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魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
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笑顔の草原と、兵どもが夢の跡


「此度の大戦(おおいくさ)、我らが姫の名の元、諸君等の活躍によって勝利に終わった!!これでアウベルス人魔共同体は大陸の半分を領有する超大国として君臨する事となる!!…では姫。(みな)に挨拶を」


 もぅ!!そんな渡し方したら緊張するじゃない!!絶対分かっててやったでしょ。ちくしょう、トキワくんのやろう。


 あれから私たちはアウベルス本国に戻り、取り敢えずは数日間ゆっくり過ごした。


 けどやる事なんて山積みで、それに国を暫く空けていたから何やかんやで私は忙しなく動いていた。


 あ、そうそう。お城がやっと完成したんだ。イメージは琵琶湖の(ほと)りの彦根城と小田原城。


 縄張りはファルウルス方面の農地とアウベルスとの丁度間で、湖畔に面する様に石垣を築き、リューワット湖の水を引いて以前作ったお掘りと繋げてアウベルスをぐるっと囲った。


 織田信長は天守閣に住んでたって言うけど、流石にそんな高い場所昇り降りするのだけで大変だから寝泊まりは別でお城のすぐ近くに家を建てた。他の皆もそれぞれに家を用意して、そこからお城に通う形にしたんだ。イメージは…そう、会社かな?社長や幹部だって会社には住まないし。


 皆って言ってもトキワくんの家は翼人族の屋敷、て感じだからウルミちゃんとツルバミくんは敷地内に住んでるし、シュエンくんがこっちに来た時に滞在する所もある。


 獣人族に関しては、ゼラハムさんとソフィアさんがアウベルス常駐になった。今までずっと離れ離れだったんだもん。二人には一緒に暮らして欲しかったし、ゼラハムさんはアウベルスの軍師だから獣人族の屋敷に二人で住んでもらう事にした。


 それから新たに本国での役職も決めた。内容はざっとこんな感じ。


 国家元首…私ことエル


 軍師兼獣人族総括…ゼラハム


 軍総司令兼翼人族総括…トキワ・ハーネスト


 空軍大将兼ファルウルス県知事…シュエン


 陸軍大将兼コルフォーナ県知事名代…ベイヤード


 陸軍中将兼グロスレイ県知事…バルドス


 陸軍中将兼サナト県知事…レイヴン


 陸軍中将兼ケヒウス県知事…グエン


 陸軍少将…ロイ、ディア、アルフレド、ベイス、ホルテンス(グロスレイの爺やさん)


 本国警邏隊総隊長…ツルバミ


 警邏隊御庭番隊長…ラティス


 重要防衛拠点部門長官兼魔獣総括…トゥランヌス


 本国防衛結界部門長官…ドリ、リュア


 立法担当長官…ソフィア


 行政担当長官…バース


 司法担当長官…ゲイン


 外交官兼稟議取り纏め役…レイチェル


 農地及び物資担当長官…ウルミ



 他の少将やその下の役職に関して割愛。そういう軍の細かい部分はトキワくんに任せてるから組織図には一応目を通しておいた。だってここまで巨大な組織になっちゃったから会っていない人も勿論いる。流石にそこまで私一人で把握なんて難しいもん。…丸投げじゃないからね!!


 後、戦後処理もある程度は完了した。


 アウベルス傘下となったコルフォーナ・サナト・グロスレイ・ケヒウスの四国の国内での位置付けは各領地を治める県とした。自治権は勿論認めるし、自由にやってもらう。ただアウベルス本国の要請には応えて貰うし、ある程度は税も納めて貰う。要は押さえつけはしないけどこっちの言う事もちゃんと聞いてね、て事。


 各県の領地はウィアヘルムによる統一前の本領の状態に戻した。これでクシナ金山はサナトに戻る事になった。更に言うと各県に隣接するウィアヘルムの領地をそれぞれに分割割譲とし、ウィアヘルムの主な収入源だった港は本国の天領としてその管理をグロスレイとケヒウスに任せる事にした。利益分配も決めたけどちょっとややこしいから簡単に言うとこれを利用して各県の格を決めた。一番はアウベルス、二番はファルウルスとコルフォーナ、後は同列、て感じ。


 ウィアヘルムはこれによって国の規模は大幅に縮小。今では首都のクロインベルト城周辺の領土のみを残した小国レベルとなっている。


 国民に関してはウィアヘルムに留まるもよし、各県に移住するもよし、という方針。一定以下の兵士は軍籍を剥奪して家族の元に強制的に戻した。勿論家族のいない兵もいたけど例外は一切認めていない。冷たい話だけど兵役だけが仕事じゃないからね。


 当然と言えば当然だけどウィアヘルム国民の大多数が各県の元ウィアヘルム領の村や街に移住した。扱いは各県の民衆とほぼ同じ。違う所は軍役と国政に一切関わる事を禁止した、て事かな。今まで見下されてきたからこそ差別や迫害が起きかねないけど、細かな扱いは各県に任せてある。各県共通で元ウィアヘルム領に民衆が集まったからかえって監視自体はやりやすい形になった。


 で、後はウィアヘルムの一定以上の兵役に就いている者、文官、貴族、王族、グラムハルトの側近と小姓の扱い。もろにウィアヘルムの国政に携わってきた部分だ。 


 今の所は城にて蟄居。(いくさ)で大多数の兵士が居なくなり、残った兵の大部分も軍籍を剥奪したから現状、何も出来ない状態。収入源すら失った事になるから現状は国庫を切り崩して生活している状態。言ってしまえば平和の中で籠城戦をしているような感じ。今まで散々稼いで来たから暫く蟄居ぐらいは出来るんじゃないかって思ってる。


 概ねこんな感じだ。まだウィアヘルムの扱いを決めかねてるけど、取り敢えず今日は皆で飲むんだ。戦が終われば楽しい宴会だ、てなんかあの漫画みたいだけど。


 けど皆、本当に嬉しそうな顔してる。虐げられ、押さえつけられ、支配されてきたんだ。うん、嬉しいに決まってるよね。


 やっぱりこれが私の目指す国の在り方。皆が笑って、楽しく過ごす。それが一番だ。


「えーと…、皆本当にお疲れ様でした。今迄本当に大変だったって思うんだ。でもね、今回私を…ううん、アウベルスを頼ってくれて、皆がこうやって一つに纏まることが出来て本当に良かったって思ってる。やらなきゃいけない事はまだまだいっぱいあるけど、とりあえず、今日は皆でいっぱい楽しもう!!…じゃあいくよ!!…乾杯!!」




「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」




「ちょ、ちょっと皆、そこは『乾杯!!』だよ!!んもぅ!!」


 私は乾杯の音頭のつもりだったのに、皆が一斉に右の拳を胸に当てたポーズで敬礼をしてしまった。因みにこの敬礼ポーズは昔の私の家臣達がしていたものと一緒。皆に伝えた犯人は…トゥラちゃんだな。絶対そうだ。


「宜しいではありませんか、魔女陛下。この場にいる者皆、今日という日を待ち望んでいたのです」


「あ、ソフィアさん」


 ぷりぷりする私に声がかかった。ソフィアさん。すっごく綺麗な人。きっと若かった頃は可愛い女の子だったんだろうな。それにゼラハムさんの伴侶だからって、同じ景色を見るために努力をし続けた凄い人だ。


「ソフィアで宜しいですわ。私共は魔女陛下の臣下なのですから」


「皆そう言うんですけどね。でもやっぱり上に立ったって言ってもそこは変えられないかな?私、転生してこことは別の世界で鎌柄愛流として生きてきて、そこでの考え方がやっぱり強いから。うん。これが私のやり方だよ」


 偶に喋り方とか転生前に戻っちゃうですけどね、と付け加えておく。


 グラムハルトが呼んだ悪魔を目にした時、私の中の魔女の力が沸騰した。あの時出た言葉は、紛れもなく宵闇の魔女としての私の本質。


 でも、だからって今の私は昔の私じゃない。ドジなOLだった鎌柄愛流でもないかもしれないけど。


 それでも、鎌柄愛流として生きてきた、日本のあの町で生まれて、都会に出て、OLとして香織と過ごしたこれまでの私の人生は大事にしたいんだ。


「やはり魔女陛下は夫やラティスから聞いた通りのお方ですわ。…とても暖かい。この国はこれからも民の笑顔が絶えぬでしょう」


「うん。私もそうあって欲しい、て思っています」


 周りを見てみる。やっぱり皆、笑顔だ。それを見てこんな宴会の始まり方もいいのかな、て思っちゃう。


「姫〜この度はぁ大陸のぉ〜みにゃみはんりゅんのぉへ〜て〜おめれとぉこじゃいましゅ〜…ひっく」


「姫〜助けて下さい〜」


「姫」


「レイチェル様が」


『大変な事になってますぅ』


 げ。レイちゃんもう出来上がってる。レイちゃんを支えるウルミちゃんとドリちゃん、リュアちゃんが泣きそうな顔で私に助けを求めてきた。


「今日は無礼講だ。問題なかろう」


「っトキワ様!?いけません!!乙女が衆人の前でこんなはしたない姿、ダメでございます!!」


「む、そうか?飲みの場などこのようなものであろう?その証拠に」


 トキワくんの指差す先にいたのは少将の面々とツルバミくん、バースさん、そして困り果てているシュエンくんとオロオロしているラティスちゃん。


 おぉぅ、皆ヤバいくらい飲んでる。ううん、飲んでるというより昔TVで見た野球の優勝後のビールがけのほぼそれだよね、あれ。


「乙女をあれと一緒にしてはいけません!!」


「トキワ様」


「乙女心」


『分かってないですぅ!!』


 三人がトキワくんに抗議してる。うん。珍しい光景だ。対するトキワくん、すっごい困った顔してる。普段私の事おちょくるからだよ〜。ざまぁみろぉ。


「本当に良き宴ですわね、魔女陛下。この幸福を護る為、我らは魔女陛下に永遠の忠誠を」


「もぅ、硬いですよ?トキワくんの言う通り今日は無礼講なんですから」


「ええ、そうですわね。私も少し見習おうかしら」


「あのお酒がけは勘弁して下さい…」


「冗談ですわ」


 お姫様がビールがけをする姿を想像してしまった私と、それを見て悪戯っぽく微笑むソフィアさん。うん。きっとこんな所にゼラハムさんは惹かれたんだろうな。


「魔女陛下、宜しいですかな?」


 ゴブレットを片手にゼラハムさんがやって来た。今回の戦の本当の立役者。そしてこの人はいつでも先を見ている。…きっとあの事だろう。


「あら、あなた。王達との歓談はもう宜しくて?」


「うむ。かような場では少々気が進まぬが、軍師たる者、日々の全てが職務だからな。魔女陛下、場所を替えても?」


「…うん。ソフィアさんも、来る?」


「ご遠慮しておきますわ。主君と軍師の二人のお話の間に、配下は不要ですわ。それに私もその世界を見ております」




 ソフィアさんが微笑んだ。






 








(くだん)の事案、お考えになりましたかな?」


 宴会場の外、お城の一室に備え付けられたテーブルに向かい合い、ゼラハムさんが切り出した。


 件の事案。そう。蟄居を命じたウィアヘルムの今後の扱いだ。


 私個人としては十分な罰は与えたと思っている。グラムハルト亡き今、もうあの国に他国に牙を剥く力はない。徹底的に力を削いだって思ってる。


 けど、国と人は未だ健在。人は時間をかければ力を取り戻す。そう。力を削がれて飼い殺された獣人の四国(よんごく)のように。


 そして何時までも蟄居をさせておく訳にはいかない。私は皆の、アウベルスの国家元首。決断をしなければいけない。いけないんだ。


「…魔女陛下はお優しい。もう充分過ぎる施しを魔女陛下はお与えになった。しかしながら温情は時として残酷。そして後の世の災禍の火種」


「うん。分かってる。これ以上はグラムハルトと同じになっちゃう」


「…ウィアヘルムへの私怨から来る提案と捉えられるかもしれませぬ。確かに獣人一同その気持ちが無いといえば嘘になりまする。しかしながらこのゼラハム、魔女陛下の臣下として…いや、アウベルスの軍師として此度の提案申し上げる」


 その表情は表現するのに難しい表情。ゼラハムさんだって一人の獣人。策の前に、計略の前に、まず気持ちがある。


 だから、これは私の仕事。


 獣人の上に立つ、決断。


 私は少し笑顔を作った。分かっているよ、と。


 全部分かっているから。だから。


「…トゥランヌス」


「…は」


 私の呼び声で銀の巨馬が窓の外に姿を現す。


 ゆっくりとした足取りで私は窓辺に向かう。


 ここは城の中でも高い位置。冷たい月が、笑う。


 何も言わずトゥランヌスは私を乗せた。


 向かう先は、ウィアヘルム―――クロインベルト城。


 私の強化魔術の力で巨馬は一気に天を駆ける。


 数週間かかるその位置に、私はほんの数分後には辿り着いた。


 夜空の中で城を見下ろす。


 蒼白い月光が私の背後を静かに照らした。


 それはとても冷たくて。


 それ以上に、()の心もまた氷のようで。


「剣の刃が映すのは、風(すさ)び、輝き揺れる純白と耳を劈く静寂。闇とは廻廊、螺旋の理。痛みは口付け、生命は粉雪。眼に写せ、焼き付けよ。白の世界の惨劇に、狂気の言の葉詩人が紡ぐ。雪原に舞し白雪の文字。凍てつく想い夢幻に帰さん。少女の破瓜、叫び、嘆き。少女は冷たく微笑み大地に白と蒼の抱擁を。白き指先、眠りに誘う。瞳は凍え、喉は裂け、赤き奔流は熱を失う。我は望まん、悠久の快楽を。我は与えん、永久の眠りを。氷の棺を開くは獣、蒼天の空にその音色と咆哮を捧げん。凍てつけ、凍てつけ、結晶と化せ」


 完全詠唱が、終わった。


 既にここは純白の大地。


 生命の温もりは、もうここには無い。


「フローズンメイデン・アブソリュート・ゼロ」


 背後に現れる氷の少女。


 ただ瞳を閉じて、そこに佇む。


 乙女を散らした冷たい微笑。


 前方に掲げた右の掌をゆっくりと降ろした。


 少女が眼を開く。


 幾千幾万の氷の刃が愚者の夢の跡を貫き続ける。


 絶叫なんて既に無い。


 全ては少女の抱擁で凍てついた。


 そして。


「…砕けよ」


 言葉と共にそれは霧散した。


 最初から最後まで静寂のその内で。


 魔女の前に一人の人間。


 それは自身の吟侍。


 失いたくないもの。


 だけど私は沢山のものを得た。


 それもまた、失いたくはない。


 失ったものはもう手に出来ない。


 それが真実で、誰もが知っている世界の理。


 思い起こす、笑顔の草原。


 見渡す限りの笑顔と幸福の笑い声。


 それは私が手にした何より大切なもの。


 だから、これはこの国に与える人としての最後の慈悲。


 そして、魔女として与える(いくさ)の精算。


 冷気の奔流が消え失せた。


 見下ろすそこに城は無い。


 大地を抉った巨大な大穴。


 細雪だけが、名残のようにゆっくりと舞い落ちる。


 だけど、瞳から流れる一縷の雫までは冷気は連れていってはくれなかった。







 

 私は、宵闇の魔女なのだ。

 





 

いつもありがとうございます。最新話、ようやく形になりました。


楽しい宴の最中に、エルさんは辛かった事でしょう。


次回もどうぞ宜しくお願い致します

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