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魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
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震撼する大地

いつもありがとうございます。

最新話更新です。


 その日、大陸が揺れた。そう、言葉通りの解釈でも間違いではない。確かにその日、大陸は揺れた(・・・・・・)


 分かりやすく言うなら最大である震度7。いや、大陸全土が揺れたのだ。震度で測れるレベルではない。


 震源地は言わずと知れた大国、ウィアヘルム。獣人族国家群の宗主国だ。


 だが、震源地と言っても実際に地震が発生した訳では無い。ただズシン、と腹の底に響く様な音が大陸中を襲い、ほんの一瞬だけ縦方向に揺れた。この揺れで人的、物的被害は各国に起こる事はなく、ただ、状況の異常さだけが後に残った。


 しかし、その各国という括りにウィアヘルムは含まれてはいない。


 何故ならば、その日ウィアヘルムという国家は文字通り消滅したのだから。


 滅亡では無い。消滅(・・)したのだ。


 その日より遡って数日前、第二次獣人の乱と呼ばれる大戦(おおいくさ)にて覇王グラムハルトが討ち取られ、獣人族各国が新興国アウベルス人魔共同体に臣従したという一報が各国にもたらされたその後だった。


 アウベルスの国主は伝説の存在たる宵闇の魔女、エルだという。


 それまで人々は半信半疑であった。何せある日突然興ったばかりの国だ。幾らファルウルスのスオウ・ハーネストを討ち取り翼人族を臣従させたとはいえ、国主が宵闇の魔女の名を騙ったているだけなのだろう、というのが大方の見方だ。誰も信じてなどいなかった。


 確かに宵闇の魔女伝説は凄まじい。しかし、それは凄まじ過ぎて却って現実性を感じない、御伽噺のような伝説だ。だからこそ、である。


 だが、それが一変した。一国を丸ごと一夜の内にたったの一瞬で消滅させたのだ。そんな事を出来る人物などどう考えても一人しか思い当たらない。


 だから、大陸が揺れた。伝説の復活に。伝説の真実性に。


 特に大陸の北半分。ベシマール帝国周辺各国は揺れに揺れた。


 ベシマール帝国は天下の統一政権。しかし覇権を巡る長きに渡る政争で既に国家としては形骸化していた。


 だがそれでも腐っても鯛は鯛。帝国の周辺各国は皇帝を補佐する立場を得んが為、争う王子達の味方にそれぞれついていた。


 要はただの大義名分。天下を操る為のただの手段だ。


 そこに現れた宵闇の魔女率いるアウベルス。


 もし仮に、ベジマール帝国とアウベルス人魔共同体が敵対した場合。


 そうなればそれ即ち滅亡への出港だ。帝国程度では宵闇の魔女に勝てる筈もない。いや、勝てる相手の想像がつかない。


 そうなる前に、だ。早い段階で宵闇の魔女に謁見し、敵意が無い事を証明しなければ、と周辺各国の王達は考える。


 そう。帝国の権威など最早どうでも良いのだ。権威に拘って、敵となるなど愚の骨頂。勿論各国の王達に天下への未練がない訳では無い。だが上手く取り入る事さえ出来ればアウベルス内でのそれなりの立場を確保出来る筈。あわよくば、上を目指す道も開ける筈だ。傀儡の天下よりも旨味が大きい。


 実に、自分勝手な考えだ。だがこれが乱れに乱れた戦国乱世の考え方の一つである。如何にして乱世を生き延び国を富ますか。根本はそこにあるのだが。


 そして帝国もまた揺れていた。


 帝国には三人の王子がいる。第一王子クシャグナス、第二王子ゼインベイト、第三王子ロウゼンハイム。


 当然の事でありながら、継承権はクシャグナスにある。だが帝国内で最も力を持つのは第二王子たるゼインベルトであった。その理由は単純明快。単にゼインベルトの方が兄より明らかに能力が上であったからである。故に周辺各国のその多くがゼインベルトに肩入れし、多くの者が次の皇位を継ぐのはゼインベルトと見ていた。


 それでもクシャグナスが即排斥とはならなかった。それは何故か。それはベシマール帝国に古くから仕える二人の竜族の存在があったからだ。


 二人はその昔、ベシマール帝国が天下を制した時代からの重臣だ。


 二人が望むのは帝国の存続、そして伝統の継承だ。脈々と続く帝国の歴史のその中で、彼らはそれをただ実直に守り続けた。


 竜族とは魔族の中でも圧倒的な力を持つ希少な種族。高い魔力と知性、長い寿命とそしてその本来の姿。


 一度暴れ出したその暁には、小国程度ならば瞬く間に焦土と化すだろう。


 そう。二人は帝国内部の戦の抑止力であった。だからこそ二人の王子が真っ向から対立する事、謀殺に走る事が起こる事無く、ただ権力の駆け引きに終始する状況が延々と続いている原因であった。


 そして一人蚊帳の外に放り出されたような状況の第三王子、ロウゼンハイム。


 彼は皇帝の数いる妾の子。何処の国でも当然、国を存続させる為には世継ぎが必要。万が一のその為に彼は生まれた。


 当然、万が一が起こらぬ限り、彼に力が与えられる事は無い。それは帝国の存続を脅かすからに他ならないからだ。


 そうした状況を甘んじて受け入れる者もいる。何せ王族だ。貴族よりも遥かに良い暮らしだけ(・・)は出来るのだから。野心に任せてそれを手放し堕ちてしまう事など、どう考えても勿体ない話だ。ある意味、賢い生き方である。


 しかし、ロウゼンハイムは違った。彼は野心の塊であった。


 皇帝や兄達や重臣、果てには国民の前では大人しく、気の弱い人物を演じ続けた。野心の欠片も持っていないと誰もが信じ込む程に。


 完璧であった。帝国を守護する二人の竜族ですら彼は(たばか)った。


 そして裏で彼は暗躍した。大陸南半分のその東、翼人族地方領主達を操り一つに纏めて影から大国ファルウルスを作り上げた。


 西側ではウィアヘルムに肩入れし、戦乱を治めさせ統一政権として超大国に仕立て上げた。


 これから最後の仕上げであった。出来上がった二つの力をぶつけて更に一つに纏め上げる。


 大きさだけ見ればウィアヘルムに軍配が上がる。しかし翼人族は魔術も操る空の武士(もののふ)


 ぶつかった時どうなるかは未知数であった。


 だがロウゼンハイムにとって何方が勝者になっても同じ事。


 勝者となった国は必ず天下に名乗り上げる。形ばかりの帝国を排除しようとする。必ず戦になる。


 二人の竜族は帝国を護る為、その力を解き放つだろう。


 二人の王子はその本性を表すだろう。権力争いしか出来ないのだ。有事の際の軍の統率など出来はしない。


 その時こそが好機。少数の軍勢で抗う最も力なき王子。


 帝国の英雄の生誕だ。二人の竜族は味方に着く事だろう。


 そうして再び大陸を一つにして、天下を治める。新たなる英雄の皇帝として。


 これが全ての筋書きだ。あと数年でそれは成し遂げられるはずであった。


 はずであった。


 しかし、これでは計略が狂う。


 宵闇の魔女がどう出るか分からない。


 仮に敵対したとて少数の軍勢では抗おうにも抗えない。


 二人の竜族ですら宵闇の魔女の前では無力であろう。


 計略を練り直す必要性がある。


 そう。更なる慎重性を。


 天下は必ず掻っ攫う。


 ロウゼンハイムは一縷の雫を頬に伝わせながらも、唇の端を薄く持ち上げるのであった。

 


 


 


 



 

 始まりはあの時だ。


 あの日、我らが主は全てを破壊した。


 それは大いなる力の化身。


 それは負の色の化身。


 それは誰にも抗えない悪意の化身。


 主もまた、そんな化身の一柱。


 主を含めた四柱は、その存在こそが天然自然の災禍そのもの。


 しかし、主だけはその力を心の向くままに振るう事を良しとしなかった。


 矛先は、他の三柱。


 破壊したのは、悪意と乱れた時代。


 そうしてここに国を一つ設けて去った。


 破壊された時代に、この力は必要ないと。


 だから我らは護った。護り通した。


 主の作った世を。主の作ったこの国を。


 いつまでも穏やかな地平を保てるように。


 だがどうだ。


 世は再び乱れた。


 国は力を失った。


 有象無象の者共に食い物にされ、それでも尚権力ばかりに固執する。


 一体、我らは何を護って来たのか。


 そんな折。


 遠くに感じる懐かしき気配。


 時と共にその気配は存在感を増す。


 大きくより強大に。


 そして此度の大地の震撼。


 疑いの余地は無し。


 伝説の復活。


 主の帰還。


 なればこそ。もうここにいる必要は無くなった。


 もう、護らなくて良いのだ。


 我らが護るのはただ一人。


 我らが仕えるのは昔も今もただ一人。


「ゆくぞ、フェイ」


「あぁ、ロンレイ」


 見た目はうら若き乙女のそれだが、纏う魔力と迫力が物語る。


 彼女達こそ帝国を守護し気高き竜族。


 そして歴史の目撃者。


 しかしそれ以前に。


「「これより参ります」」



 宵闇の魔女、エルの下僕(しもべ)



 





 


ようやく帝国が出てくる所まで書く事が出来ました。

どうしよう、登場人物がどんどん増えていく(笑)

次回もどうぞ宜しくお願い致します。

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