警察隊
「運動…ってよく考えれば、僕普通にいつも運動してるじゃないか…さっきだってランニングで帰ってきたし…。あれ、でもランニングしてるとき…僕何か考えてたっけ…」
とりあえず、家の周りを1周ランニングしてみることにした。
「はぁっはぁっはぁ…この状態で…マナを…意識して…」
激しめにランニングしていると、辛すぎて頭で何か考えようとすることが出来ない。
ただ辛いという感情だけが頭の中を埋め尽くしている状態にあることを今さら気づいた。
つまり、今を感じている…何も考えていない…と言えるのだろうか。
[ドッドッドッド…]
と心臓の音が耳にまで響いてくる。
意識するとなおさらものすごい早で波打っているのが分かる。
――あれ…何だろう…体の中を何かが流れている気がする…。けど…うまく感じ取れないな。
「はぁはぁはぁ…今日は…これが限界…もう、走れない…ここまで来ちゃうと頭の中で早く辞めたいとか、何処で止まろうとか考えちゃってるな…。でも途中まで何か上手くいってたような…そんな気がするぞ」
ゆっくりと歩きながら、家に帰る。
その時にはすでに日は落ち真っ暗になってしまっていた。
街灯の灯りと魔道車のハイビームだけが僕の足元を照らす。
ちょうど橋に差し掛かった頃。
「もうこんな時間か…帰って勉強しないと。ん?これ…誰かの落とし物かな…」
拾ったのは財布だった。
「中身を見るのはちょっと怖いから、『警備隊』へ渡しに行こうかな。丁度ここから警備隊の部署が近かったよね」
『ジャポニ王国魔法騎士警備隊』
通称警備隊…それは法の下で王国の安全を守り、秩序を正す組織である。
王国中から最も優秀な者たちが集うと言われる組織だ。
パラディン候補も数名所属しているらしい。
各地に部署があり、それぞれ数十名からなる警備隊が地域の保安を行っている。
僕の通っているドラグニティ学園からも毎年数名この警備隊に配属される人がるらしい。
「さてと、財布を届けないと持ち主が困っちゃうもんね」
僕は近くの部署まで財布を届けに行った。
「あれ?こんな所だったかな…」
そこには小さな看板とパトランプがくるくると光っている。
「昔家で見た地図には…警備隊って書いてあったと思うんだけど…って!警備隊じゃなくて『警察隊』って書いてあるよ!警備と警察を間違えるなんて…」
警察隊…それは、各自治体が組織している警備隊のようなものだ。
はっきり言って、警察隊と警備隊との差は歴然…もう魔法書と新型マギアほどの差がある。
見た目、実力、成績…どれをとっても警察隊は警備隊に敵わない…。
「はぁ…仕方ない…一応警察隊でも落とし物を預かってくれるはずだ…」
僕は古びた扉を恐る恐る開ける。
「あら?珍しい!こんな時間にどうされましたか?」
「え…かわいい…」
そこには、今時珍しい警察服を着た女性が座っていた。
「おいおい、ガキ…うちの部署の『エリカちゃん』が可愛いのは認めるが…こんな時間に出歩いてんじゃねえぞ。もう8時だ、さっさと家に帰んな。家が分かんねえような外国人じゃねえだろ」
「ご、ごめんなさい」
女性の隣にはガラの悪そうな男性が1人…座っている。
「もう!『イガラシさん』ちゃんと見てくださいよ、手に財布を持ってるじゃないですか。そんないきなりガンを飛ばしたらビックリしちゃうじゃないですか。だからいつまでたっても警察隊の印象が良くならないんですよ!」
「はいはい…耳にたこが出来るほど聞きました。で、ガキ…その財布をどこで拾った。こちとら、書類と言う面倒なもんを書かなきゃならねえんだ。さっさと言ってくれ」
「えっと、ここの近くにある大橋の上です。ランニングをした帰りに見つけたので届けに来ました…」
「ここから近くって言ったら…フリッツ川の大橋か…、あそこよく財布落とす輩が出るんだよな。まぁ、今時財布を持つ奴なんて爺さんか婆さんくらいだからな…仕方ないか」
「そうですよね、最近財布持つ人全くいなくなりましたよ。マギアで全部できちゃいますもん。買い物もバスも魔車も何でもマギアがあれば何もいらないですし…マギアだけ持っていればいいですから、ほんと楽な時代ですよ」
「まあ、この財布はうちで預かる。名前と年齢、連絡先。どこか教育機関に通っているならその名前も」
「はい、名前はハンス・アンデシュ。年齢は12歳です。ドラグニティ学園に通っています」
「ほう、見かけによらず良い所に通ってんだな。それに…アンデシュ…もしかして、ドンカ―・アンデシュの息子とか!ま…そんなことは無いか」
「でも…イガラシさん。どことなくドンカ―さんと似てますよ…」
――どうしよう…自分から言うのはなんか恥ずかしいな…別に気づかれていないんなら言う必要もないし。
「ま、ドンカ―さんと知り合いなら、俺のこと聞いてみてくれよ。昔大学でドンカ―さんの講義受けてたことあるんだ。その時結構お世話になってよ、単位が全然嘆なかったから土下座したら、何とか単位出してくれて、卒業出来たんだわ。でもまぁ、今ではこんな寂れたところで仕事してるけどよ」
「えっと…失礼ですが。おいくつですか…」
「27だが、大学を卒業したのは24だから3年前だな…なんだ?俺の年齢なんて聞いて」
「い、いえ…ちょっと気になっただけです…」
――3年くらい前なら…父さんギリギリ覚えてるかも…。
「えっと、それと…連絡先は父さんの連絡先でもいいですか。僕…連絡先持ってないので」
「今時珍しいガキだな…マギア持ってないのか?」
「はい…ちょっと、理由がありまして…」
「別に無いなら無いで良いんだ、エリカちゃんタブレット持ってきて」
「は~い」
エリカさんは立ち上がり、奥の方へ歩いて行った。
そしてすぐ、タブレットを手にして戻ってくる。
「えっと…ここに番号を書いてね」
僕は指定されたタブレットに父さんの予備マギア番号を書いた。
「これで3か月後に財布の持ち主が見つからなかったら、マギアに連絡が行くはずだ。その時はもう一度この場所に来てくれ」
「分かりました…では失礼します…」
「バイバ~イ」
エリカさんは笑って手を振ってくれたので、僕も一応振り返す。
扉を閉め、一息入れると、ドッと疲れが舞い戻ってくきた。
ーー早く家に戻らないと、父さんが心配するぞ・・・。
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