5.悪夢
克也の記憶に関係がある、少しシリアスな場面書きました。
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◆
夢を見た。
それは、楽しかったような、悲しかったような、嬉しかったような、、、
朝起きたら、多分忘れてしまうような、そんな夢。
そこは、黒という存在が入り込む余地のないほどの、白い世界だった。
どこまでも、白く、寒かった。
あぁ、夢かと気付く。不思議な感覚だった。
白い世界の正体は雪か?
遠くに輪郭だけだが、山のような物が見える。
足元には、道しるべのように等間隔に赤い点が繋がっている。行く宛もないので、その点を辿る事にした。
遠くに見える、山の方へと続いているようだ。
足首が埋もれる程度だが、積もった雪を踏みしめながら、歩いていく。
どのくらい歩いたか分からない。
白色しか無かった世界に、別のモノが現れる。
それは、町というより村と表現した方が近い程の集落だった。
躊躇が無かったと言えば嘘になるが、他に向かう宛もなく、村の方に歩いていく事にした。
少し、頭に痛みを感じる。理由は分からない。足が急に重くなる気がした。
この先に進みたくない。頭ではそう思ったが、体は言うことを聞かなかった。嫌な感じがする。
村の入り口に人影が見えた。
声を掛けようとしたが、喉まで出かかった言葉を飲み込む。表情は酷く穏やかで、白く美しい長髪だった。
きっと優しい人なんだと思う。
胸から血を流し、死んでさえいなければ。
その姿を見ても、足は止まらない。
彼女の横を通りすぎ、村の中へと進む。
村に入った瞬間、嫌な匂いが鼻を突く。
その正体は嫌でも分かった。白い世界で、いっそ美しく感じる程の赤色が目に入る。理屈じゃなく、直感で感じる。
辺り一面の血だった。
そのなかに、無数に転がる人のようなモノ。
直視は出来なかった。普通の人生を歩んできた筈の自分には、とても耐えられるモノでは無い。
胃から何かが込み上げて来るのを、必死に押さえる。
悪夢にしても質が悪い。そう思った。
しかし、歩く足は止まらない。
この悪夢から、早く目が覚めることをひたすら祈った。
目を閉じてしまいたかったが、それは許されないらしい。
ただ凄惨な光景を見せられる。
全身が白く見える人型だったものから、赤い血が流れている。
首がない体だけのモノは、まだマシだった。
手足、全てが無くなっているモノ。
体が縦に半分に割れているモノ。
顔から斜めに肩の一部が無くなっているモノ。
足だけがソコに立っているモノ。
元が何だったか、考えるのも嫌になる程の肉片になったモノ。
表情が分かる死体はどれも、入り口の女性とは対照的な憎しみと苦悶の表情を浮かべていた。
そして、死体に共通しているのは、全て鋭利な何かで切り裂かれたと言うことだった。
村の中心付近には、人であったとは思いたくない、肉の塊が山となっていた。
その塊の前に立っている、人影。
嫌な予感がする。
その予感は、人影が持つ血の滴る薙刀状の武器を見て、さらに高まる。
後ろ姿では、顔も表情も分からない。
一歩一歩確実に、ソイツに向かって進んでいく。
頭痛が酷くなる。
気分も最悪だ。
その人影はゆっくりコチラを向く。
あぁ、見間違える筈がない。
ソイツは、俺だった。
視界が暗くなり、気絶するように急に地面が無くなるような感覚に襲われる。体が一瞬浮いたような気がした。次の瞬間、俺の前には大きな洞窟が現れていた。
辺りを見渡す。後方の下の方に、先程の村と思える物が確認できた。
ここは、最初に見えた山の中腹のようだ。
自分の意識とは関係なく、また足が動き出す。
洞窟の奥へと、向かう。
想像よりも長くはないらしい。入口から入ってくる光で奥に行き止まりの壁が見える。
そこに座っている人も。
見覚えが有る人物だ。俺はソイツを知っている。
こんな悪夢の終わりには相応しいだろう。
ソイツに声を掛けようとする。
その瞬間、立っていられない程の頭痛が襲う。
夢の中で、俺は意識を手放した。
◆
目が覚めると、自分の寝室のベッドの上だった。
服は汗で濡れ、頭痛と吐き気もする。体も全身酷い筋肉痛のように、動かす度に痛みが走る。
悪夢を見ていた気がする。どんな悪夢だったのかは、思い出せない。不思議な感覚だったが、さっきまで見ていた筈の夢を覚えていないなんて、良くあることだ。
そう、自分に言い聞かせ嫌な考えを振り払う。
『おう、ずいぶん魘されてたみたいだったが、お目覚めか?』
この頭に響いてくる声も、夢だったら良かったのに。
頭の中で声が聞こえるという、非現実的な現象を噛み締めながら痛む体を無理矢理起こす。
『流石に少し心配したぞ。丸々1日、寝たままだったからな』
は!?
頭の声に対して、間抜けな声が漏れる。
近くに有った携帯で、日付と時間を確認する。
時間は最後に確認した時から、1時間程経過した夜の20時。日付は確かに、翌日になっていた。
学校無断欠席したなと、辛うじて俺を現実に繋ぎ止めている情報にすがる。
洋介から電話と、何件か俺を心配するメールが入っていた。
『今にも、寝てる所まで来そうな勢いで心配してたから、俺が止めといてやったぞ』
得意気に言う【琥王】。
少し、考える。
改めて洋介からのメールを確認すると、最後の1件は返信済みだった。
大丈夫だ!
と短文ながら返事をしている。
なに?
寝てる間に、勝手に俺の体動かした的なヤツか?
そんな考えを、たった1日のファンタジー体験で思い付いた俺は、どうかしてると思った。
『なんか、俺様に対して失礼な事考えてる気がするな』
もう、大概の事では驚かないように、心を決めた俺に隙はない筈だ。
正直になれよ。じゃないと、メールなんて声だけじゃ返信出来ないだろ。
『あぁ、こうしたら簡単だったぞ』
【琥王】が言う。
そういえば、音声認識があるから以外と出来たりするのか?
頭の中の声を認識するかは、知らないけど。っと考えている俺の目の前に、詩道と対峙した時のように力が集まってくるのを感じる。いや、光のような何かが集まってくるのが目に見えて分かる。
そこに現れたのは、暴力的な形をした薙刀状の武器、、、
ではなく、小さな白い虎だった。
子猫位の大きさのソレは、俺のベッドを歩き、小さな肉球で携帯を操作し、文章を打ってみせた。
俺の方を向き。
「なッ!」と得意気に耳で認識できる声を出すソレを、俺は間抜けな顔で見つめる事しか出来なかった。
大概の事では、もう驚かないと決めた俺の心が、あっさりと崩れ落ちていく音を確かに聞いた。
そして、尻尾を左右に振りながら笑う【琥王】を見て、俺の愛していた普通の生活は、二度と戻ってこないのだと確信した。
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