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魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
14/41

本懐

 次の日から私達はさっそく準備に取り掛かった。


 まず最初に取り掛かったのは村の西側をメインに防護柵の設置と堀の作成。

 勿論、これは私達が本当にコルフォーナ対策のみをとっているというファルウルスに対してのただのパフォーマンスだ。実際、後々必要になってくるだろうし。翼のある翼人族に対しては効果はないけど、それで大丈夫。

 総力戦を意識しているだろうが最初から全軍がいきなりやって来るとは思えない。戦の事は分からないけど、まずは先鋒隊を寄越して来るはず。だから最後の最後まで欺く必要があるんだ。

 村の人総出で作ったものだから、もともと小さな村だしすぐにそれなりのものが完成した。


 北は湖、南は黒霧の森。…うん。いい感じだと思う。


「エル様」

「次は何を致しましょう」


 レイちゃんと二人で話していた私の元にドリュアデスの二人が訪ねてきた。二人とも顔中泥だらけ。何とも可愛らしい姿だ。小さな体で二人ともよく頑張ってくれた。愛おしくなった私はニコッと笑い二人の頭を同時にポンポンした。


「あら~、二人ともドロドロだね」


 レイちゃん、その言い方はちょっとおばちゃんくさいよ?

…などと思ってしまった。勿論、内緒だけどね!


「いっぱい」

「汚れて」

『しまいました』


 そう言って二人は同じ動きで顔の汚れを手の甲で拭った。だが逆に手についていた土で汚れが更に広がってしまった。

二人は長い時を生きて来た森の精霊であるのだが、その姿はどう見ても幼い少女。微笑ましくてついつい私もレイちゃんも笑ってしまった。


「エル様」

「レイチェル様」

『笑うなんてひどいですぅ』


 ぷぅ、と同時に頬を膨らませて拗ねてしまった。でもその姿もやっぱり愛らしい。


「ごめんごめん。村の準備はこれで大体終わったからトキワくんの方の様子見に行こっか。レイちゃんはどうする?」


「あ、私は村の皆にお茶配るんで一回家に戻りますね」


「うん。皆にありがとうございました、て伝えて欲しいな」


 わかりましたっ、とレイちゃんは言うとお屋敷の方に駆けていった。もしかしたらバースさんかゲインさんに言われてたのをレイちゃん忘れてたっぽいな。

 

 レイちゃんを見送った私はハンカチを取り出してドリちゃんとリュアちゃんの顔を拭いてあげた。


「よし、綺麗になったよ。それじゃ行こっか」


『…畏まりました、エル様』


 さっきまで拗ねてたのに今度は照れだした二人の手を引いて、私達は村から少し外れた所にある東の高台の教会へ向かう事にした。




「トキワくん、どう?」


「宵闇か。やはり密偵がここを拠点にしていた痕跡があったな」


 やっぱり。こんな好条件な場所、利用しない手はない。アウベルスから離れた時片付けていったのだろうが、それでも僅かばかりの痕跡は残るもの。確信はあったが確実性が欲しかったのでトキワくんに調べてもらっていたのだ。


「準備は終わった?」


「あぁ。なかなか苦労したぞ」


「ありがと、トキワくん」


 トキワくんを労いつつ辺りを見渡す。使われなくなって久しい教会とはいえ荒れ果てた様子は見受けられなかった。だがただ一つ疑問を感じるとしたら綺麗すぎる事。そう、本当に人が使っていたのかと思うくらい、綺麗すぎるのだ。あるいは痕跡を残さない為に片付けたのではなく、陣を張るために綺麗にして去っていったのかも知れない。

 だけど、これで私の作戦が徒労に終わる事は無いだろう。私が考えた素人考察が通用したかと思うと少しだけ嬉しくなった。


「それじゃあ概ねの準備は整ったね。じゃあ皆疲れてるだろうし、三時間位休憩したらレイちゃんの家で作戦会議をしよっか」


「心得た。…しかし宵闇よ。何だか呆気なすぎて戦支度をしているようには思えんのだが」


 トキワくんが珍しく困ったような顔をした。確かに準備したのは村の周りとここだけ。本当はもっと周到に用意するものなんだろうけど、生憎今の私には戦の心得なんて無い。そう言われるとほんの少しだけ不安になるけど、皆の為に私は笑顔でそれを掻き消す。

 

「大丈夫だって。絶対上手くいくよ」


『トキワ様』

「大丈夫ですよ」

「エル様がついておられますゆえ」


 ドリちゃんとリュアちゃんが可愛らしく花のように微笑む。


「ま、まぁ、問題はなかろうが如何せん調子が狂う」


 にっこりと二人に微笑まれたトキワくんは尚の事調子が悪そうな様子だった。

 










「皆、集まったね」


 獣人族の監視を続けるトゥラちゃん以外が集まったのを確認して、作戦会議…うーん、軍議、て言ったほうがいいのかな?

 …ま、どっちでもいっか。と、どうでもいい事を考えつつも私は会議を始める事にした。


「じゃあこれからなんだけど、まず村の人達は皆黒霧の森に避難して貰おうと思うんだ」


 黒霧の森はトゥラちゃんの支配下。村の人を魔獣に守って貰うつもりだ。彼処なら安全は確保出来る。


「女子供、老人はそれで良いとして若い衆までもか?」


 トキワくんが眉を潜めた。人族とは言え普通に考えたら貴重な戦力。それをあえて避難させると言ってるのだから無理も無いだろう。


「うん。今回の戦の目的は二つ。一つはトキワくん達の過去の清算、もう一つは村の保護。できる限り無傷で終わらせたいんだ」


 きっとその後でコルフォーナとの戦も確実に起こる。だからこそここに全てを注ぎ込む訳にはいかない。それに守るって約束したしね。


「でもエル様、そうすると村の中が空になって敵軍に怪しまれるのでは?」


「そうだよね、ウルミちゃん。だから魔術でドッペルゲンガー的なダミーを用意するつもり。遠目から生活しているように見えればそれでいいから」


「なるほど。では我々は何処に布陣するのだ?」


 テーブルの上のアウベルス周辺の簡単な地図を眺め、トキワくんは腕組みをした。村そのものはダミー、そして教会は向こうに渡すからこう見ると本当に布陣する場所なんて無い。


「大丈夫。私達は少数。だからこそ意表がつける。私達が布陣するのはここ」


 テーブルの上の地図に小石を置く。


「ここ…でありますか。しかしエル様…この様な場所に布陣など、一体どの様な軍略をお考えで?俺には分かりかねます」


「私も全然分かりません…。うぅ、ちょっと知恵熱がっ」


 ツルバミくんはむぅ、と唸りレイちゃんは机に突っ伏した。


「大丈夫、そんなに難しくないから。じゃあ説明するよ。まず…」


 そう。そんなに小難しい事はしない。軍略と呼べるような代物でもない。私がするのは御膳立てみたいな物だ。ちょっと私が大変かも知れないけど、でも苦には全然感じない。寧ろ楽しくなってきた。

 勿論、これはゲームじゃなくて本物の戦。私の采配次第でこっちが負けちゃうかもしれないんだ。でも全然負ける気がしない。自惚れじゃなく。


 軍議はその日の夜遅くまで続いた。




 戦はもうすぐそこだ。 


 




 

 








 

 生きていたか。

 


 盃に舞い落ちた花弁が波紋を微かに立てる。


 あの夜も今宵のように美しい月夜であった。


 兄上と俺は別の生き物だ。同じ場所で生まれ、同じ様に生きたのに、だ。


 考え方が違う。


 ハーネストの誇りはいい。俺も父上の息子。誇り高き翼人族の英雄の末裔だ。


 だが、食える分だけの土地があればいいと言うのは理想だ。

 

 所詮、理想なのだ。

 

 俺の想いは昔からただ一つ。俺は民に腹一杯食わしてやりたい。ひもじい思いはさせたくはない。豊かに暮らしてほしいのだ。だからこそ、土地とそれを守る力を欲した。

 

 誇りでは飯は食えぬのだ。


 しかし、兄上はハーネストの古き教えを重んじた。


 何度も、何度も俺は兄上に自分の考えを伝えた。

 

 しかし、兄上の考えは変わる事はなかった。


 配下や里の者は何も言わない。だが、皆苦しい思いをしているのを俺は知っていた。


 だからこそ皆、あの時俺について来てくれた。


 里を焼いたのは俺の決意の表明だ。


 もう、戻れぬように。


 後悔せぬように。



 だが、兄上は帰ってきた。宵闇の魔女という脅威を引き連れて。



 …負けるやもしれぬな。


 弱気になっている自分に気付き、ふっと嗤い、酒を煽る。


 俺は負けぬ。民の為、里を焼いた自分の為。

 

 そして、俺を分かってくれたシャクジョの為に。

 

 俺は負ける訳にはいかぬ。


「シュエン」


「…はっ」


「準備は整ったか」


「万全に御座います。何時でも出陣出来ますゆえ」


「…で、あるか」


 盃を置き、傍らの曼珠沙華を手に立ち上がる。



「敵は我に仇なすハーネストの亡霊と宵闇の魔女!!皆に伝えよ!!出陣じゃ!!」


「はっ!!」




 ゆくぞ、兄上。俺が、このスオウこそが真に正しい事を証明してくれるわ。





 待っておれ。

いつもありがとうございます。

アクセス数を見るのが日課となりました。沢山の方に読んで頂けていると思うと励みになります。

勃発まであと少し。






8月11日加筆修正致しました。

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