4.非日常
戦闘シーンがメインの回です。
誤字脱字有れば教えていただけると有り難いです!
よろしくお願いします!
◆
楓は、今の自分が冷静でないと分かっていた。
正直、怒りで我を忘れてしまっていた。
『あなたらしくないよ。気持ちは分かるけど』
わかってる!
手にもった大鎌【斬魔】から自分より遥かに幼い。しかし、落ち着いた抑揚の無い声が聞こえてくる。
私らしくない………か。
確かに、今のアイツに記憶はない。冷静に対応すべきなのは分かっていた筈なのに。だけど、どうしても許せなかった。悔しかった。悲しかった。
『そうだね。とりあえず、あなたを悲しませたのだから、切り刻むのは当然として。そのまま、世界中を引きずり回そうか?』
クスッ
楽しそうだけど、切り刻んだ後だと大変そう。
『確かにそうね。じゃあ、切り刻むのは最後にしましょ』
こんな会話を、見ず知らずの人が聞いたら恐怖を覚えそうだけど、長い付き合いだもの。私を励まそうと、【斬魔】なりの冗談のつもりだと思う、、、、、多分。
うん。ありがとう。
視線を定め、正面を見つめる。
私の斬撃は、、、、
「なっ、、、」
受け止められていた。つまり、記憶が戻ったって事?
『いや、そんな感じじゃ無いみたいだけど。面倒なヤツが、出てきたみたい』
抑揚の無い【斬魔】の声に少し気だるさが混じる。私じゃなきゃ気付かない程度だろうけど。
記憶は戻っていなくても、話が変わってくる。少なくとも結界が破られる可能性は出てしまった。
『大丈夫。落ち着いて行けば、何も問題ないよ』
ただ、と【斬魔】が続ける。
『認識を変えよう。敵として対処する』
【斬魔】の声を聞き、少し気を引き締める。
アイツがその名を呼んだ。
「【琥王】」
◆
目に見えないだけで、確かにソイツは居た。
温かく、力強い。目に見えなかったモノは、俺の手の中で形を作っていく。
これは、、、薙刀?青竜刀?
長さ2m程のモノが手の中に収まっていた。武器の事は詳しくないが、刃の部分は幅広で、反り返り、敵を薙ぎ払うのに適した形をしていた。刃と柄の繋ぎ目には、白い飾毛が付き存在感がより一層強く感じた。
『やれば出来るじゃねぇか』
手の中から、【琥王】の声が聞こえる。
体と口が自然と動いた、ってのが俺の感想だった。
特別何かを思い出したわけでもなく、俺は俺のままだった。しかし、【琥王】を握った感覚に、懐かしさを覚えているのも事実だった。
そして、見た目からは想像も出来ないほど軽い。片手でも難なく扱えそうな程だ。
詩道の大鎌も同じ類いのモノなのか?
『とりあえず、やれるだけやってみるか!』
思いっきり他人事だな、コイツ。
そもそも、重さが無いとはいえ、野球のバットくらいしか振り回した事がない俺に、いきなり扱えるのだろうか?
『本能に任せとけ』
マジで、無責任なヤツ。
一先ず、詩道の方に視線を戻す。
こちらを警戒しているのか、先程のように簡単に突っ込んでくる素振りはないが。
「遊びは、ここ迄にしましょう」
いや、当たったら絶対死ぬ系の攻撃を、今までしておいて、遊びって言われても、、、
とりあえず、武器は手にいれたケド勝てるのか?
『あ、俺様を出せた迄は良いけど、今マトモに戦ったら負けるからな?』
だろうな。分かってたけどさ。
じゃあ、どうやってこの状況を打破する?
『今回は、全面的に俺様が制御するから合図したら、思いっきり横に薙ぎ払え』
今は、【琥王】の言う通りにするのが最適なのだろう。
『まぁ、簡単には逃がしてくれないだろうが』
来るぞ。という声で詩道に神経を集中させる。
体を沈みこませ、その反動で前に飛んでくる。
明らかに、さっきまでより速、、
目の前から詩道の姿が消えた!?
「うしろ」
詩道の声が背後から聞こえ、咄嗟に【琥王】を振る。
ガキンッ
と、金属同士が激しくぶつかる音がした。
なんとか、受け止めることが出来
『油断してんじゃねぇ!』
【琥王】のその言葉を聞いたときには、俺の体は宙に浮いていた。次の瞬間、屋上の手すりに叩きつけられる。
ッツ、、ハッ、、
衝撃で息が出来ない。
当然、詩道はそんなのお構い無しに追撃をかけてくる。
ヤバイと分かっていても体が動かない。
本格的に死を覚悟したが、不意に体が軽くなった。
咄嗟に【琥王】を振り回し、詩道も反撃は予想外だったのか、後ろに飛びながら防御の体制を取っていた。
『ったく。油断なんかしてるからだぞ』
【琥王】が悪態をつく
『少し、俺様の力を多めに使えるようにしたが、反動は覚悟しとけよ』
しれっと怖いことを言った気がしたが、今は考えてる時間もない。
無意識に立ち上がり、刀身を低く下げ構えを取っていた。妙にしっくり来る構えが取れたのは、【琥王】のお陰なのかもしれない。
『こっちからも、少し仕掛けないと隙が出来そうにないな。とりあえず、切り込むか。今の状態なら、自然と動けるだろうさ』
今は、コイツの言葉を信じて動くしかないと覚悟を決める。
詩道のモノマネのようになるのは考えものだが、体を沈め思いっきり地面を蹴る。周囲の景色の流れが、今まで人生で経験したことの無いスピードに感じる。一方で視界も広く、思考もクリアに働く。
これも、【琥王】の力のお陰か。
構えた刃を下から振り上げる。
大鎌の持ち手で受け止めた詩道は、大鎌をそのまま横に振り回す。
しゃがみこみ、詩道の斬撃をかわす。
その場で、体を回転させ横に切りつけるが、、、
これも、刃で受け止められる。
何度も斬撃の応酬を繰り返すが、一向に終わりが見えない。
逆に、詩道と渡り合えてるとも言えるが。
しかし、このままじゃ平行線だな。
『ふむ。俺様の方で少し陽動を掛けてみるか。お前は、そのまま続けてくれ』
陽動?よく分からないが、任せてみることにした。
切り合いのなか、詩道が少し顔をしかめ出した。
何となくだが、俺の攻撃が不規則に強くなる。刀身に力が多く宿るタイミングと、そうでないタイミングが混ざっている。
これが、アイツの言ってた陽動か。
詩道の体制が整っていない状態で、力の多く宿った横薙ぎを放つ。
「煩わしいっ、、」
詩道が後ろに飛んで勢いを殺しながら、受ける。
『今だ!』
【琥王】の合図だ。
俺は、横薙ぎを放った勢いのまま体を軸にし、コマの要領でもう一度横薙ぎを放つ。全力で。
「なッ、、、、」
詩道が俺に向かって放ったのと同種の斬撃が、俺の攻撃した軌道をなぞるように襲う。
受け止めきれず、受け流した詩道だが
パリンッ
と、何かが割れるような渇いた音が聞こえた。
『とりあえず、なんとかなったな』
感謝しろよ。っと【琥王】が少し自慢気に喋る。
詩道が受け流した斬撃は、後方の結界を捉え、破壊に成功していた。
詩道がコチラを見据え、口を開く。
「今日は、ここ迄にしておきましょう。それが、お互いの為でしょうし」
『おう、そうだな!』
俺の変わりに【琥王】が答える。
『おまえの体も、そろそろ限界だ。ゆっくり休める場所に移動しようぜ』
その言葉を聞きながら、詩道の方を見るがソコに彼女の姿は既に無かった。安堵のせいか、反動ってヤツなのかは分からないが、俺も一秒でも速く休みたい気分だったので、促されるまま屋上を後にした。
校門を抜け、フラフラになりながら帰路につく。
そんな状態で、俺の姿を見つめる人影の存在に、気付く筈など無かった。
翌日、頭痛と高熱で俺は学校を休んだ。
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