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3.目覚め

3話目投稿です。


少し、戦闘シーン入ります。

評価、感想頂けると励みになります。

よろしくお願いします!


 朝から最悪の気分だ。死刑宣告を待つって、こんな気分なのかもしれない。生きた心地はしなかった。特に、執行人が隣にいる状況で平常心を保てる人間などいるのだろうか。

 横目で詩道を見るが、相変わらず無表情というか、無愛想というか、感情を読み取れない顔をしている。


 いつもなら、待ち望んでいる筈の1日の終了を告げるチャイムが鳴り、そこから俺の長い放課後が始まるのであった。


 授業が終わり、クラスメート達はいつもと変わらない日常へと帰っていく。陽介も今日は、運動部へと向かっていった。

 俺は教室から屋上への、非日常への道を歩いていく。


 一瞬無視して帰ってやろうかとも考えたが、いきなりアイツに出くわすより、居るとわかっている場所に覚悟を持って向かった方がマシだと思った。


 屋上へと繋がる扉を開く。

 そこには予想通り、詩道の姿があった。

 いつ見ても、吸い込まれるような黒髪を風になびかせ立つ姿は、様になっていた。これが、こんな状況でなかったら、見惚れてもおかしくなかっただろう。


「来たのね」


 詩道が口を開き、語り掛けてくる。

 俺が見た顔は、少し寂しいような表情に見えたが、すぐに覚悟を決めたような強い意思を瞳から感じた。

 不思議と恐怖という感情は薄れ、落ち着いている自分がいることに驚いている。


「来たけど、一体なんの用だよ」


「先ず確認したいことがあるんだけど」

 詩道が有無を言わさない雰囲気で続ける。


「あなたは、何を覚えているの?」


 は?

 一瞬、何の話をされているか全くわからない俺は、さぞ間抜けな顔をしていただろう。

 覚えているって何だ?お前と、始めてすれ違ったときの事か?

 頭の中をグルグル色々な考えが浮かぶ。


「もういい。今ので、思い出してないのは分かった」


 まぁ心当たりは無いし、それで納得して貰えるならありがたい。


「ここで、処分する」

 


「ん?今なんておっしゃいました?」


 聞き間違いか?間抜けな返事をするのが、精一杯だった。


「思い出せないなら、忘れたまま死ぬのがあなたの運命(さだめ)だった。それだけのこと」


 前言撤回。コイツからは恐怖しか感じない。




「かまわない・・・。しょうがない・・・。うん、大丈夫」


 ボソボソ独り言までいってるし、なに?もしかして危ない系の人?


「いくよ。【斬魔】」


 詩道が口を開くと同時に、アイツの手の中に突然棒状のナニカが現れる。

 あぁ、漫画とかで良く見る死神の大きな鎌あるじゃん?そのイメージそのまんまの物体が、手の中に収まっていた。手品かナニカの類いではないんだろうな、と何となく理解した。今俺が絶体絶命なのも。

 

 ッツ

 初めてあった時と同じ頭痛が襲ってくる。


『、も、、せ』


 気味の悪い声まで聞こえてくる。


 とりあえず、この場に居たらマズイのだけは間違いないと判断した俺は、自分の後ろにある扉から逃げる事にした。のだが。


 扉が開かない!?

 鍵なんて掛かってなかった、、、よな?


「逃げるのも無駄。叫んでも無駄」


 どうして、扉が開かないんだ、、、


「結界を張った。私が解かなきゃ、今のあなたに出る術はない。」


 俺の愛する日常は、いつからこんなファンタジー要素が満載になってしまったんだ。悲観してる時間も、余裕もない。とにかく、逃げ延びないと。


 手に持った大鎌を振りかざしながら、こちらに向かってくる。どうみても、女の子が軽々しく振り回せそうな重量には見えないんだが、もしかしてオモチャの可能性も有るのか?


 詩道が振り下ろした鎌を、何とか転げ回り避ける。

 さっきまで俺が居た場所には、粉塵を巻き上げながら深々と突き刺さる鎌。

 うん、本物だ。


 刺さった鎌を、軽々と引き抜きまた構える。

 そして、またまっすぐ俺に向かって突っ込んでくる。

 不格好ながら、何とか避ける。我ながら、こんなに自分が動けるとは思っていなかった。

 だが、このままじゃ


「無様に逃げてるだけじゃ、いずれ死ぬだけ」


「んなこと、言われなくても判ってるっての!」


 クソッ

 どうにかしないと。とりあえず、詩道が撒き散らした瓦礫の破片を、牽制変わりに投げてみる、が簡単に叩き落とされる。予想通り。


 何回目か分からない。屋上の床は、元の形が見る影もない位にボロボロになっていた。

 俺はというと、床に負けない位にボロボロな訳だが。呼吸も乱れ、あと何回避ける事が出来るか正直分からない。

 詩道の方は、土ぼこり1つ着けず涼しい顔で居やがる。少し位は、疲れてくれても罰は当たらないと思うぞ?


「マジで、お前何なんだよ!」


 時間稼ぎになるかも分からないが、会話を試みる。

 少し、渋い顔をしながら詩道は答える。


「私は、、、人間よ。少なくとも、今のあなたよりは強い人間」


 いやいやいや。


「こんな人間居て堪るかよ!俺から見たら、化物以外の何でもないぞ」


 詩道の表情が一瞬曇る。苦虫でも噛み潰したような表情だ。殺されそうになっているのは俺の筈なのに、胸の奥が何故かチクリと痛む気がした。


「お前だけには、、、、、言われたくないッ!」


 詩道から威圧感が一気に増した。

 うわっ。と情けない声を出して、後ずさりしてしまう位には、気圧された。


 何も分かっていない俺にも、何となく分かる。詩道の持った大鎌の刃に力というか、エネルギーが集まっていくのを。


「《斬夢》」


 突っ込んでくるのではなく、その場で鎌を横に振る。

それだけでヤバイと感じ、動こうとした瞬間に瓦礫に足を取られ転ぶ。

 頭の上を何かが通りすぎ、冷や汗が吹き出す。

 後ろを振り替えると、詩道が横に振った鎌の軌道をなぞる様に、ソコにあった筈の物が切れていた。


 今、(つまず)いていなかったら。そう考えるとゾッとした。

 そして、いま転んでいる状況はさらにマズイ。


 詩道は次の攻撃の体制に入っている。


『おもいだせ』


 こんなときに、一際大きな頭痛が襲ってくる。

 オモイダセ?こんな時に、何を思い出せってんだ!


 詩道の鎌は、ゆっくりこちらに向かって振り下ろされようとしている。


 いや、ゆっくりに見える。

 これが死ぬ前に時間が遅く流れるってヤツか。つまり、俺ここで死ぬのか。夢は、孫に囲まれて老衰で普通に死ぬってことだったんだけどな、、、


『おい、俺様の声が聞こえるようになったなら反応しろ』


 思えば、頭痛の度に聞こえてた声は、俺の幻聴だったんだな。


『あー、このままだとホントに死ぬぞ?死にたいなら無視しろ。以上』


 死にたくないです!


『やっぱ聞こえてんじゃねぇか』


 いや、誰だって頭のなかに声聞こえてきたら、幻聴だと思うだろ普通。


『何基準の普通か知らねぇが。話すにしても、この状況は落ち着かんな。アイツもお前のせいでキレちまってるし』


 ………はい?

 俺のせい?

 正直心当たりは皆無ですが?


『とりあえず、声が聞こえるようになっただけで、記憶が戻ってる訳じゃないらしいな。よし!ひとまず、逃げるか』


 それが出来たら苦労してないの、分かっていってる?


『あぁ、、、一々説明するの面倒だから、とりあえず俺様を使え』


 もう、訳のわからん事を勝手に喋って勝手に結論に達するな!そもそも、お前らが言うように俺が記憶無くしてるんだとしたら、使えって言われても何にもわかんねぇよ!


『そりゃそうだ。しかし、口で説明出来るモノでもないしなぁ』


 この状況で、呑気に喋るコイツにもいい加減、腹が立ってきた。

 詩道の方を見る。怒ってるのか、悲しんでいるのか良く分からない顔をしている。

 ただ1つ何故かハッキリと分かったのは、アイツの目は今にも泣きそうな位に潤んでいるって事だった。


 何故か胸が痛んだ。頭痛何て気にならない位に、締め付けられるように。

 そんな俺の様子を知ってか知らずか、頭の中の声は相変わらず呑気に喋る。


『お前の記憶も戻ってない。俺様も説明出来やしない。考えても思い出せない。じゃあ、どうする?』


 知らん。分からん。

 いくら時間の進みが、ゆっくりに感じていたとはいえ止まっている訳ではない。詩道は鎌を振りきっていた。


『頭の記憶なんかより、確かに刻み込まれたモノに聞いてみろ』


 俺は普通を愛する普通の人間だ。押し問答してる時間はない。何に聞けってんだ!


『お前は、自分を殺そうとしてるヤツが、目の前で泣きそうな面してるのを、何故苦しそうに見てる』


 分からない。


『それが、頭の記憶なんて薄っぺらいモノじゃなく。刻み込まれてるからだよ。俺様の存在と同じ場所に』


 ソレは何だ。考えても分かりゃしないし、時間もない。


『聞けよ。お前の魂に!』



 詩道の斬撃が俺に当たる。


「なっ………」


 詩道が少し、驚きの声を上げる。


 当たる筈だった、

 俺の前にある、目に見えない何かに遮られていなければ。


 ゆっくりと、ボロボロの体を引きずりながら俺は立ち上がる。

 目に見えない、何かに向かって右手を突きだし。

 その名を呼ぶ。



「【琥王(こおう)】」



読んで頂き、ありがとうございます!


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[良い点] はじめまして! ツイッターからやって来ました! 文章力も高く、会話のテンポも良いですね。 序盤から超展開が続きますが、 物語の始まりとしては良い構成だと思います。 面白かったので、ブクマさ…
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