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7/13

中間テスト2週間前

「ひどい目に合ったっす…」


「ごめんごめん、シトラさん許して!」


僕たちは今、銭湯の休憩スペースに置かれていた椅子に座っている。


「それで、さっきの話は本当なの?えっと、シトラさんが獣人だって話…」


「はいっす…この通りっす」


扇風機のせいだろうかシトラさんがフードを取った瞬間、石鹸のいい香りが…って違う。


シトラさんは被っていたフードを取ると、何ともまぁ愛らし…フワフワでもふもふの立派な耳が存在していた…。


しかし見られるのが恥ずかしいのか、耳は下を向き出来るだけ音を拾わないようにしている。


「えっと…ホントだったんですね」


「ちょっと、ハンス!もっと他に言う事あるでしょ。スッゴク可愛いね!とか、何て愛らしいんだ!とか、まるでこの世に燦燦と咲いている向日葵のようだ!とか、色々とこの素晴らしい姿を表現する言葉が!」


「いや!そんな恥ずかしい事易々と言えないよ!」


「そ…そうっすよね…別に…」


――え!何でそんなに悲しそうな顔をするの、僕もなんか言ったほうが良かった。え、でもそんな…僕が考え付く言葉なんて…


「え、えっと!その…可愛い…です。はい、スッゴク…抱きしめたいくらいに…」


「はわぁぁぁ~~!そ…そんなに褒められても、べ…別にうれしくないから!この話はもう終わり!」


シトラさんは勢い良くフードを被る。


「中々ストレートでよかったわよ!」「グ!」


――なんだよその「グ!」は…


「それで、一応他の人には内緒にしておけばいいのかな…」


「そうしてもらえると嬉しいっす」


「じゃあ…3人だけの秘密ってことで」


その日僕たちは銭湯で解散した。


「さてと…体もリフレッシュできたし、そろそろ『何も考えない』ってやつをやってみようかな…」


家に着くと、速攻部屋へと戻りベッドに寝ころぶ。。


「何も考えない…何も考えない…何も考えない…何も考えない…何も…zzz…は!危ない…寝るところだった!」


――寝転がって居たら駄目だ…絶対に眠っちゃう。椅子に座ってもう1度…


僕は椅子へと移動し、再び目を閉じる。


「何も考えない…何も考えない…何も考えない…何も考えない…何も…」


――ダメだ…何も感じない。『何も考えない』ってどうすればいいんだ。


「何も考えないことで、自身のマナを感じることが出来る…考えることと感じることに何か関係があるのか…考えていない時は感じることが出来て、考えているときは感じることが出来ない…なんでこんな2つに分かれてるんだろ。左手と右手じゃあるまいし…。――左手と右手…右脳と左脳、なんか関係ある気がする…」


僕は左目を閉じ、右手に意識を収集させる。


右目は開けたまま、左手も開けたまま…


「ンググググググ……はぁ…ダメだ。何も感じられない、…何で僕はこんなバカみたいなこと真剣にやってるんだろう…」


自分に問いかけながらも、やるしかないためもう1度考えてみる。


――僕の場合、何も考えていない時と言うのは寝てしまう寸前だと思う。寝る寸前に何かを感じることが出来れば、それはきっとマナなのだろうが…寝る寸前なんてほぼ意識無いし…何かを感じるなんてできないだろ。


「えっと、まぁ…とりあえず魔力を1回体に流してみようか。もしかしたら普通に何か感じれるかもしれないし。『身体強化』の魔法を発動させて、体が爆発した時も魔力が出てたわけだし」


魔法書に手を当て、魔法杖を取り出す。


「えっと…家の中だし、火属性魔法は危ないよな。まぁ、風魔法でいっか、どうせ生活魔法だし。『風よ』」


すると、魔法陣が緑色に光り隙間風のような風が吹く…


「そのまま…そのまま…魔法を出し続けろ…」


――魔力が減って行っているのを感じる…生活魔法でも少しずつ魔力は減るんだな、やっぱり。この魔力がどこから出ているかを感じ取る事が出来れば…マナを感じたことと同じなんじゃないだろうか。


しかし…いくら魔法を出し続けても、自身の魔力が減っていくだけでマナ本体を感じることは到底できなかった。


「はぁ…ダメか…。明日もう1度ロスト先生の所に行ってヒントでも貰おう。一応『何も考えない』ってことを考えて努力したし…」


――何も考えないか…考えることが無くなったら人はどうなるんだろうか。


「さてと、昼ご飯でも作りますか」


魔法杖を魔法書の上に置く、魔法陣が光り、魔法杖は魔法陣の中へと戻っていく。


階段を降り、キッチンへと直行し冷蔵庫を開ける。


「えっと…肉魚…なし、卵…無し…豆腐無…って何もないな。そう言えば最近買い物に行ってなかったっけ。昼食作るのにわざわざ買いに行くのもな…冷凍食品で良いか」


冷凍庫を開けるが…


「何だ…冷凍庫もすっからかんだ…うう、もう買いに行くしかないじゃないか…。僕のこの飢えを何とか出来るのは僕しかいない…」


――さっさと買いに行くぞ…それとも外で食べるという手もあるか…いやいや、結局食材は買わないといけないんだし、買い物してこよう。


僕はジャージのまま財布を手にして買い物に行く。


近くのスーパーに向かい、大体の買い物を済ませる。


「野菜類、肉類、魚類、大体買ったからな。これだけあれば何か簡単なものくらいは作って食べられそうだ…ん?」


天気予報では曇りだったのだが、小さな水滴が1つ…また1つと僕の頬をなでる。


そして段々と水滴の量が増えて行った。


「…雨…か、いきなり降ってきたな…何処か雨を凌げる場所は…」


近くに公園があることに気が付き、丁度屋根付きの休憩所があるではないか。


僕はそこまで全力で走り、額に浮かぶ雨か汗か分からないような水分を、全く水を吸わないジャージで拭う。


「ああ…せっかくお風呂に入ったのに。またお風呂に入らないといけないじゃん」


ジャージが全く水を吸わないので、首にかけていたタオルを使い体と額に付いた水分を吸い取る。


「うわ~ひどい、降りようだな…今日は曇りだって言ってただろ、あの天気予報し」


――あれ…さっきまで誰もいなかったと思うんだけど。


「ん?いや~雨酷いな、こんなに降るとは思ってなかったよ。マギアも持ってきてなかったし。もう最悪」


――いったい誰だ、この人…


僕の隣に座ってきたのは、男…だよな、青色と黒色が混ざったかのような髪色に黒いジャージを着ていた。髪は雨に打たれたのか相当濡れている。当然のように黒ジャージも地面に雨水が滴るほどだ。


「えっと…誰ですか?」


「え、僕のこと知らない?そう、じゃあこの国で1番高い山は何処か分かる?」


「え…いきなり」


――この国で1番高い山は、富士金山だよな…有名な観光地だし。


「富士金山…」


「正解!まぁ分かるよね、だってこの国で1番高い山なんだもん。じゃあ、3番目に高い山は何処か分かる?」


――さ…3番目…3番目って言った何処の山なんだろう…全然分からない。


「わ…分かりません」


「だよね~、だって3番目の山だもんね。正解は奥穂山でした。聞いたことあった?いや、無いよね、3番目の山なんて眼中にないもんね普通、大体1番が上位の2番3番を食っちゃうんだもん。2番はまだいいよ、1番に届きそうで届かないんだから。でも3番は違う、3番の上には1番じゃなくて2番があるんだ…この差がどれだけ大きいか…」


――さっきからいったい何を言ってるんだ…


「あ!ごめん、僕の名前はヨイチ・タイゲンよろしく」


「よ…よろしく。僕の名前はハンス・アンデシュって言います。あの…どこかでお会いしたことありましたっけ?」


「え?ないよ。今ここで初めて会った。ハンスっちと同じく、雨宿りをしに来たら丁度ここにハンスっちが居ただけ」


「そうなんだ、今まで何してたの?僕は買い物だけど」


「僕はね、いつも通り鍛錬してたよ。まぁ、いつもと同じことをしてるだけなんだけどね。でもこれが結構面倒臭くてさ~。さっさと終わらせて帰ろうと思ったんだけど…このありさまですわ」


――よく見れば靴まで全身びしょびしょだな…このままじゃ風邪ひきそうだ。


僕は自分の首にかけていたタオルを渡す。


「これ使ってよ、まぁ僕がさっき使ったやつだけど。嫌だったら無理に使わなくても良いから」


「ホントに!ありがとう、ハンスっちは良い人だね~」


タオルを頭に乗せグシャグシャにかき回す、ストレートだった髪が一気に天パになった。


「それにしても…中々止みそうにないですね…朝は晴れてたのに」


「天気雨って言うし、もうすぐ6月頃だし梅雨に近づいているってことかな。でも、雲が無い所もあるから、すぐ晴れるよ。きっと」


ヨイチ君が言うように瞬く間に雲が晴れていき、青い空が見えるようになった。


「ほらね!」


彼はそう言って笑った。


「ほんとですね…これでやっと帰れます。それじゃあ、僕はこれで」


「うん、バイバイ!また学園で会おうね~!」


ヨイチ君はそのまま走って行ってしまった。


「え…学園で会おう…ていう事はヨイチ君も僕と同じ学園に通ってるのか。でもどうして僕と同じ学園だって分かったんだ?」


足りない頭で考えても何も答えが出てこない。


「あ…タオル返してもらうの忘れた…」


――まあ、良いかセール品のタオルだし…


「よっこらせ」


ビニール袋にパンパンに詰まった食材を何とか片手で持ち、バランスを採る。


「さっさと帰って、昼食を作らないと…」



その日の夜。


夕食前に調べたいことがあり、世界地図を探していた。


「え~と…え~と…世界地図、世界地図と…あ、あった!」


僕は本棚から古びた世界地図の本を取り出すと、全世界の大陸が乗っているメルカトル図法で表されたページを開く。


「ちょうど中心にあるのがジャポニ王国で…東にある大きな大陸の中にタンタン国があって…北に行くと氷河、南に行くと大陸国家のロセアニア国、西に行くと…ここもステイツ国っていう大きな大陸がある…主な大陸は3つで大きな国が4つ。こうやって見ると…世界は広いよな…」


この他にも国はあるのだが、僕の見ている世界地図が古すぎるのか、他国の名前が書かれていなかった。


何故この世界地図を見たかというと、ちょっとだけ世界に興味が出てきたからだ。


僕はまだ1度もジャポニ王国以外に行ったことが無い。


父さんは昔から良く飛び回ってたけど…最近は行ってないな、仕事では仕方なく言っているみたいだけど。


まぁ危険だもんね、父さん一気に世界中の有名人になってしまったから。


「父さんもいろんなところを回ってたんだよな…地図を見ると、結構近そうだけど…」


――タンタン国とジャポニ王国で人種が全然違うなんて、この世界はまだまだ広いって教えられた気がするよ。


世界地図を閉じようと思った瞬間…何か違和感があることに気が付いた。


「あれ…ここ…なんかスッゴク小さな印が付いてる…なんでだ?僕は何にもしてないぞ。…それにこんな小さな印、針で付けたとしか思えない…」


その印はジャポニ王国の何処を刺しているか分からないけど確かに小さな印が地図に書かれている…


「ここ何処だ…でも…」


「お~い!ハンス、夕食だぞ」


「は~い!今行く」


気にはなったが、元の本棚に世界地図を戻した。


夕食中…


「父さんは世界をいっぱい見てきたんでしょ、どんな所だった?」


「ん?そうだな…ジャポニ王国とは全く文化が違って面白かったぞ。タンタン国はとにかくいっぱい獣人族が居たな…どこを見ても猫耳犬耳ウサギ耳とか楽しかったけど、すごい人込みで歩くのも大変だったよ」


「どこが一番楽しかった?」


「そうだな…ロセアニア国は良かったぞ、美人なエルフさんたちがいっぱいでどこ見ても美人しかいない。あ~でもイケメンもいっぱいいたからな、自分の容姿に自信があるならすごく楽しいと思うぞ」


「と言う事は…父さん自分の容姿に自信があったってこと…」


「さぁ…どうだろうね。大抵仕事で行ってたからな…本当にメジャーな所にしか行けてないんだよ」


「へ~、マイナーな所も行けばよかったじゃん」


「それが、忙しくて全然外出られないの。研究の発表やら、これからの事やらで目が回るくらい忙しかったな…」


「へえ…ご飯は何処がおいしかった?」


「そりゃあ1番おいしかったのはジャポニ王国だよ、これはハッキリ言えるけどジャポニ王国のご飯が1番おいしい。合ってるって言った方が良いのかな」


「そうなんだ…」


他愛もない話が続く…


「今日…友達っぽい子が出来たんだけどさ…その子が自分の容姿に自信がないみたいなんだよ。自分が周りと全然違うって…僕は気にしてないんだけど、その子は凄く気にしちゃってて」


「なるほど…父さんにも仕事仲間はいっぱいいるけど、友達って言える人はほんとに少ないな…1番よく飲みに行ってたのはロストなんだよな。…昔からよく絡んできたんだよあいつ。大学時代なんてしょっちゅう『レポート見せろ』やら、『飲みに行くぞ』やら、相当引っ掻き回された思いでしかない、その上あの酒癖の悪さ…よく友達になれたよな…」


「確かに…すごく想像がつく。ロスト先生ならそんなことしそう…ってそんな昔から知り合いだったの!」


「ん?知らなかったのか、何ならもっと昔から知り合いだったぞ。ロストは曽お爺ちゃんに憧れて魔法書の研究をやっているんだ」


「初耳なんだけど…そうだったんだ」


「まぁ…話は戻るけど、将来的に友達になっている人なんてほんの数人なんだから気にしなくていいんじゃないかって父さんは思うかな…周りに何思われたって、ハンスが友達なんだから。友達が何も思っていなければオールオッケーなんじゃない」


「気楽な考え方だね…」


「気楽に考えた方が生きやすい事もあるんだよ。何事にも…」


父さんとの話は盛り上がり、その中でもロスト先生の話が凄くて、先生は昔からあの姿らしく不死魔法でも開発したんじゃないかって大学内で噂が立ち、とんでもなく激怒したらい。その後、結局父さんが飲みに付き合ったという話が、お腹が捻じれるくらい面白かった。


――今度ロスト先生をからかってみよう。


お風呂に入り…ふと今日のことを思い返す。


「今日はいろいろと忙しい1日だったな…明日の朝にもまたあの2人来るのかな、起きられるだろうか。休日も明日で最後だし…もうすぐテストもあるし、やらなきゃいけないことがいっぱいだな」


現実逃避としたいと思いつつも、現実は僕を逃がしてはくれないだろう…ならば僕は現実に立ち向かっていかなければならない。


「曽お爺ちゃんか…1回あってみたかったな。ロスト先生に聞けば何か分かるかもしれないけど…凄く話が長くなりそうだし」


この家には曽お爺ちゃん関連の物が全くない。


ホントに僕の部屋にある魔法書だけしか残っている物が無いのだ。


「学校の図書館にでも行けば試料とかあるのかな…」


気になりつつもすでに10時を回っているため、ササっと体を洗い浴室から出る。


歯を磨きトイレを済ませ、寝る準備を整えた。


自室に戻りベッドに寝転がると、1日の疲れが一気に襲ってきたため静かに瞼を閉じる。


瞼を閉じるとそこはもう暗闇の世界だ…視界は遮られ、光は届かない。



翌朝


朝日が差し込み、暗い部屋を照らす。


光りによって自然に目が覚め、時計を見ると5時00分…またこれかと思いながらも2度寝をしようとした時、昨日と同じようにインターフォンが鳴った。


そこには昨日同じ2人が立っており、仕方なく僕もついていきトレーニングを終える。


へとへとになりながら、昨日はしなかった『身体強化魔法』の練習を始めた。


「ハンス、それでロスト先生の言っていた『考えるな!』の意味は分かったの?」


「全く…昨日色々試したけど絣もしなかったよ。何かアイデアとかない?」


「運動に集中してるときは何も考えないっすけどね…」


「確かに…それじゃあ僕はまだ集中しきれてないってことかな…」


「いや…でも私もマナを感じたような経験は無いっす。あ、でも師匠との鍛錬の時…よく魔力が流れ出てるって言うんすかね…そんな感覚は経験したことあるっすよ」


「なるほど…じゃあまず普通に『身体強化魔法』を使ってみようと思う。この前みたいに全身に掛けようとするんじゃなく、足だけに集中して」


魔法書を開き、呪文を唱える。


「『脚力上昇!』」


しかし…何も起きない。


「あれ…今回は魔法さえ発動しなかったな、どうしてだろう」


「その魔法書の中に、『脚力上昇』が入ってないんじゃないの?確か、魔法書に書かれているか、魔法陣自体を暗記しているかしてないと発動できないんじゃなかった」


「あ…そうか、ロスト先生もそんなこと言ってたな…。じゃあ、仕方ないから『身体強化』をやってみるよ」


「ぶっ倒れたらまた運んであげるわ、だから心配せずにやってみなさい」


「よし!『身体強化!』」


魔法書が光、僕の体の中で魔力が動いているのが分かる。


「この感じ…前と同じだ。でも…これ、マナを感じてるっていうのか…」


魔力の流れは感じる…しかし、マナそのものを感じることはできていない気がする。


結局『身体強化』は発動せず、自然と魔力は外へと流れて行った。


「あれ…今回は爆発しなかった…どうしてだろう?」


「それはたぶん、魔力の流れが良くなったからだと思うっす。ちゃんと朝に運動したことによって、体がほぐされて流れやすくなったんだと思うっす」


「そうか…なら今の内に何とかコツをつかめれば…!」


「行けるかもしれないわね」


――そんなことを言われては、俄然やる気が湧いてきたぞ。


「よし!何回も反復練習だ!」


数時間後…


「はぁはぁはぁはぁはぁ…も~無理、ダメ、絶対…」


「結局1回もうまくいかなかったわね…」


「どうして何すかね…『身体強化』そんなに難しいもん何すか?」


「難しいも何も…魔力が全然思った通りに動かせないんだよ…。魔力を体に留めようと思っても…流れて行っちゃう感じ。例えるなら、川に笹舟を流しているみたいな…」


「シトラさん、私たちもちょっと意識しながら『身体強化』やってみない?よくよく考えてみれば、私も『身体強化』をどうやって制御しているのかちゃんと説明できないし」


「そうっすね、いつも無意識にやってるっすから。意識してやってみるのもいい鍛錬になるはずっす!」


2人は互いにマギアを起動し、『身体強化』を行う。


『身体強化!』×2


2人の体は淡く光っている…しっかりと『身体強化』が発動している状態だ。


「どう…何か分かった?」


「――分からないわね…」


「そうっすね…いつの間にか発動してるっす」


――なんとも、この2人でさえ魔法が発動する際に魔力が体を流れる感覚を全く感じ取れていないようである。それなのに、この僕が分かるわけないじゃないか。


リーフは顎に手を当て、何か考えている。


「どうしたの、リーフ?考え事…」


「今一度、マギアの性能を考えてみたの…マギアの正式名は『魔法力補助器具』つまり、魔力を補助する器具ってこと。と言う事は私たちの中に流れる魔力をこのマギアが操作していると言う事になる」


「まぁ、そう言う道具だからね…それがどうしたの?」


「私は、このマギアをもうずっと昔から使ってきた。8年くらいかな…」


「うん…それくらいかもね」


「魔力を感じ始めるのは約5歳から、つまりマナが発達してくるのが5歳からと言う事になる。私の場合は4歳くらいからマギアを使っているから、マナを感じれなくなっていった…こう考えることもできるかも…と思って」


「でも…それじゃあ、僕の場合が説明できない。僕ずっとマギアを使ってなかったけど、未だにマナを感じることが出来てないんだよ。それに、ロスト先生が言ってたけど『新型マギア』が出てくるまでは授業でちゃんとマナの講義があったらしいから、そんな簡単にマナの事を感じにくくなるなんて…無いんじゃないかな。やっぱりロスト先生の言う『何も考えるな!』が出来てないから、だと思うけど…」


「確かに…まぁ、今の所は考えないでおきましょ。さ!ハンス、今からが本番よ!これだけ魔力を使ったんだから、そろそろ…すっからかんになってきたんじゃない」


「いや…だいぶ前からもうスッカラカンだよ…」


「そこからさらに魔力をひねり出すことによって、マナが鍛えられるって魔法学の先生が言ってたでしょ。さ!もう一度!」


「そうっす!筋トレも辛くなってきた時からもう一歩行くから強く太い筋肉繊維が作られるんっすよ!ハンス君ファイトっす!」


「だ~、もう!分かったよ。やればいいんでしょ、やれば!」


僕はこの時冷静さを欠いていた。


「『身体強化!!』」


苦し紛れに言った呪文、『身体強化』


「いいですか、魔法を使う際に最も愚かな行為として、冷静さを失った呪文と言うものがあります。冷静さを失ったまま呪文を唱えた場合、高確率で魔力のずれが生じてしまうのです。魔法とは本来繊細な行為が積み重なったもの…冷静さを欠いた呪文では発動するのはほぼないでしょう。最悪の場合マナを傷付けてしまう場合もあります。しっかりと冷静さを保ち考えながら魔法を使用しましょう」


「あ…」


魔力が僕の体の中で激しくぶつかり合い、そして…あの時のように爆発した。


「あ~あ…やっちゃった…ハンスってほんと…おバカよね」




「………」


――ん…あれ…僕はいったい…ここは何処だ…あれ…体が動かない。どういう事、確か僕はリーフ、シトラさんと一緒に鍛錬してたはず…


「お…やっと目を覚ましたか…よく眠ってたな。お前…」


「………」


――誰だ…この人…いや、人なのか…暗くてよく見えない。


「どうした?何かあったのか?」


暗闇の向こうから足音が響いてくる。


「あ、姉さん。ほら、こいつが目を覚ましたんだ」


「ん…そうか、ならば司令に報告せねばなるまい。行ってくる」


人ならざる者はその場を立ち去っていく。


「なあ?お前も復活したばかりなのか?だから話せないんだろ、俺も少し前に目覚めたばかりだからさ。いや~長かったぜ、いきなり封印されるんだもんよ。起きたらいつの間にか人間の世界になってやんの。マジで笑えるよな!」


――いったい何を言ってるんだ…訳が分からない…僕はいったい誰に話しかけられているんだ。ん…ちょっと待て、この体…僕の体じゃない…


その事に気が付いた時…先ほどの足音とまた違う足音が近づいてくる。


「指令、先ほど目覚めたようです。3体目の剣にございます。まだ目覚めたばかりで言葉を発せられぬようですが…って、司令何を!」


――え…なんか剣みたいなものを抜いているんだけど…どういうこと…


そして剣を持つ者は僕の額目掛けて剣を構え、脳天を突き刺した。



「は!!!」


「あ、起きたの?今回は前よりもひどく無さそうね、良かったじゃない」


僕はリーフの背中の上で目を覚ました。


「いったい…今のは…何だったんだ…」


「え…どうしたの?また体が痛むの、今回は前より優しくおぶってあげてるつもりなんだけど」


「い…いや…そうじゃなくて…。あれ…?何だったっけ…何か怖いものを見た気がするんだけど…」


「何寝ぼけてるの、起きたんなら早く下りてくれない、結構重いんだから」


「ご…ごめん、すぐ下りる」


僕が地面に足を突いた瞬間…


「痛ったあああぁぁぁぁああ!」


――体に激痛が走る…前と同じ痛みだ、この痛みをまた味わうことになるなんて…。


痛みのせいか、お陰か…さっき見た夢のことなどすっかり忘れてしまった。


「もう…また結局私がおぶって行かなきゃいけないじゃない」


「私がおぶってあげても良いっすよ、汗臭いかもしれないっすけど」


――ううう…シトラさん…優しいっす…。


「それじゃあ…シトラさんに…って、リーフ何してるの」


「ま、私が背負ったほうがシトラさんに変な気を起こさずに済むでしょ」


「え…ハンス君そんなこと思ってたんっすか…」


「ちょ!何言ってるのさ!僕はただその善意に甘えようと…それにリーフだって嫌がってたじゃないか」


「別に嫌とは行ってないでしょ。ハンス1人くらい運ぶなんて楽勝なんだから」


「そう…ならお願いするよ…いつかリーフが倒れたら、僕が背負ってあげるからさ」


「ハンスの前で倒れるなんて在り得ないから」


リーフは堂々と言い切った。


僕を家まで預け、リーフたちは帰って行った。


「う…う…う…」


アンデッドのような動きをしながら、床を這いつくばり移動する。


「ク~ン…」


「あ…タロー…大丈夫、大丈夫…心配いらないから…」


――愛犬のタローが心配そうに近寄ってきてくれた…なんて良いやつなんだ。


何とか階段をよじ登り、自分の部屋に向う。


部屋に入ってそのままベッドにもぐりこむ。


「もうダメ…一歩も動けない…寝よう」


僕は夕方まで爆睡し、午後5時ごろに目を覚ます。


「う…う、あ…もう5時か日曜なのに…なんかスッゴクもったいない事をしたような気がする」


僕は無意識に伸びをしてしまった。


「痛!…くない…あれ…午前中まで痛すぎて立てなかったのに…もう痛みが引いてる。前の時は1日以上も痛みが続いてたのに…」


そのままベッドから立ち上がり、机の椅子に腰かける。


「うん…やっぱり痛くない。体がなれたのか…それとも感覚がマヒってるだけなのかも…でもやたら体が軽いんだよな…」


日曜日は何とも言えない終わりを迎えた。



中間テストまで残り2週間。残り14日


月曜日…土日と同じように朝に運動を行い、体に疲労を蓄積させ、そのまま学園に直行する。


「はぁはぁはぁ…朝走ったのに…学園に行くためにまた走るなんて…」


「ツベコベ言ってないで走る、あと2週間で中間テストなんだから。私だって今回は負けてられないのよ!」


「はぁはぁ…えっと…あの…誰だっけ…走りすぎて、頭が回らない…キーラ…キーリ…名前何だったかな…」


「キール・スプレイド。どうして貴族の名前を忘れるかな…」


「いや…覚えてたよ…走って無ければ…」


何とか学園まで走り切り、校門前で一度膝を地面に付ける。


「はぁはぁはぁ…もう…今日の学園の授業…絶対に集中できない」


「情けないな…ん?」


「え?どうしたのリーフ…」


リーフは細目で何処かを見つめている…その時。


「あ!ちょっと待って、リーフ。どこ行くの!」


行き成りリーフが走り出した。


僕も何とか立ち上がり、辺りがざわついているのを肌で感じる。


「おい…お前、今誰に喧嘩売ってるのか分かってるのか?」


物凄い重圧でリーフを睨みつけるそいつは先ほど話していた、キール・スプレイドだ…


「それはこっちのセリフよキール。貴方…今ここでこの子に魔法を放とうとしたわね」


リーフの後ろには腰が抜けて動けないのか、尻もちをついたままの男子生徒は何が起きたか分からないといった顔で、その場に座っている。


「そいつが、俺の邪魔をしたからだろ…なら魔法を使っても許される」


「そんな訳ないでしょ!学園内では通常、魔法の使用は禁止。授業中、または施設でのみ、魔法の使用は許可されているわ!」


「俺には関係ない。売られた喧嘩は何が何でも買い取る。それが家の教育方針だ…どけ、お前には関係ない。後ろの奴に喧嘩を売られたんだからな」


「ちょ…ちょっと待ってくださいよ。僕はただ…前を歩いていて少し転んだだけです…」


「ほら、そう言ってるじゃない。わざとじゃないのよ、許してあげなさい」


「関係ない…どんなことが理由であっても俺の前を阻んだんだ…それ相応の落とし前は付けさせてもらわないとこっちの気が済まないんだよ…」


「相変わらずの性格ね…今年入学者の中で1位の貴方がこれほど非常識な人だとは思わなかった」


「俺が1位になるのは当然だ…それは決定事項なのだから。1位と2位との差には歴然の差がある。お前は俺に1度も攻撃を当てられていないだろう、それが結果だ」


――え…あのリーフが1度も攻撃を当てられてない…そんな嘘だろ。


「貴方こそ、私に攻撃を当てられてないじゃない。お互い様よ」


「俺は本気でやってないだけだ…」


キールは目をそらし、違う方向を向く。


「何で目をそらすの…今私は貴方に話しかけてるんですけど!貴族様は相手と話すとき、そうやって目をそらすのがルール何ですか!」


――ヤバイ…リーフの御怒りモードだ…早く停めないと。


僕はすぐさま走り出し、リーフの手を掴み走る…何故か走れた…


「ちょ!ハンス、まだ私は話の途中…!」


「貴族様にそんな口の利き方をしてはいけません!逃げるぞ!」


僕たちはその場を撤退した。


「はぁはぁはぁはぁ…もう、また走らせるなんて。勘弁してくれよ」


「なんであんなことしたのよ、私はまだ言いたい事がいっぱいあったのに!」


「あのままだったら、きっと2人とも魔法を放ってたと思うから…僕に感謝してほしいくらいなんだけど」


「え、私が規則を守らないわけないでしょ」


――いや…破るね、切れたら理性が少し欠けちゃうんだもん。リーフ。


「とりあえず、ちゃんとクラスで誤って起きなよ。クラスメートなんだから」


「誰があんな奴…絶対に次の中間テストで1位の座を奪ってやる!」


「そうだよ…テストで勝負すればいいんだから。それにしても…リーフが1回も攻撃を当てられてないって言うのが驚きだよ…」


「私も、向きになって攻撃当てられてない…何て言ったけど…確かにキールの実力は本物、魔法学演習基礎Ⅰの時模擬戦をしたけれど…1度も攻撃を当てられなかった。それに…どう見ても手加減してる。こっちは全力でやってるのに…」


リーフは相当悔しいのかガントレットをはめた右手を強く握りしめている。


「本番では絶対に勝つ!それが今の目標、キールに本気を出させる!」


「ああ…頑張って…」


――あ…もう戦う前提なんだ…他のSランクの人たちは目じゃないってことね…


「じゃあ…僕はそろそろ教室に行くから、ちゃんと誤っておくんだよ。まだ6年間も学園があるんだから。こんな所で1位に嫌われたら、後々面倒なことになる」


「次のテストであいつは2位に転落するのよ…私に抜かれてね」


「はぁ…良いか、絶対に謝っておけよ」


僕は何とか念押ししておくが…プライドの高いリーフのことだ、誤りはしないだろう。


既に疲れ切った形相で教室に付き、机に何とか移動し椅子へ座る。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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