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魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
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青空の鬨の声


 敵方は、どうやら本当に我々よりもコルフォーナの襲撃を気にしておるようだ。その証拠に、敵方にとって防衛上重要拠点になるはずのこの場所が放置されているのだ。


 先遣隊先手大将・シコンは呆れにも似た笑みを浮かべた。

あのトキワ・ハーネストも最早ただの野盗か。戦の勘が鈍るようでは我らの敵ではない。

 

 真に警戒すべきは宵闇の魔女だろう、とシコンは思う。よもやあの魔女と一戦交える事になろうとは。伝説通りなら我らの軍勢など塵芥に等しい。

 

 だが、我が殿は宵闇の魔女を討つよりもトキワ・ハーネストを討つ事に重きを置いている。


 何故あの男に拘るのか。俺には理解出来ぬ。確かに、あの男は凄かった。俺もハーネストの里の出。あの男の指揮の元、俺も数多の戦を駆け抜けその戦いぶりを見てきた。だが、今のトキワ・ハーネストなど恐るるに足らぬ。この俺もあの時より遥かに力をつけた。それ程迄に時の流れは無情なのだ。

 

 俺は殿に生涯の忠義を誓った。理解出来なくともそれで良い。殿のお考えを否定するというのは武人として不忠義にあたる行為。


 なれば宵闇もあの亡霊も尽く討ち果たし、殿に勝利を捧げるまで。


 それが、この俺の…シコンの役割だ。


「シコン様、伝令でございます」


「如何した」


「殿が率いる本隊が間もなく到着との事」


「そうか。…各々方、間もなく殿が御到着召される!!我らが殿とファルウルスに勝利を捧げよ!!」


 『おぉう!!』


 高台に鬨の声が轟いた。









 

 

 高台のの方角から怒声にも似た音が聞こえる。久方ぶりに聴く戦場の鬨の声。体の奥が燃える。この重苦しい空気感、焼け付くような兵どもの剥き出しの敵意。何もかもが懐かしい。


 宵闇よ。貴公に出逢えた事に感謝する。

 

 俺は帰ってきた。戦士として。帰ってきたのだ。


 宵闇の魔術、潜伏魔術(ディサピア)で姿を消した俺は今、アウベルス手前の上空にウルミとツルバミと共に待機している。


 あの軍議の折、かような場所に布陣するなど一体何を考えておるのかと思ったが、確かにこれは有効だ。突然眼前に現れ、地の利のある平地で迎え撃つ…少数先鋭だからこそ可能な軍略だ。


 少し離れた空に軍勢が見える。読み通り、あれが本隊だろう。彼処にスオウがいる。

 

 ニヤリ、と嗤う。いよいよか。


「トキワ様」


「あぁ、分かっている」


 俺の心と手の中であれの首を欲する烏一文字をなだめつかせる。


 まだ、その時ではない。


「ツルバミ、始まったら予定通り後方支援のウルミを守れ。そしてウルミ、恐れるな。必ず我らの本懐を遂げるぞ」


「御意に、殿」


「…はい!トキワ様!!」




 さぁ来い、スオウ。









「殿」


 傍らに控えたシュエンが口を開く。どうやらシコンから連絡が入ったようだ。


「シコン殿、本隊の姿を確認出来たが故これより軍を動かすとの事」


「あい分かった」


 シコンは俺がハーネストにいる時から俺に仕える武人だ。俺に良く似て血の気は多いが、優秀な男。奴とは数多の戦場を共に駆けてきた、言うなれば盟友と呼んでもよい。


 此度の戦は、奴に華を持たせてやるつもりだ。故に先手大将に任じた。シコンに任せておけば序盤に苦しむ事は無かろう。


 然し、かように重要な場所をあの兄上が放置などするのであろうか?野党に身を窶し、戦の勘が鈍ったと言えばそれまでだが些か不気味ではある。


 …いや、或いはこれは罠かも知れぬ。そもそもコルフォーナの密偵のみに気付きコルフォーナの進行のみに警戒しているというのは話が上手すぎる。

 

 少し考えればおかしいと気付けたはずだ。兄上がいると知ってはやったか。

 

 まだまだ俺も青二才だな。

 


 …面白い。

 


「シュエン、シコンに伝えよ。警戒を怠るなと」


「御意」











 



 よし。そろそろだね。

 

 トゥラちゃんの背に乗り、手には風尽。そして傍らにはドリちゃんとリュアちゃん。


 遠い前世の私がそうしたように、今私は戦場にいる。


 空気は、張り詰めている。あっちでは感じた事の無い痛いほどに鋭い空気。


 だけど私は知っている。この刃の様な鋭さを。心地よくさえ、そう感じた。


 

 アウベルスの村を背に、魔術で姿を消した私は風尽を握る手に少し力を込める。私達の上空にはトキワくん達が同じ様に姿を消して待機している。敵の本隊はもう間もなく到着しそうだ。引き付けるのはこれ位で十分か。

 


 さあ、始めよっか。

 


 にっこりと笑い、右手を突き出し魔力を集中する。


「…ドライヴ」


 私の言葉に合わせて東の高台全体が青い光に包まれる。

 

 良かった。あの時トキワくんに設置してもらった私特製の結界石が上手く作動したようだ。


「上手く結界張れてる?」


「はい」

「予定通り」

『先遣隊は結界の中です』


 一度訪れた場所の木々を自分達の影響下における二人は離れた場所からでもその木々を通して状況を把握出来る。さすがは森の精霊だ。


「うん。じゃあトゥラちゃん、行くよ!!」


「お任せあれ!!」


 私の声に合わせて純白の白馬が大地を蹴った。










「どうした、何が起こった!?状況を説明致せ!!」


 突然発生した青い光。軍勢に動揺が走る。


「この光、結界である模様!魔力も制限されており本隊との通信も切断されました!!」


 なんという事か!!我らが罠に嵌められただと!!

 

 何故気付けなかった。何故気付いて殿に此度の戦を取止める事を進言しなかった!!

 


             失態。



 その二文字が頭の中を支配する。


「ハーネストの亡霊と宵闇の魔女め…謀ったな…」


 奴が戦の勘を失ったなどと考えたのは早計であった。


 シコンの脳裏に浮かぶは過去の戦場。一度戦となったならばその戦いぶりも、采配も、我が殿に引けを取らない鬼神の如き強さ。

 


 帰ってきた。あの男が。

 


 トキワ・ハーネストが!!



「内側から破れぬか!?」


「只今急ぎ行わさせておりまするが、強固な結界である模様!!進軍可能までに暫し時がかかるかと!!」


 殿よ…、どうかご武運を…!!



 


 


 

 


 


 先程の青い光の直後、シコン殿に連絡を取ろうとした矢先、回線が途絶えた。


 何が起こった?我々はもう間もなくアウベルスに到着する、というのにだ。


「やはりな。俺の読み通りだ。シュエン、嵌められたのだ。宵闇の魔女と兄上に」


「…なっ!!で、ではあの時私は…」


 脳裏に蘇るあの時の光景。考えて見れば確かに奴らがコルフォーナの密偵のみに気付くのはおかしい。最初から奴らはそのつもりだったのだ。


「そうだ。我々をここに誘き寄せる為にわざと逃された。偽の情報を掴ませて、な」


 目の前が暗闇に包まれるような感覚に陥る。


 この俺が奴らの餌にされた…だと…!?




 おのれ…許さぬ、許さぬ、…許さぬ!!



「その怒り、よく覚えておけ。この俺とてはやったのもまた事実。この戦、こうなっては力でぶつかる他あるまい。策も知略も最早意味無し…このまま進軍致す!!皆の者、ついて参れ!!」


『はっ!!必ず御身に勝利を捧げん!!』



 その時だった。



 



いつも読んでくださってありがとうございます。

ようやく戦、始まりました。

エルさん達と一緒に僕も頑張ります(笑)






8月12日加筆修正致しました


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