6.残滓
6話目になります。
少しずつストーリーが進行していきます。
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『さて、俺様に聞きたいことも色々有るだろうし、質問コーナーでも始めてみるか?』
子猫サイズの【琥王】が、何処から出したか分からない、『質問受付中』と書いてある、札を首から掛けていた。
「なんか・・・急にコミカルになったな」
もともと軽い印象は持っていたが、流石に戸惑いを隠しきれない。
『細かいことを気にしてたら、この先やっていけないぞ』
頭の中で聞こえていた声より、若干幼くなった声で【琥王】が言う。小虎?の状態には、合っている気がするから良いのだが。
「とりあえず、俺には何がなんだか分らないんだが。普通に生きてきた俺が、この情況を認知出来ている事が一番の謎だよ」
『その質問には答えられんな』
いや、今のは質問ってより感想なんだが。
その後、幾つか質問してみたが
詩道って何者だ?
俺が記憶を無くしてるってどういう意味だ?
お前は一体何なんだ?
俺としては、聞きたいことを順番に聞いていったが全て、「答えられん」で片付けられた。
何処が質問コーナーなんだよ・・・
唯一返事が違ったと言えば、
なぜ俺が詩道に襲われたんだ?
という質問についてだけ「分からん」と返答があった。
「お前も何も分からないだけじゃないのか?」
っという俺の感想に
『俺様にも色々事情が有るんだよ』
という事らしい。聞いておいてなんだが、俺としては詳しく聞いたところで、信じられるか微妙だったため、結果は一緒だったかも知れないが。
まぁ。と【琥王】が続ける
『俺様にも、今の情況は分からないことが多いってのは事実だ。とにかく分からないことは、分かりそうなヤツに聞くのが一番だな』
「いや。俺にとって分かってそうなヤツは、お前だったんだが」
『俺様より、事情知ってそうなヤツがまだ居るだろ?』
そりゃ、アイツに聞くのが一番だろうけど。会話が成立するイメージは全く湧かないんだが・・・
不意に【琥王】が窓の方を向く。さっきまでの気の抜けた眼ではなく、まさしく獲物を前にした虎のソレに変わっていた。
『とりあえず、目的は察しが付くが理由は確かめなきゃな』
◆
ー廃ビル内ー
拠点として利用している、廃ビル内で、柱にもたれ掛かりながら考える。歩きだし、もたれ掛かる。それをほぼ一日中繰り返していた。
予想外だった。
アイツが出てくるまでは良かった。
しかし、記憶が戻らないまま出てくるとは、思わなかった。
『あのまま続けても勝てたけど、撤退しても依頼からは外れていないから、問題ない』
いよいよ、私のまとまらない考えに痺れを切らしたのか、【斬魔】の落ち着いた声が聞こえる。
「そうね。とりあえず、力は戻ってきたみたいだし」
戦闘状態で、アイツを助けるために力が戻ってきたと考えたら、他のヤツも・・・
『そうとは限らない。あの場所で、アイツも静観していたみたいだし』
「うん。目的は同じかと思ったけど、そんな感じでも無かった。場合によっては、敵対しそうな雰囲気出してたけど」
あの場所にアイツが居たのに気付いたのは、多分私達と【琥王】位だと思う。
「【琥王】も恐らく、本人には喋らない筈。無理矢理にでも記憶を取り戻させたかったなら、もうやってるだろうから」
『理屈ではそう。でも、アイツは気まぐれだからわからない』
【斬魔】の言うことはもっともだと思う。元来、彼等はそういう類いのモノなのだから。
「とりあえず、私達は私達のやり方で、依頼を遂行しましょう」
そうね。と【斬魔】が短く答える。
依頼を受けた際に預かった、黒いガラス玉のような物を懐から取り出す。
使うのは、あまり気乗りはしないが・・・
『無関係の人に害がでないように、こちらで対処すれば良い。そんなイレギュラーは、起こらないと思うけど』
そのために、出来るだけ人が少なく寄り付かない場所を選んだ。
『時間もないし、多少手荒になるのはしょうがない。元々悪いのはアイツだと思うし』
【斬魔】のアイツに対する対応の辛辣さは、いつも通りの事だと思う。多少の差異はあるけど。
「はじめましょう。【琥王】なら気付くし、間違いなくやってくるわ」
その場で、ガラス玉を地面に叩きつける。
ガラス玉の見た目とは裏腹に、1室を埋め尽くすほどの黒い靄が立ち込める。
靄が晴れた中には、黒い人の形をした何かが立っていた。
◆
ー同日同時刻ー
詩道が拠点としている廃ビルから、数10kmは離れている、それなりに人通りがある街中に、1人の男が立っていた。
体格はがっしりしており、身長は2m近い。ボディビルダーを思わせるような、逆三角形とはまさにこの事だ、と言わんばかりの、存在感の有る肉体を持っている。
「ガハハハハハ!」
大きな声で笑う。しかし、そんな存在感が有るにも関わらず彼の方を見るものは誰一人として居ない。
いや、見えていないと表現した方が正しいか。
「フム。この世界の人間は、信仰心が薄れつつ有ると聞いては居たが。我の姿も声も見聞き出来ぬとは。呆れを通り越して、不憫なものよな」
こんな、哀れで不憫な生き物に誰が救済を与えると?
我ら以外に、他に居るまい!
そして、我がこの場に送られたと言うことわ、だ
「なんと、運の良い人間共だ!」
ガハハハハハ!と、一際大きな声で笑う。
「喜べ!我が来たからには、一人残さず救済してやろう!」
この場の人達が、その顔に浮かんだ笑みを見ることが出来たなら、世間一般で考えられる救済とは程遠いモノを想像したに違いない。
「死の救済だ!」
男の全身は力に溢れ、その力に満ちた拳を天高く突き上げ、まさに振り下ろそうとした瞬間だった。
男の動きが止まる。
「ふむ。同族の気配か? それにしては、随分と薄く感じるが」
顎に手を当て、しばらく考える。
そもそも、同族が居る筈もない。この場に来たのは、"神の先鋒"たる我だけの筈。
「頭を使うのは、性に合わんな!分からぬなら、確かめてみるか!不穏因子なら、消してしまうに限る!」
ガハハハハハっとまた笑いながら、ゆっくりと歩いていく。
動き出した運命の歯車は止まらない。止めることなど、誰にも出来はしない。例えそれが"神"であったとしても。
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