驚異の世界普及率99%
「私は、この4年間…ずっとこの日を待ち続けていた!数年に一度、全てを変えてしまうような者が現れる。一度でも何かを変える物を作れれば幸運だが、私は多くの機会に恵まれた。100年前、世界で大戦が起きた!そして、魔法の根本を変えてしまった者がその時訪れたのだ。大戦後、我々人類が開発したこの『魔法力補助器具』!略して『マギア』によって。本日、革命的な新機能を3つ紹介しましょう!」
僕のパパが多くの人の前で何かを話している。
しかし、僕にはそれが何の話をしているのか全く分からなかった。
「お爺ちゃん…お父さんは何を話しているの?」
「そうじゃな…お爺ちゃんにもよく分からんのじゃ。あ奴は何を話し取るんじゃろうな…」
「もー、ハンスのお爺ちゃんとハンスは黙ってて!今、ドンカ―さんが凄いことしてるんだから!」
「そんなこと言ってもリーフ、何もわからなきゃ全然面白くないよ…」
「ちゃんと聞いてれば分かるから、ほら、始まるよ!」
「1つ:『マギア』の小型化。2つ:『魔力変換効率』の最大化。3つ:小型マイクロチップにより、今までの魔法内蔵量より100倍の魔法を内蔵可能。「マギアの小型化」、「魔力の変換効率」、「魔法内蔵量」、この3つの大きな壁が今までありました。100年の長い間不可能だとされていた、マギアの小型化。魔法を使う際に起こってしまう変換効率の悪さ。マギア内にプログラムできる、魔法の少なさ。この3つの問題がマギア開発の発展を妨げていたのです。しかし!私は再開発した、それがこちらの『新型マギア!』」
会場のスクリーンに新型マギアが映し出される。
「おーお!」
会場で歓声が上がる…。
「小さいな…ほんとにあれで『マギア』の効果が得られるのか…」
「まず、従来の『旧マギア』を見てもらいましょう」
スクリーンに『旧マギア』の映像が流れる。
「この『旧マギア』は、全身に装備し…かつ、とてつもなく重い、使用するのに1人1つが限界だろう。さらに、このような『旧型マギア』を使う際、魔力の枯渇が大問題となっていた。ただ、魔法書を使うよりは誰でも簡単に魔法が使えるという点で大戦でも多く使用された。しかし、今の生活でこのような『マギア』を使う場合は極めて低い!今見てもらっている『旧型マギア』は大戦後一気に使用されなくなった。『旧2型マギア』、こちらは比較的小さくなったがまだ大きい。この『旧2型マギア』は今でも工事現場や警備隊、王国警備などに広く使われている。しかし、決定的な欠点がある、それは人の成長によって使用することが出来なくなって行くという点だ。『マギア』は今や、世界中で使われている道具だが、それ故に用途によって買いなおしていく必要があった。理由は簡単、魔法をプログラムするメモリー不足、『マギア』にはそれぞれ魔法がプログラミングされている。その為、後から魔法を書き換えることは不可能だった。私が今から紹介する『新型マギア』は今までの『マギア』とはすべてが違う。それがこちらだ!」
ドンカ―は講演中、ずっと右手をスーツのポケットに入れていた、その右手を今、ポケットから出したのだ。
「おーーーーーーー!」
会場からものすごい歓声が上がる。
「俺が思ってたよりも格段に小さいぞ!どういうことだ、そんなことが可能なのか!」
「この『新型マギア』はグローブ型『マギア』名を『ガントレット』。そしてこちらにあるのが、それぞれの使用者に合わせた、『新型マギア達だ!』」
後ろのスクリーンが戻されていく。
すると、スクリーンの後ろ側に、数多くの『新型マギア』が陳列されていた。
会場は言葉を失う…グローブ型でさえ革命的であるにもかかわらず、魔法杖型、剣型、銃型、弓型、槍型、短剣型、…etcそれぞれの用途に合わせた『新型マギア』がそこにあったのだ。
「それでは皆様…お待ちかねの実演と行きましょう!『ガントレット起動!』」
ドンカ―はガントレットに触れる。
すると、ガントレットが起動し一瞬眩い光を放った。
「『新型マギア』の起動方法は簡単、魔力を流すだけ。充電もケーブルも必要ありません。叫んだり、指を触れたり、握りしめたりするだけでも起動可能です。では今からスクリーンボードにガントレット内のプログラミングされている魔法を紹介しましょう。皆さまご覧ください」
スクリーンボードに数えきれないほどの魔法が記載されている。
「バカな…なんて数なんだ…ん、変更画面?」
「お気づきになりましたか、そう、魔法を自身の好きなように変更することが出来るのです。これによって、用途によって『マギア』を買い替える必要はありません。ずっと同じ『マギア』を使用し続けることが出来るのです。そして肝心の能力ですが…」
会場の天井が開いていく。
「ん…なんだ、なんだ!」
会場の人々は周りを見渡し、そして気づく。
「おい!何だ、あれは!」
そこには『旧型マギア』を使用している警備隊の兵士たちが立っていた。
既に観客席側には他者の『マギア』によって大きな透明状の膜が張られた。
そして、兵士はドンカ―に向って魔法を放ったのだ。
旧型マギアに搭載されている砲撃部から、巨大な火の玉をドンカ―目掛けて放った。
「危ない!」
『シールド!』
ドンカ―は右手を顔の前に翳す。
すると、ドンカ―の周りを淡い光がつつむ。
兵士たちが放った魔法はドンカ―の前で爆発し、目の前が爆炎によって暗闇になる。
少しずつ煙が晴れていくと…そこには無傷のドンカ―が立っていた。
「どうでしょうか、これがガントレットにプログラムされている魔法の1つ、『シールド』です。『旧型マギア』の攻撃を受けてもビクともしない壁を張ることが可能です。この際使用される魔力量は、旧型マギアの100分の1にまで抑えられています。どうでしょうか…これが『新型マギア』の力です。これでドンカ―・アンデシュの講演を終了します。ご清聴ありがとうございました」
会場は拍手喝采で包まれ、ドンカ―は講演を終えた。
『新型マギア』を発表した数年後…
『ドンカ―・アンデシュ』の発表した『新型マギア』は世界普及率99%を達成し、確実に世界を変えた。
今までの「旧型マギア」を開発していた研究者たちが何とかして『新型マギア』の欠点を探したが…全くと言っていいほど『新型マギア』の欠点が見つからなかった。
勇逸の欠点が…「赤ちゃんが使うことが出来ない」というものだけだった。
これを発表した研究者たちは他の研究者たちから笑いものにされたのは言うまでもない。
「父さん…学園に行ってくるよ」
「ああ、行ってらっしゃい。ってハンス、マギア忘れてるぞ!講義で使うだろ」
「マギアは…要らない。それじゃ…言っていきます」
「ハンス…」
無駄に大きな玄関から僕は飛び出し、学園に向っていった。
「おーい!ハンス!おはよう」
「おはよう。リーフ今日も元気だね」
朝1番に顔を合わせるのは幼馴染のリーフだ。
いつも通り完璧な服装髪型、革靴までピカピカに磨いている。
「そりゃそうよ!今日から学園に行けると思ったら楽しみで仕方ないじゃん。ってまた、マギア忘れたの?どうして、ドンカ―さんの息子がマギアを忘れるのよ」
「あ…ほんとだ、また忘れちゃった…ははは」
――忘れてなどいない、僕はあえて持って来なかったのだ。あんなもの絶対に使ったりしない…
「リーフはそのマギアずっと使ってるね、確か…『ガントレット』だっけ、グローブ型のマギア」
「そう!しかもこれ、ドンカ―さんに譲ってもらったものなの!まさか、私に譲ってくれるなんて思ってなかったからすごく嬉しかった!私は、将来絶対にマギア研究者になりたいの、ドンカ―さんみたいにね!」
「ホントに…リーフはマギアオタクだな…」
「良いじゃない、マギアが好きなんだから!」
リーフと話しながら歩いていると…
「あ!見えてきた!ハンス、あれがドラグニティ魔法学園だよ。スッゴク大きい!」
「うわ…でっか…」
――外見からしてもうお城だよなあれ…僕からしたら絵本とかで見るような建物だよ…。
『ドラグニティ魔法学園』、それは…このジャパニ王国にある中高一貫の学園である。
僕は足取りが重い。
昨日に寝付けなかったからではない。
もっと別の理由だ。
「ハンス…大丈夫?小学校の頃のことまだ気にしてるの?」
「そんなことないけど…でもやっぱり行く気になれないな…」
僕は小学生の頃…
「なぁ!ハンスってさ、あのドンカ―さんの子供なんだろ!じゃあスゲーマギアいっぱい持っててすごく強いんだろ!頭もめっちゃ、いいって噂だし!」
「しかも、運動神経も滅茶苦茶いいらしいぜ、さすがドンカ―さんの息子だよな。やっぱり親が凄いと子供も凄いんだろうな!」
こんな噂話が小学校中に広まってしまい僕の居場所はなくなってしまった。
マギアは使わないし、強くもない、頭もそこまでよくないし、運動神経だって中の下だ。
父さんの息子だからってだけで、勝手に僕の姿が形作られていくのが凄く嫌だった。
「ハンス!あんなこと言われても気にしちゃダメ!ハンスはハンス!別にいいじゃない、他人に何言われたって、存分にカッコ悪い所見せてきなさいよ!私は知ってるんだから、ハンスは強くないし頭もよくない運動神経だってダメダメだってこと。みんなに知られてもきっと何も変わらないから、もし慰めてほしかったら私が慰めてあげる!」
リーフは小学生ながら…こんなことを言ってくれた。
僕はどれほど救われたか…
それでも、僕はいまだに小学生の頃を引きずっている…。
何故かというと、『ドラグニティ学園』に入れたのは父さんのおかげだからだ…
父さんと「ドラグニティ学園」の先生たちは友達らしく、父さんが僕のことを話したら『ぜひうちの学園に』って言われたらしい…。それでずるずるとこの学園に入ることになってしまった。
「さてと、行きましょう!もうすぐ登校時間20分前になっちゃう。初日から遅刻しちゃうなんて、優等生としてあるまじき行為だわ!」
「リーフ、そんなに急がなくても…」
リーフは駆け足しながら僕の前を行く。
「もーじれったい!早く!」
リーフは僕の手を掴むと強く引っ張りながら走り出した。
『ドラグニティ学園正門前』
「ドラグニティ学園新入生の方、入学式会場はこちらです!」
正門前には先生らしき人が立っていた。
「おはようございます!リーフ・マウンティと言います。これからよろしくお願いします!」
出会った瞬間リーフは自ら率先して挨拶を行った…いつもこうだ。
リーフは誰だろうと先に挨拶を行う、僕には絶対にまねできない。
「あら!礼儀正しいわね。こちらこそよろしくお願いします。入学式会場はこの道を真っすぐ行ったあの大きな教会で行われるわ」
「ありがとうございます。失礼しました」
リーフは最後に深くお辞儀をする。
「あんなに礼儀正しくしなくてもいいんじゃないか…」
「何言ってるのハンス!人は第1印象が1番大事なんだから。もしかしたら私たちの先生になる人かもしれないでしょ」
――まぁ、0%ではないか…それにしても、どれだけ多くの人がここに居るんだ…。
僕が見える範囲だけでも、既に400人くらい居るんじゃないだろうか…まだあの教会の中にいるとすると…どれだけ多いんだ。
「なぁ、リーフ、今回入学する生徒って何人くらいいるんだ?」
「そうね…確か1505人だったと思うけど。私たちを含めた中等部全員で4150人、高等部全員で8040人、全校で12190人の生徒がいるわ」
「12190人!多すぎだろ!どうなってるんだ」
「そりゃあ、このドラグニティ学園はジャパニ王国で有名な新学園だもん。まぁ生徒はいっぱいいるけど、お金持ちの家の子とか、権力者の子も大勢いるし、貴族の子だっているのよ。噂では、ジャパニ王国、国王の子供も入学してるって。他国からの留学生も大勢いるらしいわよ」
「なんでそんなすごい学校に僕なんかが入ってるんだよ!場違いにもほどがあるだろう!入学試験だってほとんど分からなかったのにどうして僕は入学できたんだ!」
「そりゃ…ドンカ―さんの息子だからなんじゃない。でもこれはチャンスでもあるのよ!自分を変えることのできるチャンスをドンカ―さんはハンス!あなたに与えたかったのよ。その気持ちを汲み取ってこの学園の先生たちもハンスを入学させてくれたんじゃないの?」
「…僕はそんなこと頼んでないよ…」
僕よりもはるかに強そうで頭のよさそうな人たちばかりが…歩いている。
しかし、ここまで来て引き返すのも情けないので僕は、教会に向って歩いていく。
「前の人からこちらの教会内に入って行ってください!1人1つ、ちゃんと椅子がありますから、急がなくて大丈夫ですよ!」
他の先生たちが僕たち新入生を先導する。
「それにしても大きいな…いったい何人は入れるんだろう」
「ハンス!早くいくわよ、後ろが詰まっちゃう」
バカでかい教会に入って行き、綺麗に陳列された椅子に座る。
教会の壁にはいろんな人の肖像画が飾ってある…のだが…。
「あ…曽爺ちゃんだ…」
「ほんと、ハンスの曾お爺ちゃんもこの学校に通ってたのね」
肖像画の中に僕の曽お爺ちゃん、『ヨハンセン・アンデシュ』の肖像画が飾られていた。
随分カッコよく書かれている。
大分若いけど何歳くらいの時描いてもらったんだろうか。
「ハンスの曽お爺ちゃんってすごく強い魔法使いだったんでしょ。大戦でも活躍したって、そんなすごい人のひ孫が…はぁ、遺伝子…て残酷ね…」
リーフは僕の事を可哀そうなものを見る目でそう言った。
「うるさい…」
――僕だって出来るなら魔法をうまく使いたいよ。
椅子に座ってから、10分ほどたち、周りを見渡せば人、何処を見渡しても人、人いや…人じゃない生徒もいる。
目を凝らせばいろんな国の人たちがこの場にいることが分かった。
長い耳…ふさふさの尻尾…ウロコの付いた尻尾などを特徴的な部分を持つ生徒たちもいた。
「ハンス!入学式、始まるわよ」
祭壇の前にお年寄りの先生が立った。
真っ黒なローブを着込み、頭にはこちらも真っ黒なエナンをかぶっている。
右手には杖型のマギア『ロッド』を持っている。
「マギア…起動、『フロウ』」
お年寄りの先生はマギアを起動し、浮遊魔法『フロウ』を発動した。
会場にいる生徒たちの椅子が浮かび上がる。
「マギア起動『ピクチャー』」
他の先生がマギアを起動し、会場の前後ろ両脇にスクリーンを展開した。
そして、何処からでもお年寄りの先生が見える状態にしたのだ。
「え~、皆さん、落ち着いてください。今浮いてもらっているのは、魔法を肌で感じてもらおうと思い、私が勝手にやっていることです。落ちそうになったら、他の先生たちが必ず受け止めますので心配しないで。え~今浮いていない生徒もいると思いますが、その生徒たちは事前に高所恐怖症であると伺っておりますので、浮いていないだけです。あ、自己紹介が遅れてしまったな…え~、儂の名前は『セブンス・ドラグニティ』、この学園の学園長をしておる」
「セブンス・ドラグニティさんだ!この世界で7人しかいない『パラディン』の1人、セブンス・ドラグニティさんに生で会えるなんて…」
マギア、魔法士オタクのリーフは既に興奮状態に入っている。
「え~、儂はあんまり話すのが得意じゃないんでな、簡単に済まさせてもらう。ようこそ、ドラグニティ学園へ、皆を歓迎する!この学園で多くを学び、大きく成長していってくれることを儂は願っておる!皆が目指す目標は1人1人違うじゃろう。だが、ドラグニティ学園は全生徒の目指す目標を達成するために重要なことを教えてくれるだろう。学べ!自ら目指す目標を手にするために!遊べ!人生を謳歌するために!苦しめ!人、生物として成長できるように!話は以上だ!…儂からのささやかな祝いの品としてこの花を贈ろう!」
校長先生は右手に持っていたマギアを前に突き出すと共にゆっくりとマギアの先を上に向け…呪文を唱えた。
『開花!』
多くの生徒の胸あたりに、一輪の花が咲く。
「この花は…サザンカ」
「儂の1番好きな花じゃ」
そう言って、校長先生はその場から消えた。
「す…すごい、転移魔法も使えるなんて…さすがはパラディン」
浮いていた椅子が少しずつ下りていく。
ふと隣を見ると…リーフは相当感動したのか号泣していた…。
僕はそれを見て、ちょっと引いてしまった…ごめんリーフ。
「学園長先生ありがとうございました。只今より在校生の挨拶へと移行させていただきます。それでは現生徒会長の高等部3年『トーマ・グラリス君』よろしくお願いします」
「はい!」
「あの人が生徒会長…」
その姿は、優男といった感じで短く黒い髪、身長は170㎝くらい、制服をゆったりと着こなしている。
生徒会長の両腰にはホルスターに入った銃型のマギアが2つ付いていた。
「皆さん、おはようございます。僕の名前はトーマ・グラリス、使うマギアはこの2つの銃型マギア名『バレット』。入学式から使ってるお気に入りのマギアです。皆さん入学おめでとうございます。僕は今でこそ生徒会長をという立場をやらせてもらっていますが、入学当初は落ちこぼれでした。しかし、学園の先生方に様々な指導をしていただき、多くの知識そして力を自分のものにしました。ですから皆さんも諦めず、自身の力を信じてください。応援しています。短いですが、これで僕の話を終わらせていただきます」
生徒会長はその場を離れる。
「続いて、入学生の挨拶に移行します。代表『キール・スプレイド君』お願いします」
――キール・スプレイド…聞いたことあるな。
「リーフ…スプレイドって何か聞いたことあるんだけど、どっかのえらい人だっけ?」
「何言ってるの、スプレイドって言ったらあのスプレイド家のことでしょ」
「…あのスプロイド家…!そうだ有名な貴族じゃないか…」
「そう…しかも、私より入学テストで良い点を取っていることからすると、相当な実力者よ」
「リーフ…ちょっと自分のことを過信しすぎなんじゃないか…」
「何言ってるの。私はドンカ―さんと一緒に働きたいのよ、それならこの学校で1番を取るつもりでいかないと…」
「父さんならすぐ働かせてくれそうだけどな…」
こんな話をしている間に、キールは前のほうに歩いていく。
目を引く明るい髪、見るものすべてを怯えさせてしまいそうな鋭い目、身長は僕よりはるかに高く既に175㎝くらい有りそうだ。
左手には腕輪型のマギアを付けている。
同じ制服を着ているはずなのだが、放っているオーラが違うのか周りの人たちよりも輝いて見える。
「俺の名前はキール・スプレイド、世界のトップに立つ男だ!」
――なんか…いきなりすごいことを言い放った。世界のトップに立つということは意味的に考えて、パラディンになるという事かな…
勝手に深い意味を考える。
「手始めに…お前を倒す!」
そう言って、キールは生徒会長を指さした。
「いきなり、お前を倒すと言われてもね…」
生徒会長は驚きながらも…その顔は「少し面白そうだ」と言わんばかりに口角をあげている。
「お前の意見は聞いていない、俺はさっさとトップに立たなければならないんだ。お前はこの学園で2番目に強いのだろ、ホントは、パラディンの爺を叩き潰したかったのだが、どこに行ったか分からないんでな。手始めにお前を叩き潰してやろうってわけだ」
キールの鋭い目線が生徒会長を捉える。
「へ~、いうじゃん…」
生徒会長がその場に立ち上がり、キールへと迫る勢いで魔力を放出する。
2人の間は壇上と観覧席で離れているにも関わらず、僕の座っている場所でも感じる取れるくらいに、ものすごい魔力がぶつかり合っている…
「ストップ!!!」
魔力を切り裂くように割って入ったのは生徒会長と同じ学年証を付けた女の人だった。
「ごめん、ごめん、リアーナちょっと面白そうだったから」
「誰だ…きさま」
その女の人は、はきはきと喋り出す。
「私は、この学園の風紀委員長をやっているリアーナ・トレントと言います!失礼ながら風紀の乱れを感じましたので、私のマギアによって魔力を切らせていただきました!」
――魔力を切る…凄い。
「ちっ!興覚めだ…俺はすぐきさまと戦いその座から引きずりおろしてやる」
「楽しみにしているよ、キール君」
生徒会長は手を振り不気味に笑う、それを見たキールも笑みを浮かべた。
「え…えーと、以上を持ちまして新入生の入学式を終わりたと思います。皆さんのマギアにそれぞれのクラスを配布いたしましたので確認次第、それぞれの教室に向ってください」
「え…僕…マギア持ってないのに…」
「え!ちょっと、入学の時に自分のマギア登録したんじゃないの?」
「え!僕そんなことしてないよ、ただどんなマギアを使っていますか?って質問されたとき僕はマギアを使いませんって答えただけで、それ以外のマギアの話1切聞いてないよ」
「呆れた…それじゃあどうするのよ」
どうしようか本気で悩んでいたが…悩む心配はなかった。
「え~、ハンス・アンデシュさん、前に来てもらってもいいですか」
入学生の前で僕の名前を大声で呼ぶ。
「アンデシュ!だって!」
入学生の殆どが前の方を向く、別にありきたりの苗字でしょ…どうしてそんなにみんな驚くんだよ…。
「アンデシュって新型マギアを作った人の苗字だろ!」
「もしかしたら、その子供だったりして!」
「やべ~、友達になったらスゲーレアなマギア貰えたりして!」
「でもよ!クラスが同じか上のランクのクラスじゃないと父さんが話しちゃいけないって…」
「新型マギアを作った人の子供だぞ、ランクが高いクラスに決まってるだろ」
――またあんなこと言われてるよ…気にしない気にしない。
僕は呼ばれたので、前の方に向った。
「あの~、僕に何か…?」
「君が、ハンス・アンデシュ君?」
「はい…そうですけど」
「そう、それじゃあ…これ君のクラス」
そう言って僕にクラスが書かれたクラス表を手渡された。
「それじゃあ、確かに渡したからね」
僕だけが、このクラス表を貰った。
「それじゃあ、私はSクラスに行くから。ハンスも教室間違えたら駄目だよ」
「そこまで馬鹿じゃないよ…て!リーフ、Sクラスなの!」
「当たり前でしょ、私今回の入学試験2位なんだから。ホントは1位を取りたかったけど、あのお貴族様に1番を取られちゃった…悔しいけど、次こそは私が一番を取る!私も頑張るんだから、ハンスも頑張りなさいよ!」
そう言ってリーフは拳を前に突き出し、その場を立ち去っていく。
「リーフはSクラスか…僕は…安定のEクラス」
クラス表を見ると、今回の入学生は1505人。
クラスは入学テストの評価が高い順にランク付けされ、それによってクラスが分けられている。
クラスはSクラスからA、B、C、D、Eまであり、全てのクラス約250人で割り振られている。
その評価によると、僕は1505番中1505番目…つまり、最下位である。
「ま、分かってたけどさ。さっさとEクラスに向おう…」
教会を出て僕はすぐクラス表に書かれていた場所まで歩いて向かった。
――それにしても、この学園デカすぎる…ここ何処だ。ちゃんとクラス表に示されている通りに行っているつもりなんだけど…。
僕は、何処かもわからない通路を歩いていた。
「本当にこっちであってるのか…」
僕はむやみに歩くのはあまり得策ではないと思い、その場に立ち止まった。
もう1度クラス表に記載されている、地図を良く確認する。
「魔法実験室がここにあるということは…やっぱりこっちであってるよな」
それにしては、他の生徒を見つけられない、250人同じクラスの人がいるはずなんだけど…
「あ…あの~、すみません…ちょっといですか?」
僕はいきなり後ろから声を掛けられた。
「え~と、何か用ですか?」
話しかけてきたのは、おそらく僕と同じ状況なのだろう、マギアを見ながらオドオドしている。
「あの~、Eクラスはこっちであってるんでしょうか?私、最近新しいマギアを買ってもらったばかりだから、あまりうまく使えなくって…」
そう言う彼女の手には最新の刀型式マギア『ジン』を持っている。
彼女からは田舎から出てきたのだろうと思わせる雰囲気が漂う。
ただ、凄くきれいな桜色の髪、大きな瞳には桜が咲いていると思わせるほどの綺麗な桜色…今の季節は春だが、ここにも桜が咲いていると錯覚さえする。
「あ…あの~、すみません?聞こえてますか?」
「は!は、はい…大丈夫です、ちょっと『ジン』を再起動してもらってもいいですか?」
「は…はい」
彼女は『ジン』に流す魔力を一時的に止め、『ジン』をシャットダウンさせる。
そして、もう一度魔力を流し、再起動を行った。
「再起動しました。次はどうすれば…」
「え~と、確かマギアの連絡画面に行ってもらって、学校からの連絡が表示されていると思うんですけど…」
「あ!ありました…これを押せばいいんですね」
彼女は連絡表示を押す。
すると、魔力の矢印が現れ、クラスまでの道筋を示す。
「これでEクラスまで行けると思います」
「ありがとうございました!マギア…全然使えないから、他の人に教えてもらおうと思ったんだけど…皆、『マギアで見れば分かるでしょ』って言われちゃって…へへ」
彼女は笑いながら髪を掻く、可愛い…。
「ほんとにありがとうございました!では、私はこれで」
そう言って彼女は、矢印に沿って走って行った。
「って!僕も急がないと!」
僕は、さっきの彼女を追いかける。
「はぁはぁはぁ!こ…ここか」
確かにEクラスと書かれている。
僕は扉を開けると、既に扇状の教室はクラスメイトでいっぱいになっていた。
「お!やっと来たか!君が最後の1人だ!自分の席に座りなさい」
扇状に広がった教室の中心に先生らしき人物が立ち、僕の席を指さしている。
「す…すみません…遅れました…」
「ま!この学校はデカすぎるからな、迷うのも無理はない」
先生らしき人は、スクリーンの前に立ち話始めた。
「おはよう諸君!私がこのEクラスの担任になった。『フミコ・ナカヤマ』だ!よろしく。私の使うマギアはこの、竹刀型マギア『バム』だ。担当は体育…って言っても、魔力を使った戦い方や、体の使い方を主に教えているから、普通の体育とはちょっと違う。もちろん普通の体育も行うが、試験では実際に試合を行ってもらうからそのつもりで。ビシバシ行くから、私にちゃんとついてこれば、運動が苦手な生徒でも大丈夫。これから1年頑張って行こう!」
フミコ先生は肩にバムを担ぎながら、何も持っていない手でガッツポーズをしている。
――これはまた…熱い先生が担任になってしまいましたな…。
「本当は、皆に1人ずつ自己紹介をしてもらいたい所だが…なんせ数が多いからな、マギア上に自己紹介ページを上げておいた。そこで自己紹介を行ってくれ。自分の名前と趣味、得意科目、自分の写真なんかを張り付けておくといいだろう。印象に残ることを書いたほうが、覚えられやすいぞ。それじゃあ、始めてくれ」
するとみんな一斉に自分のマギアを起動し始めた…
「どうしよう…」
いきなりピンチだ…僕はクラスメイトの誰にも覚えられることなく1日目が終わってしまう…。
まぁ、僕なんかを覚えてもらう必要は無いんだけど…
「あ!そうそう、このクラスには今時珍しくマギアを使っていない生徒がいます。その子だけでも自己紹介してもらおうかな」
――いきなり、何を言い出すんだこの先生は…でも、誰にも覚えられないのも少し悲しいよな。名前ぐらいは覚えて行ってくれると良いな…。
「じゃあ!自己紹介してもらおうかな…。お!君がハンス君か…最後に来た子じゃないか。ほら、前の方に来て自己紹介をしてくれる」
「は…はい!」
僕は強引にスクリーンの前に立たされる…。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いします。