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57.幼精と妖精


 明確な敵意を持つ二人に、【琥王】が少しずつ間合いを詰めていく。


『こわいなぁー。それに、門番気取りってのも気に入らないよね?』


『そうだとも!僕らは間違いなく門番なんだから、怪しい輩をここから先に進めないのが仕事なんだよ!』


ケラケラと無邪気な笑みをみせる。


『………ここの門番の仕事は、間違って迷い込むモノが居ないように惑わし、近づけさせないようにする事だった筈だが?それを、自身の姿まで見せ敵意を振り撒くとはどういう了見だ』


 【琥王】の嫌味混じりの圧にも動じた様子もなく、二人は笑みを崩さない。


『それこそ無意味な説法だね!君も言ったじゃないか!間違って迷い込むモノを近付けさせないってさ!』


『そうだ、そうだ。迷い無く、こちらに意図的に近付いて来る何処の誰かも分からないモノなら、こちらもそれなりの対処が必要だと思うけどね?』


 語り、笑みを崩さぬままに、二人の中に大きな力が集まっていくのを感じる。


 まったく。

 ()()()のせいで余計な面倒が増えている気がする。


 居ないやつに今さら文句を言っても、仕方のない事ではあるが。


『……俺様が誰か分からないのか?』


『知らないね!生憎、君みたいな生意気な子猫に知り合いは居ないのさ!』


『そうだね。君の選択肢は二つに一つ。このまま大人しく来た道を戻るか、僕たちにやられて痛い目を見て泣きながら帰るかさ。僕たちとしては後者をオススメするね。正直暇でしょうがなかったから』


『そうさ!ここに迷い込むヤツなんて殆んど居ない!正直、門番なんて要らないくらいさ!それでも、僕らは此所を離れられない!』


『『たまには、ストレス発散しないとね』!』


 二人が捲し立てるように話終ると同時に、自分の足元に力が集まるのを感じる。


 【琥王】が後ろに飛び退くと、つい先程まで自分が立っていた地面から複数の植物のツルのようなものが伸びていた。


 そのまま、伸びたツルは鞭のようにしなりながら【琥王】目掛けて襲ってくる。


 それを軽い動きで避ける。


 何度繰り返されたか、数えるのも面倒になった辺りで【琥王】が口を開く。


『おい、いい加減無駄だと分からないのか?お前達じゃ、俺様を倒すどころか攻撃を当てることすら難しいぞ?』


 【琥王】の言葉が、強がりや虚勢の類いでは無い事は分かっている筈だが、対する二人からはそれでも余裕が見てとれる。


『少しは遊べそうだね。簡単に終ったら、僕らの暇潰しにならないから』


『そうだね!ちょこまかと、すばっしこいだけのクセに偉そうな事言っているし、少しは本気を見せてやろうかな!』


『でも、力を使いすぎると怒られちゃうかも……?』


『大丈夫さ!僕らは門番!アイツは侵入者!それを排除しようとしたって怒られないさ!』


『そっか。悪意ある侵入者は全力で排除って言われてるしね』


『そうさ!だから!』


『だから』


『『全力で』!』


 空気が震える。


『チッ……面倒だな……』


 【琥王】が心底嫌そうに顔をしかめる。

 それに気を良くしたのか、二人が鼻高々に口を開く。


『『今さら後悔しても遅いよ』!』


 今までとは比較になら無いほどの数のツルが、一斉に【琥王】に向けて襲いかかってくる。


 最小限の動きでかわすには無理が有るほどの密度だ。

 迫ってくる攻撃を大きく飛び退いて避ける………筈だったが。


 足が地面から離れない。


 それどころか、少しずつ地面に飲み込まれていく。


『余裕ぶっているから、足元の注意が疎かになるんだよ』


 二人揃って勝ち誇ったような顔をして、【琥王】を見下す。


『ハァ………』


 【琥王】の口から息が漏れる。


 心の底から面倒くさそうに。


 しなったツルは【琥王】の体を打ち、貫き、押し潰す。


 動けない相手に、徹底的な蹂躙を行う攻撃だった。

 攻撃の後には、元がなんだったのか分からない骸が一つ転がり、この森の養分となる。


 その筈だった。


 その攻撃は、【琥王】の身体にふれる直前で見えないナニかに防がれ止まっていた。


『オイ……ここまでやってもまだ出てこないのか?』


 小声で呟くような声だったが、その声は森中に響きわたっているような気がした。


『な……何を言っているんだい?』


『そ……そうさ!それに、動けないくせにちょっと攻撃を防いだくらいで調子に乗るのは早いよ!』


 全力の攻撃を防がれた事で、対峙して初めて二人から焦りを感じる。


『そっちがその気なら、俺様にも考えがあるぞ』


 小さな【琥王】の身体から、力が溢れだす。

 一拍を置いて、足を拘束していた地面、周囲に迫っていたツルが弾け飛ぶ。


 舞い上がった、土ぼこりの中から現れたのは小さな小虎ではなかった。


 まさしく、白虎。


 虎の王と呼ぶにふさわしい、堂々たる姿の【琥王】がそこに居た。


 ぎょっとした表情を浮かべながら、二人に力が集まっていく。


『数で押し潰そう』


『そうだね!押し潰そう!』


 周囲の地面からツルが生えてくる。


 それは数本が絡み合い、人形のような形をとる。


 それを骨格とするように、ツルに土がまとわりつく。


 瞬く間に出来上がったのは、人間サイズの泥人形だった。


 その正確な数は分からないが、森の木々が立ち並ぶ中に所狭しと同時に現れていた。


『どうだい?僕達の力』


『もう降参しても遅いんだから!』


 二人は鼻高々に、だが決して気を抜かずに【琥王】に話しかける。


 【琥王】も、この二人がここまで力を使い制御できるとは思っていなかったので、少々面食らっていた。


 しかし、【琥王】が感じた印象はその程度だった。


 こけおどしではなく、その一体づつに潤沢に力が流れており、込められた力もそれなりに強かった。

 この場に、極夜と白夜がいれば苦戦もしただろう。

 今のアイツらなら、撤退した方が良いと判断したかもしれない。


 【琥王】の前足に力が集まる。


『『やっちゃえ』!』


 二人の言葉を受けて、泥人形が一斉に動き出す。

 うねる土砂の濁流の様に【琥王】に迫る。


『俺様は忠告したからな』


 力の集まった足を軽く持ち上げる。

 まるで、何事もない道で歩き出すように。


『勘弁してよ』


 その足が、地面にふれるより一瞬前に澄んだ声が響いた。


 声が聞こえた瞬間に、【琥王】に襲いかかっていた泥人形は、一瞬光に包まれる。


 その後に残ったのは、鼻を突く焦げた匂いと、消し炭となった人形だった。


 【琥王】が不機嫌そうに声の主を見る。


『そんな顔しないでくれよ。"白滅"』


『ようやく、お出ましか』


 声の主は、ヒラヒラした服を身に纏い【琥王】の目の前に浮かんでいる。


 その存在は、普段力を感じることが出来ない人間でも、この場から逃げ出してしまいたくなる程の力を放っていた。


 それも当然。

 その力を放っているのは、


『"炎の従者"…』



 精霊"炎の従者"【サラマンダー】なのだから。



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