模擬戦、20戦0勝20敗
――今、僕の目の前には249人の姿が…どうしよう、すごく緊張する…あ!この状況あの時と似てるな…。父さんがマギアを発表してた時と…同じ。今考えると、父さん…これ以上の人の前で話してたんだ、凄いな…。
僕は口から心臓が飛び出してしまいそうになりながらも、何とかこらえ、震える唇を何とか動かす。
「は…初めまして、『ハンス・アンデシュ』と言います。出身はジャパニ王国のグッドラックウェルです。趣味は…寝ること、得意科目は一応…魔法学です。1年間よろしくおねがいしましゅ!」
――最後の最後で噛んでしまった…どうしよう、恥ずかしい。
「だ、そうだ!皆覚えてやってくれな!ハンス君ありがとう、それじゃあ、自分の席に戻ってもらっていいよ」
「は…はい」
――は…恥ずかしかった…。僕はもう、これ以上の人前で話すことは2度と無いだろう。
僕が自己紹介を終え、数分経ち誰もマギアに触れなくなった。
「この様子から見ると…全員、自己紹介文は書けたみたいだな。それじゃあ!この後は自由に行動してもらって構わない。好きな部活、好きな教科の先生、友達作りなど頑張ってくれたまえ。もちろんそのまま帰るのもありだぞ、家に帰って自習でもしていた方が後々楽かもしれないしな…それじゃあ、解散!」
フミコ先生は最後に笑顔を見せた。
「は~、この後どうしよう…リーフはどうせ『学校中の先生にあいさつ回りをしに行くんだ!』とか言ってそうだし…別に入りたい部活は無いし、好きな教科の先生なんて…」
僕は午後の予定が決まらぬまま、自分の席に突っ伏していた。
「あの~、ハンス君…だよね」
「!」
僕に話しかけてきてくれたのは、さっき会った桜色の髪をした彼女だった。
「そ、そうだけど…何かようですか?」
「いやいや、用ってわけじゃないんだけど…この後暇?」
彼女は目元を隠す細く短い髪を手の甲で耳に掛けながら、午後の予定を聞いてきた。
――何だろう…凄くドキドキする…
「いや…ちょうどこの後どうしようか考えてた所なんだ」
「ほんと!良かった~実は私、この後どうしてもやりたいことがあるんだけど。どうしても1人じゃできなくて…その、良かったらこの後付き合ってくれない?」
つぼみだった桜が一気に開花したかのような笑顔を見せ、僕に近寄ってくる。
――付き合ってくれない…なんていい響きなんだろう、そんな言い方をされては僕が断れるわけないじゃないか…。
「ああ、勿論いいよ。それで、やりたいことって?」
「うん!私、『模擬戦』をやってみたかったの!」
「も…模擬戦…」
彼女からは予想もできない言葉だった。
――いやいや…そこはこの学校を一緒に見てまわろうだとか、部活動見学だとか、そう言ったことを予想していたのに…まぁ、僕には程遠い夢だってことですね…。
「私、このマギアを早く使いこなせるようにならないといけないんだ。だから、どうか私の相手をしてください!よろしくお願いします」
そう言って彼女は僕に頭を下げる…
――何だろう…凄くいい香りがする、やばい!変態みたいだ僕。
「い、良いけど、僕凄く弱いよ」
――事実だ…僕はこの学校中のどの生徒と戦っても負ける自信があるほどに弱い。
「大丈夫!たとえ弱くても、相手がいるのと相手がいないとのは全然違うから」
「は…はは」
――彼女の瞳はやる気満々、ここでやっぱりやめときます…とは言えないよな。ダサすぎて…
「じゃあ…マギアを使える場所に行こうか…」
「はい!さっきこの学校の地図をマギアのアプリで見ましたからすぐに迎えますよ」
――あらまあ…準備が速いこと。
僕たちは、マギア訓練施設なる場所まで歩いていた。
「あ!そう言えば、私まだちゃんと自己紹介してませんでしたね。初めまして、私の名前は『キサラギ・コハル』と言います。コハルが名前でキサラギが苗字です!」
彼女はにっこりと笑う…眩しい、眩しすぎて直視できない。
「え~と、僕はハンス・アンデシュと言いますハンスが名前、アンデシュが苗字です」
僕も一応もう1度だけ自己紹介をしておいた。
そんなことをしているうちに、付いてしまった。
「あ!付きましたね、マギア訓練施設!」
「そうだね…」
――はぁ、僕の足取りは重いよ。
「ここが、マギア訓練施設…広~い!すごいですよ、ハンス君!ここなら思いっきりマギアを使えそうです」
「ああ…そうだね」
良くも悪くも、この施設には僕たち以外誰もいなかった。
「それじゃあ、早速!『模擬戦』と行きましょうか!私、まだこのマギアのこと半分も知れてないので、出来る範囲で行きます」
「手加減してくれるとありがたいんだけど…」
「あれ?ハンス君のマギアは何ですか?その靴は普通の靴ですよね…手袋もしてないし…」
「ええっと、僕が使うのはこれなんだ…」
そう言って、僕は自分の腰をコハルさんに見せた。
「え!それって…まさか…魔法書ですか…初めて見ました…」
――驚くのも無理はない、今時魔法書を使っている奴なんてこの世界で僕くらいだろう。研究では使われているかもしれないが、実用生活で魔法書を使うなんて…凄くよく切れるナイフがあるのに、素手で肉を切ろうとしているのと同じだからだ。
僕は腰に付けてあるホルスターに左手で触れ魔力を流す。
すると、ホルルターのストッパーが外れ魔法書を取り出せるようになる。
左手で魔法書を持ち前に持ってきながら開き、唱える。
「杖よ…」
すると、魔法書の表紙に書かれている魔法陣から1本の魔法杖が現れる。
――良かった…入ってた。
僕は魔法杖を右手で持ちながら、左手で魔法書を持ち、構える。
――僕がここまで来るのに数秒、マギアなら触れるだけですぐ起動し攻撃に移れる…この数秒がかなりデカい差になってくるんだよな…。
この魔法書は僕のではない、父さんの研究室から勝手に持ち出したものだ。
だから正直言って魔法を放てるかも怪しい。
いや…多分無理だろう。
――初級魔法が書かれた魔法書であることを願っていたが…どうやら、この魔法書は初級魔法ではないらしい…さて、どうしたものか。
「え、え~と、ハンス君はその魔法書で戦うってことで良いのかな?」
「はい、そうです。合図はどうしましょうか」
「そうですね…それじゃあこのコインが地面に落ちたらスタートということで」
「分かりました」
「では、行きますよ。ほい!」
コハルさんは右手に『ジン』を持ち、左手でコインを投げる。
コインを投げた瞬間、コハルさんの雰囲気が変わった…何だろう、凄く空気が重い。
コハルさんは既にもう、『ジン』を構えている。
――来る!
コインが地面に落ち、時間がゆっくり流れる。
コハルさんはすぐに一歩前に踏み出してくる。
僕はそれに反応し、後方に移動する体制をとりながらも、コハルさんの動きを見逃さぬようコハルさんに集中する。
――感覚が研ぎ澄まされている…、初めて模擬戦を行ったが戦うとはこんなにも時間の流れをゆっくりにしてしまうものなのか…いや違う、これは時間がゆっくり動いているんじゃない!コハルさんが僕の意識よりも早く動いているんだ。僕の意識と体の速度が全然あっていない。
「グぅ!」
コハルさんの攻撃がすぐそこまで迫っている、コハルさんの持っている『ジン』との距離は既に数10cm。
――避けろ、避けろ、避けろ、避けろ!
かろうじて僕は後方に移動しコハルさんの攻撃を回避することが出来た。
しかし、コハルさんは止まらない。
――初撃から次の流れが凄まじく早い…これでEクラスかよ!
コハルさんは右後方から『ジン』を振りかざす、僕は持っている杖でジンを何とか受け流すが…
――はは、全然魔法を打てないな。
コハルさんの『ジン』はまだ起動しただけ、特に魔法を使っている様子はない。
つまり今の所、コハルさんはコハルさんの実力のみで戦っている、それにも拘らず僕は未だに反撃にすらできていない、すでにあちらのペースに持って行かれてしまったのだ。
コハルさんは2撃目を防がれそのまま3回目の攻撃をしてくると思ったが、一度後方に下がった。
「やりますね!田舎ではこれでも結構強い方だったんですよ。まだこのマギアと感覚が合いませんが」
「はは、僕はもう手いっぱいだよ。その動きでまだ魔法を使っていないほうが驚きだね…」
「では、そろそろ魔法を使わせていただきます!『ジン』『身体強化!』」
――来た…どのマギアにも必ずと言っていいほどプログラミングされている基本中の基本魔法。
『身体強化』…単純にして最も厄介なこの魔法。マギアを使用すれば、例え魔法を習ったことが無い子供でも使用することが出来る。
しかし、この『身体強化』…基本中の基本なのだが、魔法書で行おうとすると、とんでもない労力がかかってしまうのだ。
マギアであれば、無意識のうちにマギアが身体強化を付与してくれる、しかし魔法書はそうではない。
全て意識して行わなければならないのだ、何百年前の魔法士ならば無意識下で使用していたらしいが…今この世界で魔法書を使用し『身体強化』を行うことが出来る人物はきっともういないだろう。
あの『パラディン』でさえ、新型マギアを使用している時代だ。
「さぁ…あの動きが『身体強化』されたらいったいどうなってしまうのやら…」
コハルさんの体は身体強化の魔法により淡く光っている。
「では、行きます!!」
そう聞こえた瞬間…僕は空中に浮いていた…
「は…早すぎ…」
「あ、あわわわわ……よいしょ!」
コハルさんは空中に浮いた僕を下で何とか受け止めてくれた。
「す…すみません、寸止めするつもりだったんですけど…『身体強化』の影響が結構大きくて…当ててしまいました。その怪我は有りませんか!」
そう言って、僕を地面に下す。
僕は咄嗟に左手で持っていた魔法書を『ジン』との間に挟んでいたので何とか無事だった。
「は…はい、何とか」
コハルさんの立っていた位置を見ると、思いっきり踏み込んだのであろう…地面にクレーターができており、僕の立っていた位置に2つクレーターができている。
つまり、あの距離を一瞬にして移動し、僕を下から上え切り上げたのだ。
「あの…どうしてそんなに強いのにEクラスなんですか…」
「え…え~と。私、試験の時すごく緊張しちゃって…上手く自分の力を出せなかったんです。それで失敗ばかりしちゃって。私、運動しかできなから、勉強の方はダメダメで…はは」
――そうだったのか…
「すごかったです…あの動きは何ですか?すごい速さ、しかも一瞬であの距離を…」
「えっと、私の家ド田舎で道場をやってまして、あの技は…元は『瞬歩』というんですけど、『身体強化』をすると、通常でやるよりも数倍速くそして、数m先まで移動できるようになるんです。でもまぁ、体に結構負担掛かっちゃうんですけど」
――そうか…だからあんなに早く移動できたんだ。
「僕は手も足も出ませんでした…『身体強化』をしたあとならなおさら」
「そ、そんなことないですよ!私の初撃と2撃の連続攻撃をかわしたじゃないですか!私、その攻撃を防がれたの、お父さんと兄さんしかいません。だからハンス君は凄いですよ!」
――なんかすごいフォローされてる…情けないな。
「でも、僕魔法を全然打てなかった…」
――まぁ…元々打てる魔法なんて無いんだけど…。
「えっと、それは私の流派がそう言う流派なので…」
「え?どういうこと…」
「私の流派である桜之介流は敵の攻撃を遮断し、反撃の手段を断つというものなので…え~と、ハンス君が攻撃に移れなかったのはそのせいもあるかと…」
――だから、あんなに流れるような攻撃を…それにしてもすごい。
「それじゃあ元から勝てなかったというわけですか…はは、いや~、凄すぎて見ほれちゃいましたよ」
「あ、ありがとうございます」
コハルさんは頭をぺこぺこさせながら頬を赤色に染めている。
「それじゃあ!もう1回やりましょう!」
「…え、今からもう1回ですか…」
「はい!丁度、体が温まってきたところですし。次からはちゃんと寸止めにしますから。後20本くらいお願いします!」
――はは、この子こんな見た目なのに…結構スパルタなんだな。
僕に断る理由もなく、この後さらに20回僕は彼女に吹き飛ばされた。
「いてててて…」
「ごめんなさい!ほんとにごめんなさい!」
「だ、大丈夫ですから、そんなに謝らないでください。それに、僕もいい練習になりました、試合形式でやると結構身が入りますね」
全身打撲とは行かないまでも、体には結構な打ち身ができてしまった。
――こりゃ…父さんには見せられないな、しかもかわいい女の子の練習相手にされてボコられたんて…ちょっと恥ずかしすぎる。
学園の正門付近まで歩いてきたが、既に街灯がつき、オレンジ色の光が読道を照らしている時間帯。
「あの、田舎から来たって言ってましてけど…今どこに住んでるんですか?」
「私は、この学園にある女子寮に止まらせてもらってます」
「そうなんですか、寮なら学園にも近くて朝、寝坊しなくてすみそうですね。僕はよく朝寝坊するので、幼馴染によく怒られてますよ」
丁度リーフの話をしていた所…当の本人が学園から出てきた。
「あら、ハンスじゃない。貴方がこんな時間までここに居るなんて思ってなかった…」
リーフの眼がいきなり鋭くなる。
「は、初めまして、私キサラギ・コハルと言います。名前がコハルで名字がキサラギです。よろしくお願いします!」
コハルさんは僕に自己紹介した時と同じようにリーフにも自己紹介した。
「初めまして、私の名前はリーフ・マウンティ、呼びやすい用に呼んでもらって構わないわ」
「は、はい!リーフさんですね」
「それにしても…コハルさんの腰に掛けているそのマギア…もしかして…『ジン!』ねえ!ジンなんでしょ!お願い、ちょっとだけ見せてくれる!」
リーフは一瞬で間合いを詰め、コハルさんの手を握る。
――は…早い!
「た…確かに私のマギアは『ジン』ですけど…」
――ほら、コハルさんも困ってるじゃないか、初対面なのにそんなにぐいぐい言ったら引かれちゃうよ。
「お願い!資料で読んだだけだと、どうしても分からないところがあって。『ジン』なんてほんとに最新式モデルなんだから、中々お目に罹れるものじゃないの!ね、良いでしょ!このとおり!」
リーフは握っている手を頭に付けるようにして頭を下げる。
「い…いいですけど」
「ほんと!ありがとう!あなた良い人ね!」
そう言ってリーフはコハルさんに抱き着く。
「わわわ…」
コハルさんが戸惑っている。
リーフはコハルさんから離れ、自分のマギアを紹介しだした。
「ごめんなさいね。コハルさんのマギアを見せてもらうんだから、私のマギアも見せてあげないと不公平よね!」
「い…いや別に」
――だから、普通の人はそこまで他人のマギアに興味を持たないんだよ…リーフ。
「私のマギアはこのグローブ型マギア『ガントレット』私の愛しきマギア!」
「あ!そのマギア知ってます。初めての『新型マギア』が紹介されたときに開発者の方が付けてたモデルのやつですよね」
「フフフ…ただの同じモデルじゃないのよ…これはその『新型マギア』が発表されたとき実際に使われた、正真正銘、本物中の本物なのよ!」
そう言って、マギアを付けた右腕を天高くつき上げる。
「は…はぁ。す…凄いですね…」
――ほらやっぱり引かれてるよ、リーフ。
「私の得意な魔法は水魔法、だからこのマギアには多くの水魔法がプログラミングされているの。もちろん私が使いやすいようにね」
「え!水魔法なんですか!水魔法を使うなら、魔法杖型マギアの方が…相性良くないですか?グローブ型なら、『打撃魔法』とか『身体強化魔法』とかの方が…相性がいいと思うんですけど…」
「コハルさん!ストップ!!!」
僕はコハルさんの質問を止めるタイミングをミスってしまった。
「え~、気になっちゃう!!気になっちゃうよね!!」
「え…ままぁはい…」
――あちゃ……コハルさん…寮の門限、初日から破らせてしまいすみません…。
「実はね、私の戦い方的に杖型マギアよりグローブ型マギアの方が使いやすいの。それは実際に戦ってみたほうが早いと思うけど…今日はもう遅いし明日にでも、模擬戦やってみない?『ジン』もその時見せてもらうわ」
――あれ…今日は朝までマギア語りコースじゃないのか…。
「はい!もちろんです!明日、模擬戦よろしくお願いします!」
――は~、珍しい日もあるもんだな…。
「それじゃあ、ハンスさん、リーフさん。また明日!」
桜満開の笑顔でコハルさんは寮に向って走って行った。
「まるで…夜桜を見ているようだ…」
「ハンス…鼻の下伸ばしすぎ…正直キモい」
「な!」
「それに…」
リーフは僕の制服を徐にめくりあげる…。
「ちょ!っと何するんだ!」
「やっぱり…こっ酷くやられたわね…あの子にやられたの…」
リーフは僕のうち身を見てそう言った。
「そ…そうだけど…別にコハルさんが悪いわけじゃないんだ!僕が弱いのがいけないんだよ…」
「は~もう…仕方ないわね『ガントレット』起動!」
リーフは徐にマギアを起動させた。
「何する気だよ、リーフ!」
「ハンスは前を向いてなさい!」
「は…はい」
「『疲労回復』『治癒』を掛けてあげるから」
――ガントレットから僕に魔力が流れ込まれる、水の流れるように僕の体全身にリーフの魔力が浸透居てくのを感じる…。
「はい!これで明日には治ってるでしょ」
「あ、ありがとうリーフ…」
「別に!初めて会った女の子に鼻の下伸ばして、ボコボコになるまで練習に付き合わされた挙句、幼馴染に回復させてもらっているダサダサ幼馴染のことなんて知らないんだから!」
「リーフ…何もそこまで言わなくても…」
「ハンスもさっさとマギア使いなさいよ!もう、適性検査だって受けてるんでしょ!あんたには才能があるんだから、マギアさえ使えばSランククラスだって…」
「リーフ…僕はマギアを使わないって決めたんだ!」
僕はいつもより真剣な口調でリーフに伝えた。
「は~、そうよね…そう言うと思ってた。でも、ハンス…この世界でマギアを使わないってことがどれだけ大変な事か分かってる?」
「分かってるさ…それでも、僕がマギアを使うわけにはいかないんだ…」
「そう…意志は固いのね…それなら何も言わない」
「ありがとうリーフ、心配してくれて」
「フン…」
顔をそっぽむく、いつも通りだ。
「それじゃあ、帰ろうか…」
「コハルさんはどんな事をしてきたの…明日の参考にしたいんだけど」
「それを言ったら、平等じゃなくなるだろ…」
「それもそうね…でもハンスがそんなこと言うんだから…結構な腕なのね」
「Eクラスにいるのがおかしいくらいだよ…今年の入学生を見てきたわけじゃないから分からないけど…Bクラス…いやAクラスに居てもおかしくないと思うよ」
「へ~、楽しみになってきたじゃない…」
リーフはガチの顔になる。
「リーフ…ちゃんと寝ないとだめだよ…」
「分かってる、もう昔みたいに3徹はしないから。安心して!今日だってまだ1徹だし!」
「さっさと帰って寝ろ!このマギアオタクが!」
帰宅後
「ただいま…」
「お!お帰りハンス!今日は随分と遅かったな」
父さんが玄関でタローをなでている…タローとは家のペットで数年前から飼い始めた柴犬だ。
タローの家系は総理大臣賞とか言う賞を取ったことがあるらしいんだけど…総理大臣っていつの時代の話だよ。一応血統書付きだ!とか言って父さんの友人がこの家に連れてきたのが飼い始めたきっかけなんだけど…。
「学園はどうだった?楽しかったか?」
「ま…まぁ、ボチボチだよ」
「そうか…それじゃあ、夕食にしようか。丁度いい牛肉が送られてきたんだ。一緒に食べよう」
「牛肉!人工肉じゃなくて…本物の牛肉なの!」
「ああ、本物の牛肉だ。上手いぞ~」
「食べる…牛肉食べる!」
「そうか、良し!食べよう牛肉!」
――別に父さんとは仲が悪いというわけではない…尊敬だってしてるし、こんな人になりたいと思う目標にだってしてる。
父さんが世界を変えたのだって確かだし…世界を良い方向に傾けたのも父さんだ。
「ドンカ―さんの息子があれかよ!」とか「ドンカ―さんが凄いのにお前はどうしてそんなにダメなんだ?」とか、もう言われすぎてなんとも思わなくなったし、別に気にしてない。
だって、次元が違いすぎるから…僕が父さんみたいになれる未来が全く見えない…人が神になりたいと思わないように…僕も父さんみたいに成ろうと思えない…。
世間の人は父さんを過大評価しすぎだ、父さんは天才じゃない。
何方かと言えば凡人に近いだろう…ただ、ずっと今までマギアのことについて考え続けてきただけなのだ。
考え続けていたらいつの間にか有名な人になってしまっただけで、父さんは普通の人だと僕は知っている。
それが父さんを嫌っていない理由…僕がマギアを使わないのはまた違う理由だ。
その夜は死ぬほど牛肉をお腹いっぱい食べた。
父さんが有名になったことで、こんな良いことも増えたので結構うれしかったりする。
牛肉を食べ終わり、僕は自室に向う。
この部屋は昔、僕の曽お爺ちゃんが使っていたらしい。
昔から多くの魔法書が壁一面に並べられている。
「魔法は全く使えないけど…無駄な知識ばかり増やしちゃったのはこの部屋のせいなんだよな…」
曽お爺ちゃんは僕が生まれる前に死んじゃったらしいけど、ここの魔法書は処分されなかったらしい。
結構レアものの魔法書もあるんだとか…。
昔からよくここの本棚から魔法書を抜き出して見ていた。
ただ見ているだけだったけど、楽しかったのを覚えている。
僕の腰に付けてあるホルスターを外し魔法書が入ったままの状態で机に置く。
「は~、朝もっと基礎の基礎が書かれた魔法書にしておけばよかったな…まさか、重力魔法とか空間魔法が書かれている超高等魔術が書かれた魔法書を持って行っちゃうなんて…。でも、研究室においてあったということは…マギアで使えるようになるんだろうな」
僕は魔法書をなでる…
「君たちの魔法は猛練習しなくても簡単に使われるようになるんだってさ…ちょっと悲しいよね。大昔の大魔法士が人生を懸けて作り上げてきたものを…今の時代の人たちは簡単に使っちゃうんだから」
魔法書が少し湿っている…君も悲しいのかな…。
いや、さっきリーフに治癒魔法かけられてるとき後ろから魔力を流されたから湿っちゃってるんだろうな。
僕はその魔法書を自室の超高等魔術が並べられている本棚にしまう。
「父さんに、使ったらちゃんと戻してって言わないとな…」
魔法書を元の場所に戻し、そのままベッドに僕も倒れ込む。
ふかふかのベッドが今日の疲れを一気に包み込んでくれる。
僕は一瞬で眠りに落ちた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いします。