36.旅立つ前に⑥
「さて、とりあえず俺の考えを話そうと思う」
俺の部屋で全員集まり、今後の話をしている。
俺のベッドの上に【琥王】が座り、椅子に詩道、その横に【斬魔】が立っている。
そして、床に正座する【龍王】。
勝手に俺の財布を持ち出した罰だ。しかも綺麗に使いきっていた。
流石の【斬魔】も、助けを求める【龍王】の声を聞こえないフリで対応していた。
座らずに立っているのが、【斬魔】なりの優しさだろう。
「俺は、向こうの世界に行く……いや、戻るって行った方が正しいのか?とにかく、俺の力が役に立つならそれが良いと思ってる。とりあえず、皆の意見も聞いてみたいんだが」
詩道が俺の顔を見る。
「私はもちろん賛成よ。その為に来たのは話した通りだし、"美神"と決着を着けるために私一人でも戻るつもりだったから」
『俺様達も、お前がそう決めたなら異論はない。だが、本当に良いのか?最後の確認だと思ってくれ』
【琥王】が真面目な顔で俺に問いかける。
「迷ってないと言ったら嘘になるけど……でも【龍王】と一緒に戦って、自分の記憶が戻るってのも悪くないとも考えてる。良い記憶だけじゃないのは、何となく分かるけどお前達との思い出を無くしたままってのは、何か嫌だなって……」
自分の想いを正直に話す。
「それに、どんな場所に行くか分からないけど、この普通の世界に戻ってくるのも諦めた訳じゃない!向こうの問題が解決できるか分からないけど、何とかして戻ってきて普通の生活を取り戻す!」
【琥王】と【龍王】は何だか嬉しそうな顔をしているような気がした。
「そうね……それが良いと思うわ。今のアナタの生活を壊してしまったのは、悪いと思ってる。私が言うのは変かもしれないけど、向こうの問題が何とかなるまで力を貸して欲しい。その後は、アナタが好きなようにすれば良いわ。私も好きなようにする」
そういう詩道は、決意を固めたような表情をしていた。
こいつなりに、色々考える事もあったんだろう。
俺に悪いと思ってたのは初耳だったが、悪い気はしなかった。
気のせいかもしれないが、少しだけ寂しいような、悲しいような、そんな感情がこもっていた気がした。
「せっかく好きにするって言ってるところ悪いんだけど、俺がこっちに戻ってくる時はお前も連れて行くぞ?」
俺の言葉を聞いて、驚いた顔で俺の方を見る詩道。
「全部思い出してなくて申し訳ないけど、詩道も前は一緒にいた気がする。だからって訳じゃないけど、この瞬間に全員で居る時間を手放したくないなって思うんだ。俺の勝手な考えなんだけど、やっぱり嫌か?」
どうしても嫌だと言われたら、諦めるしかない。
詩道には、彼女なりの考えもあるだろう。
俺が介入すべきじゃない気もする。
それでも、考えは伝えておきたかった。
「……考えとくわ」
短く答えた詩道。
顔を反らして表情は確認できなかったが、多分嫌がってはない気がする。
【斬魔】の相変わらず俺を睨み付けてくる顔は、気のせいだと思うことにした。
『とりあえず、お前の考えは分かった。向こうへの移動手段は、【黄泉】とも話した。俺様達の準備は一日有れば終わるぞ。【斬魔】の嬢ちゃんも力を借りるが、それで良いか?』
『問題ない』
いつのまにか、睨んでいた顔から普段の表情に戻った【斬魔】が【琥王】に答える。
「一応聞いておきたいんだけど、俺は何とかして戻るつもりだが戻れる可能性ってある……よな?」
自分で戻ってくる!
なんて言っておいて情けない話だが、一応見解を確認しておこうと思った。
一応な!
『締まらねぇな!まぁ、お前のがんばり次第ってことにしておくか!』
笑いながら答える【琥王】。
呆れ顔の詩道と【斬魔】、気付いたら正座をやめて笑っている【龍王】。
居心地が良いなと、心の底から想う。
俺の頑張り次第で、この時間を守れるなら何でもしてやろうと、今の俺は思った。
記憶を無くす前の俺がどうだったかは、分からないが。
『とりあえず、準備の為に時間を貰う。それは、俺様達で進めるから、お前はやり残したことでも有れば済ましておけよ』
【琥王】に言われ、すぐに頭に浮かんだやり残しの事を考える。
どう説明したら良いか分からないけど、アイツに何も言わずに居なくなるなんて選択肢は俺の中になかった。
翌日、俺は待ち合わせ場所の公園で一人待っていた。
色々考えもしたが、途中で止めた。
どこまで伝えられるか分からないけど、自分の言葉でそのまま伝えようと思った。
それをきっと、真剣に受け止めてくれる。その位の信頼は持っているし、持ってくれていると思う。
「なんだよ、急に呼び出して?全然良いけどさ」
俺の前に現れた普通だった俺の友人。腐れ縁。
いや、親友の三浦陽介がやってきた。
わるいな。と短く答える。
俺の声で緊張が伝わったのか、陽介の顔も真剣になる。
息を深く吸い込む。
今まで普通に話してきたのに、口が重い。
【琥王】には、転移する時に不都合が出ないようコチラの世界の人間には、俺の記憶が残らないようにすると言われた。
わざわざ呼び出して伝えなくても、最初から居なかった事になるなら悲しい想いをさせる必要は無いのかもしれない。
それでも陽介には、話をしておきたかった。
俺が、居なくなってしまうことを。
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