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53.依頼:箱庭①


 一夜明け、初めてカイルと話したイスやテーブルが沢山並んでいる広い部屋に集まる。


 依頼(オーダー)の最終確認をする為だ。


「昨日も話したが、極夜達には"箱庭"を受け取りに行って貰いたい。場所はここから北東にある小さな村だ。そこに"精霊の集い"の支部がある。まぁ、支部と言っても居るのは一人なんだが……」


 カイルが、これから向かう場所についての説明をしてくれる。

 昨日から、その一人の話についてはどうにも歯切れが悪い。


「ウチでは、一番頭が切れる奴なのは確かなんだ!その分、全てを頭に全振りしてしまっているというか……とにかく、会ってみれば分かるか!悪い奴じゃないのは保証する!」


 安心させようとして、不安が増しただけのような気がする。


「とりあえず、俺と白夜で向かえば良いんだろ?」


 カイルに分かりきった事を確認する。


「その事なんだが……」


『俺様は、今回抜けさせて貰う』


 カイルの返答を待たずに、【琥王】が口を開く。


『"箱庭"とやらについて、少し気になることが有ってな。確認したいことが出来たから、別行動にさせて貰う』


「【琥王】が決めたなら、俺は構わないけど……事前に言ってくれても良かったんじゃないか?」


 どうにも、【琥王】は秘密主義な部分が多い。

 

 全てを話してくれとは言わないが、別行動を取るような時は事前に相談してくれても良い気がする。


『すまん。向かう先も、今回は俺様一人の方が都合が良さそうだったんでな。お前達が帰ってくるまでには、俺様の用も終わっている筈だ。その後に話をする』


「という訳で、君達だけで十分だと思ったんだが、さすがに丸投げするのは無責任だと思ったので……」


「アタシが、同行することになったってわけさ」


 次にカイルの話しに割って入ったのは、すっかり旅支度を調え終わった様子のダリアだった。


「ダリアが一緒なのね」


 白夜の声が僅かに弾んだ気がする。


「アタシじゃ、ご不満かい?足手まといになるつもりはないけどね」


「いや、心強いよ」


 それが、俺の本音だった。

 ダリアの実力は、実際に戦って理解している。


 頼りになることは有っても、足手まといなんて事は無い。


 神達と戦いに行くわけではなく、荷物を受け取りに行くだけなのだから。


「よし!メンツに不満は無さそうだな。目的地は、ミーティア王国の領地にかなり近い。あんな辺境の村に、王国騎士団が来る事なんて無いだろうが十分気をつけてくれ」


「騎士団?神じゃなくてか?」


 ミーティア王国という名前は聞き覚えが有った。


 だが、なぜ騎士団に気を付ける必要が有るのか分からない。

 同じ人間同士なのだから、争う必要なんてないだろう。


「もちろん、神達には十分気をつけてもらいたい。ただ、ミーティア王国は人間至上主義国家なんだ」


「人間至上主義?」


「そうだ。ミーティア王国の根底でも有るんだが、王国の奴らは人間こそがこの世界の頂点だと考えてる。元々は、一部の上流階級の奴らが考えた下らない考えさ。神や精霊が人より強く偉いなら、王や貴族の立場が無いってな」


 なるほど。


 考えている意味も、理屈も分かる。


 分かる。分かるが……


「くだらない」


 カイルが、心底嫌気が指したように洩らす。


「俺達、"精霊の集い"も精霊信仰の強いものが集まった集団だ。だけど、俺は精霊を崇め奉る気は無いんだ。精霊には精霊しか出来ないことが、逆に人間には人間にしか出来ない事があるんじゃないかと考えているんだ」


 カイルに出会ってから、数日だが悪い奴じゃないのは分かっている。

 真剣な表情もみたが、それとは違う。

 何かを悔いているような表情に見えた。


 何を想っているのか、数日の付き合いしかない俺が聞いて良いものじゃないような気がした。


「っと、少し話がそれちまったな。とにかく、王国からしたら精霊信仰の俺たちは異端者だってことだ。王国の意志を体現する騎士団なら尚更だ。戦ってお前達が負けるなんて事はない筈だが、無用な争いは避けるべきだろう。お前達の力を感知して神達が仕掛けてきたら、"箱庭"を受け取りに行くそもそもの意味が無くなっちまう」


 俺としても、無駄に戦いたいわけじゃない。

 特に、人間同士で戦うなんて不毛だ。


「まぁ、強めに警告はしたがダリアを含めてお前達の顔が王国に知れてる訳じゃない。普通にしてれば、問題ない筈だ!」


「わかった。騎士団にも注意しておくよ」


 一瞬脳裏に、以前自分が切り捨てた少年の顔がチラついた。


 軽く頭を振る。


 仲間を守るためなら、相手が誰であろうと躊躇はしない。

 だけど、人間同士で戦いたい訳ではない。


 戦いを避けることが出来るなら、その方が良い。


「騎士団の事は分かった。それで、私達はどうやって受け取り場所まで行けば良いの?私と極夜だけなら全力で走れば、そんなに時間は掛からないと思うけど」


 白夜がカイルに問いかける。


「それなんだが、こっちで馬車を用意した。ダリアが扱える筈だから、それを使ってくれ。走った方が速いのは分かるが、目立ちすぎる。それに、走るときに多少なり力を使うだろ?神に察知される可能性は出来るだけ減らしたい。適当に荷物を乗せてあるから、旅の行商人ってことにでもしておいてくれ」


「……それもそうね。分かったわ」


「アタシに任しときな!それなりに馬に急がせれば、往復で三日も掛からない筈だからね」


 ダリアが白夜に笑い掛ける。


 白夜の表情も、柔らかいように感じた。


 反対に、一夜明けて少しマシになった気がするが未だにトゲを感じる白夜と、逃げ場の無い空間で三日も過ごすことに不安を感じていた。


「俺たちも気を付けるけど、この拠点は大丈夫なのか?」


 少しでもマイナス思考を振り払うように、カイルに話しを振る。


「こっちは大丈夫だ!神達の狙いは、そもそも極夜達だろう。それに、俺にも切り札が有るしな!」


「切り札?」


なんだろうか?


 カイルも集団を束ねるリーダーだ。

 それなりの力は持っているのだろうが。


「それは秘密だ!易々と他人に教えちゃ、切り札とは言えないからな!」


 それもそうか。


 短い会話に終わってしまい、観念して荷物をまとめる。


「"箱庭"の回収は今の最重要事項だ。頼んだぞ」


 最後の真剣なカイルの表情と言葉に、軽く手を挙げて答え馬車に乗り込む。


 とはいえ、不安ばかりではない。

 もともとの故郷とはいえ、記憶のあやふやな俺からしたら異世界だ。


 この拠点の外に出るのは、当然だが初めてだ。


 

 知らない世界に一歩踏み出す瞬間は、不安と期待が入り交じり不思議な感覚となって俺の心を満たしていた。




読んで頂きありがとうございます(*^^*)


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