愚者
覇道。それを意識したのは遥か前。物心ついたその時だ。
彼は国王の第二夫人の子として三番目に生を受けた。
つまりは王位継承権から最も遠く、上の兄達は揃って優秀で、長男を次男が支える、そんな関係性が幼少の頃に既に成立していた。
後継者問題などどう間違っても起こりはしない。
誰もがそう、思っていた。後からそう聞いた。
だが、彼の目にはウィアヘルムが軟弱に映った。
力を持ちながら、他を蹂躙しない。
力を持ちながら、天下を目指さない。
力を持ちながら、覇道を歩まない。
力を持ちながら、だ。
彼は我慢ならなかった。生まれた順番故に覇道を歩めない事に苛立ちを覚えた。
手駒を揃えた。
会話する中で、残忍性を垣間見た者、自らに従順になりそうな者、そう言った年の近い者を自らの郎党とした。特にボルダフとケスターは彼の理想に適合する人材だった。
そうやって数年を準備に当てた。
兄達は何も気付かない。そう、それは余りにも愚かで滑稽だ。
簡単だった。戦国乱世、下克上など世の常なのに簡単だった。そこにあれらの疑いなんて存在しなかった。
毒。そして追い込み。呆気なく王位継承権は手に入った。
その頃には国内の実権は既に握っていた。父王を幽閉し、王権を奪取し、闇の中で王を葬った。
覇道が始まった。
ウィアヘルムは強い。群雄割拠のこの獣人族の領域で一際目立つ程に。
だが他の国々もまた強い国だ。
精強なる軍勢、御剣を擁する大国ケヒウス。
金山を有し、潤沢な国力を誇るサナト王国。
難攻不落のレイデルク城を本拠とする古き国、グロスレイ。
そして、グロスレイと同盟を組む賢王と名高いゼラハムが治める国、コルフォーナ。
それを一つに纏めるのには、更に力が必要だった。
覇道を歩む者としては、遺憾極まりなかった。
だが、力を得るのが先決だ。
屈辱を飲み込み、彼は帝国の申し出を受け入れた。
魔術兵団。そしてあの力。
簡単だった。あの力を使う事無く魔術兵団のみで獣人の領域は彼の手に落ちた。
そして目指す。全てを一つに纏めたその後の大陸の平定。
だが、現れた。
それは現れた。
かつて夢見た存在。
覇道を極める目標。
超えるべき、存在。
子供の夢物語。
それが現れた。
だからこそ、だ。自らの覇道に水を差されても、自らの手で始末したかった。
だがどうだ。この有り様は。
コケにされ、無様な醜態を晒してしまったこの有様は!!
もう、許さない。
誰にも覇道は譲らない。
自らが歩んだ足跡こそが唯一の覇道。
「…儂こそが…覇道…。儂こそが覇王なり…!!」
金細工の施された華美な宝玉を懐から取り出し、そして掲げる。
赤黒いその石が一人でに宙に浮き、上空にて鎮座しそして、弾けた。
降り注ぐ、幾筋もの赤黒い閃光が大地を貫く。
轟音とともに閃光から現れるは。
悪魔の軍勢。
分かっていたよ。この時を待っていたんだ。
ゼラハムさんと話した時、思い当たった可能性。
ウィアヘルムが天下に乗り出したのはグラムハルトの治世から。
それまでウィアヘルムには魔術兵団なんてなかった。
どうやってそれを手にしたか。
背後の存在。それしか無い。
それは翼人族の領域でスオウを唆し、ファルウルスを一つに纏めさせた。
それは獣人族の領域でグラムハルトに接触し、ウィアヘルムに他国を支配させた。
なぜそんな必要があったのか。
答えは一つ。より強い配下を手にする為。
一つに纏まった二国をぶつけ、より強大な国を大陸の南半分に作り上げる為。
帝国だ。
帝国は政治が腐敗し国内は分裂、王子達がそれぞれ覇権を争っている。表立って戦は起きていないが、他を抑える為の力を一人の王子が欲した。それが真相。
そして、帝国の王子はスオウにあれを与えていた。
だったらグラムハルトにも与えている筈だ。
だけどグラムハルトはその力を使おうとはしないだろう。
だから、挑発した。
それはきっと危険な事。使わずにいてくれている所を始末する方がきっといい。
だけどあれは世界にあってはいけないもの。この後誰かに渡ったらきっと面倒になる。結局その場しのぎの後回しなんだ。
不敵に嗤うグラムハルトと悪魔の軍勢をスッと睨んで、私は微笑んだ。
冷たい微笑み。魔女の血が沸騰する。
トゥラちゃんが全てを察してトキワくんを乗せ、その場から離れた。
流石、我の配下。
「…ゆくぞ、下賎の者共よ。宵闇の魔女の力、存分に食すが良い」
握る風尽がドクン、と一つ脈動する。魔力の高まりに、風尽が覚醒する。
風尽の刃にそっと手を添わせ、刃先に向かってゆっくりと動かす。そこに現れたのは無数の魔方陣。
風尽覚醒第二段階。発動直前の魔術を複数その刃に纏わせる事が可能となる。
発動するのは、風尽が大気を殺した時。
刃を振るう度、悪魔を切り裂く度に魔術が暴れる。
それは最早虐殺だ。
あの時、私はこうして時代を殺した。
悪魔は、一匹も逃さない…!!
荒れ狂う風と化し、全てを屠る。
悪魔も、そして覇王を名乗る愚者の軍勢も。
風が止んだ時、それは死地。
立つのは私、そして愚者。
「今だよ!!皆!!」
私の声が戦場に響く。現れたのは三本の剣と一振りの宝剣。それが愚者を貫く。
「ぐほぉあぁ…!!」
それが最期の声。そして。
「「グラムハルト!!」」
戦姫の透き通る声と老獪な賢人の声が一つに合わさり、刃が交差する。
後に残るのは、血飛沫と、そして二つに分かれた愚者の亡骸。
戦が終わったんだ。
浅月です。最新話更新させて頂きました。
エルさん大暴れしました。補足は次話になるかと。
獣人編ようやく終わりそうです。難しい事この上ない(笑)
次回もどうぞ宜しくお願い致します。




