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見たことのない場所の夢

その日…僕は変わった夢を見た…


――いったい何処だろうか…僕には全く心当たりのない景色が見える…海…それと山…洞窟も見えるぞ。


「先生!大丈夫ですか!奴らが攻めてきたんですか!」


「そのようですね…。しかもあの数です…我々をつぶしに来ているのは確かでしょう。一気に叩き潰しますよ!」


「はい!先生!」


彼らは魔法書を持ち、さらには魔法杖を持っている。


身なりも僕の知っている服装と少し違う。


学園の制服…ではないけどちょっと似てるかな…。


――それでも、あんな格好をした人たちは見たことない…。いったい誰なんだろう…。


黒く…そして広大に広がる上空に、2人は魔法杖を突き立てる。


『グラビティウス!』


『千激雷豪!』


呪文らしき言葉を発し、魔法書が光る。


その輝きは、マギアのそれとはレベルが違い、光の輝きがハッキリと線になって見えるほどだ。


――なんだ…これ…どうなってるんだ…彼らが言い放ったのは魔法の呪文だろうか…だとしたら魔法の威力がおかしすぎる…。


黒く濁り、大荒れしている海に巨大な大穴を開け、その穴目掛けて無数の物体が吸い込まれてゆく…。


空の黒さに負けないほどの小さな黒雲が発生し、雷鳴を轟かせながら1つの巨大な黒雲へと成長した。


雷電が黒雲内を駆け回りながらいくつもの雷激をはるか遠くの山へと落とす。


雷鳴音が大きすぎていったい何回雷激が落ちているのか分からない。


ただ…目の前は雷の光で真っ白だ。


まさに僕が見た夢の中は、地獄だった…。


強大な何かが世界を包み…数人の魔法士が訳の分からない威力の魔法を放っている…。


嵐吹く中、多くの人間がその場に倒れていき…最終的に初めの2人だけになってしまった。


「先生!ダメです!このままだと、日本が無くなります!それに、我々の魔法力だってもう底を尽いているんです!」


「仕方がありません…。私が最後の魔力を使って魔法を放ちます…。皆さんは衝撃に備えてください…」


――白髪の男性か女性かは僕の目線からは判断できないが声質からして男性だろうか…。すらっとした長身で、左手に魔法書、右手に魔法杖を持っている…服装は白色のローブを羽織っており、すでにボロボロになっている。


「先生!何をする気ですか!」


「私はどうやら、神にならなければならないようですね…」


「先生!どういうことですか!分けが分からないことをこんな時に言わないでください!」


「貴方には素質があります…私が教えてきた誰よりも素晴らしい素質が…。私のような神の成り損ないになってはいけませんよ。我々は人なのです…それだけは忘れてはなりません」


「先生!僕はまだ何も教わっていません、まだ先生に教わりたいことがあるんです!行かないでください!」


「ふ…私の弟子ながら、なんて情けない顔をしているんですか…。これからは貴方たちがこの国を守って行かなければならないんですよ」


「先生が守ればいいじゃないですか!何、今から死にに行くみたいな言い方…やめてください!」


「すみませんね…」


その人は、杖を弟子に向け真っ白な魔法陣を展開させると弟子は一瞬で気絶した…。


その人は弟子を担ぎ上げ、洞窟らしき場所に避難していた他の者たちにその弟子を渡す。


「先生…」


「皆さん…これからの国を頼みましたよ…」


地面に魔法陣が展開され、宙へと浮かぶ。


遥か上空へと浮上し魔法書を閉じた。


その人は迫りくる強大な何かを前にし…呪文を唱え始める。


「我が神よ…強大なものを封じる力を我が身に与えよ…我が魂を生贄に全てを封じる力を我が身に与えよ…我が声に耳を傾けるならば、この国をこの国の民を…我が魔法から守り給え…」


胸のあたりが光り輝いていき…光が全身を包んでいく。


右手に持っている魔法杖の先を天に向けると真っ黒な空から1筋…2筋…と光の筋が差しこみ…魔法杖の先に光が集まる。


「私たちの世界を崩壊させるなど…絶対にさせはしない!!」


『神の杖』


その言葉を最後に…光が全てを覆い隠し何も見えなくなった。



「はぁ!!」


僕はその光景を最後に…目を覚ました。


寝汗を気持ち悪いほど掻き、ベッドがあり得ないほど濡れている。


「いったい何だったんだ…あれは…」


僕の頭は寝起きという事あり全く働いていなかった…。


「仕方ない…顔でも洗って来よう…」


僕は重い体をベッドからお越し、部屋を出る。


下まで降りておりていき、大きな鏡が付いている洗面台の前に立つ。


「え…」


僕は涙を流していた…。


「どうして、涙なんて…。別に悲しい事なんて無いのに、体だって痛くないし…。あれ、なんか寝汗で湿っている…。何…怖いんだけど」


涙を流している理由は全く分からなかったが、冷えた水をほてった顔に掛けると涙はすぐに止まった。


「何だったんだろうな…あの夢…でもほんとに夢だったのかな…」


夢だと思えば思うほどその情景や話は全く思い出せなくなっていった。


「ハンス…おはよう…」


父さんが研究室から出てくる…。


今日も研究室で徹夜したのだろう、お風呂にも入っていない様子だ。


「父さん…ちゃんとベッドで寝ないと疲れ取れないよ?」


「ああ…高等魔法の幾つかをマギアにプログラミングするのに結構時間掛かってな…。――ふあぁぁぁ」


大きなあくびをするその姿は、まさかこの世界を変えた男だということは誰にも分からないだろう。


それほど今の父さんからは威厳など全く感じられない。


「朝ごはん作るから、ちょっと待ってて」


「ああ…助かる、皆が来るまで…ちょっとソファーで寝てるから。朝ごはんができたら呼んでくれ」


「うん、分かった」


父さんはリビングにあるソファーに倒れ込むと、一瞬で眠りに落ちた。


――これが何年も続く家のルーティーンみたいなものだ。たまに僕が寝坊して、朝ごはんは父さんの作った焦げた目玉焼きになる事があるけど。


「は~、皆がいなかったらこんな父さんが世界を変えるなんて、絶対にできなかっただろうな…」


僕はキッチンで昨日の残り物とみそ汁を温める。


[ピンポーン!]


「ん?今日は早いな…」


僕は温めるのを止め、玄関に歩いてく。


「ドンドンドンドン!!!」


――玄関を何度も叩く…こんなことをするのは1人しか知らない。


「はいはい!今開けますよ!」


僕は玄関を開けた。


「ハンス~~~!おはよう…!」


「うっわ!酒臭!ちょっと、どれだけ飲んできたんですか!」


「え~~、ちょ~~~と一杯飲んだだけだよ…」


「そんなに酔ってるのに一杯だけな、訳ないでしょ!」


――このだらしない、身なりをしている人は父さんの研究仲間のキリエ・トロチアさんだ。面積の小さい服を着て、その上からは汚れきった、白衣をだらしなく来ている。その体は世の男子ならば誰もが二度見するモデルスタイルなのだが…酒癖が悪く、未だに彼氏の1人もいないらしい…。僕はこの姿を何度も見てきたので、この人では何も思わなくなってしまった。


「は~、今水を持ってきますからリビングで待っててください」


「は~~い!分かりました」


何とも馬鹿げた表情をしている。


キリエさんはリビングの床で大の字になり爆睡し始めた。


「は~、この人が父さんの研究仲間なのが全く、意味が分からない…」


朝食を作り終えた僕は、料理を机に並べ父さんを起こしに行く。


「父さん!朝ごはん出来たよ。さっさと起きて」


父さんの体を強めに揺する。


「ん…ん、ああ、朝ごはんか食べる食べる…」


眼の下に真っ黒なクマを作り、たるんだ瞼をこすりながら父さんは、なんとかソファーから起き上がり椅子に座る。


「いただきます」×3


「いつの間に…起きたんですかキリエさん」


「だってこんなにおいしそうな朝ごはんが合ったら起きるでしょ!それにしても体に染みるわ~この味噌汁!やっぱりジャポニ王国はこれがあるから離れられないのよね!」


「ああ…キリエ、もう来てたのか」


「ドンカ―気づくのが遅いぞ、私はとっくにここに来ていたのだよ」


「ごめんごめん、徹夜しちゃって…」


「それなら私だって徹夜しているぞ、昨日は居酒屋を20件もはしごしたからな!いや~やっぱ酒が上手いな。ジャポニ王国は料理もうまいし、いい所しかない!」


――やっぱり1杯って言うのは嘘じゃないか…。


「そう言ってもらえると嬉しいな」


僕たちは一気に朝ご飯を平らげる。


「ふ~食った食った!ハンス、ご馳走様!やっぱいい男だね、ハンスは!」


「揶揄わないでくださいよ、僕に出来る事なんてこれくらいなんですから」


――忙しい父さんに変わり、毎日料理をしていたら料理の腕が上がってしまっただけなのだ。


「最近は魔法で料理をするところも増えてきて、火で作る料理が恋しくなる時があるんだよ…」


「確かに、火で作ると料理はおいしいですよね。手間はかかりますけど」


――魔法を使えば、効率よく均等に熱を通すことが出来るが…僕は火の料理がやっぱり好きだ。いや…僕が魔法を使えないから使っていない分けじゃないよ。うん!そうだからね。


「ハンスも学園に通い始めたんだよな~。出会った頃はあんなに小さかったのに…時間が経つのは早いな、な!ドンカ―」


「ああ、そうだな…ほんとに時間が経つのが速いよ、ほんとここ数年は…」


[ピンポーン!!!]


「お…来たかな…」


父さんが立ち上がり、玄関に向っていく。


「やあ、おはよう今日も早いね」


そこには3人の白衣を着た人達が立っていた。


「おはようございます、ドンカ―さん!今日もよろしくお願いします!」×3


「うん、おはよう。カリンさん、トモエさん、カイト君」


「あ!皆、おはよう!」


「お!ハンス君、おはよう!」


――この人たちは、父さんの働いている大学の生徒たち。父さんの研究室がこの家の中にあるから、朝早くからこの家の来るのだ。


「残すはあと2人か…今日はちゃんと到着してくれると良いけど、いや…あいつらならどっかでぶっ倒れてるかもな…」


「おい!誰がぶっ倒れてるって!」


そこには綺麗にスーツを着こなし、タバコを吸う男とよれよれの服を着た優男がやってきた。


「お!ちゃんと来れたのか」


「当たり前だろ!俺を馬鹿にするなよ」


「は~、何言ってるんだよ。俺がいなかったらこの家から全く違う反対方向に向おうとしてたくせに…」


「うるせえ、それは言わない約束だろ!」


「まあまあ、喧嘩するなって。話は中で聞くから」


「ん!そうか、じゃお邪魔するぜ」


「お邪魔します」


――この2人もこう見えても父さんの研究仲間なんだ。タバコを吸っているほうがトウジ・ジンナイさん。よれよれの服を着ているほうがフィル・カインズさん。2人とも、新型マギア開発に協力してくれたらしい。


僕の家は毎日、朝早くから研究室で会議が行われている。


「だから!それはできねえって言ってるだろうが!これ以上小さくしたら、効率が10%は落ちるんだよ!」


「それに、安全性にも問題が所持ます…これ以上小さくするとなると、中級魔法からは危険です」


「そうだよな…難しいよな…」


「ドンカ―お前はこれ以上のものを求めているのか?それは欲張りすぎだぞ!100年もの間解決されなかった問題をお前はたった数年で解決しちまった上に、マギアの新作を何個も制作している。今お前の目標は何なんだ?」


「目標…そうだな、これくらいかな」


そう言って父さんは左手の薬指にはまっている指輪を見せた。


「バカ言うなよ…夢物語だぞそれは…」


周りの人たちは驚愕している。


「ま!デカイ夢を持つのは良いことじゃねえか、私たちだて初めはこんなマギアすら作れねえって言ってたんぜ!」


キリエさんが立ち上がり、そう言った。


「そうですね…私たちも頑張ってドンカ―さんの夢を叶えるお手伝いをしたいです!」


「俺たちがどれだけ力になれるか分かりませんが、どんなことでも手伝わせてもらいます!」


「は~、お前ら…夢の見過ぎだぞ!設計するこっちの身にもなってみろ…」


「安全委員会に報告するのは僕なのに…」


大人の2人は相当うなだれている…


「ま!これは目標だから…コツコツやって行こう。まずは小さな目標から、新型マギアの新しい型を考えないと。皆はそれぞれの持ち場についてくれ、トウジは新しいマギアの設計をフィルは開発したマギアの安全成検査、キリエは魔法書の魔法をプログラミングしてくれ。他の3人は今現在の新型マギアに考えられる問題点をさらに洗い出し、新しい機能を考えてみてくれ…。私は…もう少し寝てくる」


「おい!」×全員


「ははは…冗談だよ。大学の講義に行ってくる、今日は2コマしかないから、昼頃には帰ってくるよ。それじゃあ皆仕事に取り掛かってくれ」


「了解」×全員


――こうやって見ると…父さんはちゃんと仕事をしていると思える…。ちゃんとお風呂に入ってから講義に行った方がいいと思うけど。


そしてみんなが仕事始めたくらいに、僕は家を出て学園に行く。


昔は2度寝をしてよく遅刻することが多かったけど、今の所…学園に遅刻した日は無い。


まだ学園に通い始めて2日目だけど…。


外にはリーフが待っていた。


「今日も遅かったわね、もっと早く出てこれないの?」


「いや…いっつも家の中が忙しくてさ…」


「そう…まぁ良いわ。今日は模擬戦をするんだからちゃんと見てなさいよ」


「言われなくても、見てるよ。どっちが勝つか気になるし」


「勿論私が勝つに決まってるでしょ!」


リーフは気合い満々のようだ。


「それじゃあ、さっさと学園に行くわよ!」


「はいはい」


まだ学園に通い始めて2日目だというのに、もう毎日こんな感じになるんだろうなって気がする。


リーフは学園までランニングで通っている、僕もそれに合わせてランニングで通う。


本当は自転車とかバスで行ったほうが早いのだけれど、『体力をつけるために走った方がいいに決まってるでしょ!』とリーフが言うもんだから仕方なく、僕も走っている。


朝っぱらからよく走る気になるなと思いつつも、走り切った後はスッキリしているのでなんやかんや言いながら僕も続けているのだ。


この習慣は小学生の頃から行っており、体力だけなら普通の人よりも多いと自信が…まぁほんのちょっとだけある。


学園に到着し僕のクラスに向った。


「はぁ、今日も朝から疲れた…」


僕が、机に突っ伏しているとコハルさんが話しかけてきた。


「おはようハンス君!昨日はごめんね、久々に模擬戦してたら楽しくなちゃって」


「ああ、大丈夫、大丈夫。もう体は元気だから、今疲れてるのは違う理由」


「そうなの?良かった…ハンス君に何かあったのかと思って心配しちゃったよ。それじゃあ、勉強頑張ろうね」


「う…うん」


コハルさんは小さな手を振り、去って行った。


「そうか…今日からもう勉強が始まっちゃうのか…億劫だな…」


僕は好きな事は勉強して、嫌いなことは全く勉強しないたちなのでいつも成績がギリギリなのである。


「はぁ…この学園は確か単位制だから授業を1つでも落とすと大変だぞ…」


鞄に入れていた講義の時間割を取り出す。


月曜

1限:数学、2限:国語、3限:歴史、4限:体育、5限:魔法学、6限:魔工学

火曜日

1限:魔工学、2限:数学、3限:魔法学、4限:魔法歴史、5限:体育、6限:魔法学

水曜日

1限:数学、2限:国語、3限:魔法工学、4限:道徳、5限:魔法学、6限:魔法学

木曜日

1限:外国語、2限:外国語、3限:数学、4限:歴史、5限:魔法学、6限:魔法工学

金曜日

1限:魔法歴史、2限:魔法工学、3限:数学、4限:国語、5限:魔法学、6限:魔法学演習


半年間はこのような感じだ。


魔法学が毎日1講義は確実にある、別に嫌いじゃないから良いんだけど。


体育がな…それと、魔法学演習もあんまり受けたくない。


今日は火曜日だから…1限目は魔工学か、父さんの研究分野だな。


――父さんの研究、それは主にマギアを作ること…また、マギアを利用して様々なものを動かし、制御したりなど、何でもマギアを使用すれば解決できてしまうようにするといった学問なのかな…簡単に言えば。昔から父さんの研究を見てきたからそれなりに大丈夫だと思うんだけど…


そして1限目の講義が始まった。


「え~であるからして、あ!ここ!テストに出しますからチェックしておくように」


先生はマギアを使用して授業を行う。


その為、僕は他の人より何倍も手間がかかってしまうのだ。


机に紙とペンを出し、何とか先生の説明が終わる前に書き写す。


もう先生の話なんて全く耳に入ってこない、自分の手を動かすので精一杯だ…。


「あ!今のところ分からなかったのに…仕方ない、後でリーフに聞こう…」


1限目が終わりドッと疲れが溜まった。


「え~と次は数学…数学か、苦手だな」


――僕は数学の数字を見るだけで眠くなってしまう…数学の問題を見ただけですぐ答えが分かるリーフの頭の中が僕にはよく分からない。


案の定、僕は数学の講義中に爆睡してしまった。


「はい!そこ!ハンス君!まだ始まったばかりですよ、それなのにもう居眠りとは…これだからEランクは!」


「す…すみません」


――先生に怒られる、これも小学校の頃と同じ、特に気にすることもない…ただちゃんと単位だけは取らなければならないので、後でリーフに教えてもらおう…。


3限目魔法学…マギアに使用されている魔法がどのようにして発動されどのような効果があるのかを学ぶ。


これはマギアだけではなく魔法自体の発動方法であるため、魔法書を使う僕にも参考になる授業だ。


「魔法は己の魔力を使用します。魔力量が多ければ単純に魔法も大きく発動され、魔法を打てる回数が増えます。この魔法力を鍛える方法は1つ、魔法を使うしかありません。そうすることによって、魔力を作り出すマナを鍛えるのです。しかし、魔法力が大きいと逆に制御しにくいといった弱点もあります。その為、自身の魔力が少ないからと言って嘆くことはありません、用は使い方なのです」


――なるほど、なるほど…魔力は使いようね。


僕は紙にメモしていく。


――そういえば…僕の魔力ってどれくらいなんだろう…ちゃんと調べたことなかったな。僕が知らないだけかも知れないけど。


「それでは、今日最後に教える魔法として、『身体強化魔法』を教えたいと思います。この『身体強化魔法』は日常生活、仕事、試合、など様々な用途でもの凄くよく使う魔法です。運動部、体育、魔法学演習、魔法学実践でも多用されるため、必ずマギアに入れておくようにしましょう。『身体強化魔法』の注意点として、『身体強化魔法』を使っている間は常に魔力が外に出ている状態となりますので気づかないうちに魔力切れになる恐れがあります。常に自身の魔力量を測り上手くこの『身体強化魔法』を使うことが、これからの学園生活で必要になってきますので、苦手だという人は練習しておきましょうね。以上で今日の講義を終わります」


――やっぱり…『身体強化魔法』か…昨日コハルさんに使われたときは手も足も出なかったな。


4限目…魔法歴史、これまで、魔法がどのようにして使用されてきたか。魔法の歴史を学ぶ授業。


「皆さんはじめましてロスト・テレジアと言います。皆さんにはこの魔法歴史を教えていきますのでどうぞよろしく。さて、皆さん今日は初めにちょっと体験してもらいたいことがあります」


そう言ってロスト先生が取り出したのは普通の魔法書だった。


「じゃじゃーん!これが何か分かる人」


ロスト先生は自身の胸あたりまである教卓に、いきなり魔法書の表紙が分かるように置いた。


――というかこう見ると先生凄く小さな、ホントに大人なのか…。


体格にあっていない白衣を着ており、大人ぶっている子供の用だ。


「はい!魔法書です!」


誰かが答えた。


「そう、これは本物の魔法書。レプリカではありません。なのでこの中には魔法が書かれています。書かれている魔法はどれも生活魔法から初級魔法までですが、今日はこれを使って皆で魔法を出してみましょう」


――いきなり体験型授業になるなんて。


「では1人ずつこの教卓の前に立ち魔法杖を持って呪文を唱えれください。マギアでいつも使っているように行うと絶対に魔法は発動しません。なので、暴発の心配なないので全力でやってみてください。発動しなくてもそれは当たり前なので気にしなくてもいいですよ」


そして、クラスメイトがそれぞれ行っていく。


人数が多いのでどうしても、1人1人早くなってしまうが…魔法書はうんともすんとも動かない。


そしてようやく僕の番が来た。


「ふ~、『火よ!』」


魔法書の表紙に書かれている魔法陣が赤色に光る。


そして、魔法杖の先端付近に小さな火が灯った。


その大きさはロウソクの火とさほど変わらない。


「嘘…」


先生や周りの生徒たちはあっけにとられている。


「ど…どうしてできるの…この授業!Sランク教室でも同じことしたのに誰もできなかったのよ!え…ええええ!訳が分かんない!」


先生は本当に驚いているようだ…しかし、いつも魔法書を使っている僕はこれくらいならできる。


「あ…あの、もう戻っていいですか」


「そ…そうね。自分の席に戻ってもらってもいいわ」


その後の生徒たちもやっていくが誰1人として出来る人はいなかった。


「え~と、どうでしたか?すごく難しかったでしょ。今ならマギアで簡単にできちゃう魔法が、昔はこんなに難しかったんだよって教えたかったんですが…。先生はこの授業をして初めて魔法書を使える生徒に会いました。もしかしたら偶然できたのかもしれませんが、素晴らしかったので拍手をしましょう!!」


先生がそう言うので多くの人が拍手をし始めた。


悪い気はしない。


「では今日はこの辺で終わりたいと思います。次からはもう少し勉強が入ってきますので予習しておくといいですよ」


そう言って先生は教室を後にした。


「は~、やっとお昼休みだ。疲れた…。」


――でも久しぶりに褒められてちょっとうれしかったな…


「ハンス君!ちょっといいかな?」


「へ?って!ロスト先生…さっき教室出て行ったんじゃ」


「ちょっと君に聞きたいことがあってさ。私の研究室に来てよ」


「は…はい」


僕は先生に連れられ、研究室までやってきた。


――まぁ何とも汚い部屋だ…父さんの部屋とさほど変わらないじゃないか。


一室の研究室には1つの机と黒い椅子。壁側にある本棚には多くの魔法書が並び、そこら中に研究資料だろうか、様々なプリントが散らばっている。


「ハンス君!君のことはドンカ―からよく聞いてるよ。やっぱり君がハンス君だったか。魔法書を仕えた時まさかとは思ったけど、やっぱりあれは偶然じゃないんだね」


ロスト先生は大きめの黒い椅子に座る。


「はい…偶然じゃありません」


「そうか、ならどの魔法までなら使えるんだ?さすがに中級魔法は無理だと思うけど」


「中級魔法なんてそんな…初級魔法ですら上手く使えませんよ。僕ができるのは、生活魔法の一部しか上手くできません…」


「生活魔法を魔法書で使えるのか…。それじゃあ、マギアは使ってないんだよね」


「はい、マギアは使わないようにしてます」


「マギアを使わない理由は聞かないでおく。けど…一応、魔法書の研究者として言わせてもらうよ。今の世の中、魔法書を仕えてもまるで意味がない。魔法書で出来ることは全てマギアができてしまう、それも魔法書を使った時以上の能力を発揮できるんだよ。はっきり言って、どんなに魔法書を練習してもマギアに勝つことは難しいと思う。生活していくのだって難しいでしょ」


「確かに…連絡手段が無いのが不便ですし買い物をするのも毎回お金を払わないといけません。色々と手間がかかりますし。それでも僕は魔法書を使います。例え、どんなにマギアの方がいいと言われても、マギアを使う気にはなれません」


「そうか…そう言うと思ったよ君ならね!」


「へ?」


そう言うとロスト先生は椅子の上に立った。


「よし!君にはこれをあげよう!」


そう言って先生の持っている本型のマギア『ブック』が光り出す。


マギアから、また違う魔法書が飛び出してきた。


ロスト先生はその魔法書を片手で取ると、重かったのか椅子の上でバランスを崩す。


「危ない!!」


床に落ちそうになる先生を僕は身を挺してクッションとなった。


「いてててて…ごめんねハンス君」


「い…いえ、大丈夫です」


パンパンと服に着いたほこりを払い、立ち上がるとロスト先生が魔法書をこちらに向けている。


「はい!今のハンス君にぴったりな魔法書。丁度研究し終わったところだから貸してあげる。ハンス君の家にもいっぱい魔法書があると思うけど、難しいのばっかりでしょ。この魔導書には『身体強化』の魔法陣が書かれているの。魔法を使うにはまず体から、って言うのが昔の文献から発見されたんだよね。そこで、魔法の使い方+体を鍛えられる『身体強化魔法』をまずマスターしようって話!どう、やってみない?」


ロスト先生はいたずらっ子の様に笑う。


「先生言ってましたよね、魔法書を使っても意味がないって…」


「うん!言った。でもそれはマギアを使える人の話。マギアを使う気が無いハンス君には魔法書を使えるようにならないとこの学園でやっていけない、それは断言できる。ただでさえレベルの高い学園なのにマギアを使わない生徒が他の生徒と張り合えるわけがない。身に覚えがあるんじゃないの?」


昨日の模擬戦が頭をよぎる。


「そ…それは、確かに感じましたけど」


「ならつべこべ言わずにやってみたらいいんじゃない。無理だったなら無理で、めっちゃ田舎に引っ越しすればいいじゃん!マギアが使えないようなめっちゃ田舎に!」


「先生…楽しんでますよね」


「楽しんでない、楽しんでないよ!ただ興味があるだけ。このマギア社会でどれだけ魔法書が戦えるのか、魔法書の研究者としてこれほど興味深いことは無いでしょ!」


――嘘だ…絶対この先生楽しんでるよ…。だって普通そんな面白そうな顔しないでしょ。でもまぁ、スタートラインくらいには立ってみようかな。


「ハンス君、魔法書の使い方はもう知ってるよね。後、魔法書とマギアの大きな違いちゃんと分かってる?」


「使い方は知っていますが…魔法書とマギアの大きな違いまでは、よく考えたことなかったかもしれないです。使える魔法が違うとかですか?」


「ブッブ!違います。正解は魔法がプログラミングされているかされていないかです」


「プログラミングされているかされていないか?それってどういうことですか?」


「そうね…簡単に言うと、マギアと魔法書を紙だと思ってくれる」


「はい…紙ですね」


「マギアには既に多くの文字が紙に印刷されている状態。逆に魔法書には題名が書いてあって、それ以外は真っ白な状態。こうイメージすると分かりやすいと思うよ」


「それで…何が変わってくるんですか?」


「使いやすさという点を除くと単純に戦い方が全く違うかな。マギアは既にプログラミングされている魔法しか使えない。それと違って、魔法書は大抵の場合1つ大きな魔法陣が書かれていて、それ以外は自由。自分で好きな魔法を書き込むことが出来る。まぁ簡単に言えば、いろんな魔法が使えれば苦手な相手がいなくなるってことかな。マギアはその特質上有利不利が発生してしまう可能性があるからね。火属性魔法と水属性魔法なら水属性魔法の方が有利になる」


「なるほど…」


「まぁ、どう頑張っても人が使えるようになる魔法の限界はマギアに内蔵されているマイクロチップに遠く及ばないんだけどね」


「そんな違いがあったんですね…僕はただ魔力の通り道としか思っていませんでした。でも、そうなると益々マギアってすごいと思いますね」


「およ…ハンス君はマギアが嫌いなわけではないの?」


「はい、勿論です。逆に新型マギアを作った父さんは凄く尊敬してますよ」


「マギアが嫌いじゃないのに使いたくないって変わってるね」


「よく言われます」


「よし!じゃあ、ハンス君の目標はまず第1に『身体強化魔法』を使えるようになる事。魔法書に元々魔法陣が書かれているから、自分で覚える必要はないけど…いずれ自分で発動できるようにならないとね。そして2つ目の目標、各種の属性魔法を使えるようになろう!今の所、生活魔法が使えるということは…火、風、水、あたりはもう使えるってことかな?」


「はい、火、水、風は一応使えるって言っていいのか分かりませんが、出せはします」


「うん!適性が無いと魔法が発動しないからね、つまりハンス君にはもう3つの適性があるということだ。残りの土と雷も使えると良いね!」


「そうですね…土魔法と雷魔法は使ったことがありませんから」


ロスト先生は腕時計を見る。


「あ!もうこんな時間!早くいかないと次の授業に遅れちゃう。ハンス君も早く自分の教室に戻った方がいいよ。それじゃ、またね!」


そう言ってロスト先生は研究室から去って行った。


「僕の昼休み…お弁当…はぁ…って!次体育だった早くいかないと」


僕は慌てて研究室を飛び出し、教室に向う。


「やっぱり誰もいない!早く着替えて、グラウンドに!」


結局、僕は体育の講義に5分遅刻した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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