に行くことにした。
ふぅ〜。力が抜けていく。他の客は観光をしているのか温泉には僕1人しかいない。
今までの疲れなどすーっとは消えなかったが少し楽にはなった。風呂は1種類だけかと思っていたが色々あった。天気がよいので空を見れる寝湯に移動した。
「山本君!同期なんだしタメ語で話そうよ!」
「ああ。じゃあそうするよ。」
仕事が終わり彼女と待ち合わせて居酒屋へきていた。ここでも彼女は笑顔で色々話してくれる。家族のこと、社会人になって上京してきたこと、今日の仕事のこと、恋人はいるのか...。今回は僕のことも沢山聞かれた。表情もコロコロ変わりみていて楽しかった。あっという間に終電の時間になったので会計を済ませ駅へ向かう。電車は逆方向だったのでホームでお別れをした。
「それじゃあ、また来週会社でね。」
彼女の笑顔が少し寂しそうに見えたが来週も会えるのかと僕はなんだか嬉しい気分だった。
この日からタイミングが合えば仕事帰りにご飯に行ったり、連絡を取り合ったりしていたが特に進展することもなく、友達以上恋人未満とまるで中学生の恋愛のような関係が続いていた。僕は彼女に惹かれていたが告白する勇気がなかったからだ。
こうして社会人2年目となった。よし。今日は僕から彼女をご飯に誘おう。そしてまずはデートに誘おう。そう心に決めて
「今日の夜空いてますか?入社2年目になったからお祝いにご飯でも行かない?」
文章がおかしくないか何度も確認し送信した。彼女からの返事はOKだった。告白の事で頭がいっぱいで仕事どころではなかった。仕事が終わり初めて彼女と行った居酒屋へ向かった。お酒も進み今日も色んな話をしていると突然彼女が
「ねえ聞いて!私彼氏できたの!!」
と満遍の笑みで言った。僕はショックで言葉を失った。
(!?...僕の意気地なし。チャンスはいくらでもあったのに。)
僕が言葉に詰まっていると
「なーんてねっ。今日はエイプリルフールだからね!驚いたでしょ〜。どんな嘘にしようか考えてたんだ!」
彼女が無邪気に言う。
(よかったあ〜。)心からそう思った。それと同時に彼女を自分のものにしたいとも思った。咄嗟に
「今度の休み2人でどこかに出かけない?」
彼女は驚いた顔をして、
「え?山本君!なになに、デートに誘ってる?私が嘘言った後すぐに嘘つかないでよ笑」
「え...。あはは。そうだね、ごめんごめん。」
エイプリルフールの延長線だと思われたらしい。結構勇気出して言ったのになあ。嘘じゃないよって言えなかった。僕の意気地なし。
この話は流れてしまい解散の時間になってしまった。
ホームで別々の電車に乗り込むと彼女から連絡がきた。
「今日は誘ってくれてありがとう。また行こうね!」
僕はなんだかエイプリルフールに邪魔されたのが悔しくなってきた。直接言いたい気持ちもあったが今すぐに伝えないといけない気がして最寄り駅に着いて彼女に電話をした。
「あの。さっきの嘘じゃないよ。佐藤真綺さん、好きだよ。だからデートに誘ったんだ。」
電話越しに何も聞こえない。僕の鼓動の音がきこえる。
「ふふふ。まだエイプリルフール終わってないよ?」
またからかってきたので思わず大きな声で
「僕は本気だよ!君と付き合いたいと思ってる!」
と言った。すると
「本当に?嬉しい!後で嘘だったとかやめてね。私嘘は嫌いなの。」
あんな堂々と嘘をついたのにと思ったが彼女は付き合ってからエイプリルフールにしか嘘はつかなかった。
寝湯なのに目から汗がでてきた。涙ではない。汗だ。
温泉のあとは散策に行こうと思ってたがどうもそう言う気分にもなれず部屋に戻りのんびりすることにした。
夕食の時間になり食堂へ向かう。僕が1番最初についたみたいだ。次々と料理が運ばれてきてどれも絶品だった。
すると厨房から年配の男性が出てきて
「どうだ。美味いだろう。」
急に話しかけられて驚いたが、僕は頷いた。
「兄ちゃん。なんか悩み事か?顔にそう書いてあるよ。俺は人生経験豊富だからな〜。なんでも聞いてやるぞ、仕事の合間なら話聞けるから厨房に来いよな!はっはっは〜。」
僕の返事を待たずに厨房に戻って行った。豪快な人だ。
「ごめんなさいねぇ。受付に来た時に落ち込んでるようにみえたから声をかけたんだと思うの。気を悪くしないでね。」
と受付をしてくれた女性に言われた。
彼女を忘れる為の旅行に来てるのに考えるのは彼女の事ばかり。こういうのは見ず知らずの人に話すと意外とスッキリするかもしれない。(よし。仕事の合間に聞いてもらおう。)
他の宿泊者達が続々と食堂に集まってきたので散策に行って時間を潰すことにした。