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魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
32/41

交わる爪


 ディア、ロイ、アルフレド三名率いるサナト王国家臣団。彼らの進軍は凄まじく、その勢いたるやまるで鬼神の如き。


 トスクロワ城を目指し撤退するケスター軍の勢いもまた、鬼気迫るものであった。


 サナト側は追いつく事に成功したもののそのまま背後よりの攻撃には出なかった。


 ケスター軍は周りが見えていなかった。背後に迫るディア達の追撃に気付かない程に。


 それ程までに彼らは焦っていた。焦り故に行軍は思う様に進まず、また軍の統率も取れてはいなかった。


 ディア達は追いつきそうな段階で進軍する敵方の左側に移動し、間隔を充分にとって暫し並走する形をとる。


 そしてそれでも此方に気付かない事が確認出来た時点で攻撃を開始した。


 結果は…ディア達の完全勝利である。早々に指揮官を失った敵方は混乱し、もはや軍と呼べる代物ではなくなった。逃げる者は捨て置き、向かって来るもの、はたまたどうしていいか分からず行動が遅れる者は容赦無く斬り伏せられ、ものの数十分で戦は終結した。

 


「片付いたか」


「ああ、アルフレド。取り逃がしは多数あるが、あの状況だ。直ぐにどうなるという訳ではあるまい」


 累々と横たわる屍を眺めていたロイにアルフレドが声をかけた。恐怖によって形作られた部隊のなんと脆い事か。実に呆気ないものだ。


「まあ我々の事もある。情報によればグロスレイに向かった部隊は今だ足止めを食らっていると聞く。それと合流されれば多少は厄介ではあるのだが」


「ディア」


 アルフレドが短く答えた。見れば彼の後ろには彼らの全軍が整列していた。目立った外傷は無し。本当に完全勝利だ。


「問題は無い…とは俺は言わん。だが恐れる事も無いだろう。手土産も手に入った」


 ディアのすぐ後ろに控える兵の手に敵将の首があった。近くにあった水場で清めたのだろう。土埃の汚れや飛び散った血の跡は見当たらず、簡易ではあるが死に化粧も施されていた。敵であっても将は将。兵たるもの、礼節は弁える。


「では向かうとするか」


「「ああ」」


 ロイの言葉に二人は頷く。敵が戻ろうと躍起になった、そして今正にかつての姿に戻ろうとする、少しばかり離れた場所のトスクロワ城を眺め見て。









 

 

 

「お初にお目にかかる。グロスレイが国主、バルドスに御座います」


「同じく、サナト王国国主、レイヴンと申します。此度の援軍、痛み入りまする。宵闇の魔女陛下」


 アウベルスを出て数日後、先遣隊の到着に続く形で私はガリウス城に入った。


 城に入って早々玉座の間に通された私はあれよあれよという間に普段ならゼラハムさんが座っている玉座に座らされ、そして今に至る。


 隣にはゼラハムさんとトキワくんが控えて、目の前には二人の跪く王様。困った事にこの状況、ちっとも慣れない。うぅ、やっぱりちょっと緊張する。


「兄上にレイヴン殿。儂の思惑を汲んでくれた事、感謝する」


「何を申すか。我らはそなたの掌で踊ったまでよ。なぁ、バルドス」


「うむ。我らとてあの覇王が気に食わぬのは同じ事よ。故に礼など必要ない。それに」


 バルドスさんが…うん。もう割り切っちゃおう。一国の王様にさん付けってどうだろうって思ってたけど、今立場は私の方が上。様付けするのも変だし、かと言って呼び捨てはやっぱり私の性に合わない。私だってアウベルスの代表だし、このままさん付けでいく事にしよう。


 話逸れたけど、跪いたままのバルドスさんが私に向かって深々と頭を下げた。獣人族の証である犬を思わせる耳が動きに合わせてペタンと畳まれた。ゼラハムさん曰くあれは獣人族が敬意を表す時の仕草だそうだ。


「魔女陛下の御助力を頂戴するとあらば礼を申さぬばならぬのは我らの方。改めまして、感謝仕りまする」


「ううん、感謝される事はまだしてないから、その言葉は今はまだ取っておいて欲しいかな。それよりも今の戦況を知っておきたいな」


「は。では申し上げます。率直に申し上げると如何せん戦況は芳しくは御座いませぬ。魔女陛下の戦力を除外して考えるならば我らが元々持参した軍備とゼラハムが蓄えた豊富な兵糧と軍備で籠城は成り立っておりますがそれもいつまで続くか。敵方もそろそろ虎の子の魔術兵団を投入する頃かと考え先手を取らんが為一度打って出ようかと思案していた次第に御座います」


 成る程。バルドスさんの説明を受けゼラハムさんの読みは当たっている事を認識する。魔術兵団が来る前に打って出て敵の戦力を消耗させるのは手だけどガリウス城側にも勿論損害が出る。魔術兵団の他にも主力は残っているんだ。悪戯に消耗するのは得策じゃない。だからこそのこのタイミングでの私達の出陣なんだ。


「我らは後方より秘密裏に城に入る事に成功した。アウベルスがこの戦に介入するのは折り込み済みであろうが今この段階で既に城に入っているとは考えていない可能性は高い。勿論可能性の話だが、このまま籠城を続け、敵を引き付けている方が得策だろう。そして魔術兵団が来たとき」


「うん。私が魔術兵団を無力化してあげる。そうしたら後は敵の主力、グラムハルト。ここからが本番だね」


 私はトキワくんの言葉を引き継いだ。以前スオウと戦った時に使った沈黙魔術サイレンス。この戦で一番重要なのは魔術兵団への対応。魔術兵団の存在がこの獣人族の領域をウィアヘルムが平定に導いた。

 

 だけど私に魔術は余程の事がない限り通用しない。だからこの戦、後はグラムハルトへの対応だけなんだ。


「それに加え、そろそろ役者も揃いましょう。彼女達がもうじき舞台へ上がる」


 ゼラハムさんの言葉に一瞬何の事かと言わんばかりの表情を浮かべた二人の王は一拍後あぁ、と合点がいった表情になった。


 私や元々のアウベルスの面々はまだ彼女を知らない。だけど、彼女はきっと強い。強い人だ。


「ラティス」


「は。これに出まして」


 ゼラハムさんが一言名前を呼ぶと、柱の影からスッと音も立てずラティスちゃんが現れた。


「北はそろそろだ。急ぎ城を出、儂の策を伝えよ。出来るか」


「無論に御座いまする。では」


 短いやり取りだった。ラティスちゃんが再び闇に消える。こう見るとやっぱりラティスちゃんは忍びなのだと再認識する。敵の軍勢が犇めく城外に出るのに彼女は『無論』で済ませた。速攻の雌豹の二つ名は伊達じゃないみたい。


「では魔女陛下。お下知を」


 ゼラハムさんが私に頭を下げる。


「うん。皆、よく聞いて。グロスレイ、サナト王国連合軍はこのまま戦況を維持。アウベルス軍は敵方に存在を悟られぬように待機しつつ後方支援を。戦の本番はもうすぐ」


 言葉を一度切って私は続ける。




 


「勝って皆で、美味しいお酒を飲みましょう!!」





「「「はっ!!」」」


 

 


 


 


 








「王よ…。グエンは只今帰って参りました」


 懐かしい玉座の間はあの頃のままの姿。白亜の壁も、見事な柱も、絵画のような輝く大きなステンドグラスも、全ては記憶の中の姿そのまま。一つ違いがあるとすればデラーズ公の姿がない事だ。


 ふと玉座にかける(デラーズ公)の姿を幻視した。

 


 “よくぞ戻った”

 


 屈強な壮年の顔を微かに緩ませそう告げる王の姿を刹那、確かにグエンはそこに見た。


 馬を飛ばして半日かからず、グエン率いる御剣達は労せず首都へと辿り着いた。そのまま雪崩れるようにトスクロワ城へと向かっていく道中、彼らの姿を見た民衆達はその誰もが涙を流した。


 ケヒウスにこの人ありと謳われたグエンと彼に続く御剣。


 王の信頼篤く、民衆に慕われたケヒウス最強戦力。そしてグエンの傍らには失われた筈の姫君、オルティスの姿。それが帰ってきたのだ。


 群衆は彼らに続いた。奪われた王の家から現れる僅かな兵ども。


 一瞬であった。群衆すらも従えた彼らは迎え来る者は切り捨て、文官達は捕らえ、瞬く間に城の奪還に成功した。


「グエン様」


 本来ならば玉座の側に立つ筈のオルティスがグエンの腕に寄りかかった。今はこの玉座の間には二人だけ。城を取り返したとはいえ未だ敵は健在。取り掛からねばならぬ事など山のようにあるのだが、ただ暫くはこの場所にこうして佇んでいたかった。それはオルティスとて同じであって、無理を言い人払いをしてまでここに二人して立っていたのであった。


 グエンは寄りかかるオルティスを引き寄せて、腕の中に収める。あ…と小さな声が漏れる。


「グエン様…。私は…嬉しゅう御座います…。再びこの場所に戻ってこられて…。再び貴方と共にいれる事を…」


 胸の中のオルティスが呟く。微かに声を震わせ、二人以外誰もいないこの空間でもなおグエン以外には聞こえないような小さな声で。


 彼女の体は小さくて、まるで繊細な硝子細工のよう。その体で今まで必死に今日という日を待ち望んだのだ。そんな彼女を待たせてしまった自分を恨めしく、しかし彼女を堪らなく愛おしく、グエンは感じた。


「俺もです…。オルティス様」


 それ以上の言葉は必要なかった。今はただ、一時とはいえこの時間を二人で噛み締めていたかった。


 暫しの静寂が流れた。が、唐突に緩やかな空間は動き出す。


「ご、ゴホンッ」


 わざとらしい咳払いが玉座の間に響いた。二人が振り向くとそこにはベイスが立っていた。


「し、失礼、兵士長殿、オルティス様!!申し訳御座いませんっ」


 ベイスの言葉に一瞬固まったオルティスは顔を赤くしあたふたとグエンの側を離れた。その仕草が可笑しくて、そして自身も毛恥ずかしさに襲われて、斜め上を眺めながら頭を掻いた。


「いや、いい。どうした、ベイス」


 少々歯切れ悪く、グエンは問うた。


「いえ、先程二件の来客がありましたのでご報告を。こちらにお通ししても宜しいでありますか?」


「来客?このような状況でか?」


 少しばかりグエンは訝しむ。城を奪還したその直後だ。かつての貴族や要職の者達が戻ってきた…という訳では無さそうだ。それならば二件どころの騒ぎではない。


 まさかウィアヘルム?…いや、それも無さそうだ。ウィアヘルムであれば使者など寄越さずそのまま攻めてくるだろう。どう考えても今の段階で来客があるとは思えなかった。


「グエン様、お会いになっては如何と」


「オルティス様」


「今貴方様はこの国を取り戻した救国の英雄。そしてその蒼珠紫陽花を持つことは貴方様は王の立場に選ばれた、という事なのです」


「俺が…王…?」


「は。誰も文句は言わないでしょうし、誰しもが認めるでしょう。いや、兵士長殿以外には考えられませぬ」


 ベイスが跪いた。


 王。それは民を統べるものであり、国家を預かる長。


 グエンに野心はない。ただあるのはこの生まれ育った国を、民を、そしてオルティスを守る気持ちだけ。それだけだった。


 それがグエンの兵士としての吟侍。あくまで一人の兵としてこの国を救う。それが全てだった。


「私も、グエン様以外考えられません。グエン様はこの国の宝、希望なのです」


 オルティスの口から再び聞くかつて王が言った言葉。


 

 


「どうか、御決断を」





 

 暫しの静寂。


 再び幻視する、王の姿。


 玉座の王はただ静かにそこにいて。


 厳しくも、だが穏やかな眼差しで。


 王は一つ頷いて。


 “ケヒウスを、頼むぞ”


 そう、聞こえた気がした。


 


 後は、グエンの心一つ。

 

 


 グエンは真っ直ぐに、玉座に向かった。


 グエンの後ろを静々とオルティスが続く。


 玉座に手をかけた。豪奢な飾りを廃された、質素な作り。だがそれはとても堅牢で、ケヒウスの玉座に相応しい一品。


 グエンは振り向く。そこに広がるのはかつて王が眺めた景色。


 ただ周囲より高い位置にあるだけなのに、世界が今迄と違うように感じる。


 すぅ、と一つグエンは肺に空気を満たす。


 肩に掌の温もりを感じた気がした。



 



 御意。






「ベイス。客人をお通し致せ」


「は!!」


 ベイスは見た。

 

 確かに姿は窶れている。兵士長として、御剣の長として名を馳せた当時には程遠い、弱った姿。


 一見、王と呼ぶには相応しくない男。


 だが彼の纏う覇気は紛れも無く王のそれだ。ここにケヒウスの新たな王が誕生したのだ。


 足早に扉の方へ向かうベイスを眺めつつ、グエンは傍らのオルティスの手を握った。


 オルティスは何も言わず彼の手を握り返す。


 大丈夫ですよ。私が傍におります。


 掌から伝わる彼女の言葉。自分自身が情けなくもありつつも、彼女の存在に心が満たされて。


 ああ、そうだな。そう思う。そう、思うのだ。


 ガチャリ、と音を立て玉座の間の観音開きの大扉がゆっくりと開く。


 入室してきたのは四人の獣人。甲冑姿だがそれもまた美しい美貌の麗人と、逞しくそして歴戦のつわものであろう三人の戦士。


「申し上げます。コルフォーナがゼラハム公の奥方であり、グロスレイ軍臨時司令、ソフィア様!!並びにサナト王国家臣団、ロイ殿、ディア殿、アルフレド殿にあらせられます!!」


 ベイスが手短に客人の紹介を行った。何と言う面々か。コルフォーナのソフィアと言えば、かの賢王ゼラハムにも引けを取らぬ…いや、賢王の伴侶に相応しいと称される女傑ではないか。それにサナトの三人の戦士。かつて大国サナト王国を支えた勇猛で名を馳せる、自身も何度か戦場いくさばで相見えた存在。


 それがこの場に一同に会した。これは一体どういう事か。玉座の間の空気が少しばかり張り詰める。


 四人はその場で膝をつき、頭を垂れる。そう、今この城の主はグエンなのだ。高貴な存在に跪かれて少々面食らいつつも、グエンは王としての言葉を紡ぐ。


「これはまた錚々たる顔ぶれだ…。よくぞ我がトスクロワ城へお越し頂いた。非常時故、大した歓待も出来ぬ事、どうかお許し頂きたい」


「いえ、お気になさらず。非常時なのは此方とて同じ事。先ずは新王着任、御目出度う御座いまする」


 ソフィアが代表して前に出、優雅な仕草でカーテシーを決めた。花が綻ぶような、見事な所作だ。


「その祝辞、有り難く頂戴致しますぞ。さて皆様、一体どういう御用向きでありますかな」


 努めて平静に、グエンは問う。


「非常時の挨拶は簡潔に…。我が夫の言葉であります。貴方様のご理解、嬉しく思いますわ。では申し上げます。今のこの獣人の領域の騒乱、王はどのようにお考えで?」


「うむ。先の騒乱の時代の再来…いや、それ以上の状況と見ておるのだが、幸いな事にその騒乱でこうして国を取り戻す事が出来た。しかし依然敵方は健在。後顧の憂いを断たんが為、如何致そうか思案しておった次第だ」


「そうですか。ならばやはりですね」


「やはり?」


「ええ。ご存知の通り今、コルフォーナはウィアヘルムに攻められています。我が夫は城を脱し、空の城をグロスレイ、サナトが守っている。恐らくゼラハムは宵闇の魔女の助力を得に城を出たのでしょう。そして今の状況を作り上げた」


 ソフィアは良く通る澄んだ声で答えた。


 勿論、ゼラハム公が宵闇の魔女に助力を求めたという部分は推測なのだろう。だが彼女の中でそれは確固たる確信を持っているようだ。


 よくよく考えてみると全く根拠のない話ではない。元々此度の騒乱はアウベルスに現れた宵闇の魔女がファルウルスのスオウ・ハーネストを討ち取った事に端を発する。


 獣人族の各国はウィアヘルムに対して良い感情は持ち合わせていない。現にウィアヘルムは宵闇の魔女の討伐に向けて動くふりをし、コルフォーナに対して攻撃を行った。


 グロスレイやサナトにしてもそうだ。コルフォーナ討伐に軍を派遣させ、手薄になった両国に対してこれ幸いにと討伐軍を派遣した。


 しかしどうだ。ゼラハム公がこれら全てをこうなる様にあえて仕向け、こうして我々がここに集結する事を目論んでいるとしたら。


 宵闇の魔女に助力を得るにしてもゼラハム公の事だ。如何様にも出来たはず。それをわざわざ城を手放しグロスレイとサナトに明け渡した。


 全てはその段階で彼の計略は開始されていたのだ。最初の一手を打った後、各陣営がどう動くか全て計算していたのだ。


 そう。全ては来たるウィアヘルムとの決戦の為。別動隊の軍を形成せんが為。


 あるいはグロスレイとサナトの王達はその目論見に気付いているのかもしれない。気付いた上でゼラハムの策に乗ったのかもしれない。いや、違う。気付くのも計略の中の事なのだ。


 何とも恐ろしい話だ。彼の計略の内には俺がケヒウスの王となる事も含まれているのだから。


「全く、ソフィア殿の夫は末恐ろしい限りでありますな」


「あら、そうでも御座いませんわよ。あの人は常に先を見ているだけなのですから」


「それを恐ろしいというのですよ、ソフィア様…おっと失敬。先程ご説明に預かった、元サナト王国第一兵団長、ディアであります。戦場では何度かお会い致しましたな、グエン陛下」


「ご謙遜召されるな、ディア殿。貴方がたは既にクシナ金山より脱し以前のようにサナト王国の一軍を率いておいでだ。元、ではないとは思うが?」


「ふふ、そうですな。では元というのは取り消しましょう。では改めて私が第一兵団長、ディア、並びにこちらの赤髪の男が第二兵団長、アルフレド、そしてこの金髪の男が遊撃兵団長、ロイ。我々はご承知の通りサナト王国の為、クシナ金山を脱した。あの時点でここケヒウスは敵方の重要拠点。奴らがここに籠るまでに押さえておきたかったが故敵方と城を奪い合う形となってしまった。どうかご容赦願いたい。その為に手土産も用意した。…ロイ」


「ああ。高貴な方々の目に入れるには少々血なまぐさいがどうか納めて頂きたい。王」


 そう言ってロイは傍らに置いていた荷の包を開き、現れた円筒状の入れ物を持って数歩前に出、グエンのいる玉座の壇上の前で止まった。


「此度の戦での戦果、敵将・ケスターの印に御座います。お開けして、宜しいか?」


 ロイは背後のソフィア、そしてグエンの隣のオルティスにそれぞれ目線にて了解を求めた。


「ええ。どうかお気になさらないで。戦場に出るとはこういう事なのですから。そうですわね、オルティス様」


「はい。私もこのトスクロワ城が敵の手に落ちたあの日に覚悟は出来ております」


「そう言う事だ。この場の者に覚悟が出来ていない者など居りはせぬ。ロイ殿、頼めるか?」


「愚問でしたな。では、いざ」


 白木の筒の上蓋がロイの手によって外される。現れるケスターの印。苦悶の色を浮かべる事もなく、静かに眠るような表情。ロイ達の手により丁重に扱われた事がよく分かる。


「…確かに。この俺も例によって幾度か戦場にて相まみえた事がある。間違いはない。御三方、此度の勝利、改めて御礼申し上げる」


「いえ、勿体なき御言葉…と言いたい所ではありまするが褒美として是非とも我々からご提案させて頂きたき儀がございます」


「ほう?アルフレド殿、それは一体?」


 聞かずとも、グエンにそれは分かっていた。否。この場にいる者は皆もう既に答えを出している。ただ、体裁が必要なだけなのだ。グロスレイ、サナトは王の為、国の為、はたまた夫の為という理由がある。しかしケヒウスにはそれはない。


 だがただ一つ。ウィアヘルムという敵の存在。理由とするには十分すぎる。我々には共通の目的があるのだ。


「ここに今三国による戦力が結集した…いや、こうなる様に我々は導かれた。目的は一つ。なれば我々でかの戦場、ガリウス城に向かいたい…そう考えているのであります」


「それについては私からも提案したい事。その為に私達はケヒウスを目指したのです」


 アルフレドの言葉をソフィアが継いだ。


「彼の国は強大。それでもこの三国の力を戦場は欲している。だからこそあの人はこれを作り上げた。今ここに私達で同盟を組みたい。グエン陛下、どうか御一考を」


 グエンはニヤリと笑う。それはソフィア、ロイ、ディア、アルフレドも皆同様だ。


 話は決まった。


「本来ならば話を一度受け取り家臣どもと評定せねばならんのだろうが、生憎今はこのような状況でな。であるからしてこのグエンの一存で決めさせて頂く。その提案、ケヒウス王として正式に受理させてもらおう」


 一拍おいてグエンは宣言した。

 


「同盟の成立だ」

 


 ここに獣人族の歴史に名を残す事になる三爪(さんそう)同盟が成立したのだった。


 

いつもの如く大変お待たせしました。最新話更新です。


やっと三国が一つに纏まりました。これを描きたかったのに中々彼らは纏まってくれない(笑)


さていよいよ獣人族編最終局面突入です。エル様、暴れる予定ですが彼らは自由気ままなのでどうなる事やら。お願い、言う事聞いて(笑)


これかも宜しくお願い致します。

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