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魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
23/41

丘の上の家へ

ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。


 花織は今、私鉄に揺られている。都会では考えられない二両編成の車両の中は昼時なのも相まって他の客の姿もまばら。地方特有の光景だ。窓を見やるとそこには田畑が広がり、時折電線の鉄塔や小さな看板がゆったりとした速度で遠ざかってゆく。


長閑のどか…だな」


 ついつい声に出して呟いてしまう。花織が田舎の地方電鉄に乗っているのには理由があった。そう、愛流の実家に向かっているのだ。

 

 小鳥遊が手を回したお陰で愛流のアパートやそのご近所さん、果てには友人関係に至るまで現状、誤魔化しが効いている。ただ、一体何をやったのかは不明である。小鳥遊曰く知らない方がいい、との事なのだがただ一つ分かっているのは愛流は今海外出張に行っているという事になっているらしい。しかも友人達には《愛流から》連絡を入れているのだ。社長の時もそうだが、何だかとんでも無い世界を垣間見た気がして花織は戦慄を覚えたのだった。

 

 兎にも角にも誤魔化しが効いたのはありがたい。だが、流石に愛流のご両親に今の事態を隠し通せる自信は無い。それは小鳥遊にしても同じだったらしく、マスターに依頼された人物への接触は市山と小鳥遊が向かう事になり、親友たる花織が愛流の実家に事情説明へ赴く流れになったのだ。


 だが、今花織は悩んでいた。簡単な話、説明しても納得させる自信がなかったのだ。勿論、説明するために色々用意はした。例の監視カメラの映像も見せるつもりだ。しかし、普通の感性では中々信じられたものではないだろう。はぁ…と大きな溜息が思わず漏れてしまう。

 

 それにしても、だ。愛流の実家って遠いんだな、と思う。花織の自宅から直接移動しているとはいえ、新幹線や電車を乗り継いでかれこれ三時間はかかっている。田舎の出とは聞いていたが、生まれも育ちも都会の花織にとって最早これは日帰り旅行のようなものであった。現地に近づくにつれ、最初は普段見慣れない田園風景に感動していたが、流石に同じような光景ばかりでは憂鬱な気分も相まって少々気が滅入ってしまった。


 ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。


 相変わらず電車はのんびりと揺れながら走るのだった。








 辿り着いたのは無人駅。こじんまりとした木造の駅舎をぬけ、花織は辺りを見渡す。太陽はまだまだ高い位置にはあったが、ゆったりと広めに取られたローターリーには人の気配は感じられず、当然の如くタクシーの姿も見当たらない。時折、近くの道を車が通り過ぎるがさほど交通量も多くはない。駅舎の前にバス停の看板を見つけたが、最早嫌な予感しかしない。

 

 さて、どうしたものか…と花織は暫し思案する。社長から聞いた愛流の実家の住所の最寄り駅は確かにここであっている。だがきっと最寄りには変わらない、と言う意味であろう。つまり車などを使って初めて辿り着ける距離なのだ。花織の前途は多難過ぎた。


 しかし、何時までもここに立っている訳には行かないので仕方ない、とバッグを弄り携帯を取り出す。手早くネットを開き、近場のタクシー会社の電話番号を検索した。あの時は恨めしく思ってしまったが、やっぱり携帯は便利だ。我ながら現金だとは思うのだが。


 だが、今の愛流はどうだろうか。携帯を持ったまま異世界に行ってしまったが、連絡が取れないという事は当然使い物にならなくなっているのだろう。バッテリーも切れているだろうし。携帯を忘れただけで不安になるのに、手元にあって使い物にならないなんて私は耐えられないかも知れない。それ程までに携帯に依存しているんだなと思う。と、花織は携帯の画面を見つめながらそんな事を考えていた。


「どったの、お姉さん」


 不意に声がかかった。顔を上げるとそこには高校生だろうか。白のTシャツに今時珍しい丈の短い学ランを羽織り、膨らんだスラックスのポケットに片手を突っ込んだ銀髪の少年がバイクに跨がっていた。どうやらバイクの音も気にならない程考え込んでいたらしい。集中するといつも花織はこうであった。

 初めて生で見るその格好に、おぉ不良だ…と心の中で感想を述べていると少年はニッと花織に笑いかけた。


「もしかして、迷子?」


 いきなり盛大な誤解の言葉を投げかけてきた。そもそも私は大人であって、情報を頼りにここまで来たのだ。断じて迷子ではない。


 …ただ途方に暮れていただけだ。


「…あぁ!!ごめん、ちごた?なんか困っとったみたいやしさ。姉さんに困っとる人見つけたら助けたれ、て言われとるさかい声かけたんよ。別に怪しいもんちゃうで」


 少年はその出で立ちからは想像出来ない程にこやかに笑った。何と言うか、人懐こい子犬のような印象だ。だが、怪しいものではないと言われても中々信用は出来ない。もしかしたらこれが地方と都会の違いなのかも知れないが。


 返答に困っている花織をよそになおも少年は続けた。


「どの辺行ことしてんの?」


「…この住所の所だけど」


 聞き慣れない西の言葉に少々面食らいつつ携帯に保存していた愛流の住所を見せる。おおよその場所を聞いておくのもいいかもしれない。


「ん…と、…あぁ、あの辺やな。どうする?送ってこか?」


 そう言いながら跨っていたバイクの座席をポンポンと叩いた。


「いや…流石にそれは…」


「ん?ちゃんとヘルメットやったらもう一つあんで?」


 違う、そうじゃない。確かに送ってくれると言ってもらえたのは正直有り難い。だが今会ったばかりの男の子のバイクの後ろに乗るのは流石に気が引ける。しかも見た感じ相手は高校生だ。色々と駄目な気がする。


「あ、ありがとう。でもタクシー呼ぶから大丈夫だよ」


「そう?でもタクシー高いし乗ったらええやん」


 こっちの思惑など知ったことかと言わんばかりに少年はヘルメットをやや強引に押し付けそのまま背中を押してくる。


「ちょ、ちょっと待って!まだ乗せてなんて私」


 強引に花織をバイクに乗せた少年も再び跨り、ヘルメットを被りつつ止めていたエンジンを始動させる。

 

「ええから、ええから♪あ、ちゃんとヘルメット着けといてや。んじゃ行くでぇ。飛ばすさかい掴まっときや」


「ちょ、まだ心の準備が…って…いやぁぁぁ!!」


 長閑な田舎道に軽快なバイクの排気音と花織の叫び声が木霊した。








「お姉さん、着いたで?」


 時間にして15分程度、疾走するバイクは静かに停車した。たどり着いたのは小高い丘の上の閑静な住宅地。どの家も都会では考えられないゆったりとした大きさで、各家々には当然のように車が止まっていた。やはり車が無いと不便な土地柄なのだろう。

 因みに、生まれて初めてバイクの後ろに乗ることになってしまった香織はというと、半分魂が抜けたかのようにすっかりグロッキー状態になっていたのであった。


「あ、ありがとう…お陰で…助かった、わ」


「どういたしまして♪」


 はぁはぁと息をつく花織を尻目に少年はうーん、と一つ伸びをした。


「お姉さん、俺その辺におるから用事終わったら言ってや?また駅まで送ったるし」


「だ、大丈夫っ。そこまでしてくれなくても帰りこそはタクシー使うから」


 先程までの高速ツーリングを思い出して若干顔が青くなった花織は申し出を断る。次は吐く自身があったからだ。見ず知らずの少年の背で…いや、そもそも人前で嘔吐する訳には結婚前の乙女としてはあってはならないのだ。


「えーよ。どうせ暇やし?それにな、俺お姉さんにも一応用あんねん。俺、竜胆真喜雄って言うんやけどあっち…あぁ異世界って言った方がええか。行き方探してんのやろ?」


 ニッと笑う少年――――竜胆真喜雄の言葉に花織は驚愕する。何で異世界の事をこの子が知っている?いや、そもそもあのタイミングで突然目の前に現れたのが可笑しかったのだ。幾ら考え事をしていたとはいえあれだけ大きな排気音に気付かない訳がない。それに今異世界の事を『あっち』と言った。もしかしたらこの竜胆真喜雄という少年は…。


「当たりやで♪今名乗ったばっかで言うのも何やけど俺のほんまの名前はマキオン。魔族の中でも最強種の一角、竜族の男や。今朝兄貴から通信魔術で小鳥遊の姉ちゃんが俺の事探しとるって連絡入ってな。んでお姉さんがこっちの方向かってるて聞いたさかい迎えに来たんよ。あ、困っとるの助けろ言われてたんはほんまやで?」


 矢継ぎ早に情報の暴力が花織に叩き込まれた。色々聞きたい所だが確認したい事項が多すぎて、すでに花織はお腹いっぱいな気分になってしまった。

 だが取り敢えず分かったのはこの子がマスターから依頼されていた連れてきて欲しい人物の一人であり、尚且つ小鳥遊と市山はもう一人の人物と早々に接触出来ているという事だ。探していた人物の方から出向いてくれたのはありがたい話ではある。


「そんじゃ待ってるし、早う終わらせてや♪」


 そう言うと真喜雄はバイクに跨り片手を一つひらひらさせて去ってしまった。取り残される花織とバイクの排気音。何と言うか自由過ぎる。


「いつ終わるか分からないのに何でどっか行くのよ…」


 普通に仕事しているより疲れる…。俄かに感じた疲労感に花織は長々とため息をつくのだった。











「いつも愛流がお世話になっております」


 どうぞ、と出された紅茶に角砂糖を溶かしながらいえ此方こそ、と他愛ないやり取りを交わす。玄関先で構わないと伝えたのだが、遠路はるばる来て頂いたのにそれは申し訳ないと通されたのは立派な仏壇の鎮座する座敷であった。仄かな線香の香りが漂い、時間の流れがゆったりしたものに変わったかのように感じる。ここが愛流の育った家なんだ。何だかよく分かる気がする。


「お電話でお伺いした時はまさかと思いましたがやはり嘘ではないのですね」


 目の前のカップに一口つけて、鎌柄早苗は少し悲しげに微笑んだ。その顔つきは愛流そっくりで、一瞬花織は愛流がだぶって見えた。


「ええ。当事者の私も未だに信じきれない部分が多々あって、これからお話する内容は馬鹿馬鹿しいと思うかも知れませんが、どうか最後まで聞いて頂けたら嬉しく思います」


 そう言いながらバッグからタブレットを取り出した。まるで客先でプレゼンをしているようだと感じつつ、くだんの映像の再生準備を手早く行なう。


「まず、これが愛流さんが失踪した当日の監視カメラの映像です。口で説明するよりご覧頂くのが話が早いかと思います」


 タブレットの再生ボタンを操作し、映像が再生されてゆく。そろり、そろりとお茶の載ったお盆を運ぶあの日の愛流が動きだす。いつもの変わらぬ日常。愛流がドジして市山がからかって、そして花織が慰める大好きだった日常。だが、それは唐突に終わりを告げる。花織と市山の目前で辿り着いたところで愛流が足を撚り顔から床に転倒し、そして現れるあの魔方陣。吸い込まれるように消えてゆく愛流。何度見ても異様な光景。日常が非日常に変わる瞬間だ。


「…これは紛れもなく加工されていない実際に起きたそのままの映像です」


 映像の終わりと同時にそう告げる。誰が見てもまず思う感想は「加工された映画のようなもの」なのだから。

 

「愛流に…愛流に何が起こったんですか?」


「私と映像に出ていた彼、市山は社長に相談し、結果愛流さんの捜索業務に任命されました。社長の知り合いの警視庁の方から特殊な失踪事件を専門にしている刑事を紹介され、彼女―――小鳥遊という人間が言うには、今回の失踪はこの世界ではないもう一つの世界が関わっていると」


「もう一つの世界…?一体どういう事ですか?」


「小鳥遊の紹介で私達はその世界に詳しい人物と接触し、その方に説明を受ける事が出来ました。結論から言うと愛流さんはその世界に行ってしまったと考えるのが妥当だと判断致しました」


 自分で言っていて何と荒唐無稽な話なんだと花織は思う。しかし実際これが全てなのだ。マスターの使った魔術やさっき出会った真喜雄という少年の存在がこの状況を現実のものだと否応無しに花織に認識させる。だがそれは状況を知っているからこその感想だ。突然都会に出ていた娘が失踪し、そして関係者からの説明はとんでもないもの。混乱しないのは無理と言うものだろう。


「訳が分からないのは重々承知の上です。私が親の立場なら怒り出しても当然のお話をしているのも理解しています。宗教の話をされていると思われても仕方ありません。ですがどうか、ご理解頂きたいのです。今、愛流さん…いえ、私達は特殊な状況下に置かれているということを」


 花織は立ち上がり、深々と頭を下げる。理解が追いつかなくても構わない。ただ、分かって欲しいのだ。ただ、それだけだ。


「…露草さん、どうか顔を上げて下さい」


 早苗から返ってきたのは怒声でも困惑でもない、暖かな言葉であった。顔を上げ、目に入った表情は悲しそうでありながら、しかし穏やかな表情であった。


「貴女もお辛いのですね。…確かに、とても信じられるお話ではありません。貴女のような方でなかったら、きっと私も追い返していた事でしょう。貴女が真摯に現状を解決しようとされているのは確かに私にも伝わりました。…あの子は昔、確かに少し変わった所がありました」


 ガラスのポットを傾け、花織のカップに紅茶を注ぎ足しながら言葉を続ける。その眼差しは昔を懐かしむ様に遠くを見つめていた。


「昔から優しい子でしたが、突然、自分は角の生えた馬に乗った事があると言い出したり、お絵描きをすれば何かの模様や文字見たいな物がびっしり描き込まれた円を…丁度さっきの動画に出てきた様な円ですね。そんなものばかり描いたり、おもちゃにどこで覚えたのか外国風の名前をつけたり…小学校に上がる頃には無くなりましたが、小さな頃は本当に不思議な子でした。だからでしょうか。貴女のお話をただの嘘とは感じられませんでした。…露草さん、あの子は…愛流は貴女にとってどんな子ですか?」


 今はいない愛流を思う。愛流は優しい子だ。おっちょこちょいで泣き虫で、だけどとびきり優秀で、皆に愛されて。


「かけがえのない、大事な親友です」


 そう。愛流は親友。大事な親友。付き合いは短いかも知れない。会社というものが無かったら、出会う事も無かった存在だが、不思議と気があって、まるで昔からそうだったようにいつも一緒にいるのが当たり前のような

そんな存在。


「必ず見つけ出して、連れて帰ってきます。ですからどうか、ご協力宜しくお願い致します」


「こちらこそ、どうか…愛流を宜しくお願い致します」


 花織の手をとって、早苗は微笑んだ。あぁ、やっぱりこの人は愛流の母親だ。どこまでも優しい、愛流にそっくりだ。そう思う。


「なぁ〜、お姉さん、まだかいな?」


 瞬間、優しい空気が固まる。ギョッとして二人が顔を向けた先にいたのは竜胆真喜雄。


「え、ど、どちら様…でしょうか…?」


「あ、勝手にあがってごめん、おばちゃん!!俺、このお姉さん駅まで送ってく約束してたんやけど、待ちきれんかって来てもたんよ。話聞いてたけど、そのえる、て人が向こう行ってもたん?」


「そ、そうよ」


「もしかしてこの映っとる人?」


 またもや突然現れ固まる二人を置いてけぼりに監視カメラの映像をジッと食い入るように見つめ出す。その眼差しはそれまで見てきた彼からは考えられない程真剣そのものであった。


「…見つけた…やっと、やっとや!!見つけた!!…今、この時代に転生なされてたんか!!この雰囲気、この顔…間違いない…!!…マキオンは、マキオンはずっと待っておりました…姉さん…いや、宵闇の魔女・エル様…!!」


 突然、真喜雄は泣き出した。あまりの唐突過ぎる彼の言動に早苗はおろか花織もどうしていいのか分からない。しかしこのままでは埒が明かないので、どうにか自分を呼び戻した花織は気になる事を口にした真喜雄に質問する事にする。


「ちょっと真喜雄くん、落ち着いて。君、愛流を知っているの?」


「知っているも何も!!俺と兄貴はガキん時にエル様の元で見習いをしてたんや!!エル様が魂のみこっちに移って転生する道を選ばれたから俺と兄貴はエル様を追っかけてこっちに来たってぇのに、ちくしょう、転生されたのに気付けんかった…こうしちゃいられへん!!お姉さん、もう行くで!!」


 バッと音がなるような勢いで立ち上がった真喜雄は花織の手を掴み外に出ようと促してくる。


「ちょ、ちょっと待って!!一体何なの!?」


「エル様の復活とあっちへの帰還や!!ゆっくりなんかしてられへん!!」


 全く、何がなんだんか訳が分からない。さっきから愛流の事を様呼ばわりだし。急かされるままなんとか荷物をざっと纏める事には成功した花織だが、ぐいぐいと腕を引っ張られあれよあれよという間に外に連れ出されてしまった。早苗はというと何事かとその後ろをついて一緒に外に出てきた。


「よし、そしたらお姉さん、すぐに出発の準備するわな」


 玄関先から道の真ん中に向かい、徐ろにその場で立ち止まる。…バイクで駅に向かう訳ではないのか?そう考え辺りを見渡したが何故かここに来る時に乗せてもらったバイクは何処にも見当たらない。


 

 

           ー竜魂回帰ー



 真喜雄から発せられた腹部に響くような低く重たい一言。瞬間、真喜雄を中心とした半径十五メートル程度の空気が張り詰めたものに変わる。風も無いのに木々がざわめき、鳥達が一斉に飛び立つ音が辺りを支配した。



            カッ!!



 眩い光が真喜雄から放たれ、堪らず花織と早苗は顔を両腕で覆い隠した。


「な!?」


 光の瀑布が徐々に薄れてゆくのを感じた花織は恐る恐る腕を降ろし、固く瞑った目を開いた。そこにいたものは。

 

 

 岩のようにゴツゴツとした一枚一枚が成人男性程ある黒く光る鱗、折り畳まれてはいるが家一軒分の広さはゆうにあるであろう蝙蝠めいた巨大な翼、どっしりと太い四本の足に鋭く曲がった鉤爪、大木と思わせる長い尾。そして尾と同様長い首の先には象徴的な角とビルでさえ噛み砕いてしまいそうな剥き出しの牙。そう。


「ちょ、えぇええええ!?」


 そこにいたのは、紛れもなく、竜。どんな漫画や映画などの創作物に出てきたものより遥かに凄まじい迫力と圧倒的な存在感。


 “魔族の中でも最強種の一角、竜族の男”


 真喜雄の言葉が蘇る。これが魔族であり、竜族なのか。目の前に現れたとんでもない代物に花織は開いた口が閉まらない。因みに早苗はというとまるで蛇に睨まれた蛙の如く、完全に硬直してしまっていた。


『お待たせやで、お姉さん』


 竜の双眸が花織に向けられた。頭の中に直接響く、真喜雄の声。


『さぁ、早よ背中乗って』


 頭と視線で背中を指し示す。いや、乗れって言われても竜と化した真喜雄の身体は最早岩山レベルじゃないか。鱗という突起部があるとはいえ、それは命綱無しのロッククライミングに等しい。簡単に言い放つ真喜雄に花織は思わずげんなりしてしまう。その表情に流石の真喜雄も花織の言わんとする事に気付いたらしい。あ、そうか、と納得した様子の真喜雄は徐ろに空を見上げると呟くように言葉を紡ぐ。


『風舞いし大地、流浪の聖者、自由の羽根は大気を削らん。踏みしめる土と天露たたえし華の花弁。空は迎える、汝の旅を、空は送らん、魂の欠片を』


「な、な、な、な…!?」


 花織の体が光り出した。いや、正確に言うと真喜雄の言霊の詠唱で花織が光に包まれたのだが、傍から見れば花織自身が光っているように見えたのだ。そして真喜雄は低く呟く。


飛翔魔術エアフォース…!!』


 途端、花織の体がフワリと宙に浮いて、コントローラーで操作されるヘリのラジコン宜しく、瞬く間に真喜雄の背に乗せられてしまった。 


『ほら、こんでオーケーやろ?おばちゃん、ごめんな、いきなし吃驚させてもて。…さぁ行くで、お姉さん。しっかり掴まっときや』


「え、ちょっと!!またなの!?まだ心の準備が…って…いやぁぁぁ!!」


 いきなり空に浮かされた衝撃からの回復を待たず、真喜雄の出発宣言に戦慄する花織。そんな花織をお構いなしに持ち上がりだす竜の巨体。


「…ひっ!!」


 先程のツーリングを思い出し、真喜雄の次の行動に見当がついた花織は鱗と鱗の間に人が入り込めるスペースを見つけるとそこに体を滑り込ませ、全力でしがみつく。


『さぁ、飛ばすでぇ!!』



           ドヒュン!!



 初速から鳥が飛ぶスピードどころでは無い勢いであっと言う間に東に向けて小さくなってゆく竜の巨体。取り残された早苗はへなへなと地面にへたり込んだ。


 余談だが、地方の町にドラゴン出現で大騒動になったり、未確認飛行物体が各地で目撃されて大騒動になったり、それを真喜雄の兄が何をどうやったのか(恐らく魔術なのだろうが詳細は不明だ)有耶無耶にしたり、到着と同時に虹色のフィルター付きで口から滝を花織が表現したり、小鳥遊が頭痛を覚えて頭を抱えながら頭痛薬を勢い良く服用していたが、それは恐らく余談なのだろう。多分、きっと。

遅くなりました、最新話更新です。

真喜雄くん、自由に動いてくれました。花織さんは振り回されました(笑)


非常にゆっくり更新ですが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しく思います。

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