52.少女の決意
◆
一通り依頼の内容を確認して、【斬魔】と共に自室に戻った。
気持ちがザワつく。
理由は分かってる。
「……神相手に鼻の下伸ばして、何を考えてるのかしら」
いや。
只の神じゃないことは分かってる。
相手は、反神サリア。
直接会うのは初めてだったが、極夜から何度か話は聞いていた。
小さな頃から、仲の良かった一人の女の子の話。
『大丈夫?』
普段は、感情が表にでない【斬魔】が心配そうな声を出す。
こんな時は、決まって自分自身で思っているより表情に感情が出てしまっている時だ。
「うん。いつも、心配ばかり掛けてごめんね」
【斬魔】と二人の時には、素直に気持ちを言葉に出来る。
生まれたときから一緒なのだから、当然かもしれないが。
『アナタの気持ちも分かる。あの調子で、本当に神達と戦っていけるのか不安』
【斬魔】の言う通りだ。
最後のアレが、もし悪意の有る攻撃ならきっと避けることが出来なかった筈だ。
気の抜けた極夜ならまだしも、私は警戒していた。
それが、簡単に力で押し負けた。
神と自分の力の差を思い知らされた。
この気持ちのザワつきは、きっと自分自身の不甲斐なさのせいだろう。
「もっと強くならなきゃ。また、置いていかれる前に……あんな想いはもうしたくない」
置いていかれた者の気持ちなんて、置いていった者には分からない。
そこに、どんな感情や想いが有ったとしても。
もしかしたら、第三者から見たら美談に写るかもしれない。
いつかその気持ちを知ったとき、置いていかれた者が感謝する、理解してくれるだなんて思っているならソレはエゴだ。
そして、置いていかれた者が弱さを棚に上げ文句を言うだけなのも同じだ。
だから、私は強くなりたい。
極夜に会った時から比べれば、かなり強くなれたと思う。
【斬魔】と一緒に戦うことも出来るようになった。
それでも、私が知る極夜に比べれば到底及ばない。
「……《零式》を自由に使えるようにしなきゃ」
可能なら、その先も。
それで、ようやく対等になれる気がする。
『焦りは禁物』
短く、けれど厳しく【斬魔】が言葉を放つ。
『たしかに、《零式》を使いこなせたら神にだって遅れは取らない。でも、失敗した時のリスクは看過できない』
その通りだ。
以前、一度だけ発動を試したことがある。
すぐに止める事が出来たから良かったけど、あのままだったら私は【斬魔】に飲み込まれていた。
それはつまり、私の魂が【斬魔】の力に負けている事の裏返しだった。
私たちの力の源は魂だ。
でも、魂の鍛え方なんて分からない。
今の私は、力の制御を訓練して戦えているに過ぎない。
【斬魔】の全力を引き出すには、私自身が強くなるしかない。
極夜は、魂の出力が高い。高すぎる。
多少無茶をしても、【琥王】達に飲み込まれるような事はまず無いだろう。
一人の人間に出せる力の上限を、軽く越えている。
極夜の居る世界に行く前に、"精霊の集い"にある文献を色々調べてもみたが結論は出せなかった。
その謎が分かれば、私ももっと強くなれる筈なのに……
『考えるのはそこまで。考えるなとは言わないけど、分からないことに頭を使ってもしかたない』
「……そうね。今出来ることに集中するわ」
【斬魔】の言葉を聞いて頭を振る。
気持ちを切り替え、日課の鍛練を行うことにする。
鍛練といっても、体を動かす訳ではない。
足を組んで座り、目を閉じて一日を逆走する。
出来るだけ正確に。
この方法は、"精霊の集い"の文献をあさっている時に見つけた方法だ。
自分の中の力を認識しながら、身体中に巡らせる。
左足の爪先から、体、左手の指先、体、頭、体、右手の指先、体、右足の爪先へと循環させる。
今では、殆ど無意識に力を巡らせる事が出来るようになったが当初は力に集中すると思考が出来ず、思考に集中すると力の循環がスムーズに出来なかった。
この力の循環がスムーズに出来るようになってから、格段に強くなったのは事実だ。
今では、一日の逆走だけでなく数週間先まで戻る。
戦闘があった時は、その時の力の流れも意識して次の戦いに生かす。
自分の力を鍛えながら、戦闘の反省点を見直す事が出来る素晴らしい鍛練だ。
これを一日の終わりに欠かさず行うのが、今の私に出来る強くなるための最善の方法……だと思う。
それを行いながら、今後の事について考える。
"箱庭"とは一体なんだろうか。
極夜が記憶を無くす前にも、そんな名前は聞いたことが無かった。
【琥王】は、何か考えるような素振りを見せていたけど、"箱庭"については何も言わなかった。
本当に知らないのか、言えない理由でもあるのか私には分からない。
それでも、まだ完全に力を取り戻せていない極夜を守る為なら必要だ。
『また、余計な事を考えてる』
「…………」
考え事をしたせいで、僅かに力が澱んだ。
それを、【斬魔】に指摘される。
集中だ。
幸い、解析の終わったモノを受け取るだけだ。
何事も無ければ……
いや、何があっても良いように今こうして鍛えているのだ。
少女はその小さな胸に今一度、大きな決意を刻み込む。
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