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第1回テストまであと1ヶ月

「とりあえず今日はこれを…」


「これは?いったい何ですか」


ロスト先生から手渡されたのは、いかにも手作り感満載なプリントだった。


「ふふふ、珍しいだろ。今の時代にプリントを渡すなんて。ちょっと憧れてたんだよね」


「はぁ…それでこれはいったい何ですか?」


「それはね、私が手書きした魔法練習メニュー決め方プリントだよ」


「え…魔法練習メニュー決め方プリント…何ですかそれ…」


――絶望的にネーミングセンスが無いな…


「このマスに得意な属性の魔法を1つ書き入れる。すると、その魔法に適した練習方法がその下に表示されるの。どう、便利でしょ!私が夜な夜な作ったんだから、ちゃんと活用してよ」


――この人はいったい何を作っているのだろうか…忙しい身の上だろうに。


「ええーと、じゃあ、試しに…『ファイアーボール』と…」


魔法の名前を書くと…下の欄に、文字が浮き上がってくる。


『ファイアーボール』

[火属性魔法:ファイアーバレットよりも大きな炎の球を飛ばす魔法。威力:中、距離:中、使用難易度:中、練習方法:最も簡単な火属性魔法を完璧にマスターしてからこの魔法を練習すること。いきなり練習しても成功することは絶対にありえません]


「凄いですね…いろんな情報が出てきました。まぁ…マギアで良いと思いますけど…」


「もう!君がそれを言ったらおしまいだよ!はい、これ」


ロスト先生は手帳のような物を僕に渡す


「これは…手帳、ですか?」


「そう、この手帳にこのプリントを近づけると…」


プリントに書かれていた文字が消え、まだ何も書かれていない状態に戻った。


「プリントの文字が消えた…いったい何処に…まさか」


僕は手帳の1ページをめくると、そこには先ほどの『ファイアーボール』の情報が記載されていた。


「先生は変わったものを作るんですね」


「ちょっとでも、練習の助けになればと思って作ったんだよ。感謝の言葉くらいかけてくれても良いじゃないか」


「はは…それもそうですね。ロスト先生、僕のために作っていただきありがとうございます。ちょっとずつ頑張ろうと思います」


「そんなに褒めても何も出ないよ!!」


「………」


――くるくる椅子を回転させながら、白衣をパタパタとペンギンのようにはためかせている…。この人の行動は全く読めない。


「では…僕は帰ります」


「そうか、なら私が送ろう」


「え…いいですよ。もう自分で帰れると思いますから」


「遠慮しなくていいぞ。私はちょうど君の家に用事があるんでな」


「そ…そうですか…分かりました」


しかし…


――って!思ってたのと全然ちがうんですけど!!!


「先生!何で先生がバイクなんて乗ってるんですか!!」


「そりゃあ、私がバイク好きだからに決まってるでしょ!!」


――いや…体格的に絶対乗れないでしょ大型バイクなんて…あ、でもこれ魔法式バイクだから体型とか関係ないのか…。それにしても…似合って無さすぎるだろ。


「ちょっとハンス君、今失礼なこと思ったでしょ」


「え…思ってませんよ。全然バイクが似合ってないなんて…」


先生は一気にスピードを上げる。


「先生!!スピード違反ですよ!!」


「お!そんなに抱き着いてきて、照れるじゃないか…」


「こんなスピード出してたらそりゃ何かに捕まりたくなるでしょう!!って!どわぁ~~~!」


多くの乗り物を一気に追い抜かしていき、ライトの明かりが一直線に伸びている…


何かに捕まって居ないと吹き飛ばされてしまうほどの風が僕の体にぶつかり、得体の知れない恐怖と初めて乗った魔法式バイクの爽快感が混合される。


ヘルメットをしていても目を開けることが出来ず、終始ロスト先生の細い体にしがみ付いていた。


ハンス宅


「はぁ…はぁ…はぁ……。もう…絶対に…バイクには乗りません…」


「いや~ごめんね。でもストレス発散にちょうどいいでしょ」


「逆にストレスが溜まりました!」


僕は地面に立っている喜びと上手く歩けない虚しさが合わさり、さらにストレスを増加させる。


何とか一歩ずつ確実に足を前に出していき、少ししてやっと自宅のインターフォンを慣らすことが出来た。


「は~い…あ!今日はちゃんと帰ってこれたんだね、ハンス君」


「いえ…送ってもらいました…。この年齢不明ちびっこ教師に…」


「なに!私が小さいことを気にしていることを知ってそんなことを言ったのか、ハンス君!私は君をそんな生徒に育てた覚えは無いぞ!」


「いや…まだあって2か月くらいしか経ってないじゃないですか…」


「あ!もしかして、こっちの小っちゃい子がロスト先生ですか。初めまして、私の名前はトモエと言います。今は、ドンカ―先生の研究室で助手をしてます」


「小っちゃいは余計だ!私だって小さくなりたくて小さくなっている分けじゃない!」


「ご、ごめんなさい…」


「お~!その声は…ロストか、久しぶりだな~」


「あ!キリエ・トロチア!なぜ貴様がここに居る!」


指を刺し、全く怖くない顔で威嚇する。


「おいおい、私はここで働いてるんだ、ドンカ―と一緒にな。マギア開発っていう大変重大な仕事だよ」


「グぬぬぬぬ…」


「え…いったいどういう関係…訳が分からないんですけど」


「キリエとは学友だ…ドンカ―ともな」


「え!そうだったんですか」


「今日はハンス君のこれからについて話をしに来た。ドンカ―は何処だ!」


大声でロスト先生は父さんを呼ぶ。


「ん…何だ…ロストか、こんな時間に何だい?また恋愛の相談か何かか?」


「ちがーう!!そんな話したことないだろ!」


大きさのあって居ない白衣の袖をクルクルと回し、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


――遠くから見ればウサギみたいに見えるんじゃないだろうか…。


「え…お前、酒に酔ってべらべらと喋ってただろ、覚えてないのか?」


「…………」


――およ…ロスト先生…耳まで真っ赤にしちゃって、くくく…いい気味。


「ま、まぁ良い、今はそんな話をしに来たわけじゃない。ハンス君について話をしに来たんだ」


ロスト先生は冷静さを取り戻し、いったんトーン音を下げて喋る。


「そうか、なら上がってくれ。丁度夕食が出来た所なんだ」


「え!今日は皆いるの?」


父さんは、他の誰かが居る時かほんとに気分が良いとき以外には料理を作ろうとしない。


「なんだ!ハンス、俺たちがいたら不満なのか?」


トウジさんが研究室から顔を出し僕を睨みつける。


「い…いや…そういう意味じゃないんだけど…」


――相変わらず顔が怖いよトウジさん…悪い人じゃないんだけど。そんなに怖い顏をしていたら誰も寄ってこないよ…。


「それじゃ、遠慮なく上がらせてもらうよ」


「あ!ロスト先生、ちゃんと白衣に着いた土を落としてからにしてくださいよ。掃除するのは僕なんですから」


リビングにて…


「それで…なんでこんなに人がいるんだよ!」


「いや…だって、ハンス君のことを話してくれるんでしょ。スッゴク気になるじゃん、そんなこと滅多に無いんだし」


――トモエさん…なんでそんなに面白そうな顔をしてるの…もう目が研究者の眼になっちゃってるよ。そう言えばここに居る人たち皆、面白いことが大好きな人しかいない…。


「まぁ、全員気にしてるんだよハンス、お前の将来とかな。お前の事は昔から知ってんだ、俺たちにだって聞く権利ぐらいあるはずだぜ」


「トウジさん!リビングでのタバコは禁止だって何回いったら分かるんですか!」


「お!すまんすまん、つい癖でな」


トウジさんは自前の可愛らしい廃ガラ入れにタバコを捨てる。


「まぁ良いじゃないかハンス、ちょっとした話くらい」


「は~もういいや…疲れちゃったよ」


僕は倒れ込むようにソファーへと座り込む。


「それで、ロスト。話って何だ?ハンスのことなんだろ」


「ああ、その事なんだが、ハンス君には魔法書の素質があると思う。私の勝手な考えだけど」


「――そうか」


――ん…何で父さん…そんな顔をするんだ?それに魔法書の素質…僕にそんなものある訳ないのに。


「へ~、ハンス…お前には魔法書の才能があるんだってさ、良かったじゃんか」


「ちょっと、キリエさん。頭にそ…その置かないでくださいよ…」


「お!ごめんごめん、ちょうどいいくらいの高さにあるからよ。肩がこるんだわ…ロストと違ってな」


「だ~!もう!学生の頃から何回そのいじりをしてくるわけ!」


「まぁまぁ、落ちついてロストそれで、どうなんだい」


「フゥ―、時間は掛かるかもしれないけど、魔法書で魔法を使える日が来る可能性がある。まだ、分かんないけど。ただ、魔法書が反応していることだけは確かだから、無理な話じゃないわ」


「なるほど…」


――え…なんで皆そんな意味深な顔してるの…ちょっと怖いんだけど。


「ハンス、お前は知ってるか?魔法書が使われなくなった理由」


「え!…し、知らないけど」


「魔法書が使われなくなった理由は第一にマギアの発明によって、時代が変化したからだ。しかし…それ以前に魔法書自体が使われなくなっていたんだ」


「え…どういうこと?大戦では使われてたんでしょ」


「実際にちゃんと魔法書を仕えていたのは当時20歳くらいだった、ヨハンセン・アンデシュただ1人だったんだ。世界中の人を調査したわけじゃないから正確には分からないんだけど…」


「ヨハンセン…アンデシュ…それって」


「ああ、ハンスの曽お爺ちゃん、父さんのお爺ちゃんに当たる人だ」


「でも何で…曽お爺ちゃんだけ…魔法書が使えたの?」


「それは今でも分からない、ただ、旧型マギアの作られる切っ掛けがヨハンセン・アンデシュだったんだ」


「どうして…」


「ヨハンセンの力は強大だった、大戦でいくつもの戦果を挙げ、英雄とまで言われた…。しかし、彼は戦いを好まなかった。彼は最後に魔法を放った後、それ以降戦場に赴くことは無かったらしいんだ。ヨハンセンの力を分析した研究者たちの英知の結晶が旧型マギアとして大戦に使われていった。そして、マギアが魔法書に変わり。世界で多く使われるようになったという訳なんだよ」


「それじゃあ…魔法書が使える人がいないのは何でなの…」


「それは、まだ分かっていないんだ。ただ、ハンスにはきっと曽お爺ちゃんと何かが繋がりがあるんだと思う」


「繋がり…でも、僕曽お爺ちゃんのこと絵と写真でしか見たことないよ」


「まぁそうだよな」


――空気が重たい…なんでこんなに重苦しい空気になっているんだ。


「ま!話はここら辺にして夕食にしよう」


父さんはその場に立ち上がると、大きな鍋を机の上に置いた。


「この季節に鍋って…」


「良いだろ、父さん鍋が大好きなんだ」


――いや…切って入れるだけの簡単な料理だからでしょ。


「お!鍋か良いね、おい!酒はあったか?」


「はい!ここにあります!さすがドンカ―先生。いいお酒がいっぱいあるじゃないですか~」


「いやぁ、いっぱい送られてくるんだけど、1人じゃ飲み切れなくて…」


――ヤバイ、ヤバイ、この流れはやばすぎる!!


「あ、あの!お酒を飲むのは…」


「よーし!キリエ!どっちが多く飲めるか勝負よ!今まで300戦151勝の私がさらに勝ち越してやるんだから!」


「あ!ロストお前もう酔ってるのか?私が151勝だろ」


――ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!


「それじゃあ、ドンカ―先生いただきます!」×3


「ドンカ―!こっちにもう1本酒持ってきてくれ!」


「安全庁の奴ら…くそ!僕がどれだけ尻拭いをしてやってると思ってる!なのに…奴らときたら…クッソ~~~~!」


「ははは…皆、酒はほどほどにしろよ。お!ハンス、ちょうどいいくらいに煮えてるぞ。食べないとすぐなくなるけどいいのか?」


「は…はは…ははは…」


――もう終わりだ‥‥。この後誰が片付けると思ってんだ、この人たちは…


その日の夜食は午前3時まで続いた…勿論僕はすぐさま退室したけど。


早朝5時…


「う…うげぇぇぇぇぇぇぇぇ」


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…」


「だ…誰か…み、水を…」


「がはははははははhhhh!もっろ酒持ってこい!」


「zzzzzzzzzzz」


――ほら…地獄絵図だ…


僕は、そっとリビングの扉を閉め、早朝の学校に向う…そうしないとこの後が怖い。


「やっと動けるぞ…。1日で結構回復するもんだな、まだちょっと筋肉痛の痛みがあるけど…昨日よりもだいぶましだ。ランニングしながらでも行けるかな…」


僕がしていたランニングはちょこちょこと足を動かすというもので、ランニングと言うにはいささかショボい運動だったが、体を慣らすにはちょうどいい。


「今日はいい天気だな!何かいいことありそうだ!…ん」


丁度河川敷を通りかかった所、そこには朝っぱらからトレーニングをしている人の姿を見かけた。


「へ~、こんな朝早くからトレーニングなんて…凄いな」


遠くから見ると男性か女性か分からないが、その動きにはとんでもないほどに切れがある。


これだけ離れていても音が聞こえてくるような…そんな気迫が僕の肌を貫いてくる。


「あのフード…サウナスーツってやつかな、映画でしか見たことないけど」


その人のトレーニングを見るに、ボクシングっぽい動きをしている。


ストレート、シャドーイング、アッパー、縄跳び、その他いろいろ…


――何で僕は他人のトレーニングなんて見てるんだよ…。


「ん…何か用っすか!」


「え…い、言え何でもないです!すみませんでした!」


いきなり話しかけられ、驚いてしまった僕は足早にその場から離れる。


「ん?どうかしんっすかね…ま、いっか!さてと、トレーニングの続きっす!…フ!!」



「び、びっくりした…まさか話しかけられるとは思ってなかったよ。それにしても…どうして僕に気づいたんだろう…絶対に見えてなかったよね」


午前5時30分学園に到着。


「いや~誰もいね~!そりゃそうか…だって朝の5時30分だもんな…」


この学園の良い所は、夜から朝早い時間帯にも学園が開いているということだ。


どうやら好きな時間に練習したほうが魔法練習の効率が良いとのことで学園長が許可しているのだそう。


――確かに…好きな時間にこれるのはありがたいかもな…僕みたいな人がいればだけど。


「せっかく朝早く学校に来たんだ、ちょっとくらい魔法の練習でもしていこう」


少し開いている正門を潜り、マギア訓練施設へと向かた。


「ふ~、やっぱり誰もいないな。これなら心置きなく練習ができる。え~と…水を持ってきた方がいいよな」


今日から練習するのは初級魔法『ファイア』だ。


僕が使えるのは生活魔法と言って、初級魔法よりもさらに下にランク付けされている魔法だ。


生活魔法の中でも最も簡単な火属性魔法『メラ』は何とか使える。


簡単に言えば『メラ』の上が初級魔法『ファイア』になる。


その為、『メラ』をもっと強くすれば『ファイア』になるのだ…『ファイア』の威力は『メラ』の威力を単純に考えて10倍ほどの差がある。


「模擬戦で戦えるようになるには…初級魔法くらい使えないとな…」


――別に身体強化をあきらめたわけじゃない、僕は身体強化も並行して頑張って行こうと思っているよ…うん、思ってるからね。


「『メラ』はもう、出来てるんだ。『メラ』の火力を上げて『ファイア』にするだけでいいんだよ!」


僕は魔法書を持ち、魔法杖を構える。


いつものスタイルだ。


「ふ~!『ファイア!』」


[……………]


――何も起きない…ウンともスンとも言わない。魔法杖が笑っているかのような…そんな幻聴が聞こえてきそうだ。


「失敗失敗…まずは『メラ』から反復練習だ」


「ふ~!『メラ!』」


[フ…]


「ふ~、良かった…できた」


魔法杖の先にロウソク程度の火が灯っている。


「呪文はあんまり関係ないと思うんだけどな…」


言うのも、『メラ』と『火よ』はほとんど同じ意味なので両方とも発動する。


しかし…実際に僕ができる魔法は殆どこの程度…


これでも結構練習したんだから!ショボいとか思うなよ。


「小学生丸潰しにしてやっとこれだけ…はは、嫌になっちゃうよな」


「何がっすか?何が嫌になっちゃうんすか?」


「え…」


――いや!誰…いきなり現れたんだけど。


「あの~見えてるっすか?お~い!」


――何だこのフードの奴…全然知らん子なんだが…


「さっき見てたっすよね?」


「え…さっき…あー、もしかして河川敷でトレーニングしてた」


「そうっす、そうっす!何か、いやらしい視線を感じたんで話しかけたんっすけど。逃げるから気になって追っかけてきちゃったっす」


「いや…別にいやらしい視線を送っていたわけでは…て君は誰!」


「あ!そうっすね。初めまして、シトラ・ミンリンと言うっす!ジャパニ王国の隣にある、タンタン国からの留学生っす!Eクラスっす、よろしくっす!」


――挨拶するときもフードを取らないって。…めっちゃ気になるんですけど…。


「あ…ああ、よろしく…それで何か用かな、一応魔法の練習をしているんだけど…」


「それっす、それっす!さっきの嫌になっちゃうってどういう意味っす?練習は楽しい事っすよ!」


「あ…ああ、いや、6年練習しても全く成長してないなと思ってさ」


「6年すか…長いっすね…でもここからっすよ!高等部3年まであと6年もあるっす!まだ、折り返し地点っすよ!きっと今はウサギと亀っす!滅茶苦茶遅い亀なんすよ!」


「亀か…僕はカタツムリかもしれないよ…」


「大丈夫っす!進み続けていればいつか必ずたどり着けるっすから!」


――なんだろう…ちょっと元気になってきたかも…。


「師匠が言ってたっす!たとえ馬鹿でも、進む方向さえ分かっていればどんなに遠くても必ずたどり着けると、天才とバカは紙一重、お前は天才とバカの中心に居ろ!その方が面白いから!と」


――何言ってるんだろ…この子


「と…とりあえず励ましてくれてありがとう…ちょっとは元気出たよ。シトラさんはいつもこんなに早く学校に来てるの?」


「いや!本当はもっと朝練をするつもりだったんすけど、貴方さんに見られて気が散っちまったす!」


――貴方さん…あ!僕まだ自己紹介してなかった。


「えっと、遅れたけど…僕の名前はハンス・アンデシュ同じクラスのEクラスだよ。よろしく…」


「知ってるっす!初日に自己紹介してた人っすよね!」


――知ってたんだ…


「ちょうどいいっす!一緒に朝練するっす!」


「え!まぁ、別にいいけど…僕病み上がりだからほどほどに…」


「了解っす!ならまずは私の動きを見ててほしいっす!ブレとか重心がずれているとか指摘があったら何でも言って欲しいっす。私は攻撃魔法を使わないっすから」


「え!攻撃魔法を使わない…ということは付与魔法…それとも武器…防御魔法とかだけで戦うってこと…」


「そうっす!だから鍛錬が欠かせないんっす!」


「そうなんだ…ええっと、僕の分かる範囲でならアドバイスします」


「それでいいっす。じゃあ始めるっす!」


シトラさんは正しい姿勢を取る。


背筋を伸ばし、手足を伸ばし…そして一瞬で構える。


「ふぅ…」


深く息を吐き…右、左、下、上と拳を打ち込んでいく。


その体に一寸のブレもなく、ただ拳を打ちこすれた空気の音が空間一帯に広がる。


右左打ち終わったら、右足、左足と流れるように打ち込まれていく。


その姿はまるで踊っているようだった…


「ふ~は!どうだったすか!」


「すごかったよ…僕じゃ一生できないような動きだった…感動したよ」


「そんなに褒めても何も出ないっすよ」


「ちょっと聞きたいんだけど…何でずっとフードを被っているの?動きにくくない?」


「こ…これはちょっと、何でもないっす…何でもないっすから。はい!次はハンス君の番っす!何か見せて欲しいっす魔法!」


「え!そ…そんな見せられるほどの魔法なんてないよ…」


「良いからやって見せて欲しいっす!」


「わ…分かったよ…それじゃあ、行くよ!『メラ!』」


魔法杖の先に火が付く。


「………‥」


――いや…何で沈黙…沈黙はちょっとやめて欲しいんだけど。見せて欲しいって言ったから見せたのに…


「やっぱりそうっす…ハンス君…流れが悪いっす」


「な…流れ?」


――いったい何のことだ…血の流れってわけじゃないだろし…


「そうっす、流れっす。魔力の流れがめっちゃ悪いっす!」


「どうしてそんなことが分かるんですか?」


「何となくっす!何となくハンス君の動きを見ると魔力が流れにくそうにしてるっす」


「何となくって…それじゃあ、僕はどうしたらその魔力が良く流れるようになるんですか?」


「運動すると流れが良くなるっすよ。だから私も毎朝欠かさず鍛錬してるんっす!私も師匠に合うまではマギアなんて全然使えなかったんすけど、今では大分うまく使えるようになれたっす。これも師匠のお陰っす!」


「すごい人なんですね…その師匠さんって」


「ま…まぁ、凄い師匠ではあるっすけど…」


――何でそんな反応するんだ…


「と、とりあえず!これからはもっと体を動かすといいっすよ。そうすればきっと魔法を使いやすくなると思うっすから」


「そうだね…小学生の頃と同じことしてても意味ないし…中学生になったんだから、色々と変えてみた方がいいよね。ありがとう、シトラさん今日は早起きしてよかったよ」


「それなら良かったす!いつかハンス君と戦う時が楽しみっす!」


「ま…まぁ、その時は手加減をよろしくお願いします…」


「ハンス君…そこはもっと男らしくいくべきっすよ!かならず君を倒して見せる!くらい言わないと舐められるっすよ」


「この性格は簡単には変えられないんで…」


その後、僕はシトラさんにトレーニングの方法などを教わりながら実際にシトラさんとトレーニングの1つである筋力トレーニングを行った。


「ぐぬぬぬぬぬ…」


「ほらほら…全然上がってないっすよ。もっとちゃんと肘を伸ばさないと意味ないっす!」


「こ…これ!ほ、ホントに魔法と関係あるの…」


「今は腕立てに集中するっす!『魔法は体から!』これ師匠の受け売りっす」


「そ…そんなこと言われても…始めたばかりなんだから…もっと優しく」


「甘ったれてたら6年なんてあっという間に過ぎるっす、厳しいトレーニングをするからこそ時間を長く感じることが出来るんっす!」


「い…今何回!」


「まだ12回っすよ!500回まであと、488回っす!それを3セットするまで終われないっすよ!」


「無理無理無理無理!」


「そんなお経唱えても仏さんは下りてこないっす!」


その後…無事に僕の腕は全く動かなくなりました。


結局登校時間となり、教室に向うことになったが…実査にできたのは30回、が限界だった。


――シトラさん…こんなことを毎日やってるのか…


「何すか?たった30回しか腕立て出来なかった貧弱ハンス君」


「いや…べ別に、何でもないですけど」


僕たちは教室に付き、授業を受ける。


「今日の授業も…まぁ、大変だな。それにしても…ロスト先生ちゃんと学校にこれたのかな。あんなに朝げろってたけど…あ!忘れてた…家の中ゲロ塗れになってる…はぁ」


1限の授業は魔法歴史なのだが…ロスト先生はまだ来ない…


――潰れてるのかな…


結局その日の魔法歴史は、他の先生が教室にやってきて代理で授業をしてくれた。正直ロスト先生よりしっかりしてそう。


魔法学の授業が始まる。


「それでは皆さん、魔法学の実習をしてみましょう。今回やっていただくのは、以前にもお話した、『身体強化魔法』です。『身体強化魔法』に含まれる、『腕力上昇』を今日は実習していただきます。皆さんの前に今から小石を出現させますので、その小石を自身の握力だけで破壊してください」


先生が魔法杖型マギアを振ると目の前に小石が出現した。


「では皆さん、制限時間は5分です。それでは始めてください」


先生がスタートの合図を出すと同時にクラス中で石が砕ける破壊音が聞こえる。


「しゃ!出来た!こんなのらくしょうだぜ」


「ほんとほんと、マジで基本中の基本魔法じゃん。こんなの5分もいらねえっての」


――みんな着々と、やってるな…僕も一応やってみないと…て、あれ…腕が上がらない。あ!そうだ…限界まで腕立てしたから。それにしても、ホントに30回で腕が上がらなくなるなんて…貧弱って言われても仕方ないな。


5分後…


――結局、手で握るのが精一杯か…


「皆さん!どうでしたか?簡単だったという人は手を上げてください!」


僕以外の人は大きく手を上げる…僕以外の人全員が…


「確かに、今回の実習は簡単だったかもしれませんね。しかし、この魔法を試合の時にしっかりと使用することが出来るのか。また、魔物に対してしっかりと使用することが出来るかは、まだ分からないと思います。実習では簡単にできていたことがいざ本番となると、途端に使用できなくなってしまうことはよくある事なのです。ですから、皆さんは復習をしっかりと行い確実に自分の力にしていってください。ではマギアから魔法学の教科書を見てください。『握力上昇』の解説をしていきます」


――実践…魔物相手…実力を出せるかどうか…。今僕の手の中には小さな小石、これを見ただけでハッキリと分かるよな…。はぁ…


残りの45分が魔法の解説で終わる。


「今日の所はここまでとします。来週も実習を織り交ぜて講義をしていきますからしっかりと予習復習しておいてください」


授業が終わり、休憩時間となる。


机に顔を付け、無機物の冷たさを肌で感じていたころ…。


「ハンス君!何落ち込んでるの?」


「コハルさん、い…いや、さっきの授業でやった魔法『握力上昇』をやろうと思ったんだけど…この通り…」


掌の小石をコハルさんへとみせる。


「あぁ、失敗しちゃったんだ。でも大丈夫!まだ1回目の試験まであと2ヶ月あるから。きっと使えるようになるよ。私も練習付き合うからさ、頑張ろ!」


「そ…そうだね」


――コハルさんが応援してくれるのは嬉しいけど…たった2ヶ月でどうにかなるもんでもないんだよな…。多分


魔法学演習基礎Ⅰの講義


「さて、第1回試験まであと2ヶ月、この2ヶ月を長いと思うか短いと思うかは、それぞれの生徒の感覚があるだろう。今回が君たちにとって第1回目の講義だ。魔法学演習基礎Ⅰの講義を7回行った後、第8回目の講義でテストとして試合を行ってもらう。この試合は自身のクラス…またはランクを上げる際の基準となるから、是非Sランク目指して頑張ってくれ!」


――試合…か。どうなるのかな…今の僕が試合したら…ボロ負けか、それとも棄権するか…。まぁ、どちらにせよダサいことには変わりないけど。


「今から、試合の形式を発表する」


――そうか…試合にもいろいろ形式があるんだ…どうせならチーム制が良いな…。


「では発表する。今回の試合形式は1対1のトーナメントマッチと会議で決定した。人数の関係から、数日に分けて行われる場合もあるが…試合展開によってはすぐ試合を行う可能性もあるため、しっかりと準備を整えておくこと。第1試合から準決勝までは1試合、決勝のみ3試合行い、先に2勝したものが優勝とする。試合結果により、3試合行うかどうかは、当の本人が選ぶことが出来るため、無理して戦う必要はない。試合中の危険行動又は、故意に相手を損傷させるような行動をとったものは原則として罰則又は、成績の減点を行うため、よく注意するように!この話はまた第7回の時に注意喚起として行うが、今の内から頭にたたき込んでおくように」


「はい!」×生徒


――トーナメントか…僕と当たった人はラッキーだな…不戦勝みたいなもんじゃないか。


「では!これから、魔法学演習基礎Ⅰの講義を始める。では、まずランニングから!終了したのち準備体操!」


「はい!」×生徒


――さてと…どうやって負けようかな…。


僕はいつもこうだ…どうやって負けようか考えてる、どう頑張っても勝てないって心の中で思ってしまっているんだ。


僕だって勝ちたい…でも、確かにマギアと魔法書の差は大きいんだ…


仕方ないじゃないか、試合で勝ちたいという気持ちよりも、マギアを使いたくないという気持ちの方が大きいんだ。


「今できることを精一杯やる…それだけか、今の僕にできることは…」


準備体操をしている最中も頭の中では、試験の事を考えてしまっていた。


「よし!準備体操は終わったみたいだな。今日は、魔法学の授業で習った魔法を使ってもらう。使用する魔法は基礎中の基礎『身体強化魔法』すべての戦闘において基盤となる大切な魔法だ。今の時代この魔法が使えないと試合ではお話にならなから、しっかりと使用できるようにしておくように。そうは言ってもマギアを使用すれば故障していない限り使用できるはずだからな、大切なのは使い方だ。それをこの講義の中で学んでもらいたい。では私が手本を見せよう」


フミコ先生は自身のマギアを起動させると、すぐに『身体強化』を行ったのか全身が淡く光っている。


「まずは発動までの時間。これが大切になってくる。特に近距離型のマギアを使っている者、スピードが命だと言っても過言ではない。私の使っているマギアも近距離型だ中距離と長距離にとっては格好の的だからな、どれだけ初速で差を付けられるかが試合の勝敗を分けるだろう」


――スピード…確かにコハルさんは凄く早かったな。近距離型だとスピードが大事…じゃあ中距離と長距離は何が大事なんだろう…。


「先生!近距離型と『身体強化魔法』の相性がいいことは分かりましたが、中距離型と長距離型も『身体強化魔法』は必要なんですか?私、あまり魔力が多くないので『身体強化魔法』を使っている余裕が無いと思うんですが…」


1人の学生が僕が思っていたこととほぼ同じことを質問してくれた。


「良い質問だ、確かに『身体強化魔法』は体全体に魔力を流し一定期間自身の力を上げる魔法だ。魔力の少ないものにはずっと維持し続けるのが難しく、効果も薄いだろう。しかし、使えると、使いこなせるは似ているようで全く違う。実践してみよう」


先生は自身に掛かっていた『身体強化』を解除し素の状態に戻る。


「私は今、何も魔法が掛かっていない状態、つまりノーマルな状態だ。誰か、私に攻撃魔法を放ってみてくれないか」


「じゃあ、俺がやります」


「よし、君の持っているマギアはバレット系ハンドガン型マギア『ガバメント』だね。つまり中距離型のマギアだ。『ガバメント』で私を攻撃してみてくれ」


「わ…分かりました…」


その学生はフミコ先生に銃口を向け一発魔弾を放った。


しかし…


「あれ…俺撃ったはずなのに…」


先生は無傷…いったいどうして。


「今彼に攻撃してもらった。しかし、私の体には傷が無い。理由は簡単、攻撃をはじいたからだ。魔弾が発射されたと同時に『身体強化』を自身に掛けマギアではじいた。私の行動が見えていたという人、手を上げてもらえるかな」


数人が手を上げている。コハルさんもその1人だ…


「中々優秀だね。今のが『身体強化』を使いこなすと言う事だ。一瞬だけ使用することで魔力の消費を最小限に抑え、最大の効果を発揮することが出来る。長距離型と中距離型のマギアを使用している人はずっと『身体強化』をしているのは魔力のむだ遣いだろう。しかし、一瞬だけ使用するといった技術を身に付けることが出来れば試合の幅はぐっと広がるぞ。これは『身体強化』を使用し続けるよりも難しい事だ、だからこそ練習が必要なんだな」


――つまり…近距離型のマギアを使用する人は直に『身体強化』の恩恵を受けることが出来て、中型、長距離型は相手の攻撃を防ぐといった防御策などに使用できる…と言った所かな。僕が『身体強化』を使えるようになったらきっと、試合中逃げ続けるんだろうな…魔力が切れるまで。


「よし、第1回目の説明はこれくらいにしておこう。今聞いたことを考えながら、各自やってみてほしい。ではすぐに始めてもらおうかな。各自広がって、周りの事を考えて魔法を使用するように!」


「はい!」×生徒


実践講義が終わり、反復練習を行う。


――行うといっても今の僕には全くできない事ばかりなんだけど…。


見よう見まねで魔法の練習をしていると…


「なぁ、ハンス!ちょっと練習に付き合ってくれよ!同じ魔法杖型のマギアを使っている者同士さ!あ…ごっめ~ん…ハンスのそれはマギアじゃないんだったな。悪い悪い!似てるからさ…つい!」


――いや…あからさますぎるだろ…左手に魔法書持ってるの気づいてて言ってるのか。


「べ…別にいいよ、間違える事くらい人なら当り前さ」


「お詫びに、魔法一発俺に向って放ってもいいぜ!その方が実習ぽいだろ!」


「い…いや、そんな危ないことできないよ…」


「チッ!面白くねえ奴…」


――僕が真面な攻撃魔法使えないの知っててああ言ってくるんだから…ほんとたち悪いよ。


そして反復練習の時間も終了し、第1回目の講義が終わった。

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