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シトラさんの秘密

第1回目の講義が終わり帰宅の準備をしていた。


「まだ1回目だって言うのに…もう無理な気がしてきたよ…それにしても、コハルさんもシトラさんも凄かったな…1回目の講義から、あれだけ俊敏な動きが出来るなんて…。僕もいつかあんな風になれるのだろうか…」


僕は俯きながら家に帰っていると…


「あれ?ハンスじゃない、どうしたのそんな俯いて…なんか嫌な事でもあった?」


僕に話しかけてきたのは、リーフだった。


「いや…家の中が地獄なのを考えると…俯きたくもなるでしょ…」


「ああ~何となく分かった。まあ、元気出しなさいよ。私が言えるのはこれだけ、元気はハンスの中からしか生まれないんだから」


「僕はリーフの元気を分けて欲しいよ…」


「元気を分ける事は出来ないわ。私が出来るのは元気を生み出す切っ掛けを与えてあげるだけ。私みたいな元気な人を見ると、ハンスもちょっと元気が出てくるでしょ。これは元気をもらっているんじゃなくて、自分の中で元気を生み出しているのよ!」


「はぁ…まぁ分からなくもない…」


リーフのよく分からない哲学論を聞かされながら帰宅する。


そして僕は…案の定、家の中を見て驚愕する。


「二日酔いで倒れている人が5人…ロスト先生まだ倒れてるし…」


――どこかの殺人現場かな…


「逆に仕事をしている人が3人…あれだけ飲んでおいて…潰れないのはさすがだな」


その後何とか家の中を綺麗に掃除し、倒れている学生の3人とロスト先生、フィルさんを介抱する。


全員思考が天手古舞…の状態だ。


ロスト先生は僕にくっ付いてくる始末…


絶対に恥ずかしい思いをするのは先生の方なのに…どうして大人はこんな無駄な飲み物を飲むのだろうか…。


仕事が終わった父さんがタクシーを使って潰れている5人を何とか家まで送り届けた。


僕の切実な思いとして家の中でもう金輪際お酒を飲まないで欲しい。


地獄の1日が終わり


その後、あっという間に1カ月が過ぎた。



『魔法学演習基礎Ⅰ』の授業


「さて、第1回試験まであと1カ月、魔法学演習基礎Ⅰの講義を残り2回行った後、第8回目の講義で試合を行ってもらう。もう時間が無いぞ!集中して取り組むように!」


「はい!」×生徒


「では!これから、第5回『魔法学演習基礎Ⅰ』の講義を始める。今日は第4回までの講義のお浚い+ちょっとしたアドバイスをしようと考えている。来週実際に試合形式で数名戦ってもらうためそのつもりでいてくれ!最後の週では個別で指導してほしいものが居れば指導する。だが、何も聞くことが無いのであれば、最後の週は自習だ。よく自分の得意な点不得意な点を確認しておくように!」


「はい!」×生徒


「では、まずランニングから!終了したのち準備体操!」


「はい!」×生徒


フミコ先生の講義+ちょっとしたアドバイスが終わった後、いつもの練習時間中


「良し!そこで踏み込む!」


「はい!!」


「いい感じだ!その調子でどんどん攻めてけ!コハルの攻撃は攻めれば攻めるほど敵は嫌がるからな!」


「は、はい!」


――す…凄い、コハルさん…フミコ先生と打ち合ってる。しかも滅茶苦茶早い。周りのクラスメイトも凝視しちゃってるよ。でも…これは見ちゃうよな…


コハルさんの足と腕が淡く光っている。


『身体強化魔法』の『身体強化』は全身を満遍なく強化する魔法だ。


しかし、部分的に『身体強化魔法』を行うことによって、『身体強化』以上の効果を発揮する魔法もある。


それが今、コハルさんが使っているであろう『腕力上昇』『脚力上昇』などの『部分的身体強化魔法』である。


魔法を2つ一気に使用することになるが、効果は『身体強化』だけを行った時よりも大きい。


その分、魔力の消費も2倍早まってしまうが、コハルさんの様にスピードが持ち味ならば使うことも視野に入るのだろう。


「ハンス君!誰を見てるんっすか?」


「ん?ああ、ほらあそこ」


コハルさんのいる方向を向き、シトラさんに教える。


「あ~、コハルさんっすね!確かに、コハルさんの戦いは見てて面白いっすからね。あのマギア裁き惚れ惚れするっす!私もいつか戦いたいっすね…」


シトラさんの綺麗な琥珀眼は…真っ赤な炎の如く燃え滾っている。


「ねえ…フミコ先生ってさ、コハルちゃんにばっかり教えてない?私達にももっと教えて欲しいんだけど…」


「ほんとそれ、これじゃあ…コハルちゃんばっかり強くなっちゃうじゃん…」


対して練習もしていないクラスメイトはコハルさんの練習を見ながら、愚痴を言っている…


ガツン!と何か言ってやりたかったが…何か言い返されるのが怖くて口をつぐんだ。


「ちょっと!何言ってるんすか!コハルちゃんは自分からフミコ先生の所にお願いしに行ってるんすよ。先生に教えてもらいたいんだったら自分から行けばいいじゃないっすか!こんな所で油売ってないでさっさと練習したらどおっすか!」


先ほどよりもやや低い声を響かせ、シトラさんはそのクラスメイトに向ってビシッ!と正論をぶつけまくった。


――やだ…何このカッコいい人…なんか惚れそうなんですけど。


「な…べ、べつにあなたには関係ないでしょ。油売ってたわけじゃないから、ちょっと休憩してただけだから」


そう言葉を吐き捨てながら2人はその場を去っていく。


「ふん!練習している人の悪口を言われると頭にくるっす!」


「すごいね、シトラさん…」


「何がっすか?」


「いや…ちゃんと注意できるのが凄いな…と思って」


「当たり前じゃないっすか、そんな事。悪いことは悪い、良いことは良い、それくらい誰でも判断出来るっす!あとはちょっとした勇気だけっすよ」


シトラさんはフードの上からでも分かるほど口角を上げ笑っている。


――ちょっとした勇気か…


「あ!そろそろコハルさんの練習終わりそうっすね!次は私が先生とやってくるっす!」


そう言うと、一直線で先生のもとへと走って行った。


「僕も…もう少し頑張ろう!」


気合いを入れ直し、魔法学で教わった基礎をおさらいする。


「まず…体の中にあるマナから使う量の魔力を意識して…取り出す。取り出した魔力を体全体に循環させながら魔力を高めていき…魔法陣によって体外に放出する…。放出される際、魔法陣が魔力を魔法陣に書かれている効果に影響して性質が変化すると…」


――この工程はマギアを使用すればすべて無意識下で使用できる…魔法書は全て意識してやらなければならない…あれ?積んでないか。


しかし、弱音なんて吐いている時間は無い。


魔力と言うものは体内にあるマナによって作られる。


それ以外に、空気中にも微量の魔力が含まれており、生活魔法の殆どがこの空気中の魔力を使用している。その為、体内のマナから魔力を取り出して使用する感覚とは大分違う。


「まず、僕は何とかしてマナから魔力を取り出せるようにならないと…話が始まらないぞ」


昨日の爆発はマナから適した量の魔力を取り出すことが出来なかったからではないかと僕は考えた…しかし、それぞれの魔法にあった魔力量は全て変わってくる。


しかも、用途に合わせて調節しなければならないと来たもんだ…


「まずは…マナを感じるところから…」


シトラさんの言っていた魔力の流れが悪いと言ったのは、マナから無意識に取り出した魔力を無意識下で循環させていたからだと思う。


――まぁ、単純に体力の問題と言う可能性もあるけど…。


どちらにせよ、問題点を探って1つ1つ解消していかないと絶対に魔法が使えるようにならない…これだけは分かる。


「それにしても…マナを意識するって難しいな…皆は無意識でやってるから、聞いても分からないと思うし…」


実際に魔法学の先生もマナを意識する方法を教えてはくれなかった。


マギアの特性上、教える必要の無い事なのかもしれない。


「仕方ない…ロスト先生に相談しに行こう…」


『魔法学演習基礎Ⅰ』終了後


「やっと授業が終わったっす!やっぱりコハルさん凄いっすね!私の動きについてくるなんて」


「いやいや…シトラちゃんも凄いよ、全然攻撃当たらないんだもん」


――あれ…なんだか2人とも凄く仲良くなってる?


「2人とも知り合いだったの?」


「え?いや、さっき初めて喋ったばかりっすよ」


「え…それなのにもう仲良くなったの」


「そうだよ、シトラちゃんとなぜかスッゴク話が合うの!」


「そうなんすよ、同じ武闘派って言うのもあるんすけど。好きな食べ物とか、好きな事とか色々と同じで友達にならない方がおかしいっす!」


「ほんとほんと!私もシトラちゃんと友達になれてスッゴク嬉しい」


「そ…そう。それは良かったね…」


――この2人が友達になってしまったのか…なんか色々とやばそうだな。


「やっぱり!コハルさんも鍛錬前にはシャトルランするっすか!私の最高記録は200回っす!」


「やるやる!私もお父さんとお兄ちゃんといっつも走らされてた、私は160回が限界だったけどね。でもお父さんとお兄ちゃんは完走してたよ!私もいつかお父さんみたいに剣を振るのが夢なんだ…」


「完走…それは凄いっすね!師匠以外に初めて完走した人を聞いたっす!」


――え…何話してるのこの2人…怖いんだけど…


「あの…2人とも…もちろん魔法を使った時だよね?」


「え?鍛錬前の準備運動に魔法なんて使わないよ、何言ってるのハンス君」


「そうっすよ、鍛錬前に本気出したら意味ないじゃないっすか!」


2人の顔が凄く怖く見える。


「は…ははは…。そそうだよね…」


――ダ、ダメだ…この人たち狂ってる…関わっちゃいけない人種だよ!


制服に着替え、僕はロスト先生の研究室へと向かた。


「すみません…ロスト先生は今すか…」


「う…ううう…」


「うわ…」


ロスト先生は地べたに這いつくばりうめき声をあげる…まるでアンデッドのようだ…。


「み…水…水を…」


「はいはい…水ですね」


コップに水道水を入れ、ロスト先生に手渡す…


「ああ…神よ…お恵みを頂けるのですね…感謝いたします…」


「さっさと飲んでください、僕には時間が無いんですから!」


ロスト先生はコップの水を飲み干す。


「よっこらせっと!テレジアちゃん完全復活!!」


ロスト先生は椅子の上に立ち、コップを高らかと上げ叫んだ。


「それで、ハンス君ここに何しに来たんだい?2日酔いの私を看病しに来てくれたのかな?」


「僕の知らない所で勝手に飲んだくれて2日酔いになった人を看病なんてしませんよ」


「ケチ~」


両手の握りこぶしを口元に寄せなんともウザイポーズをとる。


顔が幼いためか子供っぽさがさらに増し、さらにウザイ…


「そんな顔してもやらないですからね」


「ま、茶番はここまでにしておいて、何か質問しに来たんでしょ」


――切り替わるの早…


「はい…その、マナを感じるためにはどうしたら良いでしょうか。魔法学の授業じゃ習わなくて…」


「まぁ、今の教育方針的にマギアが中心だからね。マナを感じるっている基礎の基礎の基礎は全てマギアがやっちゃってるから、今の子供たちに教える必要が無いんだよ」


「やっぱり…そうなんですね」


「私もハンス君がここでつまずくと思ってずっとここで待ってました!エッヘン!」


吐出する胸も無い板胸をはり、偉く感謝したまえと言わんばかりの表情である。


「エッヘンて…それで僕はどうしたら良いんですか?」


「何も考えるな」


「え?何も考えるな…てどういう事ですか」


「だから、何も考えるな!これが基本の基本の基本なの!」


――マジで意味が分からない…何も考えるな…何も考えなかったらマナを感じることが出来るの?


「えっと…基本的に何をすれば…いいんですか?」


「そうだね…全部教えてあげても良いけど…教師的には生徒の探求心を育てたいところだ」


ロスト先生はいきなりキリっとした仕事が出来そうな人の眼をして言う。


「なんでそんな所で教師面するんですか!」


「いや!私教師だから!こう見えてもベテラン教師なんだから!さぁ、さっさと帰った帰った」


「グギギギ…」


――結局分かったのはロスト先生の言った『何も考えるな』のみ。この言葉だけでどうやってマナを感じろって言うんだよ…。


今は5月の後半…だいぶ日が沈むのが遅くなってきた、もう6時30分ごろだけどまだ比較的明るい。


「おーいハンス!あんたも今帰り」


「あ、リーフ。いつもながら遅いね」


「そりゃあ、やる事がいっぱいあるからね。ホントはもっと遅くまで残ってたいんだけど、これ以上残ってたら外が真っ暗になっちゃうし」


「リーフ怖いの苦手だもんね。特に夜の真っ暗で誰も通らない道とか」


「べ、別に怖いわけじゃないし…ちょっと苦手なだけだし」


斜め45度を向き僕の方を見ようとしない。


「はいはい、そういう事にしといてあげますよ」


「あ!信じてないでしょ!良いもん、私だってハンスの怖いもの知ってるんだから」


「な…何だよ、僕の怖いものって」


「教えてあげない、いつか戦う時に奥の手として取っておくんだから」


そう言ってリーフは駆け出して行った。


「ちょ!ホントに僕の怖い物って何だよ!気になるじゃないか」


僕もリーフを追いかける。


結局全速力で走ってもリーフには追い付けなかった。


土曜日or日曜日


「…せっかくの休日なのに…どうしてこうなった…」


現在の時刻午前5時30分…すでに太陽が出ており明るいがまだ少し肌寒い…。


「ハンス!早く準備運動しないお体動かないわよ!」


ジャージ姿のリーフが屈伸や震脚をしながら体をほぐしている。


「そうっすよ、ハンス君。せっかく練習するなら朝からが一番っす!」


オレンジ色のサウナスーツを着ているシトラさんはその場でジャンプしており、もう準備万端と言ったところだ。


少し前の事…


時刻午前5時ごろ


『ピンポン!ピンポン!』


「ん…何だよこんな時間に…はーい、今行きます」


玄関を開けるとそこにはシトラさんとリーフの姿が…


「ハンス君おはようっす!今日はいい天気っすね!」


「何、ハンスまだ着替えてないの?早くしないと置いてくわよ」


「へ…何言ってるの…?まだ朝5時だよ…」


「何って、特訓するんでしょ。もう試験まで時間が無いのよ、ぼんやりしている場合じゃないんだから。ほら、さっさと顔を洗って着替えてきて!」


「わ…分かったよ…」


僕は、リーフの剣幕に負け…そして今に至る。


「準備体操は終わったっすか?」


「うん、終わったけど…これからどうするの」


「ジャジャ~ン!作ってきたっす!ハンス君のトレーニングメニュー!」


それは何とも可愛らしいノートをシトラさんは取り出した。


「へ~、ノートなんて珍しいわね」


「師匠がノートを使えって言うっすから使ってるっすけど、結構使いやすいっすよ」


シトラさんはノートを開き、可愛らしい字でトレーニングメニューと書いてあるページを見せてきた。


「え~何々…腕立て100回、腹筋100回、スクワット100回、ランニング10キロ、シャドーイング100回、2重飛び100回、…etc計3セット」


――え…書いてあることが全然可愛くない…


「あ…あのこれほんとに今からやるんですか…死んじゃいますよ」


「何言ってるの、これくらいやらないと効果でないでしょうが!」


「そうっすよ、ハンス君!ファイトっす!」


「嘘だと言ってくれ!!!」


「嘘っすよ!」


「え…」


「さすがにそこまで私も鬼じゃないっす。ちゃんとしたトレーニングを考えてあるっすから、これは私たちのやるトレーニングっす!」


「そういう事、ちょっとからかってみただけ。どう、目が覚めた?」


「朝から気持ちのジェットコースターだよ…もう疲れた」


そして各自のトレーニングが始まった。


「えっと…腕立て15回を3セット…なんかこれならやれそうな気がする…」


「まあ、そう感じるくらいに作ってあるっす。昨日の限界が30回だったっすから、少しずつ増やしていくっす!」


シトラさんは僕に説明しながらも自身のトレーニングを行っている…しかもものすごいスピードで。


「それにしても…2人は知り合いだったの?クラスは違うけど…いったい何処で」


「リーフさんとは朝練仲間っす!私が朝走っていた時に丁度リーフさんも走ってたんすよ。毎日毎日会うっすから次第に仲良くなっていったっす!」


「そういう事」


「リーフって、朝も走ってたのか…家から通う時も走ってるよね」


「そりゃあ、走った方が体力ついて良いじゃない。トレーニングをするのは優等生なら当り前のことなの」


「そうですか…劣等生には分かりませんよ」


「またネガティブなこと言って」


各自のトレーニングは続き、結局僕が1番遅くに終わってしまった。


「はぁはぁはぁはぁ…あ、汗が、汗が止まらない…どうなってるんだ…」


「ふ~、いい汗かいたっす~」


「はぁはぁはぁ、ほんと丁度いいくらいに仕上がってる気がするわ」


「はい!ハンス君、水とプロテインバーっす!運動の後のエネルギー補給はマストっすよ!」


「あ…ありがとう…」


やけに硬いプロテインバーを食べ…少しお腹が満たされる。


現在の時刻は8時


――これだけトレーニングしても…平日だったらこのまま学園に向えばちゃんと間にあうのか…


「さてと、それじゃあ少し休憩した後に、魔法のトレーニングと行きますか!」


「そうっすね!」


「え…まだやる気なの…」


――それに魔法のトレーニングって…。


「魔法のトレーニングは私たちだけでやるっす!ハンス君は昨日の疲れもあると思うっすから、しっかり休むといいっすよ。休むこともトレーニングの1つっす!」


「そ…そうさせてもらうよ…」


なんか複雑な気持ちだが…トレーニングをやり遂げられたことへの達成感は物凄い…。


――ちょっとずつなら毎日やってもいいかも…。


僕は河川敷の斜面に座り込み、2人のトレーニングを見守る。


――そう言えば…シトラさんのマギアは何なのだろう『魔法学演習基礎Ⅰ』の時は何も持ってなかったし…もしかして、あの靴かな。


「シトラさんのマギアはその靴よね、靴型マギア『アトラクト』シトラさんのスタイルと相性ばっちりのマギアね!」


「そうっす!いろいろ試してみたっすけど、これが1番しっくり来たっす!」


――今からあの2人何するんだろう…魔法の鍛錬って言ってたけど。こんな場所でボコすか魔法を放ってたら苦情が来ちゃうぞ。


「それじゃあ、『身体強化魔法』のみで一度模擬戦をしてみましょうか!」


「そうっすね!でも良いんっすか?私自分で言うのも何っすけど『身体強化魔法』しか使わないっすから結構、凄いっすよ!」


「つまり『攻撃魔法』を使わずに戦うスタイルってわけね。いいじゃない、面白そう!」


リーフは『ガントレット』を付け、手を叩く。


「良し!準備オッケイ!」


「こっちも準備オッケイっす!」


朝午前8時30分


魔法車が線路を走る甲高い音が聞こえる。


その音を合図にしたように同じタイミングで、2人はマギアを起動した。


「マギア!起動!」「マギア!起動っす!」


リーフの『ガントレット』、シトラさんの『アトラクト』両者ともに同じタイミングで起動し一瞬光りを放つ。


先に仕掛けたのはシトラさんだった。


一瞬で数mの距離を移動し、リーフに詰め寄る。


マギアとシトラさんの足が淡く光っていることから、すでに『脚力上昇』を発動しているのだろう。


シトラさんは物凄い低い体勢でリーフの足もとへもぐる。


そのまま足をリーフの首元へと蹴り上げるも、リーフは後ろにバク転しながら回避する。


「早いけど、狙っている所がバレバレもっと分かりにくい攻撃にしないと。『攻撃魔法』の要道ができない以上、攻撃のパターンを読まれたら終わりだよ!」


「手痛い視的っすね…でも確かにそうっす!改善するっす!」


――なるほど…リーフが最初に動かなかったのは相手の狙いを把握するためだったのか…でもあの動きを見切れる自信が無いと中々できない芸当だよな…それにバク転すっご。


シトラさんは初めの位置に戻る。


この間30秒…早過ぎね。


僕は自分の左腕についている腕時計を見返してみても…8時30分…あ、今31分になった。


「次は、リーフさんの番っす!どこからでもかかって来てくださいっす!」


「それじゃあ、行くよ!」


――今度はリーフの番か…さっきシトラさんに言ってた攻撃のパターンと言うやつを見せてもらおうか。


「ふ!」


リーフは足を高く上げ地面を強く踏みしめる。


すると地面が割れ、隆起した。


隆起した地面を思いっきりシトラさん目掛けて蹴りつける。


破損した地面が石礫のようにシトラさんに襲い掛かる。


しかし…さすがと言うべきか空かさずすべて回避していた。


「え!消えてるっす…」


シトラさんは、先ほどリーフの居た場所にリーフの姿が無い事に気づく。


石礫に意識をそがれ、リーフの姿を見失ってしまったのだ。


シトラさんは焦る様子を見せず、ただ注意深くあたりを見渡す。


地面に影が合わられ、どんどん大きくなってゆく、シトラさんはすぐさま上を向き攻撃の態勢に入った。


「上っすか!でもそこからだと回避できないっすよ!」


シトラさんは落ちてくるリーフに合わせるように蹴りを入れるが紙一重でかわされてしまう。


リーフは猫のように音もなく地面に着地すると、片足立ちになっているシトラさんの足を掬い上げた。


シトラさんはその場にひっくり返りそうになるも何とか持ちこたえるが…。


体勢を崩したシトラさんの顔にガントレットを当てる。


シトラさんは体勢を立て直し手を上げた。


「参ったっす…」


「フゥ…どう、いつでも冷静に対処すること。私はこれが大事だと思うの。シトラさんが私に気付いてすぐ、攻撃の姿勢を取ったのは見ればわかった。それなら私は攻撃を回避してカウンターを狙う」


「その通りっす…まだまだ私修行が足りないっす!今日はありがとうございましたっす!リーフさんと模擬戦できて、また少し強くなれた気がしますっす!」


「私の方こそありがとう。Sクラスの人の中でシトラさんみたいに『攻撃魔法』を使わない人がいないからいい練習になったよ」


「それなら良かったっす!」


2人は握手をして互いに欠点などを話し合っている。


――は…なるほど、それにしてもリーフ…『攻撃魔法』を使わなくても凄く強いんだな…。


「お~い!ハンス!外から見ててどうだった!中からだけじゃなくて外からの意見も聞きたいんだけど!ハンス、魔法はダメダメだけど人の事よく見てるから一応聞いておくね~」


呼ばれたので立ち上がり2人の居る所まで歩いて行く。


「魔法ダメダメは余計だよ。意見と言われてもな…早すぎてよく見えなかったんだけど。あ!でも思ったのは、シトラさんのフードで相手の攻撃が見えにくくなってるんじゃないかな、それにリーフのあんなに跳躍する必要なかったと思う落ちてくるまでの時間を考えたら、後ろから攻撃したほうが早かったんじゃないかと思うんだけど…」


「ん~それも確かに一理あるかもしれないわね…試合では1秒でも戦況が変わったするし、無駄に時間をかけるのは得策じゃなかったかも…それにシトラさんのフードも同意、シトラさんそのフード試合の時は外した方がいいんじゃない?」


「え!…あ、いや…これはその…師匠との約束があるんで…取ることはできないです…」


「そうなの?何か強くなる理由があるのかな…う~ん…」


リーフはシトラさんのフードを舐めまわすように見回す。


「あ…あの…」


シトラさんは本当に嫌そうな顔をしている。


「リーフ、悪い癖出てるって」


「あ!ごめんなさい。気になるとつい…」


「えっと私この辺で失礼します、今日はありがとうございました!」


――何故か凄い流調にそして早口で話しいつもの「すっすっす」てやつが無い…。


シトラさんは颯爽と走って行ってしまった。


「私…なんか嫌なこと言っちゃったのかな…」


リーフは何故か罪悪感を抱いているようで、珍しく落ち込んだ顔をしていた。


「僕もフードのことを聞いた時にあんな反応された気がする…相当フードが好きなんだな」


「そうね、兎にも角にも、もうフードのことを触れるのはやめた方がいいわね」



2人の元から走り去っていったシトラは1人大通りを歩いていた。


「あ~またやっちゃったっす!!どうしてこのフードを取ってちゃんと自己紹介できないんっすか私!!」


大きなガラスにフードを被った自分が写る。


「やっぱりフードかぶっているのは不自然っすよね…」


人ごみの中に揉まれながらも、歩き…何とか人気の少ない裏路地へと足を運んだ。


「あったっす!銭湯…」


シトラの目的は銭湯だった。


不自然に飛び出した煙突から煙が空へと向かって上がるのを見てシトラは胸が高鳴る。


大きな赤色と青色の垂れ幕をくぐって銭湯に入って行く。


内装も相当古い、いったい何年前に作られたのか全く分からない。


「やっぱりここは落ちつくっす。あ、お婆ちゃんこれお金っす!」


見台にたたずむお婆ちゃんにお金を渡し、『女』と書かれた赤い垂れ幕をくぐる。


「あら、シトラちゃん、今日もここの銭湯に入りに来たのかい?」


「そうっす。私、ここの銭湯が大好きなんっす!」


「そうなの、そう言ってくれると私たちもうれしいわ。それじゃあ、ゆっくりしていってね」


「はいっす!」


――私はここの銭湯の常連だ…理由は勿論、ここの銭湯が好きというものあるが…一番重要なのは周りの人の温かさだ。はっきり言ってこの付近にはもっと大きな温泉やスーパー銭湯などはいくらでもある。しかし…ここじゃなければならない理由があるのだ。


「ふ~、いっぱい汗かいたっす」


サウナスーツを脱ぎ、フードも勿論とる。


汗でびちゃびちゃになった下着も脱ぎ、タオルを体に巻いて…いざ湯船へ!


今銭湯の中にいるのは私含めて2人、私以外の1人とは顔見知りだし、何も隠す必要が無い、ここに来ると心が解放された気分になる。


しっかりと掛け湯をしてから湯船に入る。


「あら、シトラちゃん。今日もお耳が可愛いわね、お犬さんみたいにふさふさだわ」


「し…静江さん…その、あんまり触られると…くすぐったいっす」


「あら、ごめんなさいね。つい、昔飼ってたワンちゃんを思い出しちゃって」


――静江さんはこの銭湯の常連さんだ。だいたい私が来るときにはすでに湯船につかっている。初めて話したジャパニ王国の人で、この国に来た時からずっと緊張してた心が凄く救われた。私の見た目に何も言わず、普通に接してくれた初めてのジャポニ王国の人…。


静江さんに会うまでは、ジャポニ王国の人が私のことを見る目線が凄く怖かった。


ジャポニ王国とタンタン国では姿が違う。


それが珍しいのかいろんな目線が私に集まってしまったのだ。


そしてその事を静江さんに話したら…


「そんなに嫌なら隠しちゃえばいいんだわ。そうしていればいつか自然と気にならなくなっていくはずよ」


そう言われ、私はフードを被った。


すると全く視線を感じなくなったのだ。


私もフードを被ったらジャポニ王国の人間と変わらない扱いを受けた。


それがうれしかった、それと同時に自分を隠しているようで辛かった。


何度も学校でフードを取ろうと思ったが…周りからの視線が怖くて取ることが出来なかった。


入学式の時は付けていなかったのだが…フードを付けて登園するたび怖くなって取ることが出来なくなってしまったのだ。


「シトラちゃんはこの銭湯だったらフードが取れるようになったのね。とてもいい進歩だわ」


「はい、静江さんやほかの皆さんのお陰っす」


「そうだわ!シトラちゃんが可愛いからみんな見ちゃうのよ!そうに違いないわ!」


「静江さん、そんなことないっすよ。ただ珍しいだけっす」


「シトラちゃんはもっと自信を持っていいのよ。まだ若いんだから、こんなお婆ちゃんになってから昔のことを考えても仕方ないのよ、今全力で生きないと!後悔したらダメよ」


「は、はいっす!肝に銘じておくっす!」


「それじゃあ、私はそろそろ出ようかしら」


静江さんは一歩一歩確実に歩きながら出て行った。


「私もそろそろ、体洗おうかな…」


立ち上がり、シャワーが使える所まで歩いてゆく。


「よいしょっと…」


私は鏡の前に座る…


目の前にはいつもの私が鏡に映っていた。


お湯によってのっぺりとした耳に尻尾が鏡に映る。


…そう私は獣人なのだ。


ブラウンとオレンジが混ざったような髪色に…琥珀色の瞳が鏡に映り外から差し込む光によって、照らされる。


「ふ~!やっぱりここはいつもガラガラで良いわ!」


「!!」


私は目を疑った、銭湯に入ってきたのは紛れもなくリーフさんだ。


――どどどどどど…どうしよう…このままだと私が獣人だってバレちゃう。


咄嗟に手で耳を隠す…しかし尻尾が生えていたら人間じゃないことがバレバレだということに気づく。


「おーい!リーフ!お前よくこんなとこ見つけたな、めちゃくちゃいい銭湯じゃん!」


「でしょ!私も最近見つけたの。常連さんはいい人ばっかりだし、1回300円って言うのが良心的だし。近くのデカイ銭湯に行って疲れるよりは全然こっちの方が良いわ」


「そうだよな…こんなに大声で喋っても今こっちに僕以外に居ないし誰にも迷惑掛からない。1人でこんなに大きなお風呂入るなんて初めてだよ」


「こっちも今1人よ、さっきお祖母ちゃんが1人出て行ったわ」


――どうしよう、どうしよう…このままここでリーフさんが出ていくのを待つ…いやいや、体を洗うだろうから、ここに居たら確実にばれる。しかも今ここに誰もいないと思ってるから、いきなり出て行ったら確実に尻尾を見られてバレる…どうしよう完全に積んでる。


「なあ、リーフ!シトラさんのことどう思う?」


「どうって?何、ハンス、シトラさんに気があるの?」


「ん~、どうなんだろう。なんかほって置けないと言うか何というか…凄く生きずらそうにしてるからさ、何か悩みでもあるなら解決してあげたいなと思って」


「そうね、シトラさんスッゴクいい人だと思うわ。自分にストイックだし、ちゃんと私の指摘にも耳を傾けてる。中々できる事じゃないと思う、だって否定されたら誰だって嫌だし褒めてもらったほうが嬉しいはずよ。でもちゃんと自分の欠点を見つけてくれたことに感謝できるなんて相当いい子ね!私シトラさんのこと大好きよ、ずっと友達でいたいくらい!」


「リーフにそこまで言わせるなんて…まぁ、リーフもともと友達少ないもんな」


「ちょっと!私にも友達くらい居るわよ!えっと、えっと…2人くらい…」


「それは僕とシトラさんだろ…。まぁ…僕も同じようなものか…」


「はぁ…」×2


――え…何…2人とも私のことを友達だって思ってくれてるの…嘘…すごっく嬉しい。


シトラは気づいていないが、自身の尻尾はあり得ないくらい揺れている。


「明日の朝、悩みが無いか聞いてみようか」


「そうね…私たちなら何とか解決してあげられるかもしれないし」


――わ…私…ここで出て行かなかったら…絶対、一生後悔するっす!


そう思った瞬間私の体はすでに動いていた。


「あ、あの!リーフさん!」


「え…え…え、ななんで私の名前を…て、その顔…もしかしてシトラさん!!!」


私は全てをリーフさんにさらした。きっとこの人たちなら普通に接してくれるって思えたから。


「そ…そうっす。私…実は獣人族なんっす」


「やだ~!可愛いい!!」


「え…え!」


「この耳に尻尾…え~一体どこに隠れてたの~、もう、こんな兵器を隠し持っていたなんて!ハンス!ぜったに覗いたらダメだからね!覗いたら殺す!」


「ちょっと!どういう事!え!そこにシトラさんがいるの!ま…まさか、さっきの話聞かれてた…!」


「はい!ばっちり聞こえてたっす!ハンス君は優しいんっすね!」


「ちょ!…ま、滅茶苦茶恥ずかしい…あの…聞かなかったことには」


「出来ないっす!っていつまで触ってるんすか、リーフさん…そんなに触られたら…」


「えへへへへ…」


私たちは体を洗い合い、湯船に浸かって話し合った。


「そうなの…だからフードを被ってたのね」


「そうっす…ジャポニ王国に来たら私の姿が全然違ってて…タンタン国では獣人の姿が普通なんっすけど…」


「まあ、国が違えば文化も違うし、姿も違うのは当たり前よ。そんなに気にすることじゃないわ。だって私、シトラさんの姿スッゴク好きだもん。可愛いし!」


「私なんてそんな…」


「無理して学園でもフードを取れとは言わないわ。でも、私たちが知ってるってだけで少しは気が楽になったんじゃない?」


「はい…今までここの銭湯と家でしか、フードを取ることが出来なかったっすから…」


「そう、一歩前進ね。それじゃあ、そろそろ上がりましょうか」


「はいっす!」


シトラとリーフは体を拭き、下着を履く。


「シトラさん!私にドライアーさせて!」


「え…いいっすけど…」


リーフの狙いはフカフカになった尻尾を拝むことだった。


「ん…ちょ…そこは…くすぐったい…ん…リーフさんダメっす…」


「えへへへへへ…」


――リーフ達…いったい何やってるんだ…それにシトラさん…声が…

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