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シャーリー 2

シャーリーは王宮の離宮で行われたパーティー会場を出て、王子に捕まらないように超高速で立ち去りました。


 ――今年の王立学園の卒業パーティーは、何故か参加者がみな早く帰ってしまった為に異例の早さでお開きとなった。



 関わり合いになるまいと次々に帰って行くパーティーの参加者達に、さすがにやっとマーカス王太子が気付いた。


「ん? 何やら人が少ないのではないか……?」


「やだぁ! 私達の愛に当てられて、出て行ったのかしらぁ? うふっ!」


「ん? ああ、そういうことか。ははは……。愛し合う私達の愛の深さにやられてしまったという訳か!」


 そう言って笑い合うマーカス王太子とマリンは、なんとも幸せな思考の持ち主でお似合いの2人であった。




 ◇ ◇ ◇




「はぁ〜! 良かった……! 『物語』通りに婚約破棄からの断罪の流れになるかとヒヤヒヤしちゃったわ……。本当にあのお方には感謝しかないわ……」


 シャーリー ハミルトン公爵令嬢は馬車が王宮の敷地から出たことを確認してやっと一息ついた。……ここまで来れば、もう断罪は回避したと考えていいだろう。

 ……やっと、ここまでやり遂げた。シャーリーはホッとすると同時にじわじわと達成感に包まれていた。


 断罪を回避出来たなら、シャーリーの出番はとりあえずは終わりだ。……あとのことは父である公爵達に託すしかない。

 万一に殿下達に追われる可能性も想定して、馬車はハミルトン公爵邸へと急いだ。



 ハミルトン公爵邸は王都でも指折りの名門貴族の屋敷が立ち並ぶ地区にある。その中でも一二を争う一際大きく立派な屋敷。

 高級でありながら品のある屋敷の中の、公爵家自慢の庭園がよく見える位置にあるハミルトン公爵の執務室。

 シャーリーは屋敷に到着してすぐに父の元へ行った。そこではすでに父と兄が待っており、2人に今回のパーティーでの件を報告した。



「まさかとは思っていたが……本当に起こってしまったのか。とにかくシャーリー、君が無事で本当に良かった。

ここからは私の出番だな。手はず通りに動こう」


 父は娘を労わりつつ言った。……実は今日のパーティーには不測の事態に備えてハミルトン公爵家からもたくさんの人員が配置されていた。もしもシャーリーが断罪されそうになった時には誰かが別の騒ぎを起こし、その隙にシャーリーを連れ戻す作戦も立てられていたのだ。


 そうしてこれからの王家への対策の為、ハミルトン公爵はシャーリーの兄や側近たちと最終確認の話し合いを始めた。

 暫くは父達の話を聞いていたシャーリーだったが、ある人物の訪れを侍女から告げられる。シャーリーは少し顔を赤く染め慌てて立ち上がった。そんな娘の様子に父はふと表情を和らげ、すぐに行きなさいと声をかけた。


 シャーリーははにかみながら父の執務室を退出し、そんな彼女を父と兄は優しく微笑みながら見送った。

 客の待つ応接間へと急いだシャーリーは、部屋の前でいったん立ち止まり一つ深呼吸をした。そして少し緊張しつつ扉を開けると……。


 そこには藍色の髪を一つに纏めた青年が立っていた。そしてシャーリーの姿を認めると、こちらに足早に近寄り彼女を抱き留めた。


「シャーリー……! あぁ、良かった……。やっと、やっとだ。これからはこうして君と会えるようになる……!」


「メイナード様……! 今日は本当に、ありがとうございました……! これで貴方と一緒にいられるのですね……」


 シャーリーがそう言って涙を流すと、ブライトン公爵家のメイナードは愛しげに彼女を見つめ手袋を外し指でそっと涙を拭った。



 本来ならば。メイナード様と私シャーリーは絶対に相容れない仲。


 シャーリーの婚約者であったマーカス王太子の第一の側近であるメイナード ブライトン。そして彼のブライトン公爵家とハミルトン公爵家は昔から対立する犬猿の仲だった。

 そんな私達は何故か心惹かれ合い、王太子とヒロインの愛の物語であるはずのこの世界の『運命』を覆すこととなった。


 ――私は……私達はやっとあの日本での『物語』の呪縛から、逃れる事が出来たのだわ……。



 見つめ合う2人に、後ろでは侍女も目を潤ませた。


 メイナードの優しい笑顔を見ながら、シャーリーは今までのことを思い出していた。




 ◇ ◇ ◇



 ――シャーリー ハミルトン公爵令嬢が前世を思い出したのはもう10年も前。


 王宮の庭園で行われたマーカス王子との婚約の為の顔合わせの場。

 婚約を嫌がり横柄な態度をとり、王妃にも注意され暴れて癇癪かんしゃくを起こす当時8歳のマーカス王子。


『うわー、いくら王子で美少年でもこりゃないなー。8歳っていったら2年生よね? まだ小さいから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど……。でもこれは明らかに周りが甘やかしたからよねぇ』


 と考えている自分に、アレ? と思ったのだ。

 私は王子と同い年のハズなのに、どうしてこんな風に思ったのかしら? というか、2年生……。小学2年生……?


 ッ!!


 日本での前世の記憶がブワッと頭に浮かんだ私は、慌てて周りを見回した。


 私の周りにいるのは、中世ヨーロッパ風な煌びやかな人たち。隣にいる自分の母であるはずの女性でさえ、目鼻立ちくっきりプラチナブロンドで青い瞳の美人。え。私の母親は一重まぶたに黒髪の純日本人でしたけど!? 


 そして自分の手を見ると……。あら、可愛い8歳児の手。だけど、細くて長い指で爪の形もキレイ。そして今朝鏡で見た自分の姿を思い出す。ああ、隣にいる母に似た美少女だったなー。


 コレは……! 過去に転生なんてするはずないから、異世界に転生!? だって中世ヨーロッパと今の自分のいるこの世界もどこか違うもの!


 ワオ! 異世界の貴族の超絶美少女に転生して更に王子様の婚約者かぁ……! やったね、超勝ち組人生じゃないの! 前世で良い『徳』をいっぱい積んでたのかしらね、私!



 私が内心小躍りして喜んでいると、ガシャンッ! とカップの割れる音がした。ハッとして前を見る。


「僕はイヤだ! 僕は王子なんだぞ! 結婚相手は僕が決める!」


 暴れるマーカス王子8歳を見て、私は現実にかえる。

 


 あー…。婚約者の王子がこれじゃあ、私の人生詰んだかな……。どこに行った、前世での私の『徳』! 

 私は密かに頭を抱えた。





お読みいただき、ありがとうございます!


今日中にもう一話投稿予定です!

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