54.依頼:箱庭②
「はぁー……アッチに行ってからも、色々大変だったんだねぇ……」
「うん。"軍神"が出てきたのは完全に予想外だったわ。まともに戦えなかった……」
『お守りもしていたし、しょうがない。次は遅れをとらない』
『妾も遊びたかったのじゃ!妾を呼ばないなんて、どうかしてるのじゃ!』
『ざんちゃんは、別の場所に遊びに言ってたでしょ……?』
馬車の前の方から、4人の楽しそう?な会話が聞こえる。
旅の行商人という体裁の為、少し大きめの馬車と荷台を使っている。
ダリアと、小柄な女の子3人が荷台の外に座っても問題ない広さだった。
俺はというと、ガタガタと当然舗装されている訳ではない道を、馬に繋がれた荷台の中で揺られながら目を閉じて聞こえてくる話を聞きながら一人で過ごしている。
いや、別に仲間外れにされた訳じゃない。
白夜とダリアは、俺を迎えに来るまで仲良くしていたようだし、積もる話しも有るだろうと暫く様子見しているつもりだった。
そこに、【斬魔】がついていくのは当然だ。
荷台には、俺と【龍王】の二人だった。
黄泉は、危険がないか先回りしながら様子をみているので一緒にはいない。
当然、どちらのおしゃべりが楽しそうかなど比べるべくもない。
その結果だ。
別に仲間外れにされている訳じゃない。
大事な事だ。
二度言う価値は有る。
「まぁ、"軍神"とやりあって無事に済んだんだから良かったよ。極夜も、白夜を助けてくれてありがとな」
「あっ……いや、俺のせいで白夜に迷惑かけてたし……それに、"軍神"と戦ったときの事は殆んど覚えていないんだ」
急にダリアに話を振られ、声が上ずってしまう。
「それでも、白夜の為に戦ったんだろ?女の為に戦ったなら胸を張りな!それに、アンタがそんなんじゃ戦って追い詰められたアタシの立つ瀬がないじゃないか」
たぶん、俺を気に掛けてくれているのだろう。
初対面の印象は決して良くなかったが、白夜と俺への言動は全て俺の力を引き出すための芝居だったようだし、面倒見の良いお姉さん的な存在なのだろう。
「いや、ダリアは正直強かったよ。幼精の力を使ってた事にも驚いたし。ダリアが契約してる妖精はどんな奴なんだ?」
あの時、ダリアから感じたのは妖精の力だった。
でなければ、【龍王】と対等に打ち合いなど出来る筈がない。
「いや、アタシは契約なんてしてないよ」
「えっ……でも使ってたのは幼精の力だよな?」
あー……と少し考えて、ダリアが手のひらを目線の高さに上げる。
徐々に、だが確実にダリアの手のひらに力が集まってくるのを感じる。
次の瞬間には、ダリアの手の中で小さな炎が揺らめいていた。
「これはね、周囲の幼精の力を借りているのは確かなんだけど、アンタや白夜みたいに契約をしてる訳じゃないんだ。この世界は、大地にも、緑にも、火にも、水にも、空にだってこの幼精たちで溢れているんだ。この子達には、そこにいる"蒼炎の爪"や"白滅の牙"、それに"黄昏の理"のように自分の意識も、名前もない。ただそこにいるだけなんだ」
「全然知らなかった。俺の知ってる幼精は【琥王】達だけだしなぁ……」
「それが異常なのさ」
確か、以前にも似たようなことを言われた気がする。
それに、【琥王】も自分達は珍しいって言っていた筈だ。
「"名前持ち"の幼精と直接出会うなんて、一生に一度……いや、生まれ変わったってその確率はゼロに等しい。それが、三柱でさらに契約者も一緒となると、妄想だと言われた方が納得する程さ」
そうは言われても、自分の事なのでやはりしっくりこない。
「ま、それだけにアタシ達はアンタを頼りにしてるのさ。神に対抗するには、極夜の力が不可欠だってね」
付き合いは短いが、ダリアは白夜が大切にしている人だ。
それに、カイル達も悪い奴じゃない。
むしろ、好意的な感情すら持っている。
そんな彼等の力になれるなら、俺は出来る限りの事をして守りたいと思った。
「俺なりに頑張るよ」
あぁ。と、ダリアは軽く笑う。
「それはそうと、ダリアみたいに他の"精霊の集い"の奴もその力を使えるのか?カイルとか」
「全員って訳じゃないが、多少使える奴らもいるね。まぁ、少し身体能力が上がる程度だけどね。才能って言ってしまえばそれまでだけど、幼精達の声が聞こえなきゃダメなのさ。それで言えばカイルは、声は聞こえるみたいだけど力は使えないね」
リーダーをしてる位だから、余程の力を使えるモノだと思っていたが。
「あ。今、リーダーなのに力を使えないのかって思ったかい?」
「いや……まぁ、使えるモノだとばかり思ってたけど……」
「カイルはそれで良いのさ」
そんなものなのか。
「そういえば、私もカイルについては殆んど知らないわ」
隣で黙っていた白夜が会話に入ってくる。
「そうだねー……カイルはあまり自分の事を話さないしね。日も暮れてきたし、今日はこの辺りで夜営といこうかね。晩御飯でも食べながら、少し話をしようか」
気付けば日はかなり傾き、うっすらと夕暮れに近づいていた。
馬車を止め、夜営の準備をする。
カイルの話をすると言ったダリアの表情が、一瞬曇った理由もその話を聞けば分かるのだろうか。
そう思いながら、俺は手を動かした。
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