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魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
16/41

鴉の群れと剣戟の音

 風になびく長い髪、戦場には似つかわない風変わりな異国の衣。そして、手に握るはその身体に不釣り合いな大振りの鎌。

 

 巨大な獣のような、不思議な一角を携えた白馬の背に乗りそれは突然少し前方の空間に姿を現した。

 


           宵闇の魔女。

 


 あの時一度目にしたよりも恐ろしく感じる。調べるまでもなく伝わる溢れでる膨大な魔力。気を抜けばその魔力にあてられて気を失いかねない。

 

 今にも全てを斬り裂かんと剥き出しの殺意に大鎌の刃が煌めいた。

 


             絶望。

 


 なんとか殿を御守りせねば。背に流れる嫌な汗を感じながらシュエンは腰に差した二本の小太刀を抜き、構える。


「殿、ここは我にお任せあれ!勝てぬとも必ず一矢報いて見せましょうぞ!!ゆくぞ、各々方!!」


 言い切る前に俺は兵を引き連れ魔女に向かって飛び立っていた。







 来たね。


 いくよ、風尽。殺さない程度に加減してね。

 

 面倒だな…、とでも言いたげに風尽の刃が少し震える。

 

 心の中でクスッと笑い、私はゆっくりと風尽を振り上げそして横に薙ぎ払った。

 

 巨大な閃光が走る。それは風を、大気を食い荒らす。


 風が尽きるとはこういう事だ。閃光の道筋にある大気はその瞬間確かに死んだ。

 

 轟音の咆哮を上げるそれは此方に向かう眼前の敵に襲いかかる…!!



 

 空を舞う鴉の群れの墜落。一瞬だった。

 

 

 

 閃光の刃の暴食が収まった時、彼らは次々と眼下の大地に吸い込まれていった。

 

 風尽はちゃんと手加減してくれたみたい。墜落した翼人族達を鑑定魔術で調べたら、怪我こそしているみたいだが誰一人命を落としてなどいなかった。


 残るは一番前にいたあの時の密偵と、一際派手な甲冑姿の翼人族。


 あれがスオウか。


「い、一撃で全軍壊滅だ…と…!!」


 密偵は信じられない、といった顔をした。


「これが、宵闇の魔女の力か…!!ふはは…!!よもやここまでとは!!」


 傷はきっと浅くない。だが、彼は引くつもりなど微塵もないようだ。その背後の主を守る為、両手の刃を構える。


「我が名はシュエン!!刺し違えても貴様を葬る!!」


「トゥラちゃん」


「は」


 私が合図を送るとトゥラちゃんは空中を蹴った。一気にシュエンとの距離が縮まる。


「…なっ…!!」


 シュエンの顔が複雑な表情に染まる。

 

 それは驚愕か、それとも恐怖か絶望か。


 この人にも自分の正義はあるんだろう。きっとスオウの為、全てを捧げてる。


 だけど。


 こっちにだって正義はあるんだ。自分の大切なものを守る為、自分の考えを貫く為、自分の正義の為、戦う。





 


           それが戦だ。





 


 

 

 シュエンは咄嗟に防御の姿勢を取ろうとしたがもう、間に合わない。

 

「フレア・ガトリング!!」


「うぐっ」


 鈍い声が上がる。すれ違いざまに片手から放つ零距離からの炎の連弾。腹部に突き刺さるように襲い掛かる質量を付与されたそれは明らかに炎の攻撃ではない。威力を意図的に落としはしたが、密偵の翼はその羽搏きをやめた。空に見捨てられたのだ。

 

「…シュエン!!」


「…殿…、面目…次第…も…御座いませぬ…どうか…ご無…事で…」


 墜ちながら、それでも主の身を案じる。私はそっと心を噛み殺した。


 スオウの気配が変わる。怒りのオーラをその身に纏って。


「あなたがスオウね。私はエル。宵闇の魔女、エル」


 氷で心を飾り立て、私は微笑みを浮かべ名乗った。冷たくも美しい刃の切先を向けながら。


「…いかにも。俺の名はスオウ・ハーネスト。ファルウルスが国主である」


 勿体ぶったようにそう答える。


「…今しがたの戦い、誠に見事であった…。この俺が、戦慄を覚える程に」


 言いながら、紅い刃の刀を構えた。隙のない、トキワくんによく似た構え。私の命を刈り取ろうとする、激しい敵意。思わず私の口元が薄く裂ける。心を凍て付かせたからじゃない、それはごく自然な自らの微笑。内心、自分でも驚いているが、対するスオウは僅かに眉を潜めた。


「…宵闇の魔女殿よ。我が敵として不足無し。その首、このスオウが貰い受ける…!!」


 だが、私の役目はここまで。楽しんではいけない。


「そう。…でも私の役目はここまで。あなたの相手は私じゃない。トキワくん、もうこっちに来ていいよ」


 私はトキワくんに合図を送った。












 驚いた。


 予定では宵闇がスオウまでの道を切り開き、そして俺にスオウと対峙する場を用意するという話だったのだが。


 まさか、奴が連れてきたファルウルス軍の全てをスオウのみ残して空から叩き落としてしまうとは。


 さすがは宵闇。恐ろしくも、頼もしい。


 俺と闘った時よりも、力を使いこなしている。




          そして、残酷。



 宵闇と出会えた事に、ただ感謝する。


 これ程の場を用意されては勝つしかないな。そうだろう、シャクジョ。


 武士ならば。


 男ならば。


「ウルミ、ツルバミ。行って参る。そこで見ていてくれ」


「ご武運を、殿」


「勝利を信じております、トキワ様」


 二人は笑顔でいてくれた。俺は…果報者だ。

 

 

 




「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」






 俺は激しい咆哮を上げ、背の黒き翼に力を込めた。


 距離など一瞬。振りかざした烏一文字が鋭く鳴く。


 全て終わらせる。全てだ。





         「スオウ!!!!」





 剣戟の音が、始まりを告げた。


 




 


 



 


 

遅くなりました、最新話投稿です。

エルさん暴れました。彼女はきっとどんどん魔女らしくなっていく自分に戸惑っているでしょう。

次話、因縁の対決です。






8月14日加筆修正致しました。

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