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魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
26/41

来る者拒まず

 空は今日も快晴。湖畔から吹く風が丸太に腰掛ける私の頬を優しく撫でる。もうすぐ戦が始まるかもしれない、というのが嘘みたいな気持ちのいい天気。


 今は以前アウベルスの西側に作った堀の強化作業を行っている。私はその視察をしている最中。けしてサボっている訳では無い。…て、話がそれたけど、具体的な内容はリュウワット湖から水を引き、堀を水で満たす、という作業としては単純な物。だけど今のままでは浅すぎるから、堀の幅と深さを変更しているんだ。基本堀自体は私の魔術で掘っちゃったんだけど細々した部分はやっぱり人の手でやらなくちゃいけないからファルウルス市民にも来てもらい、ここ数日間皆で工事に取り組んで貰ってる。その甲斐あってもうすぐ堀は完成だ。

 

 それにしてもリュウワット湖は巨大な湖だ。対岸が見えない程。あっちの世界の琵琶湖を思い出す。そう言えば、一度旅行ついでに琵琶湖を一周した事あったっけ。湖岸の道を車で走るの気持ちよかったな。

 

 琵琶湖と言えば、とふと思う。確か今はちょっと離れてるけど織田信長の安土城って昔は琵琶湖の直ぐ側にあったんだっけ。あれは山を一つ丸ごと使ってたみたいだけど、どっちかというとアウベルスは平地。平地だからこそ出来る仕掛けを考えなきゃいけない。と、いってもどうしようかそれは今思案中。


 あ、そうそう。実は記念すべき最初の稟議提出がお城の築城案だったんだ。勿論今はあんまり時間がないからすぐにとはいかないけどあったほうが防衛的に良いと私も思ったから迷わずGOサインを出した。だからこその今回の堀の改造だったりする。



「姫」


「うひょえ!?…な、なんだツルバミくんか。吃驚したなぁ、もうっ!!」


 背後から突然声をかけられ変な声出ちゃった。もう、考え事してるの分かってて絶対ワザとだよね。その証拠にツルバミくんは何だか笑いを噛み殺してるような顔してるし。ちきしょう。


「すいません、何だかぼうっとしていらっしゃったので、つい」


「ふーんだ、どうせ私はいつもぼーとしてますぅ。それでどうしたの?ツルバミくん」


 少しだけむくれながらツルバミくんに要件を促した。


「ええ、先日送り込んだのコルフォーナへの密偵の報告の件でございます」


「あ、無事に帰ってきてくれた?」


「はい。流石はシュエン殿が育てた密偵です。かなり有益な情報を持って帰ってきました」


「そっか。じゃあ今ここで聞くよりも皆で共有したほうがいいよね。…そうだな、今日の夜軍議を開こっか。ちょうどシュエンくんもこっちに来てるし」


「御意に。食後軍議を開く旨、皆に伝えましょう」


「宜しくね。あ、そうだ。ツルバミくんちょうどよかった。聞きたいんだけどさ、ハーネストの里ってどんな所だった?」


 トキワくん達の故郷。もう燃えてしまって今は廃墟だけど、それでもそこは今でも彼らの故郷だ。機会と時間が出来たら一度は行ってみたいと思ってる。それにハーネストの里の話を聞いてみようと思ったのには理由がある。私、こっちに来て人が暮らす場所ってまだアウベルスしか見たことがない。ファルウルス市も落ち着いたら何れ見に行く予定だ。これから街やお城を作るんだから、他はどんな風になってるかやっぱり知っておかないとね。


「…そうですね。静かな里でした。田畑が広がって、山があって、小さな家々が連なって…身分の違いは確かにありましたが、それでも穏やかな、そんな場所でした」


 遠くを見るようにして、ツルバミくんは話してくれた。言葉としては短いが、それでも情景が想像できる。きっと、大河ドラマに出てくるような村の風景。決して裕福ではないけど温かで優しい、そんな村。


「そっか。ここもそんな穏やかな所に出来るかな?」


 湖から延びる工事中の堀を見ながら思った事を口にする。


「きっとなりますよ。姫はお優しいですから」


「もぅ、褒めても何も出ないよ〜?」

 

「それは残念です」


「あー、またそうやって私をイジるっ」


「はは、すいません。では俺はこれにて」


 軽く笑ってツルバミくんは空に上がり行ってしまった。イジられキャラがこっちでも定着するとは夢にも思わなかった。何でこうなったのか。全く解せない。


 でも、それはそれとして国家元首と国の人間の距離が近いのはいい事だと思う。ずっとそうやっていけたらいいな、そう思うんだ。


 私はよいしょ、と立ち上がりうーんと一つ伸びをした。まだまだ日暮れには程遠い、昼下がりの穏やかな時間。作業を続ける皆に片手を上げて挨拶し、次の仕事に向かう為、今や政庁と化したレイちゃんの家に向かった。







「っそれでは、皆さんお集まり頂けたようなので、軍議を始めたいと、思いますっ」


 少しだけ緊張した声色のレイちゃんの言葉で軍議が始まった。皆が一斉に私に向かって一礼をする。国が成立して何度か軍議をしたけど、これが一般的な形式みたい。だけどどうにも頭を下げられるのは馴れないなぁ。


「えっと、それじゃあ早速なんだけど、ツルバミくん、お願い出来るかな?」


「はい。では早速ですが。コルフォーナのガリウス城、落城です」



 え。




「え、えぇぇぇぇえ!?」




 


 有益どころか衝撃だった。コルフォーナって確か国の規模的にはファルウルスと同等って話だったし、それのお城が落城って…それなりの期間があったとはいえ余りにも事態が動くのが早すぎる。周りを見れば皆同じ様に吃驚した表情になっていた。トキワくんですら衝撃を隠せないでいる。


「コルフォーナのゼラハム王と言えばウィアヘルムの獣人族国家統一以前から賢王として名高き王。そう簡単に落ちるとは思えんが…」


 渋い顔のシュエンくんが独り言のように呟いた。長年コルフォーナと冷戦状態だったファルウルスの人間としても、その現実を受け入れられないのだろう。


「シュエンが言うようにあの国は知略を持って幾度も危機を乗り越えた国。それの城が落ちたとあらばそれは由々しき事態。何があったと言うのだ。ツルバミ」


 トキワくんに問われたツルバミくんは要点を簡潔に説明してくれた。


 曰く、先の戦の結果成立したアウベルス人魔共同体を意識したコルフォーナはウィアヘルムに救援を求めた。結果、ウィアヘルム王グラムハルトはアウベルス討伐を宣言。だが、グラムハルトはファルウルス討伐の未達成と会議の場での私見の発言を不忠の大義名分として他の二国、サナトとグロスレイにコルフォーナ討伐を指示し、コルフォーナは攻められる立場となってしまう。しかしそこは賢王たるゼラハム。二国からなる大軍が来る事を会議が終わった段階で予見し、ある策に打って出た。そう。あえてコルフォーナ落城の道を選んだのだ。


 まず、最初に行ったのは領民への避難命令。王城の門を開き民を受け入れ、籠城戦の構えを取った。次に集約させた民と主力兵団を秘密裏に建造していた王城の地下から伸びる脱出通路で国外へと逃がし、そしてガリウス城攻防戦を迎えるに至った。城に残ったのは僅かな兵とゼラハム王。普通に考えれば自害の道を選んでもおかしくはない状況。だが彼は籠城という状況を生かし、さも全ての兵力…いや、城内に引き入れた民をも戦力としているように徹底的に見せかけた。そうして引き寄せるだけ引き寄せ、頃合いを見計らい、王達も通路を使って城を脱出したのである。


「…成る程。勝てないと見越して国土自体を捨てたか。国とは民。国土が無くとも民がいるならばそれは滅亡ではない。しかし、よくこの状況下で撤退出来たものだ」


 トキワくんは感心している様だった。王にもきっとプライドだってある。それを押し殺しての判断なんだろう。戦略的撤退。正にその言葉通りの判断だ。


「ええ。どうやらゼラハム王はこうなる事があるかも知れないと何年も前…いえ、ウィアヘルムの統一直後から既に準備をしていたようです。大軍に見せかける仕掛けも、脱出通路も、非常時の民の行動も全て抜かり無く。何もかも鮮やかです」


「…上手く逃げおおせたには変わらんが、ゼラハム王は一体何を考えている?一国の民を引き連れての行動などたかが知れているぞ」


「私もそれが気になります。ツル、その後の動向についてはどうなの?」


 シュエンくん、ウルミちゃんの疑問は最もだった。そうだよね、結局追撃されたら同じ事だし。


「それについては俺の口から説明するよりも適任な者を呼んでおります。…あぁ。連れてきてくれ」


 ツルバミくんが徐ろに通信魔術(コネクト・シグナル)で部屋の外の部下に連絡をとり、直後、扉が開き、一人の女の子が入ってきた。ううん、正確には連行されてきたと言ったほうがいいのかも知れないか。左右を兵士に固められた女の子の腕は後ろ手に回され、ここからでは見えないけど、どうやら錠をかけられている感じだった。


「あ、この子って確か」


「ええ。先の戦の折、姫が捕らえよと命じられたコルフォーナの密偵で御座います。密偵が帰国の折、コルフォーナの民達より先行して此方に向かっているのを発見したので連行したとの事。便宜上、拘束はさせて頂いております」


「突然の訪問、御免なれ。我はコルフォーナが国主、ゼラハム直下の忍、ラティスと申す。今、我らは貴方達に敵意を持っていない。どうか話を聞いて頂けないだろうか」


 見た目の割に大人びた口調のラティスと名乗った少女は、拘束されたままその場で片膝をつき頭を下げた。


「姫、取り敢えずは信用して良いだろう。ここはあの者にとって以前の敵地。その場で跪くというのは命を差し出す行為だ。何より忍が自らの名を明かした。隠密がその職務故、名を知られるのは忍にとって最大限に禁忌する事だからな」


 成る程ね。確かにそうか。あれって首を差し出してるポーズだもんね。それに敵に名前を知られるって危険な事なんだろう。そういえばあの時この子猫耳も尻尾も見えちゃってたけどあれは天井から落ちた時に覆面とかが取れちゃってただけで本来ならちゃんとそれも隠してるはず。現にラティスの首元には覆面が下がっている。完全に正体を明かして敵意がない事を証明してるんだ。


「分かった。ツルバミくん、拘束解いてあげて」


「は、姫」


 ツルバミくんが兵士に合図を送り、ラティスの拘束がするすると解かれてゆく。その一挙一動をトキワくん達は凝視していた。解かれた瞬間、襲いかかってくる可能性がない訳じゃない。皆の魔力が集中しているのを感じた。でも、やっぱりそれは杞憂だったみたい。ラティスはそのままの姿勢でじっとしていた。


「それじゃあ、ラティスちゃん?お話、聞かせてくれるかな?」


 出来るだけ穏やかな声を心掛け、問い掛ける。でも立って話す事は許可しない。多分これでやり方は合っている。今、何方が上の立場かはっきりと示さないといけない。彼女が忍といっても誰よりも先にここにいるって事はコルフォーナの代表を任せられていると言う事。つまりは使者。使者は丁重に扱わないと。でも下出に出過ぎるのは良くない。だから拘束のみを解いたんだ。


「…は。まずは感謝の意を。丁重な扱い、痛み入りまする。我はゼラハムより特務を受け、この場に参りました。伝説名高き宵闇の魔女・エル様。申し上げまする。どうか我が国の民を受け入れては貰えないでしょうか」


「民を受け入れよと…。聞きますがラティス殿。そうする事でこのアウベルスに何の得がありましょうか?」


 ゲインさんの質問は辛辣だった。だけどそれは最もだった。確かに向こうは領地を失い、今危機に瀕している。だけど仮にもコルフォーナは今まで敵国。いつ戦になってもおかしくはなかった。何ならコルフォーナを意識して今まで行動してきたのだ。敵国の事情は冷たい言い方だけど知った事じゃない。それにこっちの旨味がまず見当たらない。アウベルスは出来立ての国。旨味も無しにお願いを聞く程余裕は無いんだ。


「仰せの通り、損得で言えばエル様に得になるような事は御座いませぬ。我がコルフォーナを受け入れるとあらばウィアヘルムと敵対する事は必定。無理は承知の上でありまする。だが、ゼラハムはこう申しておりました。コルフォーナを受け入れて頂けるなら、我が国はアウベルスの軍門に下る、と」


「…妥当だな。それ以外の交渉条件などなかろう。だが賢王と謳われるセラハム公が何の策も無しに軍門に下るとは考えにくい。それを信ずる材料は如何に?」


「有りませぬ。ただ、一つ申し上げるならば我らコルフォーナの民とてゼラハムの真意を汲み取る事は出来なかった。コルフォーナが天下に号令を成すが為、是迄戦ってきた。そう思っていた。…だがゼラハムの思惑は違った。何処までも民の為、コルフォーナ一国を存続させる為、行動してきた。ただウィアヘルムのグラムハルトが気に食わないだけ。故に(ウィアヘルム)たばかる為に民の目指す所を欺瞞してきた、と。それが叶うのなら軍門に下る事など些かな事である、と。我らを想うセラハムの言葉、嘘偽なきと断言致しまする。安いであろうが、このラティスの命でどうか信じては頂け無いだろうか」


「其処まで申すか。その言葉、相違ないか」


 シュエンくんの鋭い眼光がラティスを射抜く。ともすればこのまま首を跳ねてしまいそうな程の殺気を伴って。それでもラティスは身動ぎ一つせずただシュエンくんの目をじっと見つめ返した。


「相違御座いませぬ」


 言い切った。


「そうか。相分かった。俺からは以上だ」


 シュエンくんの殺気が収まった。そしてそのまま目線を外すと私の隣のトキワくんに軽く目で合図を送った。


「うむ。皆もよいか?では姫。決断を」


 トキワくんの一言で全員の視線が私に集中した。一瞬うっ、となったけどそこは何とか、我慢。今は動揺する所じゃない。

 

「ラティスちゃん、コルフォーナの難民ってどれ位いるの?」


「は。兵士と合わせて凡そ二十万程となりまする」


「ウルミちゃん、農地開拓予定地に受け入れ出来る?」


「はい。元々アウベルス郊外は草原なので余裕は十分ございます。ただ堀の外にはなってしまいますが、東方面なら問題はないかと。ですが食料問題がどうしても…」


「あいや、受け入れて頂けるだけで十分でありまする。食料に関してはありったけの備蓄を民と兵が運んでおります故、当面の心配は御無用に御座いまする」


「どれ位あるの?」


「は。籠城戦において一年は持ち堪えられる分の用意が御座いまする」


「それだけあれば十分だね。うん。いいんじゃないかな?…では決定事項を申し渡します。アウベルス人魔共同体はコルフォーナを受け入れる事にします」



          『はっ!!!!』

 


 一同の怒声にも似た返答が部屋中に響き渡った。何だか戦国武将になった気分。


 …ううん、実際私は国家元首。言うなれば本当に戦国武将みたいなもの。皆の声と顔を見て、気が引き締まるのを感じる。


「ドリちゃん、リュアちゃん」


「はい」

「何なりと」

『ご命令を、姫』


「二人はここと受け入れ予定地の結界を強化してくれる?それとシュエンくんは一個師団連れてコルフォーナの人達を迎えに行ってあげて」


「相分かった、姫」


「畏まりました」

「すぐにでも」

『姫』


「ツルバミくんは入口の警護。ゲインさんは到着次第民衆のお出迎えと受け入れ予定地への案内を。レイちゃん、バースさんはゼラハム公をここに案内して。私とトキワくんとウルミちゃんはセラハム公の応対と今後の話し合い。と、予定はこんな感じで行くから、皆、宜しくね。あ、あとラティスちゃん」


「…っは、魔女様っ」


 次々と指示を出す私を見つめていたラティスは、その最後に名前を呼ばれてちょっと慌てた様子で返事を返してきた。


「一人で大変だったね。取り敢えず、一息ついてゆっくりしてね?」


驚き半分、感激半分といった感じのラティスは一呼吸おいて深々と頭を下げた。


「寛大な御言葉、痛み入りまする…。改めて、宵闇の魔女・エル様。此度の受け入れ、コルフォーナを代表して厚く御礼申し上げまする」


「うん。甘い、て思われるかも知れないけど、これが私のやり方。情けは人の為ならずなんて言葉があるけど、きっとこれがアウベルスにとって最善。受け入れると決めた以上、貴方達は今から私の仲間。だから今はゆっくり休んで、ね?…よし。行動は決めたら迅速に。これよりコルフォーナ受け入れ作戦を開始します!!」


 こうして、アウベルスの初外交は夜も遅い時間に慌ただしくも幕を開けた。事態が変わるのなんて突然。私がこっちに来た時のように突然なんだ。だから私は今回もこう思う。頑張らなくちゃって。でも取り敢えず先にお風呂には入ろう。ほら、あの赤いジャケットのお姉さんのお風呂の名言もあるし。


 さぁ、気合い入れていくよ!!



いつもありがとうございます。とってもゆっくり更新、最新話です。


あの人のお風呂の言葉は個人的に名言だと思ってます。


次回もお付き合い頂けたら嬉しく思います。

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