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37.旅立つ前に⑦


 陽介とお互い真剣な顔で向き合う。


 考えてみれば、二人ともこんな顔で話すのは始めてかもしれない。


 こんな形で、別れを告げる事になるなんて考えもしなかった。


「で、なんだよ?深刻そうだけど。相談なら遠慮無く言えよ」


 陽介が心配そうに声をかける。

 どう切り出すか悩んだが、正直にアリのまま話す事にした。

 結果的に記憶が無くなってしまうなら、特に問題も無い筈だ。


「信じられないことを話すかもしれないが、別に頭がおかしくなった訳じゃないからな」


 前置きをしっかりしておく。


 もし俺が、陽介から同じように話をされたら頭を心配しない自信がない。


「おう!安心しろよ。ちゃんと聞いてやるから」


 息を深く吸い込む。


「実は、かなり遠くに行かなきゃいけなくなったんだ……俺は戻って来るつもりなんだけど、もしかしたら二度と会えないかもしれない」


 俺は、どんな手を使っても戻ってくるつもりだ。

 でも記憶を消された陽介と、また同じような関係になれる保証はない。

 それでも、自分で決めた事だ。


 俺は今まで起きたことを、詩道との出会い、神達との戦い、向こうの世界に何故行こうと思ったのか、どうやら俺に関する記憶が消えてしまう事、その全てを話した。


 俺の話が終わるまで相槌を打ちながら、静かに聞いてくれた陽介。


「なるほどなー。色々話してくれてサンキューな!」


 あっさりとした返事を返してくれる陽介に、俺の方が少し驚いてしまう。

 俺の様子を見て陽介が続けて口を開く。


「なんでお前の方が驚くんだよ」


 笑いながら陽介が言う。

 冗談を言っている様な、いつもの表情と口調で。


「いや、随分とあっさりしてるなって……」


「なんだよ。じゃあ、泣きながら行かないでくれって言えば良かったか?それで考えが変わっちまう程度の覚悟で俺に話したのかよ?」


 そんなわけ……ない。

 俺なりに覚悟は決めている。


 今の、向こうの世界の人や詩道を助けてやりたいという気持ちに嘘はない。


「ならそれで良いじゃないか。ちなみに少しでも迷いが有りそうだったら、お前にどう思われようが止めてたからな!」


 ごめん。という言葉が口から出そうになり飲み込む。


「ありがとう」


 そういう俺を見て、おう!と笑う陽介。

 あぁ、これが俺の自慢の親友か。


 改めて俺にとって、大きな存在だったことに気付く。


 少し沈黙が流れる。

 俺に残った陽介との思い出を反芻する。

 しかし、いつ迄もこうしている訳にはいかないのも分かっている。


 じゃあ、という俺の言葉を遮り陽介が口を開く。


「またな!」


 いつもの、学校帰りの別れと同じ様に陽介が告げる。


「あぁ、またな!」


 同じような顔が出来ていたか自信はない。


 それでも、また同じように。

 明日学校で会い、冗談を言って笑い合う。そんな未来が変わらず来るように俺たちは別れた。



『おう。やり残しは終わったのか?』


 少し目を腫らして帰ってきた俺に、【琥王】が声をかける。

 少し不思議そうな顔をする【琥王】に陽介と話してきた事を告げる。


『ん?あぁ……そうか。お前なりのケジメなら良いんじゃないか?俺様もアイツは喜んでると思うぞ!とにかく、今日は体をしっかり休めとけよ。向こうの状態は聞いてるが、すぐに戦いが始まってもおかしくないからな』


 しっくり来ないような言葉を言っていたが、俺も気持ちを切り替える。


 すぐに部屋に戻り休む事にした。

 明日からは、自分のベットで寝れないんだと思い毎日使っていた筈のモノがとても有り難いんだなと考えながら眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『よし!それじゃ、確認するぞ』


 【琥王】が全員に向け、俺の部屋で改めて説明してくれる。


 手順としては、俺が【琥王】と【黄泉】の力を使い扉を開く。

 "軍神"に使った技と同じだが、単体の相手を閉じ込める目的ではなく複数の存在を異世界に送るのだから、必要になってくる力が桁違いになる。


 【琥王】と【黄泉】はその制御と俺の体の保護で殆ど力を使いきるようだ。足りない部分は【龍王】が受け持つらしい。

 詩道の方にまで力を使う余裕は無いため、【斬魔】が詩道の方は担当する。


 力を使いきっての転移の為、転移した瞬間に戦闘が始まると対応出来ないので、詩道から聞いた"精霊の集い"の拠点の座標へ扉を繋ぐ。

 その座標の固定にも、余計に力を使う必要が有るみたいだ。


 この力を使えば自由に移動が出来そうだが、転移の為の力を【黄泉】が残していたから可能らしく、今回でそれも使いきる。

 この方法でもう一度転移するなら、俺が自分の記憶と力を完全に取り戻さないと不可能らしい。

 【琥王】が、戻れるか俺次第と言ったのはその為だ。


 事前に、記憶がまた無くなったりしないのか?と【琥王】に確認した。

 事実、俺が今の世界に転移した際に記憶を無くしている。


 その記憶や体の影響が出ない為の、保護を【琥王】達の力で行うらしい。

 前回の転移では、そこまで行う時間も力も無かったらしい。

 どんな状況だったかは教えてくれなかったが。


『って感じだが、何か質問有るか?』


『ハイ!オヤツは一杯持って行って良いのじゃろうな!?』


『無いみたいだな。じゃあ、準備に入るぞ』


 ちゃんと答えるのじゃー!という【龍王】の緊張感の欠片も無い言葉を無視して準備を始める。


 まぁ、【龍王】の存在も場が和むから良いのだが。


 無視されたのを良いことに、どこから持ってきたのか大きな鞄に

 よいしょ、よいしょ

 と、昨日準備していた大量のお菓子を詰めている。


 向こうではコチラのお金が使えないだろうから、買い物に行きたいと言うので財布を渡した。

 【斬魔】も一緒だったので良しとしたが、俺が甘かった。

 良く良く考えれば、前回も【龍王】を止めることは出来なかったのに。

 もちろん、今回も財布の中身は空っぽにされた。


『【黄泉】!行くぞ!』


 【琥王】が声を出す。


 フードを深く被った人影が、スッと現れる。


 そういえば、俺がハッキリと顔を合わせるのはこれが初めてだ。

 以前は、自分の身体と意識がチグハグな状態で対面していたのだから。

 事前に話しておきたいと【琥王】に伝えていたのだが、転移が決まる瞬間まで会わないと【黄泉】が拒否したらしい。


「えっと……よろしくな!」


 嫌われたりはしていないと思うが……

 会わなかった理由は本人に聞こうと思っていた。


『主の希望とはいえ、この瞬間まで姿を表さなかった事をお許しください』


 その場で片膝を着き俺に頭を下げる【黄泉】。


「いやいや!そんなに気にするなって!お前なりの考えも有ったんだろうし、俺は気にしてないよ」


 有り難きお言葉と頭を下げたまま答える【黄泉】に、なんだか時代劇みたいだなと思った。


「それより、顔くらい見せてくれよ。仲間なんだし、隠す必要なんてないだろ?」


 はい。と立ち上がりフードを取った【黄泉】の顔を見て俺の頭は一瞬真っ白になる。


 声もなんだか、聞き覚えが有ると思ってはいた。

 そんな訳はない、記憶が少し戻って来たから久しぶりの仲間に懐かしさを覚えたのだと。


 俺の前に立っていたのは、見間違える筈もない。

 なにせ、昨日会ったばかりだ。


 そこに立っているのは、俺の親友。


 ()()()()だった。




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