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55.依頼:箱庭③


 野宿の為にテントも張り、焚き火の準備をする。

 向こうの世界では、野宿なんて実際にした記憶は無いがコチラでは幾度もしていたのだろう。


 体が自然と動き、問題なく準備を進める事が出来た。


 幸いにも、火はダリアが幼精の力で何とかしてくれた。

 晩御飯も、出発時に貰った食料を焼くという選択肢しか持っていなかった俺と白夜に呆れるように、ダリアが用意してくれている。


 やはり、何だかんだ面倒見の良い奴だ。


 焚き火を五人で囲み、何種類も具材が入ったスープをダリアがよそってくれる。


 【黄泉】にも声を掛けたが、


『食事中も見張りの必要があります。何が起こるか分かりませんので。主の身の安全の確保が、私の使命ですから。それに、幼精は本来食事の必要はありませんので、心遣いだけ頂きます』


 【琥王】も同じことを言っていたが、嬉しいそうにお菓子を食べている【龍王】を見ていると、あながち無意味にも思えなかった。


「ダリアがせっかく作ってくれたんだし、お前の分も残しておくから食べれないわけじゃないなら、後でも良いから食べろよ」


「……ありがとうございます」


 一言だけ残し、【黄泉】は暗闇の中に消えていった。


「この辺りは比較的少ないとはいえ野生の獣も居るし、警戒するに越したことはないと思うけど、向こうから襲ってくる可能性なんて余程の事が無い限り大丈夫だと思うんだけどねえー」


 ダリアが、俺にスープの入った器を渡しながら呟く。


「そうなのか?」


「そりゃそうだろうさ。想像してみな。アンタが仮にネズミだとして、目の前でたむろしてる猛獣に襲いかかろうと思うかい?アタシならそんな馬鹿な真似はしないけどね」


 頭の中で想像してみる。

 俺も、近づくことすらしないだろう。


「つまり、そういうことさ。アンタも大概だけど、【龍王】や【黄泉】までいるのに不用意に近づく野生動物なんて居ないってことさ」


「ん?でもそれって、俺たちの力が漏れてるってことなのか?だとしたら、そのへんの獣なんかよりヤバイ奴に見つかるんじゃ……」


「いや、ちゃんと力は抑えられてるよ。もっとも、神達の感知能力までは分からないがね。野生に生きている動物はそれだけ鼻が利かなきゃ生きていけないってことさ」


 それなら良いのだが。

 前のように、急に神が現れたら【琥王】も居ない状態では不安が大きい。


「ま、なるようになるさ!」


 そういって、ダリアも自分の器を持ちながら腰を落とす。


『これは中々じゃな!ダリアは、料理上手なのじゃ!』


「うん。おいしいわ」


 笑いながら、スープをかき込む【龍王】と少し和らいだ表情の白夜を見ると、俺の不安も薄れたような気がした。


 食事も終わり、片付けも一段落ついたところでダリアに話を切り出す。


「さっき、馬車で話していたカイルの事なんだけど……」


「あぁ……そうだったね」


 やはり、少し表情が暗いように見えた。



「まず、始めに言っとくけどカイルの全てをアタシが話す訳にはいかない。あくまで、これから一緒に戦う仲間として知っておいて欲しい内容だけだ。後は、必要ならカイル本人が話してくれるだろうさ」


 ダリアの前置きに頷く。


「まず、アタシが使ってるのは正式には王国式精霊術っていうんだ」


「王国式?」


 初めて聞く単語がでて、思わず白夜の方を見る。


「私も、詳しくはないけどミーティア王国が使ってる戦闘術ね。誰が考えたのか、もしくは伝えたのか、ハッキリしたことは分からないけど、以前は幾つかの国が乱立し、人間同士が領土争いをしていた時代に精霊術を使って多くの国をまとめ、今のミーティア王国が出来たと言われているわ」


 流石、よく知ってるね。とダリアの言葉にまんざらでも無さそうな表情を白夜が浮かべる。


「白夜が言ったように、王国式精霊術は今の王国には無くてはならない技術さ。これが無いと、"神の軍勢"から民を守ることすら難しい筈だよ」


「ちょっと気になるんだけど、俺や白夜が使ってる力と何が違うんだ?使ってるのは同じ幼精の力だろ?」


「それが、カイルが力を使わない理由の大きな所さ」


 話が掴めない。


「"名前持ち(ネームド)"の幼精と契約している極夜と白夜は、その幼精の力を直接受け取り使っている。でもアタシ達、王国式精霊術を使っている連中は意識も名前も持たない、この世界の至るところに居る幼精の力を借りているんだ。無理矢理ね」


「無理矢理?」


「そうさ。右も左も、善も悪も分からない幼精に力を貸すように強制している」


 スッと右手を前に出し、構えるダリア。


「力を貸しな。幼精達」


 ダリアの右手に力が集まっていく。

 それは、剣の形を取り刀身が揺らめく。


「《燃え上がる剣(フランベルジュ)》」


 刀身に炎を纏った剣が現れる。

 以前戦った時より、かなり力は抑えられているようだった。


「こんな感じに、アタシ達は力を貸せと"()()"してるのさ。そのせいで、人間は幼精を使役することが出来ると勘違いした奴らが、人間至上主義なんてものを掲げちまったんだけどね」


 ダリアが右手を開くと同時に、炎を纏った剣は空気中に溶けるように消えていく。


 人間至上主義か。

 俺自身、自分が【琥王】達に力を貸して貰っている以上、自分が上だなんて考えたこともなかったが、そんな風に考える人間もいるんだろう。


「でも、命令して力を使えるなら全員力が使えるんじゃないか?」


 ふと、頭に浮かんだ疑問をダリアに投げ掛ける。


「あぁ、全員が使える訳じゃモチロンないさ。アタシやカイルもだけど、幼精の声が聞こえる人間の声だけ幼精に届くみたいでね。良く幼精の声が聞こえる人間の声程、幼精達にも届くんだ」


 確かに、自分の声が届いていないのに力を貸すってのも変な話だ。


「カイルも以前は同じように力を使っていたよ。アタシより幼精の声も良く聞こえていた筈さ。だからかもしれないが、アイツは優しすぎた。自分の大切な人たちを守るために、赤子同然の無邪気な幼精を使う事が本当に正しいのか分からなくなっちまったのさ。それから、カイルは力を使っていない。力を使えなくなったカイルは、居場所を追われ初期の"精霊の集い"に入り、今に至るって訳さ」


「なるほどな……今の話の流れだと、カイルもダリアも元々王国の人間だったのか?」


「カイルはそうだね。生まれについては、アタシがこれ以上喋ることじゃないと思う。アタシは、孤児って奴さ。親も居ないアタシを、"精霊の集い"に誘ってくれたのはカイルだったけどね」


 そうだったのか。

 ダリアも大変だったんだな。


「あ!アタシに気を使うのはやめておくれよ!これでも、今は楽しくやってるんだ。それに、孤児じゃなきゃカイルと出会うことも無かっただろうし、感謝しているくらいさ!」


 笑って、ダリアは言う。


『ふむ』


 珍しく、【龍王】が真面目な声をだす。


「どうかしたのか?りゅう」


『精霊術とは良く言ったものだと思ったのじゃ。精霊は、自分の力と自分の属する幼精の力を全て使うことが出来るのじゃ。その特徴を良く捉えた名前じゃなと思ったのじゃ』


 確かに、以前【琥王】から精霊の力は別格と聞いたときにそんなことを言っていた気がする。

 幼精の力を使っているのだから、幼精術でも良さそうだが深読みのしすぎだろうか。


「アタシもそこまで考えたことは無かったなー。ま、いま考えても分からないだろうし、カイルの話も話せる事は話した!明日も、日の出と同時に出発するよ。早く休みな」


 夜の見張りも食事後に【黄泉】がやってくれる様なので、その言葉に甘える事にした。


 白夜達女子組は、テントで。

 俺は一人荷台で。

 気温は寝るにはちょうど良い涼しさだったが、なぜか少し寒く感じた。心が。


 しょうがない事だろうが。


 目を閉じ、明日に備える為に休息を取ろうと思う。



 翌日、厄介事に巻き込まれる事なんて今の俺に分かる筈も無かったが、野生の勘でも働いたのか。


 すぐに、眠りにつくことが出来た。




読んで頂きありがとうございます!


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