38.旅立ち
なんで。
頭の中が混乱する。
旅立つ前に別れた筈の陽介が、何故か目の前にいる。
「お前は……陽介なのか?」
目の前の【黄泉】に問いかける。
他人の空似ってこともある。
『そうであり、そうではないと言った方が良いでしょうか。主のコチラでの生活の補助と、危険があればお守りするために名前を変え、近くに控えておりました』
空似の線はなくなった。
本当に同一人物らしい。
「お前達は知ってたのか?」
【琥王】達に問いかける。
『そうだな。当然、俺様達は知ってたぞ』
「アナタと私が、初めて屋上で戦った日から私も気付いていたわ。その時は、まだ気配の察知が出来なかったから私にしか分からなかっただろうけど。それを伝えたら許さないって殺気まで出していたけどね」
【琥王】と詩道は知っていたらしい。
『申し訳ありません。主からの命は絶対ですので。貴女が現れた理由、真意を確認しておりました。今の主が、自ら選択されたことに異を唱える気はありませんが、全て記憶を失くされる前の主の意思です』
記憶を失くす前の俺は、一体何を考えていたのだろう。
それを【黄泉】に聞いたところで、恐らく返事は決まっているのだろうが。
『はい。私の口から伝えることは出来ません。全ては御自身で思い出して頂くしかありません。ですが、これは私共の忠誠と受け取って頂ければ幸いです』
予想通りだった。
『俺様が言うのも変かもしれないが、コイツは特別なんだ。まぁ、あんまり深く考えるな』
【琥王】が言うなら、そうなんだろう。
何が特別なのかは分からないけど。
俺が記憶を取り戻せば、全てハッキリするだろう。
「一つだけ聞かせてくれないか」
【黄泉】に向かって聞く。
「陽介として俺と過ごした生活は、お前にとってなんだったんだ?俺を守る為の演技だったのか?」
どんな答えが返ってきても受け止めるつもりでいた。
俺が陽介と過ごしてきた日々は俺の大切な思い出で、それが変わることは無いのだから。
『私は、主の為にだけ存在しています。失望されても、非難されても、全ては主の為の行動です。ですが……』
すこし間を置き、【黄泉】が答える。
『悪く無かった……と思います。私には過ぎた楽しい時間をすごさせて頂きました』
その言葉だけで満足だった。
俺だけが一人で楽しかったと思っていたんじゃなく、一緒に楽しかったと思い出に出来るのはこれ以上に無い幸せだと思う。
「そっか!なら良いんだ」
俺の言葉に【黄泉】が意外そうな顔をする。
「なんだよ?」
『いえ、罵倒されることも覚悟していたので……』
うつ向きながら【黄泉】が答える。
「そんな必要ないだろ?陽介も【黄泉】も俺の大事な仲間だ。それは、何が有っても変わらない。それどころか、これからも一緒に過ごせるんだ!陽介との思い出ばかりで【黄泉】との記憶は取り戻せてないけど、【黄泉】との思い出もきっと取り戻すから!それまで、よろしくな!」
はい。と【黄泉】が笑う。
「【琥王】も、りゅうも、詩道も!なんでこんな事になってるか俺はまだ良く分からないし、多分迷惑も一杯掛けて来たと思う。今の自分が消えてしまう様で、記憶が戻って行くってのも少し怖かったり、嫌だったり色々考えたけど、お前達との記憶を取り戻すって思ったら不思議と嫌じゃ無くなった。恐れも消えた。」
仲間との思い出を取り戻すのに、悪い事なんてあるわけ無い。
きっと、楽しい事ばかりじゃないだろう。
それでも、今はコイツらとの思い出を、記憶を取り戻したい。
そう強く想っている。
だから、
「頼りないし、まだまだ迷惑掛けると思うけどヨロシクな!」
『旅立ち前の演説にしちゃ、悪くないんじゃないか』
偉そうに腕組みして立つ、小虎状態の【琥王】。
『妾に任せておくのじゃ!そして、主様は妾を一杯褒めるのじゃ!』
ニシシッと笑い小さな胸を張る【龍王】。
『主の為に、この命が尽きるまで御供致します』
少し堅苦しい感じが抜けない【黄泉】。
「しっかり記憶を取り戻して、アナタの口から何故こうなったのか説明して貰うわよ」
ちょっと威圧感を感じる詩道。
『半端は許さない』
かなり威圧感を感じる【斬魔】。
これが、俺の仲間だ!
この先、何があってもきっと乗り越えることが出来る。
そう思わせてくれる、俺の大切な仲間達だ。
『さて、力も溜まった!座標の固定も出来た!そろそろいくぞ!』
【琥王】の掛け声で、それぞれが準備に入る。
詩道は大鎌になった【斬魔】を持ち、力を高める。
二人の力が混ざり合い、さらに大きな力になる。
俺は薙刀に変化した【琥王】を持ち、【黄泉】の力を借りる。
「【琥王《黄泉路》】」
黄泉が光となり、【琥王】に集まる。
薙刀の形状が、複雑な形状へと変わる。
【龍王】は俺の中に入り、内から力を渡してくれる。
今の俺が、自分の意思で黄泉の力を使うのはこれが初めてだ。
今までに感じたことが無い程の大きな力を感じる。
同時に三柱の力を使ってるのだと実感が湧く。
ミシミシ
聞きなれない音が耳に飛び込む。
忘れてた。
ここ、俺の部屋の中だった。
「ちょっ、これ大丈夫か!?部屋壊れない!?」
『あー。大丈夫だろ!門の大きさは制御するしな!本当は、もう少し広い外でやる予定だったけど、なんか今から移動って感じじゃ無かっただろ?』
いや、それはそうだけど……
【龍王】が俺の中で笑い転げてるのが分かる。
大鎌の状態で目なんて無い筈なのに、【斬魔】の視線が痛い。
それを持つ詩道は見てみぬフリをしているが、俺には分かる。
コイツも勢いに乗せられたんだな。
ちょっと間の抜けた詩道なんて、初めて見たかもしれない。
『とりあえず、今さら途中で止められないぞ。なるようになる!』
もしかしたらコレが俺達らしいのかもしれない。
気を取り直して、集中する。
「《黄泉の門》」
部屋に収まるサイズの扉と、鍵穴が目の前に現れる。
「《解錠》」
【琥王】を鍵穴に差し込み、捻る。
ガチャリと音が響き、扉がゆっくりと開く。
扉の先は、漆黒の世界だった。
「それじゃあ……いくか!」
俺が一歩扉に向かって踏み出し、その後を詩道が続く。
俺達を飲み込み、誰も居なくなった部屋で静かに扉が閉まる。
いつ戻って来れるか分からない。
これから向かうのは俺の故郷だ、帰るって表現が正しいだろう。
それでも、俺が今まで住んできた世界に残す言葉はこれしかないと思い心の中で呟いた。
いってきます。
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