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46.束の間の休息


「ふぅーーー」


 長い息を吐く。

 だが、決して気分が悪くて溜め息を吐いたわけではない。


 それは、この湯煙立ち上る広くて大きな温泉に浸かっている様子を見て貰えれば分かるだろう。


 まさか、この世界に来てお湯に肩まで浸かれるとは思っていなかった。


 訓練場を作るのに地下を掘っていたら、たまたま源泉を掘り当てたらしく、"精霊の集い"の訓練場には温泉が併設されているという、なんとも贅沢な仕様となっていた。


 白夜から今回のダリアの動きの経緯を聞き、とりあえず悪意は無いことが分かった。


 ダリアに、中々やるじゃないか!と肩を勢い良く叩かれた。

 こんなに強く叩く必要があるかと疑問に思ったが、そういう性格かと納得した。


 戦いが終わったあとの回りの視線は、かなり変わっていた。

 主にビビっているようにしか見えなかったが。

 白夜の策とやらが効きすぎた様だ。


 そして、壊れた障壁の目処もついたようなので、疲れを取ったらどうだと言うことで温泉に入っているという訳だ。


 神達に俺の存在が感知されたかもしれない状況で、こんなにのんびりしていて良いのかと思うが、カイルが言うにはヒビが入った程度で済んだので、場所の特定まではされていないだろうし、元々神達への牽制の意味も有ったのだから、こちらに来たことは遅かれ早かれバレるから問題ではない。


 という事らしい。


 今焦ってもしょうがないし、すぐに出来ることも無いのでとりあえず疲れをとっている所だ。


「そうだ。【琥王】に聞きたいことが有ったんだ」


 同じく、隣で湯船につかり頭にタオルを乗せている【琥王】に話しかける。


 中身はおっさんじゃないかと思えるくらいに、落ち着いた姿だった。


『ん?なんだ』


 目を閉じたまま、気持ちの良さそうな声で返事を返す。


「俺が白夜の事を思い出したとき、もう一人出てきた奴が居たんだけど知ってるかなと思って」


『どんな奴か聞いてみないと分からないけどな。言ってみろよ』


 のんびりとしたまま話を続ける。


「緑色の髪色で翡翠色の目の女の子なんだけど、心当たりあるか?」


 閉じていた目を【琥王】が見開く。

 先ほどまでの、のんびりした空気が張り詰めた気がする。


『何を思い出した?』


 そんなに不味い相手だったのだろうか。


「えっと……俺が聞いても言い話か?」


 途中で会話に割り込んで来たのはカイルだった。

 すっかり忘れていたが、親睦を深めるとかでカイルも一緒に来ていた。


『まぁ、別に聞かれて不味い話でもないがな。とりあえず、部屋に戻ってからにしよう』


 カイルには申し訳ないが、のんびりする雰囲気でもなくなったので部屋に戻って話をしよう。


 白夜達が戻ってくる前に。





「しかし、"名無し"……いや、極夜ってのはとんでもない奴だ。確かにアレなら、王国騎士団を相手にしても遅れはとらないだろうね」


 ダリアが独り言のように言葉を漏らす。


 もちろん、訓練場に併設された温泉が混浴なんて事はない。

 大きな壁に仕切られて、隣に女湯が作られている。


「障壁の件はごめんなさい。私もどこまで力が使えるか不確かだったから……。ダリアにも迷惑かけちゃったね」


「別に白夜のせいじゃないだろうさ。私もそれなりに戦える自信は有ったけど、アレは次元が違うね」


「私も、極夜の全力は見たことがないわ」


 私自身も、極夜がどこまで力を持っているのか正直つかめていない。

 というより、【琥王】も【龍王】も【黄泉】も全員がどの程度強いのか予想の範疇を出ないのだ。


 極夜が全力で戦ったらどうなるのか。

 今回は、それを把握出来ていなかった故の失敗でもあった。


「そんな強さの底が分からない奴だから、好きになったのかい?」


「……えっ?」


 ダリアの言葉を理解するのに時間がかかった。


「いや、そんなに強い奴だから惚れたんじゃないのか?」


 落ち着いて考える。

 惚れたという単語の意味は、理解できている。

 この場合は、誰が誰に惚れたのかが重要になってくるわけだが。


「なに難しい顔してるんだい!異世界に探しに行くくらい極夜の事が好きなんじゃないのかい?」


 確かに、極夜の事は好きだと思う。

 でも、それは単純に私をアノ場所から救ってくれたし、一緒にいたら安心できる、家族の様なものだと思っていた。


 ダリアの言う、惚れているとは違う気がする。


「なんだか、納得できていない顔だね。じゃあアタシが貰っても構わないかい?昔から自分より強い男と結婚するのが夢でね!顔立ちも悪くないし!」


 なぜか分からないけど、少し胸が締め付けられた。

 でも、ダリアと極夜はどちらも家族のようなものだと思う。

 その二人が一緒にいることに不満はない。


「私は良いと思うわよ」


「ふーん……まぁ、まだまだこれからだね」


 私の顔をみて、ニヤニヤしながらダリアが答える。

 その意味が、私には分からなかった。


『きゃははは!ざんちゃん、くらうのじゃ!』


『ちょっと!騒がしくしないって約束したでしょ!?ばちゃばちゃお湯をかけないで!』


 後ろで、【斬魔】と【龍王】が仲良く?じゃれあっている声が聞こえる。


「それにしても、"名前持ち(ネームド)"の幼精がこんなだとはなぁ……」


 はしゃぐ幼女達を見て、ダリアが何ともいえない表情で呟く。

 その気持ちは、分からなくもない。


 【斬魔】もそうだが、パッと見ただけでは人外の存在だと気付く人間は多くない。

 感受性の強い人間で、ようやく違和感に気付く程度だ。


 ダリアのように、幼精と対話出来る人間でないとその正体は分からない。


「なんか、自信失くすなぁ……」


「ダリアは強いわ。現に"精霊の集い"の中では、貴女に勝てる人間なんて一人くらいでしょ?」


 慰めで言ったわけではない。

 事実、ダリアは"精霊の集い"の主戦力なのだから。


『そうなのじゃ!お主も人間にしては、中々やる方だと思うのじゃ!』


 【斬魔】と存分に遊べたのか、満足そうな顔でこちらの会話に【龍王】が参加する。

 その後ろで、ぐったりしている【斬魔】が見える。


『妾の五分の一程度の力とはいえ、逃げ出さずに立ち向かう胆力は誉めてやるのじゃ!』


「ははッ……」


 ダリアがひきつった笑みを浮かべる。


「何となく分かってたけど、全然本気じゃなかったって訳か……まぁ、五分の一でも極夜の力を引き出せたなら御の字って所かな」


 私もダリアと同意見だ。

 極夜の力も記憶も戻りつつある。

 極夜自身の力が少しでも使えれば、それだけで十分に神達への牽制になる。


『??なにやらお主ら、勘違いしておらぬか?』


 【龍王】が首をかしげる。


『アレは妾だけの力じゃ。()()()()の力は一切使っておらぬのじゃ』


 ダリアは時間が止まったように固まっている。

 多分、私も同じだ。


 そんな筈はない。

 確かにあの時、【龍王】と【黄泉】ともう一つ力を感じた。

 極夜が自分の力を使ったのは間違いない。


『さぁ!ざんちゃん!二回戦の開始なのじゃ!』


 【龍王】はそういうと、ぎょっとする【斬魔】に再び飛びかかる。


「ちょ、ちょっと待って!今のはどういう……」


 【龍王】に問いかける。


『これ以上喋ると、トラ男に怒られそうなのじゃ!それに……』


 急に【龍王】の表情が変わる。

 いつもの幼さは無く、大人びた印象すら受ける表情と声で続ける。


『お主なら、いつか解るじゃろう』


 表情が変わったと思えたのは一瞬だった。

 【斬魔】にじゃれついているのは、いつものワガママで自分勝手な幼女そのものだ。


 まだ、私の知らない何かがある。

 もしかしたら、極夜自身も知らない何かが。


 本当にソレを知る日が来るのか。

 

 今の私には、想像も出来なかった。




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